ミノタロスみたいな中ボスを乗っ取った   作:暗全畑

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第2話

「ぶもおおお!?」

「うあぁぁぁ!?」

 意識しなくとも身体はその場から瞬時に飛び退く。鍛え抜かれたアスリートの直感のような、刹那の判断。

 鼻先すれすれのところで巨大なバーナーのような火柱があがり、中の男は瞬時に黒い人形をした炭になった。

 

「ぶも・・・ぶもも・・・。」

 ここに味方はいない。人の命は紙のように軽い。

 ならば獣の命など無いも同然。炎を前に命の無意味さに圧巻される。

 

 少年を助ければ味方と認められるなど、そんな甘いことはなかった。

 しかし、獲物を狙う時の独特の冷たさが、目の前の恐怖を上回っているのがわかる。周囲の敵の動きを、匂いを、呼吸を、鼓動すら五感の全てで把握できてしまいそうだった。

 

 村は時が止まったように静寂に包まれる。巫女、賊、村人、全員が乱入したイレギュラーである俺の一挙一動を注視している。そんなに見つめるなよ、照れるねクソが。

 

 俺は頭領が目配せをして頷いたのを見逃さなかった。視線の先には弓を構える賊が一人。

「かかれぇぇ!」

 駆けつけた増援の中の弓持ちが矢を放つ。が、当たらない。まるで俺の身体が自分のものでないように、ぬるりと矢の軌道を読んで身をよじる。

 矢の攻撃と頭領の号令を皮切りに、賊達が化け物と巫女に一斉攻撃をしかけてきた。

 

「和香だぁ、聞いた名だが・・・?

クソガキ巫女は俺が殺る、牛野郎をなんとかしろてめぇら!」

「だぁれがガキじゃ、風呂も入らんウジ虫め!」

 

 頭領は器用にも地面の和香の薙刀を遠くに蹴飛ばしつつ斧で和香に斬りかかるも、和香は罵倒しつつ流れるように攻撃をかわす。なにあの動き、あいつら人間じゃねぇ・・・。

 

「この牛やろぉぉぉ!」

「ぶもっふ!」

 賊が一人、こちらの先鋒として釘つきの棍棒で殴りかかってくる。俺はデカくなったわりに軽快なステップでかわしつつ、体術の基礎も知らないが適当に相手の腕と足を掴む。手の平が大きくなっただけあってがっちりホールド。

 

「やめ、やめろっ!あっ、腕があぁぁぁぁ!」

 他の囲もうとしてきた賊達を、捕まえた男を持ち上げてぶん回し牽制する。

 人間ぶん回し攻撃は直接は誰にも当たらなかったが、軽々と人をおもちゃのように振り回すバイオレンスな光景に周囲はたじろいたようだ。

 

「ぶもっ、ぶもーう!」

「助けて、助けてくれぇぇぇ!」

 たかい、たかーい。男を頭上に振り上げる。肩とか外れているかもしれない。無理な体勢で苦痛だったからか、じたばたともがかれて棍棒がガシガシと顔に当たるが動じない。

 弓持ちの矢は避けなくとも、仲間の誤射に躊躇ったか、それとも怖気ついたか、あらぬ方向へ飛んでいった。

 

 さてユーを誰にプレゼントフォアユーしてやろうか。

 

「やめっ、ぬわぁぁぁ!」

「ぶもおおおお!」

 ターゲット確認!思いっきり反動をつけて、男を両手で砲丸投げするかのようにぶん投げた!

 

「もらったぶえぁっ!?」

 ごん!と鈍い音を立てて、頭領にぶち当たった。やはり目立つし、丁度、必殺の一撃を振り下ろそうとしているところで、がら空きの背中は狙いやすかったのだ。

 

 ぶん投げた両者ともども頭にクリーンヒットしたらしく、地面に倒れたまま動かない。死んでない、殺してない・・・たぶん。

 

 さぁて次は、と見渡すものの賊達は一向に攻撃してこない。しんと水を打ったように静まり返っている。

 

「なんのつもりじゃお主?」

 戦闘で体勢を崩され、頭領の前で尻もちをついていた和香が立ち上がり、こちらを刺すような目つきで睨み付けてくる。

 足元の薙刀を拾い上げ、刃先をやっぱりこちらに向けてくる。あと少しで危なかったな、無事に殺そうとしてきてくれて嬉しいよ、けっ。

 

 あー、頭領を倒したから抑える役がなくなって、賊ではなくこっちに来るのか。

 思考は頭に氷でも詰め込んだかのように冷静ではあるんだが、そこまでは計算してなかったよ、ぐえぇ。

 

「それでわしを助けたつもりか、ん?」

 そういや彼女ってこんな独特な話し方だっけか。和香の父親の喋り方が感染ったとか、なんとか。

「ぶもっ。」

「むうっ?」

 とりあえずファイティングっぽいポーズをとりながら、しっかり頷いて返事をしてやった。

 いつ炎が飛んでくるのかハラハラしながら見つめ合う。彼女は構えを解かないが、攻撃してくる気配もない。なんだ、その動揺した目は、何が言いたいんだよ・・・戦うの?なんなの?

 

「お頭がやられた!」

「お、俺は逃げる、逃げるぞ!恨むなよ!」

「化け物も巫女も相手にしてられっかよ!」

 

 起き上がらない頭領を確認し、旗色が悪くなったことを悟った賊達が、戦意を喪失して蜘蛛の子を散らすように逃げる。

 数でゴリ押しをしてくれば、こちらは人質含めて危うい状況だったんだが。さすが下郎、こういう時のチキンな判断と行動はキチンとしている。

 

「ぶもーぅ。」

 やめようよ。ほら賊が逃げちゃうぞ、こっちも動けないから薙刀の狙いを解いてくれよ。

 食べないから、逃げるだけだから、襲わないから、全速前進で賊と一緒に逃げるだけだから、いいだろ、な?

 そんなお願いを一つの鳴き声に込めて頼んでみるものの・・・。

 

「そこを動くな化け物。お主を自由にするわけにはいかぬ。

動いたら焼き牛にして食ってくれようぞ?」

 マジかよ。俺を食うとかどっちが化け物だよ。一歩でも動いたら撃つぞ!なんて体験したことない、ごくごく平和で一般的な牛さんには刺激が強すぎるよね。

 

「それに・・・やっと枷をとったか、待たせてくれるのぅ!」

 『お前動いたら今日の晩ご飯ね系美少女和香ちゃん』と見つめあっていると、逃げる賊達に次々と火の玉が飛んでいく。

 

「逃すと思ったか●×▲※どもめ!燃えろ燃えろぉ!」

「口が悪いですよ、真莉、和香さまの前ですのに、ほほほ?」

 村人と協力して和香の焼いた賊の遺体から鍵を手に入れたらしく、巫女二人が手枷を外し、逃げる賊達の背中に火球を手からポンポン投げている。

 一人、また一人と賊を火だるまへと変えて行く。あー、これは村には良かったけど俺にはまずい、まずいですねこれは。

 

「ふぅ、あやつらもなんとかなったか、終わったら説教じゃな。

さて、本当に動かんようじゃが、お主!」

「ぶもっ!?」

 和香がビシッ!と、こちらを指し示すように薙刀を構える。や、やるのか!?

 

「人の言葉が理解できるじゃろ?」

「ぶもぅ・・・。」

 肩をすくめて、降参だと観念しつつ頷き、肯定の意を示してみる。

 もはや大砲を持った三人に囲まれたようなものである。とりあえず交渉の余地だけでも出来ただけマシなんだろうな。

 

「やはりか!どうしてやるかな、これは面白い!

こんな田舎にも来てみるもんじゃのぅ!」

 あーあー、ころころと笑うとやっぱり年相応の少女なんだよね、はいはい可愛い。

 これで物騒な薙刀さえしまってくれれば、さらに俺の目に優しいいんだがね。

 

「和香さま!何人か逃げられました!追撃のご命令を!」

「この度の失態、たいっへん、申し訳ございませんでした!」

 向こうが片付いたらしい。辺りに焦げた匂いが充満する。それに動じなくなりつつある自分が悲しい。下手すると、すぐに彼らの仲間入りである。

 

「口惜しいが逃げた鼠どもは放っておけ、化け物は大人しくしとるが、わしが見張る。

それより装備を回収して山賊の頭領をさっきの手枷で拘束するんじゃ。死んではおらんようじゃし、おそらく名有りの山賊、土産にはなるじゃろ。あとは村の者達の解放じゃな。」

「「は!」」

 

 二人は物陰に置かれていた自分達の装備を回収し、気絶した山賊の頭領を、何かしら術でも組んであるらしい手枷をかけ、村人の拘束に使っていた縄で慣れた手つきで簀巻きにし始めた。

 村人の何人かは解放され、残りの縛られた村人達を解放しながら珍しいものを見るようにこちらを見ては、ひそひそと話し合っているようだ。

 

「牛なら草食かしら。」「目が怖いな、肉食だろう。」「へっ、なら焼いても臭いな。」

 全部聞こえてるけどな!だが、化け物がいても慌てて逃げ出さないほどには警戒を解いているらしい。少年も母親も無事のようだ。

 

「それで、なんじゃ、牛猿?牛鬼か?なんだかわからんが、お主は何者なんじゃ?」

「ぶもももう。」

「んー、言葉はわかるようじゃが、やはり口がきけぬのか。」

 困ったのぅ、と戦闘時とは違って表情豊かな女の子のようだ。それでも顔から下、薙刀を構えた身体は一切動かさない辺りに、軍隊で鍛え抜かれた者特有の凄みを感じる。

 

「我々の任務をお忘れですか?」

 そう言いつつ、雫は俺のまわりをうろうろしながら、こちらの身体をじろじろと観察し始める。今更、全裸であることを思い出す。毛皮があるから恥ずかしくないもん!

 

「明らかに、様々な生物の要素が混ざっておりますね、目は牛のものではありませんし、兎耳、鋭い爪と尻尾は熊、もしかしたら狒々も混ざっているかもしれませんね。

そして何より人語を理解し、山賊の頭領を的確に攻撃した知恵、敵に回れば危険と言わざるをえませんわ」

「ぶももぅ・・・?」

 俺は哀しげな声をあげて抗議の声をあげてみる。ブルブル、牛さんは悪い牛さんじゃないよ。

 

「けどよぉ、雫。元からこういう生き物かもしれねぇだろう?坊やを助けたのは間違いのないことだし、国を滅ぼす凶暴なやつではないよなぁ。話は通じるんだし。」

 ひょい、と平然と簀巻きにした山賊の頭を肩に担ぐ真莉。その頭領、大鎧も脱がせてないんですがそれは。指摘してやりたい。ツッコミたい。

 しかも、あなた装備取り返してるけど、それも似たような大鎧という。

 

 他の巫女二人がそれを見て何も違和感を感じてないあたり、いや元々ノベル読んでいたからわかるけど、この世界の女の子は逞しいってレベルじゃないだろ・・・。

 

「任務で倒さなきゃならないのは別にいるんじゃないか?放っておきましょう、和香さま。」

「ぶもぅぶもぅ。」

 そうだそうだ、悪い牛さんなんていなかったんだ。

 

「どうしようかのう?監視も兼ねて連れ帰って『ペット』にでもしてやろうか、飼えぬなら友人に手土産として怪我の見舞いにでもしてやるか?どうじゃ、生半可な庶民より楽に暮らせるぞ。

しかし、疑わしきは罰する姉上なら見つかったその場でさくっと首を刎ねるじゃろうがな!いや消し炭か、はっはっは!」

「ぶもぅ・・・。」

 いや笑えねぇよ。怪我をした友人というのは気になるが。

 

 埒があかないので、足元の砂に足で自分の名前を書いてみる。

 ゆっくりとした動きで、攻撃する意志のないよう気をつかった。『龍之介』、なかなか複雑な字なんだが力作だと思うな!

 

「お、おおう、和香さま、文字です、読めません!」

「これは・・・文字でしょうか?私にも読めません。複雑な模様にも見えます。」

 和香は動かず、巫女二人が文字を確認するも、理解できないらしい。

 

 どういうことだ・・・いや、そもそもなんで彼女らの言葉を理解できている?日本語とは違うぞ?当たり前だがなぜ気づかなかった?『和香』『真莉』『雫』、似た漢字が当てられているだけなのか?それは自動的に?あ、あああ頭が痛い。牛頭め!

 

 思いつく限りのひらがな、カタカナ、漢字、全てを地面に書き記してみる。どれか一つでも通じれば希望はあるはずだ。

 

「どれも読めませんね、我々の文字に似ていなくもない、でしょうか?」

「雫にわかんないなら、私にもわかんね。」

「ぶもぅ」

 がっかりだ。筆談が使えないとなると、こちらの意思表示の方法は極端に狭まってくる。どうする、どうする?頭を抱える、ツノ付きゴツゴツな形には未だに慣れない。

 

「ほぅ、もしや、お主は文字を覚えようとしているのか。」

 違うんだがなぁ・・・そういう方向で誤解されるならまだ良いか。

 和香が構えを解いた。つまり敵対する意志はない、ということらしい。このまま逃げてもいいかもしれんが、とりあえず話を聞いておかないと背中から焼かれそうなので、お行儀良くお話を聞くため待つ。

 

「我が国とは全く異なる文字も多いのですが・・・。」

「おっ、読み書き勉強してるのか、私と一緒だな!」

 お前近衛兵なのに文字ダメなのかよ!なんちゃって金髪巫女!ああ、思い出した、西地区、スラム街の出身だからな・・・。

 

「予言では『国を滅ぼす魔物』となっておるな、こやつで間違いはなかろう。」

 驚愕の事実に驚愕の念は湧いてこない。ただただ、どうしてこうなったという運命の悪戯を嘆くしかできねぇ・・・。

 

「和香さま!」「しかし・・・!」

 戦闘態勢に入ろうとする二人は和香は手で制する。真莉は肩に頭領担ぎながら、背中の長剣を振り抜こうとしていたようだ。間違いない、綺麗な顔して前世はきっとゴリラだな。

 

「こやつ、実はこれより前の今朝の戦闘で、矢による手傷を負っていたのだ。

しかし、見たところ全くの傷が見当たらぬということは、おそらく予言の通り消し炭にでもせんと、滅することのできぬ生命力の怪物なのじゃろう。」

 なるほど、そこまで予言されているのか。この世界、やはり矢が刺さっても数時間で治るのは異常なことである。

 

「ぶもーぅ・・・。」

 考え込むように顎をさする。

 その正確な予言とは本当に『主人なきデウスエクスマギナ』に存在したものだったのか、となる気がするが。それがわかっているなら、序盤の『ぬえ』討伐はたやすいのである。

 

「そして、明らかに手加減しておるのもわかるはずじゃ。

気配を一切感じぬ隠れ方。賊どもを圧倒する並々ならぬ覇気。大の男を振り回す怪力。矢を避け、わしの術を何度も避ける身のこなし。あの調子のままその鋭い爪と牙を使われれば、賊も村人もあっという間に八つ裂きにされておった。

獣の本能として暴れておったら、わしら三人のうち誰かは国の為散る・・・あるいは全員か。」

 そ、そうかな、結構必死だったよ?どうやったら爪と牙を使えるのか知らないよ?筋力ゴリラに牛さんは勝てるの?

 

「わしに刃を向けられても動じぬ、あのどっしりとした構えは余裕の表れじゃ。今代最高には及ばずとも、常に次点の座に居たわしですら、術を当てるのは至難の業じゃろうな。

森で賊どもに囲まれた時、わしを矢から助けたようじゃが、襲うつもりだったならば、わしはこの世におらなんだ。」

 ふぅ、とため息をつく和香。

 

「獣なのに、善悪の区別がつくのでしょうか、いやしかし・・・。」

「やるじゃん。」

 どこを見たらそうなったんだろうか、構えだってガチガチに緊張してるだけだというのに。余裕どころか、丸焼きにされるのが怖かったんだが。

 

「獣であるお前が何故助けてくれたのかはわからぬ、だが、あらためて礼を言わせてもらう。お主がいなければ、森で矢に当てられ助からなかったかもしれぬ。村で頭領の斧に割られていたかもしれぬ。

十五代『火霊産』副大巫女、天野和香。

今回の賊退治、そしてわしを守ってくれた働きに感謝する。今後も村に悪さをするつもりがないのなら、行ってもよいぞ。」

「ぶも。」

 そういうことなら・・・。

 

 背を向けてゆっくり森へ向かっていく。耳と鼻はフル回転させて、後ろから刺されないか警戒しているが。

 

「もし、もしもじゃ!

もし文字がわかるようになったなら・・・!」

 意を決したような和香の呼び声に足を止める。

 

「なんとかしてわしの所に来い!とにかく今は兵が足らん!上に土下座してでも歓迎するぞ!」

 「ぶもっ!」と振り返りながら頷く。

 

 が、しかしである。かわい子ちゃんに全力で頼まれたので、残ったアドレナリンとノリに任せて回答しちゃったがいいのかコレ。

 獣の分際で権力の庇護下に置かれるのは魅力だが、平穏な森の牛さんとして暮らすのが良いのでは?いやしかし、しかしだよ、予言による危険物のレッテルを回避する数少ないチャンスなのでは?

 

 そうそう、この時代は各国が英雄の儀式を行い、その英雄の力を持ってして武を凌ぎ合う時代。

 『英雄』とは本来ならラスボス勢力を抑えるため、人間が生き残るために召喚される存在であり、その過大な力を戦争に使うのだから、英雄の力量と戦略次第では小国が大国を打ち破る下剋上も上等な世界なのである。

 今は時代のどの時期なのかわからないが、各国ではきな臭いことになっており、小競り合いが絶えない。兵が足りなくなるのも宜なるかな。そして焔の国に英雄はいない。儀式に失敗しているのだ。それを補うのは何か、肉の壁、すなわち兵よ。兵は足りない、物資はもっと足りない。

 

 とはいえ、どう見ても牛さんな俺を戦力としてカウントしていいのか、肉壁として使い捨てられるのか?よく考えろ俺!

 

「・・・ぶもっぶもっ。」

 だが、よく考えても結論としてはよく分からんになるので、さらにこくこく頷く。頷いちゃったんだし、もーう、どうにでもなーれ。

 

「よし!わしの兵じゃ!わしの兵になるんじゃぞ!」

 目を輝かせる和香ちゃん。ぴょんぴょんと跳ねて、全身で交渉が上手くいったことを喜んでらっしゃる。本人が喜んでるなら何も言わないけどさ。元々何も言えんけども。

 

「え、えぇ、アレを兵として雇うのですか!?

無理ですよそんなの!?」

 雫はドン引きである。そりゃ無理だよな常識的に考えて。

「私も読み書き頑張るからお前も頑張れよー!」

「ぶももーっ」

 金髪巫女さん無邪気に手を振っていたので、こちらも手を振り返しつつ、村を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

「よろしいので?」

「ほう、どうすれば良かったかのぅ?

村の中である以上、派手に暴れることもできぬし、逃げた山賊どもが逆襲して頭領を奪還してこないとも限らないのじゃ。交渉できる相手ならば、危険を冒さずとも場を一旦収めることには何ら問題はないはずじゃ。」

 

 懐から扇を取り出して仰ぐ。

 かつて貴族の女性達は『男性に顔を見られるのは恥ずかしいこと』という慣わしがあり、それの名残だと聞いておる。それを覆したのが焔様であられる。そして、鎧を着て火の術を扱う以上、単純に暑いので便利である。

 

「捨て犬を拾うなと姉上に。」

 

「英雄殿の予言に従えば、例の怪物は放っておくと国を滅ぼすという。だから討伐して参れ、とな。

『討伐して』予言した未来が変わるというなら、『仲間にして』予言した未来も変わるに決まっておる。それに見ろ、大事な任務に、焔様の血を継ぐものを引っ張り出し、たった三人でどうにかしろと言っておるんじゃぞ?

それほどの強敵を仲間にできるのならば、人手を増やせるのなら増やすのが筋ではないか、えぇ?」

 

 少々、言い方がきつくなったのぅ、雫は何も悪くない、反省、反省。最近は気に病むことが多すぎてかなわん。

 

「飼い慣らすことができればの話です!あんな得体の知れないものを、飼い慣らすことができると、本当にお思いで?」

 

「少なくとも言葉のわからぬ馬には乗れるのじゃ。

言葉のわかる牛を乗りこなせない理由にはなるまいて。そもそも、あやつが文字を覚えて、己の考えを伝えられるようになってからじゃぞ?」

 押し問答に疲れたか、雫が大きくため息をついた。姉上ほどではないが、わしも一度決めたことは曲げないからのぅ。損することもあるが、今回ばかりは譲りたくない。

 

「わかりました、ともかく、報告はいかがいたしましょうか。」

 今度はわしがため息をつく番だった。

 

「山賊退治で化け物退治どころではなかったと伝えれば良い。百人規模の山賊をここまで蹴散らし頭もとった、十分じゃて。

化け物を逃したのは、さっき話した通りじゃ。あやつは我々の手には負えない相手。我らが英雄殿に嫌味を言われるくらいいつものことじゃ、こんな所で死ぬよりはマシじゃよ。」

「しかし、村のために国を捨てたなどと・・・。」

 

「ならば人をよこせという話じゃ!そもそもこのだだっ広い森で、化け物を三人で見つけろなど、ただの嫌がらせとしか言い得ぬわ!」

 

 思わず言ってしもうた。治そうとは思っているのだが、ここ最近は召喚されたあやつのせいで余裕というものが無い。

 

「・・・・・。」

 雫も思うところがあるのか、返さずに黙ってしまった。いかん、いかん。彼女を責めるのはお門違いもいいところじゃ。

 

「すまぬ、苦労をしているのはお互い様だというのに。」

「いえ、お気になさらずに。」

「姉上が無理やり文官の道から引っこ抜いたばかりに、苦労をかけるのぅ。」

 

 元々は文官として生きていた彼女を、何を思ったか姉上は突然武官の、しかも側近に放りこんだ。

 いやはや、采配としては術の適性は高く見事ではあるのだが、姉上はあちこちから優秀な者を引っ張ってくるので、結果として新参者として望んだ身分そのものは下級の小巫女のままの扱いというのは、ちと酷じゃ。

 

「大変光栄なことでございます。」

 完璧な角度でお辞儀をする雫。文官だった頃と比べ、髪の艶は落ちておるし、肌の張りもなくなってきておるし、高級な髪油などをまた送っておこう。

 

「賊には捕まるし、『火産霊』としたら落第じゃが、無事で良かったわい」

 化け物を探す道中、移動する山賊数名見つけたので締め上げてみると、村を襲撃することが判明。

 複数の根城から襲撃要請がかかっていることがわかり、わしが分隊を、真莉と雫で本隊をそれぞれ奇襲する運びとなったのじゃが。

 

「山賊たちは村を急襲することを急いでいたようなので、捕まっただけで手出しはされず、運が良かったです。

ああ、人質をとられたくらいで真莉が投降しなければ、うらめしや、うらめしや・・・。」

 横でスクワットしていた真莉がビクッと跳び上がる。

 

 鎧を着けた男を担いで元気じゃのぅ。こやつも、姉上が街の子供に喧嘩をふっかけ、生きのいい奴として連れて帰ってきたからなぁ・・・。実力は間違いなくあるんじゃが、なかなか素行が悪くて上には上がれん。

 

「あ、あんな村から外れたところに坊やがいる方が悪い!雫だって頭領に普通に負けてたじゃんか!」

「貴女も人質にされたからでしょう!?」

 

「そういうことか、村に着いた時には賊なんぞてっきり片付いていると思ったが、まさか捕まっているとは思わなんだ。

国軍としては、人質など気にせず焼き払える冷徹さが必要なのかもしれんかが、薙刀を置いて人質を救う隙を狙ったわしも同類か。今回は運が良かったとしか言えぬのぅ、課題の残る遠征じゃったな。

真莉は頭領を引き渡し、村を警護する人員を、麓の街から連れて来い。雫とわしはここで賊の動きを見張り、安全とわかったら都で追討隊の要請をかける。」

 

「「は!」」

 

 ああ、報告のことを考えると胃がいたむのぅ、薬でももらおうか?ぴちぴちの16歳なんじゃが、小皺が増えてきて困る・・・。

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