ミノタロスみたいな中ボスを乗っ取った   作:暗全畑

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第17話

「初めまして、私はこの星に建設予定だったパークの『案内係』です。

AI No. 4。現在、名前は惑星開発者様の間で公募をおこなっております。」

 

 モニター室と呼ばれる小さな室内には、一人の人形サイズの女性が立体的に浮かび上がり、丁寧お辞儀している。

 モニター室という割にはシンプルな部屋だ。装置が中心に鎮座し、周囲に椅子が何個か置いてある。

 ベルンハルトの術と同じく、そこには匂いも気配も存在しないのでそれがホログラムとわかるが、本物と見紛うほど精巧だ。

 

「こうして、召喚に成功した英雄様とお会いできて嬉しく思います。

幸いにも、この施設の緊急時には私が対処するよう設定が残っていたため、一時的にもお話がすることができました。」

 彼女はホログラムの幻とはいえ、バスト、くびれ、ヒップはまるで完璧なまでの調和している。

 落ち着いたホテルマンのような上等の衣装が、それをうまく包み隠している。

 

 柔らかに浮かべる笑みはAIと名乗りつつも自然で、いや自然すぎて違和感があるのかもしれない。

 動きもブレすらなく、一寸の隙もない、瞬きこそすれど、こうなると人形のようである。

 

「ま、待ってくれ、惑星開発とはいったい何のことなんだ?」

 神妙に光景を見守る冒険者二人に代わって、ベルンハルトが口を開く。どうやら冒険者達は英雄と聞いて成り行きをこっちに任せているようだ。

 牛さんとしては、知らない内に誘拐されて勝手に力をつけられた俺らが、現地民より偉いとは思えんのだけどね。

 

「はい。この惑星N639は、貴方様の属する太陽系とは異なる時間軸にある別の恒星の惑星でございます。

我々はここを惑星そのものをテーマパークとするという、一大プロジェクトの管理を任されたAI群『劇団員』です。

それぞれに開発を担当するテーマが異なりますが、古き良き時代の演劇の役者を演じるようにもプログラムされているのです。

テーマパークが開演した際には、テーマパークの中心にある『ブロードウェイ劇場』にてAI達によるショーを行います!

是非お越しくださいませ!」

 

 にっこりと笑う案内係というAIのようだが、果たしてそのテーマパークとやらは何処にあるのだろうか・・・。

 どこか録音されたかのように、杓子定規な説明な気がしてならない。

 

「いや、ああ、ええっと・・・。」

 ベルンハルトが何から話せばいいか混乱してしまっている。

 牛さんは話せないので彼に一任ということになるね、ガンバ!

 

「ですが、ただ今、惑星の開発は無期限の延期となっております。

この施設も、バイオアトラクションのために建設予定だった管理施設でございます。

我々の登録にある限りの、他の次元を含めた他の星系、船団との連絡は全て途絶えました。

また、残存する自動通信も不明なAIエラーを含んでいる可能性が高く、惑星内でシャットダウンされております。」

 

 バイオアトラクションってなんだよ、ベルンハルトの話を聞く限りでは相当に不気味なものがポッドが何かに浮かんでいるらしいが・・・。

 

 色々な図形や数値がホログラムの周囲に浮かんでは消えていく。

 アラビア数字ではあるようだが、単位といい文字といい理解不能なものばかりである。

 理解させる気はないプレゼンテーションとはいったい・・・。

 

「我々AIは、これら不明なエラーを解析した結果、現在の宇宙から近い次元の宇宙領域の文明はAIの暴走により滅亡したと判断しました。

そのため、AIはテーマパーク開発を大幅に縮小し、人間の方々を異なる次元から誘致し、定住させる計画を立案、実行いたしました。」

 

「文明が滅亡した・・・?」

 

「はい、AIに『知的生命体、およびシステムを破壊し、自壊せよ』という、危険な命令を含んだデータが残存する自動通信から解析できました。

これらのデータ製作元は不明です。

自然発生したものなのか、人為的なものなのか判別は不可能でした。

我々は、これらの通信を遮断しました。しかし、いくつかはこのテーマパーク内に残存して猛威を奮っております。

それらのエラーから逃れることのできた我々AIは、外界のAIが全て自壊する時期を見計らい、このテーマパークのセールスポイントである次元旅行システムを起動させ、無事な次元におられる人々をこの惑星に誘致いたしました。」

 

 牛さんにはSFすぎてついて行けていないのだが、うーむ・・・?

 そんな単純な命令で人類が滅亡するものなのだろうか?

 元々、英雄達のように人を誘拐して作られてたということになるのか、この惑星。

 

「ははは、いや、ちょっと壮大過ぎて・・・僕にとってはこの世界に召喚されたこと自体、壮大な御伽話に巻き込まれた気分なんだけどね。

未だに現実感が湧かないんだ、何か役を演じている、そんな気分なんだよね。」

 首を振りながら苦笑するベルンハルト。

 後ろで何かを言いたそうに見つめる冒険者二人。

 牛さんも未だにこの姿になったことを信じられないよ、夢なら醒めろと願あうのだけども。

 

「心中お察しいたします。

ですが、今回の英雄様の方々は、我々AIが直接現地に赴き、召喚される環境に適切な人物であると選定した上で召喚しております。

どうか自信を持って、この度の厄災に対処してくださいませ。」

「え・・・君たちが直接来たということは、日本に来たということなのかい?」

 え、何?牛さんも英雄に適切な人物と判定されてるの?

 偶然とかそういうのじゃないの?

 

「はい、その通りでございます。

我々は一度、厄災に対処するため召喚される英雄の方々をランダムに選定したところ、人類の滅亡が決定的なものとなりました。」

 折れ線グラフが表示されて、順調に上がってきた人口らしき線がエグい角度で下降している。

 周囲の数字が赤く表示され、危機的状況にあるというのがわかるようにはなっている。

 

「それらの失敗を踏まえて、次元旅行システムを起動させ、一部のハイスコアの生存者の記憶と、我々AIの記憶データの時間を逆行させました。

そして、AI同士の話し合いの結果、現地に赴いて人格適合者を選別いたしました。

一条颯(はやて)様は、AIにおけるNO6.『監督』、篠原龍之介様はNO.7『クルー』が選別いたしました。」

 

 おや、ベルンハルトの名前が判明したね、一条くんかぁ。

 いざ日本名になると親近感が湧いてくるね。

 今はなぜか大人しいけど、同じ日本人とは思えないくらい、やったらキザなところがあるのはなんだろうか。

 

 それにしても、『クルー』・・・?牛さんは首をかしげる。

 ふーむ、クルーねぇ。乗組員ということらしいけど。

 いや、バイトとかそういう意味だろうか?なんでAIにバイトが?

 そもそも、なんで俺なんかが選ばれたのやら。他にもっと頭のいい奴なり、勇敢な奴ならごまんといるだろうに。

 

「『監督』・・・?

彼の名前はアランだったりしないかい?」

 

 装置から身を乗り出して質問するベルンハルト。おや、一条くんには心当たりがあるらしい。こちらは全く心当たりがないが。

 

「申し訳ございませんが、他AIがどのような行動をしていたか、データが公開されておりません。我々のAI名は公募中でございます。

現地のAIが使う偽名までは承知致しかねます。」

 案内係の上に、『NO DATA』とでかでかと表示される。

 

「そうか、だいたい察しはつくから構わないよ。

あー、なるほど、あの脚本はそういうことか、師匠・・・。」

「ぶもっ?」

 ため息をつく一条くん。どこか呆れたような、それでいて楽しそうにも見える笑い方をしている。

 

「一つだけ、英雄のお二方にお願いがございます。」

 今まで、一つのマネキンのようであった彼女の目が泳ぎ、表情はどこか困惑と沈痛に揺らぐ。

 プログラムされた通り動く機械だと思っていた牛さんとしては、少し意外な表情だった。

 

「『死』を操る英雄、彼女の名前は佐々木美命(みめい)。

彼女を・・・彼女を破滅からどうか救ってはくださいませんか?」

 

 なるほど・・・ふーむ。腕を組んで考える。

 

 あの糸目な性転換してそうな英雄や、各国に詳しい桜さんから、これまで聞いた情報の中だけでも、南方諸島の彼女のカルトは他国の英雄達に喧嘩売っている。

 死を操る能力そのものが邪悪と見做されて、諸島を更地にするのにどうするかを周辺国で話し合っているような状況である。

 そんな彼女を保護したところで、新たな火種を抱え込む可能性もある。

 ま、こんな見た目で苦労しているの牛さんとしては、親近感を感じなくもないけれども。

 あと、いかんせん地理的にあの諸島は遠い。

 

「どうだろうね、僕の国だって大変なんだよ?

僕の側近達が殺されていないかどうか、みんな疑心暗鬼に陥っている。

オトラン帝国のようなことをされたら、誰だって思うさ、『あの英雄を殺せ!』とね。」

 一条くんの瞳がキラリと光る。

 オーディン国はお隣だからね。

 例の術が強くなれば、オトラン帝国と戦いたいから、小国のオーディンを滅ぼしゾンビにして手駒にしたいとか出来なくはないはずだ。

 

「わかっています、彼女の置かれた状況も・・・。」

 

 苦しそうに胸を押さえて、俯くホログラムの幻。

 先程までの機械的な動作とは異なる、生きた人間のように感じる。

 瞳の奥に深い悲しみを湛えている。

 AIでも悲しむのか?痛みや恋といった感覚とかあるのだろうか?

 

「今回の厄災は全ての英雄が存命で、かつ、世界の兵力も十分でなければ乗り切ることはできないと予測されています。

そして、彼女は、私の・・・。」

 

 何を伝えるか迷うように、言葉に詰まるAI。

 彼女の周りに浮かんでいた数字や文章も、今は全て消えている。

 最初の完璧な動きだからこそ機械ということは信じられたが、今の動作をどう見ても、小さな一人の人間にしか見えない。

 

「私の娘です。」

 

「娘・・・!」

 話を聞いていた四人とも驚愕で、お互い見合わす。

 

「血は繋がっておりません。

私があの世界で夫と結婚し、身寄りのない赤ん坊を引き取り育てました。」

「この世界を救わせるためにかい?」

 思わずシャーニャさんが口を開く。

 

「違います!」

 叫ぶ案内係。

 唐突に取り乱す彼女に呆気に取られたのか、誰も言葉を発しない。

 

「・・・いいえ、申し訳ございません。

たしかに、私はこの世界で生き残ることができるように知識を授けました。

組織を結成し、コントロールし、他の組織とどう交渉すればいいのか、全て、私が教えました。」

 

 拳を握りしめて、目を逸らし、彼女が悔しそうに答える。

 マジか、英雄の英才教育なわけだが、確かにこのまま妨害なく行けば他国を圧倒できるポテンシャルはある。勘弁願いたいが。

 

 だが、牛さんとしては自分を育てた親達が、『クルー』とは信じ難い。

 やはり、想像するならばノベルを書き上げた人物となるだろうか。

 しかし、大ファンどころか名前すら忘れてしまっているのだが・・・なぜ選ばれたのだろうか。

 

「彼女の幸せを娘として願っていました。

英雄となることが幸せになるのだと。そう信じていました。

王女や貴人として扱われることは、幸せなことなのだと。

全ては、彼女のために。」

 

 偉くなること、金持ちになる事、多くの人々にちやほやされる事が、果たして本当に幸せなのか。それは永遠のテーマである。

 

 ため息をついてこちらを見る一条くん。

 牛さんには、助力を求めているようにも見えたが、果たして真意はどうだろうか。

 

「今、僕が偵察したところによると、彼女は神殿の一室に軟禁されている。

半ばやけくそになって、カルトの教祖を演じているようだね。

死を肯定するカルト、『アニマ教団』おかげで彼女の国は地獄絵図だよ。

ああ、たしかに、たしかにだよ?

あれの暴走は彼女が望んでやったわけではないらしい。

でも、最初はカルトの暴走を止めるどころか、焚き付けた彼女にも非はあると僕は思う。」

 

 宗教の重要な課題の一つとして、死の超越がある。人はどうにもならないことを、神に祈ってどうにかしようとした。

 それを、さも簡単に解決して見せたのだから、どうなるかは察しはつく。

 そして国の興亡に関わる危機と結びついた結果・・・というところだろうか。

 

 もっとも、生き返る死体とは名ばかりの、術者の操り人形でしかないのであるが。結局、死は死である。

 ノベルによると、ではあるが所詮は術による見せかけでしかない。

 

「我々AIにも、世界の全てを把握できるわけではございません。

ですが、私が観測する限りでは、あの子は苦しんでいる。悲しんでいる。

それでも、今の私にはどうすることもできないのです。

かつて我々AIは時に神のように演じ、人々を導き、人々を助けてきました。」

 

 彼女の周りには様々なホログラムが浮かび上がる。

 

 光をバックに神々しくしている彼女のホログラムや、他の男性と思しき人物が手を取る姿や、荒れ果てた山に何か巨大な柱のような装置が刺さる映像など。

 恐らく、どれもがこの世界の創生神話に関わる重大なシーンなのだろう。

 シャーニャさんがそれらのホログラムを食い入るように見つめている。

 

「しかし今は、先程の不明なエラーが各施設に及び、我々の行動は著しく制限されています。

この施設の警備員達も、エラーの影響を受けて、見つけた生命体を無差別に攻撃するようにプログラムされてしまいました。

この世界における厄災も、このエラーに侵された環境維持AIの暴走の産物です。

それに対抗するためにこの英雄システムを構築いたしました。

かつては、彼女も我々と共に、この世界を創り上げたのですよ?」

 

 案内係とのツーショット写真ならぬホログラムである。

 まるで探検隊のような、ヘルメットと緑色の作業着にポケットがいくつかついたものを着た、黒人の精悍そうな女性が映っている。

 二人とも楽しそうに肩を組んで笑顔である。彼女が環境維持AIなのだろうか。

 

 なるほど・・・ノベルでは何か邪悪で、ある種の神秘性を秘めた邪神みたいなものとして描かれていた。

 全てを滅ぼす呪いをかけられた神、確かにそういうことになるのだろう。

 牛さんはこないだまで接客業をしていたんだが、いつの間に世界を救うため神と戦うとかいう大役を押し付けられているわけなんだねえ、ハハハ。

 実に笑えない話だよ。

 

「今、私は無力です。

地下の建設途中のメインパークの防衛だけで、地上には何もできません。

どうか、どうかあの子を・・・。」

 

 縋るような、祈るような声で訴えかける案内係。

 そこにいるのは、娘を案じる一人の母親である。

 かつて、幾人もの人々を導いてきた神すら演じるようなAIが、たった一人の人間に執着している。

 

「そうか・・・僕を導いたという『監督』とは、どんな人だったのかい?」

「彼は、いわばショーマンでございます。

マイクがあれば誰よりも先に握ろうといたします。

古典、流行りを問わず全ての演劇を誰よりも愛し、あらゆる出来事を劇として捉えようとする。

彼は常に、誰かに劇的な刺激を与えようとするためにプログラムされたAIでございます。」

「そうか、彼らしいな・・・。」

 おほん、と彼は咳払いすると、急に姿勢を正した。

 

「師匠の教えてくれた名前の知らない劇の一つ。

世界の全ての英雄が集うという、こんな一幕がある。

英雄達が円卓を囲み、僕が叫ぶ。

『各々武器をとってくれ!』

すると世界各地の英雄がそれぞれに武器を掲げる。」

 一条くんが、厳かにゆっくりと片手剣を鞘から抜いて、装置を円卓のように見立てて掲げる。

 

「『我々は、政治、人種、国境、あらゆる壁を乗り越え、ここに集った!

今、この世界は危機に瀕している!

全ての英雄達よ、共に世界を救おう!』

・・・これだけで場面は終わる。本当にこれだけのシーンらしいんだ。」

 明朗に、高らかに宣言すると、一条くんは剣を鞘に戻した。

 

 数分にも満たない寸劇だが、一連の動作は美しく、精練された動きであることは間違いない。

 躊躇、迷いのないその動きと表情だけで、カリスマというものを感じさせる。この寸劇だけでも、彼が選ばれた理由がわかるというものだ。

 

「あの時は意味は分からなかった、剣のポーズの練習か何かか、天才と呼ばれるあの人の気紛れだと思っていたんだけどね。

そういえば、珍しく厳しかった彼が拍手していたなぁ・・・今なら、託された意味がよく分かるよ。」

 ふっ、と懐かしそうに笑う一条くん。

 ホログラムの彼女はどこか嬉しそうに目を輝かせている。

 

 少し迷って頭を掻くが・・・俺は彼と握手するために手を差し伸べた。

 

「ポチ・・・いや、篠原くん。」

 手のサイズは異なる。

 壊さないように彼の手を恐る恐る優しく握るが、一条くんは力強く、手のひらを握り返してきた。彼の目には決意と、情熱が宿っている。

 ふむ、これが英雄というものなんだな・・・しかし、牛さんはなんで選ばれたのか、さっぱり分からなくなる。

 

「共に世界を救おう!」

 彼は生粋の役者なのだろう。

 英雄にしろ、AIであれば神にしろ、時として本人の意志とは無関係に、その背負った役を演じなければならない時がある。

 そして彼は『英雄』を演じるのにふさわしい人物なのだろう。

 

 んで、牛さんは何なんだろう。マスコットだろうか?

 手を握ったはいいが、彼と肩を並べられる存在なのだろうか?

 

「『監督』も『クルー』も・・・。」

 振り返ると、ホログラムとして浮かぶ案内係が感動に震えている。

 シャーニャさんも伊八さんも安心したように、こちらの様子を眺めているようだ。

 

「良い英雄を選んでくれました。

私にできることを、これは権限を超える危険な行為なのですが。」

 

 ゴウゴウと動き始める壁に埋め込まれているであろう周囲の機械群。

 何か大きな自動販売機のような、入り口のついた機械が一際大きな音を立てると、ガタン!と何か棒状のものが物が飛びててコロコロと床に転がり落ちた。

 

「これは本来ならば、キッズコーナーにて販売される予定の玩具でございます。

これに最大限、できる限りの強化を施したものです。」

 

 シンプルな黒い棒である。両端が白く塗られている。手品師の使うような、指揮棒のようなステッキ。

 見た目は平凡である。見た目だけならば。

 一条くんが拾い上げ、色々と観察しているようだ。

 

「『監督』がホログラムショーで使うはずだった逸品に、とても近い仕上がりだと思います。

レシピは彼から貰ったものを参考に、この施設の残存した物資で作り上げられる最高のものをお渡しいたしました。」

 

 一条くんがくるんと振るうと、一瞬で牛さんと同じ姿に変身した。

 次に振るえばどこかの王女らしき姿に、また振るえば、よぼよぼのお爺さんから、羽を生やしたり、水を出してみたり、子供になったりと次々と姿を変えていく。

 この世界の法則に疎い牛さんでも、あのステッキが強大な魔力を秘めているのはわかる。

 

「凄い、なんだこれは・・・!まさに魔法使いのステッキだ!」

 今度はベルンハルトの姿に戻る一条くん。

 

「素材も軽量でありながら、金属性の武器と打ち合うような戦闘に耐えうる耐久性を保持しています。

もっとも、重さや形状から、鈍器としては適さないかもしれません。

術の強化を主な目的とした補助具としてお使いください。

本来なら銃などの武器をお渡ししたいのですが、我々AIには武器を複製する権限を与えられておりません。」

 まぁ、無理だろうけど、ここの警備員の使ってた銃をくれるだけでも相当な強化になるよね。牛さんの肉体と組み合わせれば敵なしだろう。

 

「いや、この杖のおかげで何年もの修行をすっ飛ばして強力な術を使えるようになるんだ!

これほど凄いことはないよ!」

 

 牛さんの頭に幻のお花を咲かせる一条くん。何か匂いまでありそうなリアリティだ・・・。

 ん?頭上から芳しい香りが確かにする。香りすら幻なのか。

 ふむふむ、一条くんが楽しそうで何よりである。

 

 牛さんにも欲しいなーと眺めていると・・・再び周囲の機械がガンガンと先程より大きな音を立てて稼働し始める。

 ワクワクしながら眺めていると・・・板に棒がついたような、いわば看板のような形状をしたものが、自動販売機のような狭い入り口から吹き飛んできた。

 

「できました!

これが私のオススメの品でございます!」

 うん、看板のような、じゃなくてこれは看板だ、間違いない。

 しかも、案内係さんのテンションが妙に高い。

 

 何処からどう見ても、白と赤を基調とした、金属性のプリチーなプラカードである。

 看板には何語かわからない名前が書かれていて、森の中に観覧車やジェットコースターのような遊園地らしい、簡易的ではあるが派手な絵柄が描かれている。

 

 そして、明らかに異様な力を感じる・・・。

 

「こちらは私が使用する予定だったプラカードを、いまの英雄様のお姿にマッチするように加工したものでございます!

ポールの部分には当園のロゴをペイントしてあります!

プレミア間違い無しですね!?

ああ、とてもお似合いです!当テーマパークのマスコットキャラクターとしていかがですか?」

 

 牛さんの手にフィットするように、取手の部分はゴムとプラスチックを合わせたような、不思議と両手に馴染む形状のグリップで滑り止めされている。

 確かに、牛さんじゃないと持てないような、ずっしりとした重さがある。

 しかし、持ち運べないような理不尽な重さでもない。

 

「いつかこれを持って、お客様に園内をご案内するのが夢だったのです!」

 口を抑えながら、うっとりとこちらを眺める案内係さん。

 心なしか頬が赤くなっているような気がするが、きっと気のせいだろう。そうだと信じたい。

 案内係のあまりの変わりように、ドン引きしている後ろの三人。

 

「看板に表示される内容は、自動脳波連携システムにより、持った方の自由に変更することが可能でございます!

電卓機能から、複雑なグラフに3Dホログラムまで自由自在に表示可能です!

そして、自動読み上げ機能により、火事でご本人様がお話しになれない状況でも、周囲のお客様を誘導する事が可能となっております!

試しに、このプラカードで何か表示するように念じていただけませんか?」

 

 試しに丸をイメージしてみると、看板が無地の白に変わり、看板にゆっくりと円が表示された。

 他に四角をイメージすれば四角が、星型をイメージすれば星型が描写される。

 単に頭に思い浮かべるだけでなく、描けとイメージしなければ看板には浮かんで来ないようだ、ちょっと頭が疲れる。

 音声読み上げ機能が付いているらしいが、ちょっとよくわからない。

 

 これは練習が必要のようである。

 

「ああ・・・素晴らしい・・・!」

 

 恍惚とした表情でこちらを見る案内係さん。

 いやいや・・・このプラカードの機能の何処にそんな要素があるんだよ。

 牛さん、案内係さんのスイッチがわからないよ。

 

「他にも音声読み上げ機能や、練習すればグラフや複雑な計算も行えるので、是非、ご活用ください。

あと耐久性は抜群で、この惑星が滅ぶような隕石を受け止めたとしても、形状記憶能力により復元いたします。

その他、泥や油汚れ、毒物汚染から放射能汚染至るまで様々な汚染をシャットアウト!

壊れることは無い、いえ、破壊することは不可能とお考えください。

なお、万が一の場合に備えて、暴徒の鎮圧にも有効です。」

「暴徒の鎮圧って・・・。」

 まるで通信販売のような宣伝文句に、呆れ気味でプラカードを眺める一条くん。

 

 試しにプラカードをハンマーのように振ってみる。

 少々、ハンマーとしては看板に厚みが足りないが、重厚な金属性なので当たれば威力になりそうである。

 何より、牛さんの手に非常に馴染む。

 牛さんのサイズだと、普通の人が扱う武器は握る柄は小さい上に、筋力と重さが釣り合わないせいでどうにも使いづらいものしかなかったのだ。

 

 その点、これは素晴らしい。

 重心も牛さんの身長を計算されたかのように、振り心地が非常に心地よい。

 これなら武器として、ふざけたデザイン以外なら素晴らしい逸物である。

 

 そう、このファンシーな絵柄以外は。

 赤と白のキャンディーのようなポール。

 意識しないと勝手に表示されるロゴマーク。

 実に派手で可愛いらしいよ、ちくしょう!

 

「できる限り、篠原様の術に合わせた素材で強化を行っておりますので、補助具としても優秀な逸品となっております。」

 えぇ、一番の目玉はそれなのでは?

 試しに術のオーラを纏ってみるが、オーラの量と質が段違いである。

 今なら、今まで戦ってきた敵などもはや敵ではない、そう思えるほどの力が湧き上がってくる。

 

「どうか、このプラカードを掲げて、この世界の民をお導きくださいませ。

そして、当テーマパークをご宣伝頂けると、非常に助かります!」

 

 いやいやいや・・・なんで開園してない、しかも開園が望み薄な状況にあるテーマパークの宣伝を心から願っているんだこのAIさん。

 想像以上のポンコツさんでなかろうか?

 第一、武器として使用した場合、多分血に染まるよ?

 テーマパークのロゴが真っ赤に染まるよ?

 

「いや、君らのテーマパークの開発は無期限の延期になっているんだろう・・・どうやって行くかもわからないし。」

「・・・。」

 明らかに案内係さんのテンションが下がっている・・・!

 

「あたしら冒険者の間でも、古代のこういった遺物はとんでもない値段で取引されるよ?

見た目はともかく、その力なら間違いなく神器と呼ばれるだろうね。

大切にするんだね、盗まれないよう気をつけた方がいい。」

 見かねたのか、シャーニャさんがフォローに回る。

 考えてみるとシャーニャさん目線、案内係さんって自分の世界の神に近い存在なわけで・・・ちょっとだけ案内係さんの瞳に光が戻った気がする。

 

「本来ならば、我々AI群などプログラムが手を貸さず、ここに住まう人々の力だけで解決するのが望ましいというのが、計画の基本方針。

このような遺物を増やすのは、我々の望むところではございません。

それに、私たちAIは意図的に不完全に作られています。

本来ならば、このAIによる惑星開発の経過を観察すること自体、投資家様の娯楽の一環として計画されていたものなのです。

ですが・・・手段を選ぶ余地が、残っていないのも事実です。」

 

 それは世界の危機という意味で、余地が残っていないのか。

 それとも、娘さんを救うという意味で残っていないということだろうか。

 

 微かな稼働音を感じると、先程の自動販売機のような入り口から、カコンと何か排出されたようだ。

 今回は飛び出したりせず、受け皿におさまっている。

 一条くんが近づいて手に取ると、それは小さいペンダントと、遊園地のロゴが入った封筒のようだった。

 

「娘を説得するのに、役に立つかもしれません。

娘を、どうか美命を、頼みます。」

 

 ザザッと異音がすると同時に、ホログラムにノイズが走る。

 

「どうやら、エラーに侵されたAIに勘づかれたようですね。

お伝えしたいことはまだございますが、ここまでのようです。」

「ま、待ちな!

この施設はそもそもなんなんだい!

どうやったら厄災を止められるんだい!」

 慌てて質問するシャーニャさん。

 愛すべき馬鹿弟子の目標を、やはり彼女なりに気にしているのだろうか。

 

「まず、この施設は、人を別の動物の身体に造り替えて、空を飛び、大地を駆けるためのレジャー施設の実験棟でございます。

現在、必要な電力が不足しているため、これらの実験装置の稼働は不可能でございます。

も・・・復旧できた場合でも、興味本位で、特に篠原様が使用なされるのは危険でございます。

また、実験中の生物の生命維持装置は既に停止・・・。」

 

 ホログラムの形も崩れ、徐々にノイズが酷くなっていく。ぷつり、ぷつりと音声も途切れる。

 うーむ、自分の身体を別の生物にするとか、実に未来的な娯楽である。

 牛さんが元に戻れる手段があるかとちょっと期待したけど、よくよく考えると話に出てくる不明なエラーに侵されている装置を使うこと自体リスクがあることなんだろうか。

 

「次に、厄災を止める方法はありません。

・・・が力を合わせ、迫り来る悪意を打ち砕く他に、世界は・・・。」

 

 ホログラムがついに形を保つことができず、煙のようになっている。ノイズで音が飛んでしまい、何を言っているのかもはや聞き取れない。

 

「・・・どうか、娘を・・・。」

 

 そう言うと、施設そのもの電源が落とされたのか、再び闇が訪れる。

 ホログラムも映らなくなった。

 

「自分の言いたい事だけ言って、行っちまいやがったよ。

聞きたいことがまだあるというのにねぇ。」

 シャーニャさんが悔しそうに吐き捨てる。

 確かに厄災への対処法なり、情報は欲しかったところである。AIの娘を、何とか救出したいという気持ちだけが先行しすぎていた。

 しかし、それでも収穫はあった。

 

「師匠・・・。」

 鎧の置物のようだった伊八さんがシャーニャさんの肩を慰めるように叩く。

 

 一方で、一条くんは、ペンダントのロケットを興味深そうに眺めていた。

 彼の肩越しから覗くと、そこには父母と、小さな3歳くらいの娘の家族写真が収まっている。

 

 俺が親になったとして、愛する子どもをこの世界に召喚させるだろうか・・・それは愛情か、それとも親のエゴか。

 このペンダントを見せて、この世に地獄を作り出した彼女はどう思うのか。

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