ミノタロスみたいな中ボスを乗っ取った   作:暗全畑

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第15話

 都市同盟に近かった南部の森から拠点を移して、北部の森に潜伏・・・もとい放し飼いされている。

 暇なのでこちらのゴリラとも殴り合っては友情を結んだり、狼のボスを倒してたまに群れてみたり、牛さんヘッドの元である牛の群れについて行ったり。

 

 最近は四足歩行をマスターし、順調に文明のレベルが下がりつつある今日このごろ。

 

 最近、暗殺騒ぎがあった巫女達ではなく、鎌鼬の部隊が連絡役として決められたポイントに顔を出してくれるようになった。

 一緒に持ってきてくれるご飯を食べたりするのだけど、派遣されるのは顔を隠したおっさん、たまにお兄ちゃんなのでちょっと彩に欠ける。

 このままだと牛さんはグレて野生に帰っちゃうぞ?

 

 あの後、鎌鼬のトップでもある姉妹のお父さんは二人の話を納得した後、牛さんを隠していたことにひとしきり文句を言い、そして鎌鼬からも援助を送ると約束してくれた。

 また、英雄に隅に追いやられてるような古顔にも何かと顔が利くので、手を回してみるとのこと。

 

 ただ、お父さんの意見からすれば、牛さんの存在をこの国の英雄に開示した方が良いのではということだった。桜さんと和香ちゃんの反対で結論は先送りにはなったけども。

 姉妹は英雄が己の存在の格を落としかねない存在は、排除しに来ると予想しているらしい。世知辛いねぇ、信頼を得られない英雄とは。

 コタローのように話せばわかる相手なら是非ともお会いしたいけど、確かに殺し合いに発展したら元も子もない。

 

 鎌鼬によると、あの晩を生き残った襲撃者もいたらしいが、全員口に含んでいた毒薬で自害したとのこと。

 忠誠心も含めて、敵ながら天晴れと誉めていた。同じ密偵として、思うところがあるらしい。

 

 しかし、現場から逃げられた襲撃者は確認できなかったが、焔の国の英雄はヨアキム側から情報を得たのか、周囲に桜さんが討伐したはずの怪物の情報をしつこく嗅ぎ回っているらしい。

 そして、明らかに巫女達の権限を剥奪しようと、周囲に圧力をかけているとか。税制など内政面に決定権を持ち始めて、発言力を増しているらしい。

 なんだか頭脳面で牛さんよりハイスペックな人なので少し辛い・・・。

 

 なんでも最近、南部の村周辺の森では、英雄が直接編成した部隊が秘密裏に演習という名のガサ入れを行なっているとか。

 牛さんも目立つ行動は控えろとのことなので、ゴリラのドラミングを真似したり、狼と一緒に遠吠えするのは控えようと思います。

 

 うう、なんか頭のいい英雄に対して、牛さんの対抗策が原始的すぎる・・・。

 とはいえ森は潜伏するには優秀である。

 最近は山をある程度登って、高度を上げても自給自足ができるので、人里や街道に近づかなければ、まず見つからない。着実に実力を上げているのがわかる。

 

 そして、たまに、鎌鼬の斡旋で負傷した兵士や、過去に大怪我を負って後遺症に悩む人が送られてくるようになった。

 骨折を治したり、指を生やしたりする程度なら、だいぶ慣れてきている。朝飯前である。それでも喜ばれるのならお安い御用である。

 一方、腰が痛いとかそういう人を治しても、しばらくすると再発する人もいるようだ。普段の姿勢とか筋力の衰えだと思うので、牛さんにはどうしようもないのだろうけども。やはり術は万能でもないなぁ。

 

 一番驚いたのは、片腕を失くした男が送られてきた時である。何でも、鎌鼬でも若手の期待のホープだったが、妖討伐に失敗してしまい、食いちぎられたとのこと。

 一命は取り留めたが、『風宮』の僧侶として悶々と日々を過ごしていたそうな。

 

 簡易的なテントを立てて、衛生兵として知識を身につけた鎌鼬の援助のもと環境を整えた後、麻酔でしっかり眠らせて手術を行ったけど、半日かかった。治すこちらもキツかった。

 もう治療というより、既に治っている部分を壊し、新しい腕を造っているようなものである。

 

 その後、目が覚めたお兄さんに涙を流しながら拝まれた。

 疲労でグロッキーになってた牛さんとしては、フレンドリーに気にすんなと返しておいた。習い立ての文字で風宮様の導きとか書いたら、頭をさらに地面に擦り付けられたが・・・。

 牛さんとしては崇められるような扱いに慣れていないので、逆に少し恐ろしく感じてしまったりした。ポチとして犬扱いされる方が、まだしっくりくるくらいである。

 カルト化した死霊を操る英雄も、似た気持ちを味わったのだろうか?

 

 以来、鎌鼬の方々がニコニコしながら文字を教えてくれるようになった。

 あと、術を習いたいという鎌鼬も増え、順調に牛さんの術を使える人が増えつつある。男にモテてどうすんだ。

 

 そうこうしていると、和香ちゃんから手紙が届くようになった。丁寧に筆で書かれていて、お洒落な和紙に書かれている。

 たまに桜さんの業務連絡のような素っ気ない手紙が混ざったり、いつの間にか術を覚えた真莉や、たろ坊の手紙も届く。

 今日の手紙は・・・。

 

『堅苦しい文章でなくてもいいと言われても、恥ずかしながら、いざ何を書いたらいいかわからないのです。

国の内外を問わず、文をしたためるはよくありますが、こうやって目的もなく取り留めないことを書くのは慣れていないのです。

でも、ちょっと楽しくも感じます。友と文通する貴族もおりますが、こんな気持ちなのでしょうか?

 

今日は焔様の降臨の大事な日なので、祈祷行事に参加しました。

こうして参列して集まった人々をみると、まだ母上と姉上の影響力は強く残っていると感じます。

 

一方で、英雄様は気分が優れないと参列を取りやめました。

日に日に、姉上と英雄様の対立が強くなっていくのを感じます。一方で、父上のように、できれば対立を避けたいと感じている人達も多くいます。

 

焔様はこんな国の状況をどう思うのでしょうか?

今こそ一丸となって国を護らなければならない時に、政争をやっている場合ではないはずなのに。

焔様はバラバラだったこの地域を一つに纏めて、戦乱の世を領土を失うことなく乗り越えることができたのです。

 

いつかポチ様も、儀式に参加して、焔様のために灯された大きな炎に、私の隣で共に国の安寧を願うことのできる日が来ることを祈っています。

 

追伸:姉上の恋愛話をもっと聞きたいなと思います。』

 

 と、手紙の中の和香ちゃんは丁寧でしおらしく、可愛いらしい。

 堅苦しくなくてもいいと言っても、やっぱりちょっとお堅い。

 でもガチで儀礼上の堅苦さで書かれると、勉強したての俺では読めないという切実な問題がある・・・。

 

 ちなみに、ポチでいいよと書いたら、以降、本当にポチ様となった。鎌鼬の兄ちゃん達も皆ポチと呼ぶ。俺は焔の国の名犬ポチ公を目指すぜ!

 まぁ、コードネームみたいなもので、中に英雄がいることを悟られないように実益を兼ねていたりもする。

 

 手紙は鎌鼬の人と勉強しながら読んで返信している。

 自分は昨日、西のゴリラの群れ全員相手に殴り合って、最後には夕日をバックに握手で終えた話を書こうとした。

 しかし、鎌鼬の兄ちゃんにドン引きされて止められる。

 

 何故だ。

 

 そんなこんなで、前の世界の話を書いたり、ノベルで思い出せることを書いたり、できれば協力するよーとかエールを送っている。和香ちゃんも、ノベルの和香ちゃんの言動には興味があるらしい。

 和香ちゃんはノベルのように、もっと自分も姉上に意見するべきだろうかと悩んでいるようだ。

 桜さんは冷静に見えて感情で行動しやすく、今も和香ちゃん狙ってきた相手に激昂して思い詰めているから気をつけてね、とは書いておいた。と言っても、桜さん本人もこの手紙を読んでいるようだが。

 

 感情的に動く例としてノベルの桜さんの恋愛話を書いたら、そんなことあるはずないだろうとは前に返された。しかし、紙の端にこっそり追伸が走り書きされているあたり、興味あるのだろう。女の子だしね、うむうむ。

 

 そしてこっちは桜さんからかな。装飾もない白い和紙である。

 

『物語での恋愛話はデタラメだ。早く忘れろ。』

 えっ、それだけ?

 何これ文字の勢いが脅迫文みたいで怖い。だから感情で動くんだって話・・・。

 鎌鼬の兄ちゃんも全力で首を横に振る。やめておいた方がいいらしい。怖っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、鎌鼬の兄ちゃんと別れ、いつものように樹上の果物を回収していると、突然牛さんの野生の直感が避けろと警告してきた。

 樹から飛び退くと、自分の掴まっていた所に矢が刺さり、そのまま樹の水分が氷漬けになる。

 へぇ、冷凍牛肉にでもするつもりか、くそったれめ。

 

 人間相手の経験は不足してるとはいえ、獣相手ならば場数は毎日のように踏んできた。妖術を使う相手も苦もなくあしらえる。

 時には訓練と称して、回復させながら戦うくらいには自信はある。

 

 頭の中は冷凍庫に放り込まれたように、冷たく冷酷で冷静である。

 矢を撃った後、素早く場所を移動する人物の足音と匂いを頭の中で追跡し、位置を把握する。

 

 場所が把握できないが、弓持ち以外にも気配が複数。

 一人はやけに匂いが強い香水を使っているようだ。何か妙である。

 数を急いで減らさないと、魔法や飛び道具で囲まれると牛さんは弱い。相手がヨアキムの息がかかってない保証はない以上、無力化は必須だ。

 

 高速ステップ。人によっては消えたように見えるだろう。

 しかし、相手は牛さんにすら気配を消せる手練れなので、油断はできない。

 相手の視線をうまく木々で消すように動き、見失ったと判断すれば一気に距離を詰め・・・。

 弓持ちの背後を取る!

 迷彩服に身を包んだ冒険者風の年老いた女性だ。片目に眼帯をしている。

 背後を取ったというのに表情を変えずに一瞬で振り返り、隻眼の青い瞳がこちらの眉間を捉える。

 む、どこかで見覚えがある・・・。

 

 やるか、やられるか。

 

 胸の鼓動が早くなり、相手に手を伸ばす一瞬が遠く、長く感じられる。

 

「ちょっと待った!」

「ぶもっ!?」

 聞き覚えのある声が後ろからして、思わず振り返る。

 同時に相手の矢も、狙いがブレて顔を掠めるように飛んでいった。

 

「待ってくれ、君はポチじゃないか!?」

 後ろにいたのは、緑髪と派手な装飾が特徴的なベルンハルトである。彼は武器は構えず、両手を止めるように静止させている。

 再び視線を戻し、老女とお互い見詰め合う。

 相手は怪訝な表示をしながら、次の矢を装填しようか迷っているようだ。

 姿は見せないが、木陰に気配がもう一人。

 

「ぶもっ・・・。」

 どうしたものか、少なくともヨアキムの暗殺者連中ではないのは確かのようだ。

 戦闘中だが腕を組んで考え込む。

 オーディン国の関係者であろうベルンハルトは以前助けた身なので、カタコトとはいえ文字を覚えた今なら存在を黙ってもらうことは出来るとは思うが、目の前の老女と隠れている一人はどうなんだろうか。

 冒険者にとって牛さんはハンティング対象でしかない。

 かと言って、できるなら人との戦闘は避けたいし、戦闘を続けても、全員を倒せる確証はない・・・。

 

 隻眼の老女も腕を組んだ牛さんをしばらく観察し、攻撃を中止したようだ。ベルンハルトもホッと胸を撫で下ろしたようだ。

 

「ベルンハルト、こいつがお前の言っていた焔の怪物じゃないのかい?」

 老女が口を開く。しわがれた声だが、意志の強さを感じさせる声である。

 フードから覗く髪は綺麗な銀色、鼻が高く、深く刻まれた皺に対して、老いを感じさせない無駄の無い動きだった。

 やはり、どこか見覚えがあるのだが・・・。

 

「いや、首輪を見るんだ。彼は飼われているし、ちゃんと言葉もわかる。」

「ぶもっ!」

 というわけで、手を挙げて気さくに挨拶してみる。

 呆れたような表情で、こちらを見る老女。

 装備はどれも使い古した、年季の感じさせる品物だが、しっかりと手入れされているのがわかる。

 

「・・・この歳まで生き残ったが、こんな生き物、初めて見るよ。」

 小弓とも呼べそうな小さな弓を背中にしまう老女。

 昔は美人だったと言える女性は多いが、彼女のように美しく歳を取ったと思える人は少ないかもしれない。

 こちらは首輪を指差して自己紹介である。ハァい!アイアムポチィ!

 

「ポチ・・・はっ。可愛いじゃないか。

あたしゃ、シャーニャ。しがない冒険者さ。

危なかった、背後を取られるなんざ久しぶりだよ。」

 シャーニャ。シグルドのお師匠様じゃん・・・。

 どうしてこうも敵対したくない人こそ、こちらに襲いかかってくるんだろうか。

 そしてポチというネーミングセンスで、相手の警戒が少し解けている気がする。これぞポチという名前の効果なのである。

 

「師匠も歳だ。隠居したらどうだ。」

 木陰から姿を現したが、こちらは知らん人である。

 重厚な銀色の西洋甲冑に、中性的な声で、日本刀を腰に差した独特な風貌の剣士のようだが、誰なんだろうか?

 

「隠居?ふん、わしは死ぬまで現役を貫くつもりさ。」

 師匠か・・・シャーニャにシグルド以外にも弟子がいたとは。いや、今はレイチェルも弟子なのか。

 試しに地面に『もじおぼえました』と書いてみる。

 

「おお!ポチくん!

言葉を理解できるほどだから、とうとう文字まで使えるようになるとは!」

 やたら抑揚をつけて叫び出す。

 相変わらず、オーバーリアクションなベルンハルトである。まぁ、元気そうで何より。

 

「言葉を理解する妖、か。私は伊八。」

 静かな佇まいの剣士である。身長はそこまで高くはない。

 フルフェイスの兜で、表情はわからない。

 とりあえず伊八さんにも気さくにハァい!と挨拶してみると、無言で頷かれた。

 

 ふーむ、シャーニャはシグルド以前にも弟子を取っていたが、シグルドを弟子として引き取る前に死亡していた、そんな記述があった気がする。

 シグルドが真っ先に弟子として合流したおかげで、彼の運命も変わったのだろうか。

 

『いぜんベルンハルトたすけた』

 こんな感じか、日本語とは接続詞の位置などが異なる上に、この世界共通の言語でありながら焔の国の訛りもあるので、頭がこんがらがる。

 

「その通り!

彼と僕はある月夜の晩に、運命的な出逢いをしたのさ!

僕が愛を探し森の中で迷っている中、月明かりの導きにより僕らは出逢ったのだ!」

 そんな感じで、やたら劇的にあの晩のことを高らかに語り出すベルンハルト。恋人じゃないんだから、そんな運命的とか牛さん照れるじゃない。

 

 それを早く終わらないかと、白ける様子で聞き流すシャーニャと伊八の二人。この温度差、三人はどういう集まりなんだろうか・・・。

 

「つまり、森に迷っていたこの洒落男を拾って村まで送ってやったということだね。やれやれ。」

「・・・。」

 面倒くさそうに話すシャーニャさん。何も言わずに腕を組んで佇む伊八。

 

「僕らは、北にある遺跡のある洞窟に向かっている途中なんだ。

そしてそこに、この焔の国の都市を脅かす、凶悪な怪物が潜んでいるという情報を得たのさ!

 

その怪物は、女を手篭めにし、男をなぶり殺す、肉欲のままに振る舞う邪悪な妖。

まるでかのヒュドラのように、英雄の力でなければ、あらゆる攻撃を癒してしまう理不尽な肉体を持つモンスター。

奴は迷宮と化した洞窟の奥深くで待ち受けて、生け贄を探し夜な夜な使いを人里へ送り込む。

 

ああ、まるでそれは人と獣の混ざり合う『ミノタロス』のように!

奴は闇の奥底で人の血肉を欲しているのだ!」

 

 彼には観客でも見えているのだろうか、劇の独白のように身振り手振りを加えて説明するベルンハルト。

 ベルンハルトは、相手がそのミノタロスにそっくりだと気付いているのだろうか。敢えて言っているのかもしれない。

 少しだけ心臓が高鳴るのを感じる。『ぬえ』の潜むことになったであろう洞窟のことを、彼は言っているのだろう。

 

「・・・遺跡には興味あるけど、ミノタロスって、なにさ?」

「・・・。」

 こちらのノベルによる予言が正しいのならば、洞窟に潜むのは終盤、本格的に『ぬえ』が勢力を拡大してからである。今の段階では何も居ないはずだが、遺跡というのが気になる。

 あれが遺跡とは、こちらのノベルには無い情報だ。オーディン国の英雄は何かしら別の予言を得ているのかもしれない。

 そして、牛さんのルーツに関わる情報が、そこにある可能性もある。全く関係ない無駄足の可能性もあるが・・・。

 

 しかし、この世界にミノタロスは有名ではないのだろうか?

 確かに、由来が外国のとある島の迷宮の怪物である以上、こちらに伝わっている可能性は低いものかもしれない。

 ただ牛人というインパクトは絶大なので、世界中で様々な人が知ることになっているのだが。

 

「ふふふ、遠い国に伝わる伝承の怪物さ。」

 己の世界で悦に浸っているベルンハルトは、もはや解説するつもりは無さそうだが・・・。

 後ろの二人はもはや、どうでも良さそうな感じでこちらを見ている。

 

『わたしもいきたい いっしょにたおす』

「しかし・・・ポチ君にも飼い主がいるのだろう?

僕が勝手に危険な目にあわせるわけにはいかないのだが・・・。」

 なーに、断られても勝手についていくつもりではあるが、できれば許可を得てついて行きたいところではある。

 

『くにのえらいひと いまはにんむない』

「国?国というと、焔の国の位の高い人物、か。

ふむ、なるほど・・・。」

 案の定、ベルンハルトの瞳にキラリと輝くものが見えた。

 やはりオーディン国の間者なだけあってか、牛さんが誰に飼われているか、興味が湧いたようだ。

 あの場に焔の関係者がいた、という情報を渡すことにもなるが、致し方あるまい。

 

『ベルンハルトむらをすくった わたしも くにまもりたい』

「いや、あれは・・・ふーむ。」

 こちらを見定めるように、考え込むベルンハルト。

 ベルンハルトが村で待ちぼうけを食らされたのは知っているが、知らないということにしておくのが自然だろう。

 

『わたしはたたかえる ちからはつよい』

 ファイティングポーズを取ってみる。牛さんは力持ち!

 

『よし・・・わかった!君の実力は先程の動きでわかる!

いいだろう、この国を害する悪しき存在に、共に立ち向かおうではないか!」

 情熱的に手を差し出してくるベルンハルト。牛さんも手を出して握手する。

 サイズ差のせいで、なんだか華奢な子供の手を取っている気分になる。

 

「いいのか師匠・・・。」

「あたしゃ皆の前で賭けに負けたんだ。

牛だろうが熊だろうがどうでもいいさ。もう好きにしな・・・。」

 小石をコツコツ蹴ってやけくそ気味のシャーニャさん。

 

 賭けに負けたか、ふーむ。ベルンハルトは幻術の使い手だし、賭けになったらイカサマのやりたい放題だろう。

 名のある冒険者を皆の前で賭けで上手く誘いこんだ、というところだろうか。だが、オーディン国にとって『ぬえ』を討伐することになんのメリットがあるかは少しわからない。

 

 牛さんはギャンブルは苦手だな。付き合いではするけど、勝てた試しがない。ああいうのは胴元が勝てるようになってるんだし。

 

「さぁ、皆出発だ!

僕の叙事詩に新たなるページを刻むのだ!」

 えいえいおー!と腕を振り上げるベルンハルト。牛さんも動きを軽く真似してみる。

 ちなみに、こういう森の中で叫び声を上げると、肉食の妖が涎垂らしてやってくるので気をつけよう。

 

「叙事詩とやらを出版したら教えとくれ。あたしの枕にしてやるからさ。」

「薪に焚べた方がいいと思うがな、師匠。よく燃えそうだ。」

 

 こうして三人と一匹という珍妙なパーティーが結成された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 道中、ベルンハルトか色々と質問してきては、のらりくらりと質問をかわしたり、妖の気配を伝えたり、ベルンハルトの歌に迷惑しながら、木々に目印をつけつつ進むこと2時間ほど。

 草や蔦で覆われた崖に、ぽっかりと開いた洞窟の入り口。中に光が入っている様子はない。ただ闇が続くばかりである。

 

 風を吸い込む音が何かの唸り声のようにも聞こえる。手を伸ばすと、明らかに外の空気とは異なる、冷たい温度である。

 しかし、ベルンハルトの地図があるということは、こんな所を地図を作った誰かはよく見つけたものである。

 牛さんも森の周辺の状況は頭の中に入っているせいで知っているが、ここに洞窟があるとは知らなかった。

 中からは湿った独特の匂いがする。生き物の匂いは、まだ感じられない。足跡なども入り口には無いようだ。

 

「本当に着いちまったね、正直、あたしゃ半信半疑だったんだがね。

で、ここが遺跡に繋がっているのかい?」

 松明を取り出して構えるシャーニャさん。他の二人もそれぞれ鞄から取り出しては明かりを灯し始めた。

 

「らしい、としか。

とにかく僕も伝聞でしかないからね。

気をつけたまえ!奴が潜んでいるかもしれない・・・!」

 熱のこもった警告をしてくるが、森の中で散々歌を歌ったりと喧しかった彼が言えることではないと、牛さんは思うのだが。

 

「洞穴か、厄介だな・・・。」

 伊八さんがポツリと漏らす。

 洞窟というだけで、その中には何が潜んでいるかわからないし、不安定な足場、最悪は崩落ということもあり得る。

 松明を持つということは片手が塞がるということでもある。弓にしろ刀にしろ、片手では本領を発揮できない。

 過酷なフィールドワークが主である冒険者といえど、それだけで不利な状況である。

 

『くらいとこでも みえます

ポチ せんとう あるく』

 牛さんアイは暗視もできる!他にも音や匂いでも判断できるし、牛さんのタフさもある。ここは先頭がいいだろう。

 

「はっ!頼もしいね、そこのやたら喧しい男よりよほど役立ちそうだよ。

遺跡も何度か見たがね、それでも恐ろしいところさ。」

「誘き寄せは通用しないのか?」

 牛さんとしては、恐らくここに目的の怪物がいないことは予想しているが、伊八さんは大げさとはいえ国を脅かすと言われた怪物を、不利な場所で戦うのは避けたいらしい。

 

「怪物はこの穴の中で巣を作り、そこから動かないと聞いたよ。

時間が経つにつれ大きく強くなるけど、まだ僕らでも対処できるはず。

乗り込む以外に手はない、冒険者諸君、覚悟を頼むよ。」

 いつになく真剣な様子なベルンハルト。何故かカリスマめいた凄みを感じるあたり、単なるお調子者、というわけでもないのだろう。

 

 最初の『ぬえ』は森の中を徘徊しては生物を吸収し、時たま賞金をかけられては冒険者に首を刎ねられ、再び吸収を繰り返していたはず。割とアクティブなのだ。

 オーディン国の予言によるベルンハルトの場合、その最初の頃の情報が抜け落ちて最終形態だけが伝わっている可能性があるかもしれない。

 ま、そもそも、牛さんがその怪物である可能性が高く、それをベルンハルトが知ってか知らずか共に行動しているわけではあるのだが。

 

「やれやれ・・・。」

「・・・。」

「ぶもっ!」

 洞窟に向かって、三者三様に歩き始めるベルンハルトと愉快な仲間たち。

 初めての冒険らしいことに、牛さんはワクワクすっぞ!

 

 

 

 

 暗い洞窟からは、蝙蝠や蜥蜴や虫といった小動物の気配だけで、特に敵対的な生物の気配は感じられない。

 水の滴る音に、天井から特徴的なつららのような構造物からして、ここは鍾乳洞なのだろう。

 コツンコツンという三人の足音と、静かな息遣いだけが、狭い洞窟に反響して聞こえる。どことなく圧迫感がある。

 濡れた足元がつるつると滑りやすくなっている。牛さんの足の裏でも少々危ない。

 

 それでも牛さんのサイズでも通れるような天井の高さなのは助かる。牛さんだけ置いてきぼり、という展開はないのは幸運である。

 

『いきものが とおった けはいがない』

 牛さんが前に貰った鞄から紙と板を取り出し、炭で文字を書いてみる。

 後ろの三人がそれを照らす。

 

「へぇ、あたしが思ったより、鋭いじゃないか。

確かに、人が生贄に通るとかいうわりには何も通った痕跡はないね。

何かの巣になってるわけじゃなさそうだ。」

 シャーニャが感心したように頷く。

 

「所詮、噂は世迷言か・・・。」

 言葉にわずかな嫌悪感を滲ませながら、慎重に最後尾を歩く伊八。一番の重装備なだけあって、滑る足元が覚束ないようである。

 

「ふむ・・・だが、この洞窟は横穴があるようだ。僕の『勘』だがね。」

「ぶもっ?」

 そういえば、ベルンハルトは幻の術で己の分身を生み出して偵察できたはずである。

 術の仕組みがよくわかっていないので、この暗闇の中でも機能するものなのかはわからないが。

 ちょうど洞窟の曲がり角にさしかかり、そっと角から奥の様子を伺うとすると・・・。

 

「待つんだポチ君・・・!」

 ベルンハルトが毛皮を引っ張って慌てて止めてきた。

 その瞬間、牛さんの頭の近くでズガガガ!という衝撃音と共に、洞窟の壁に擦れて火花が一瞬チラついた。驚いて頭を引っ込める。

 

「チッ・・・ガーディアンか!」

 何かに、銃で撃たれた?弾が掠ったらしく、牛さんのこめかみから血が垂れる。

 

 シャーニャさんが静かに舌打ちし、松明を角の向こうに放り投げて素早く弓を構える。一瞬の隙すら感じさせない構えだ。

 

「・・・!」

 同じく伊八さんも何も言わずに松明を足元に捨てて、刀をゆっくりと抜くと、刀に炎が伝い、細くゆらゆらと揺らめき始める。

 伊八さんは炎の術も使えるらしい。武器をそのまま松明として使えるのは便利そうである。

 

「詳しい説明は今は省くけど、僕は向こうの様子がわかるんだ。

どうやら相手の足は朽ち果てて、動けないみたいだよ。」

 なるほど、先に暗闇の中でも幻の分身を先行させていたようだ。

 微かに電子音と、モーターの駆動音が聞こえてくる。相手は機械・・・?

 

「なるほど、あんたの遺跡の情報は『アタリ』だったようだね。

遺跡漁りはあたしの専売特許さ、見てな。」

 ひゅん!と彼女から曲がり角に向けて風が吹き始めると、それに向かって彼女は次々と矢を放っていく。

 矢は綺麗にカーブを描き、曲がり角の先へ吸い込まれていく。

 

「命中だ!氷漬けになった!」

 壁に張り付いたベルンハルトが叫ぶと、電子音が荒れるようにピコピコと鳴り、モーターの駆動音が止まった。

 まるでビープ音でしか話せない機械が悲鳴を上げているようである。

 

「行くぞ・・・!」

 伊八が素早く角から飛び出すと、キーン!という金属音が数度した。

 そして、静寂。三人の息遣い以外に聞こえるものはない。

 

「もう大丈夫だ。」

「うん、ガーディアンがバラバラだ。お見事。」

 再び角から覗くと、手と脚、頭が綺麗に切り分けられた金属の人形が、伊八さんの前に散らばっていた。

 禿げた塗装や切断面から察するに、明らかに科学的な技術による産物なのだろう。魔術的な、見たことのない技術も使われているのかもしれない。

 

 周囲には動物と思しき骨が散らばっていて、骨の所々に丸い穴が空いている個体がいくつか見受けられる。

 迷い込んだ生物を、ガーディアンがここで無差別に射殺していたのだろう。

 その後ろには、壁が崩れたように洞窟由来とも思えない瓦礫が積み重なっている。これが遺跡の入り口か・・・。

 

『これが がーでぃあん?』

「そうさね、遺跡の警備を行うクソくらえな機械さ。

あたしの片目も昔、コイツらにやられたのさ。

モンスターであるあんたにゃ、縁のない奴かもしれんが、あたしら遺跡漁りには死神みたいなもんさ。」

「絶対に無力化せず正面に立つな・・・蜂の巣になる。」

 恐ろしい、古代文明なのに銃器とは時代錯誤もいいところである。

 冒険者の遺跡探査は危険なのは知っていたが、なぜこういう重要な敵に関する事柄がノベルに記述が無いのか・・・。

 

 矢に刺されて魔法どころか銃撃まで体験できるとは、とっても素敵な異世界ですね、ちくしょー!

 

「で、ベルンハルト。

あんたは索敵できるようだけど、何の術なんだい?

それなりに腕は立つとは聞いてるけど、珍しい術なのは間違いないね。」

 

 投げた松明を拾いなおしながらシャーニャが質問すると、彼女のすぐ隣にベルンハルトが現れた。驚いて後ずさるシャーニャさん。

 すると、壁に寄りかかるベルンハルトも一人増えている。後ろを振り返るとまた一人が手を振っている。

 いつの間にか二人でくるくると踊りを踊っているベルンハルトもいる。

 

 暗い洞窟に派手な格好をしたベルンハルトが、様々な動作をしながら増えていくという、幻想的なショーのように感じる。

 森で会った前のように、どれも匂いも音も存在しない。しかしホログラムとは違って透けることはなく、どれもしっかりと質量があるように見える。

 

「こいつは・・・幽霊、いや幻かい?

足音がしていない、気配もないね。」

 シャーニャさんが隣のベルンハルトにそっと触れると、煙のように消えてしまった。何も掴めなかった手を見つめるシャーニャさん。

 

「そう、僕の術は『幻』の術。

特にこうやって分身を作るのが得意でね。

それぞれに僕の視界をリンクできる、ポチ君は知っているだろうけども。」

 次々とベルンハルトの幻が煙のように消えていく。ショーは終わりのようである。再び洞窟は元の暗澹とした空間に戻っていく。

 

「オーディン国の今の英雄の術・・・なぜ、ここに?」

「ふーむ、どうだろうね?世界を救うため、かな。

できればポチ君の存在といっしょに、秘密にしておいてほしいけども。」

 壁に寄りかかりながら、口に人差し指を当てて、こちらを見ながら、いたずらっぽく笑うベルンハルト。

 さりげなく、こちらのことを黙ってくれるように促すのはありがたい。

 

「・・・ふん、どうでもいいことだね。

あたしらに遺跡の物は好きにさせるという約束だし、その約束を守るんならあたしらも黙ってるさ。」

「師匠がそう言うならば。さて、鎧のある私が先頭だ。」

 良識的な二人で助かった、熟練の冒険者なだけあって、そういうところもしっかりしているのだろう。

 けど牛さんが先頭というのは譲れない、かな。

 

『ポチは きずをなおす ようじゅつつかえる。

たまよけは まかせて』

 そう言って、オーラを出してこめかみの怪我を治してみせる。もっとも、暗い中、大きな傷ではないので、わかりにくいだろうが・・・。

 

「へぇ、確かに傷は塞がったようだが、便利な妖術だね。」

 観察眼の鋭いシャーニャさんが、感心したようである。

 

 そうか、シグルドの関係者ではあるし、此処で目を治してあげてもいいか・・・恩の押し売りのようでほんのり罪悪感があるが。

 シグルドが光の英雄と繋がりがある重要人物であるし、その師匠とも手を組んでおきたい。

 もしかしてベルンハルトの目的も、年老いたとはいえ高名な彼女そのものだったりするのだろうか?

 

『あなたの 目も なおせる』

「ハッ!そんな簡単に治ったら苦労しないさ!」

『とてもいたいけど ためしてみる?

そのかわり ポチのこと じゅつのこと だれにもいわない』

 手にオーラを展開し、彼女の眼帯に近づけてみる。

 本気であることに、少々面食らったシャーニャさんだったが・・・。

 

「ここじゃ、お互いどちらか死ぬ可能性だってある。

試せるなら、とっとと試してみたいもんさね・・・。」

 

 彼女の苦悶の声が洞窟に響き渡った。

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