「それで?話が通じたから尻尾を巻いて逃げて来たというわけ?」
「いいえ、一旦場を収めたのでございます。」
かつて、『天野焔』が座したとする祭祀殿の座。そこに一人の男が座す。名前を『キョウスケ』という。無駄な装飾を嫌い、癖のある黒髪は結わぬまま。
身に纏うのは、夕暮れを背景に、紅色の紅葉をあしらった鮮やかな衣。
どこか憧憬を感じさせる、美しい絵のような衣じゃ。威厳などはないのかもしれぬが、なかなかどうして、さまにはなっておる。召喚されて以来、この衣を気に入ったのかよく身につけておる。
だが、奴の心は、そんな綺麗なものではなかろう。
「逃したのと変わらないってわけ?また見つけられるとは限らないというのに?
情けないものだねぇ、君はもう少し優秀だと思っていたけど。」
「務めを果たせず、申し訳ございませんでした。」
キョウスケめ、顔も英雄とは思えぬ、どこか気力を感じない、とぼけたツラをしているのじゃがなぁ・・・!
怒りで歯を食いしばりなかまら、頭をグッと下げる。やはりこうなったか・・・!
「言ったはずだよねぇ、『アレ』は国を滅ぼす一大事であり、少人数で討伐する必要がある存在だと。話が通じるとか、村を襲わないとか、そういうことは関係ないんだよねぇ。信用できるわけないよねぇ。
山賊を討伐し村を守ったのはいいけど、君らの任務はそこじゃないし。
はぁ・・・仕方ない、山賊の残党の討伐といい、僕の部隊を出す必要があるのかな?
君らには僕の軍と比べて、そういう自覚に欠けるようだからねぇ?」
キョウスケの声は怒りもなにも感情を感じない、平坦な口調でネチネチと責められる。それが余計にわしの神経を逆撫でさせてくるのじゃがな・・・!
「左様で!」
「その通りでございます!」
もはや英雄の言うことなす事に、『はい』しか言えない有象無象の傀儡どもが、キョウスケの後ろで合いの手を入れる。キョウスケの後ろ盾がなければ出世も何もできぬ、無能なボンクラどもめ・・・!
それで、わしはいつまで頭を下げれば良いんじゃ!ぐぬぬぬぬ・・・・!
「お待ちください、『火産霊』の巫女を選んだのは相性が良かったからでございます。
貴方様の予言では、炎などで消滅させる必要がある、と。再生力が非常に強く、わざわざ我らの部隊を使う必要がありません。」
彼の側近である、フレデリカが茶々を入れてきよる。
編んだ金髪で緑色の瞳。彼女は太陽と海をあしらった、荒々しい衣を身につけておる。キョウスケが自ら手掛けた品に、付呪をかけたものだとか。
外様のくせに、どこで見つけたかキョウスケに見惚れられ、あっという間に彼の『浮蜘蛛』という軍の頂点にまで上りつめた、彼のお気に入りじゃ。しかし、彼と同じように、智略、戦闘力の両面で侮ることはできぬ。
「そうだった、そうだった。
うーん困った、どうしようかねぇ。」
簡単じゃろうが、わざと遊ばせとる『火産霊』の巫女達を駆り出せば良かろう・・・!
「私が行きます。」
冷たく、透き通る声が響き渡る。あ、姉上っ!?
「愚妹が失態を犯した以上、姉である私が赴きましょう。
賊を含め私一人で充分でございます。」
「あー、しかしねぇ・・・。」
「よろしいですね?」
キョウスケの二の句の前に、畳み掛ける姉上。
キョウスケの後ろの傀儡どもも声を上げないのはさすがとしか言えぬのじゃ。ここ最近『火産霊』の冷遇が日に日に勢いをつけておるが、姉上の有無を言わせぬ存在感は健在であるのぅ。
ああ、かたじけない、姉上にならこの頭いくら下げても構わぬぅ・・・!
「わかった、わかった、ほら和香ちゃんも顔を上げて。」
なにが『和香ちゃん』よ、さんざん貶しておいて色男を気取りおってからに!鬼の形相が顔に出ないようにするのでやっとじゃ!
「やれやれ、流石に『アレ』でも貴女が出るなら、流石に手早く終わるよね。
何度も言うけど、『アレ』は放置すると本当にやっかい極まりない代物だからね。ほら、僕の予言ってよく当たるでしょう?」
やれやれ面倒だよ、といった風に顔を両手で覆う。
確かに、彼の村を荒らすような化け物の出現予測などは正確なのがのぅ、術とは思えぬし不思議としかわからぬのじゃが。
「もし失敗したら・・・例の話が早まったと思った方がいいかな。頼むよ?」
覆った手からちらりと目を覗かせ、さらっと失敗したときのことを出してくるところが、実にやらしいのぅ。
「ええ、必ずや。」
姉上が丁寧にお辞儀をする。
顔には一切出さぬが、姉上は姉上でキてるのぅ・・・。おそろしや。
元々、姉上はこういう場では顔には出さないのじゃがな。ああいう状態の姉上の『稽古をしよう。』は大抵、床に延々と転がされ続けるほど酷い目にあうのじゃ。
「ふぅー・・・。
なら、ご苦労だったね。話は以上だよ。」
姉上の態度に疲れた、とでも言いたそうに気だるいため息をついて、キョウスケが立ち上がり、のそのそと後幕に下がっていく。半歩後ろにフレデリカがつき、その後ろをくっつき虫どもがいそいそと退場していく。
「和香。」
心の中でひぃぃと悲鳴を上げて、びくりと身体が跳ねる。自分も退場しようかと思ったところに姉上に声をかけられた。まさか『稽古をしよう。』では・・・?
「後で二人だけで話がある。」
「はい、姉上。」
爽やかな笑顔で応える。助かったのじゃ。
「その後で稽古をしよう。」
わしの笑顔が絶望に染まる。駄目だったのじゃ。
二人でよく使っている、姉上所有の囲いで待っておると、姉上が入ってきた。
「さ、こっちへ。」
笑顔で姉上が腕を広げて催促する。いつものやつなんじゃが、もう嫁に行ってもいい歳なんじゃし、誰にも見られないとはいえ恥ずかしいのだがのぅ・・・。
わしは何も言わずに、姉上に背を向け、身体を預けると姉上が抱きしめる。きつく、いつもより強く抱きしめてくる。姉上の呼吸と鼓動が聞こえる。優しく、暖かい鼓動。安心するのじゃ。幼い頃はそのまま眠りこけたこともあった。
む、また少し、姉上のモノが大きくなった気がする・・・。わしのはいつ大きくなるのじゃろうか・・・。
「無事で良かった、本当に無事で・・・。」
姉上は目を瞑り、半ば泣き出しそうに声を振り絞る。確かに危ういところはいくつかあったが、そ、それほどのものじゃろうか?
こういう時の姉上はよくわからぬ。今のように何かあった時に抱きしめることもあれば、特に何も理由なく抱きしめることもある。
ただわかるのは、姉上はわしを大切にしてくれているということ。わしはただ、姉上のしたいように任せておる。姉上が幸せならそれで良いのじゃ。
「あの化け物は、私がやらなければならないものだ。」
「姉上・・・?」
姉上は何か決意をしたように目を開いた。
「急な任務で驚いていたぞ、知っていたら私が最初から出ていた。
とにかく無事で良かった、危ないところもあったと聞いたぞ?」
わしの頭を撫でながら優しく話す。もう子供ではないのじゃが、いや、人と比べてわしが小さすぎるのが良くないのか・・・。
「・・・至らぬところもあったのじゃ。」
否定する気はないのぅ。術、武術、体術、姉上の次席の座である以上、他の兵には負けぬ自信があるとは言え、実戦が少なすぎる。
姉上以上に、父上と一緒になって諸領を回ったり、他国との外交にお供したりと、戦闘以外のことでも力を入れておったからのぅ。ここは譲れぬところでもある。
「鍛え直さなければな、五百年前の厄災は必ず来ると私は睨んでいる。その時、和香にも生き残れるように、な。」
「ううう・・・。」
おかげで次席に座っておるのじゃが、厳しい、厳しすぎるのじゃ。死んでしまう。厄災なんて焔様より昔の、『風宮様』のお話。御伽話の中じゃろうに。
もっとも、幼い頃から姉上はそれ以上の血の滲むような、いや狂気じみてるのかもしれぬ努力で、『火産霊』の大巫女の座を守っておられるのじゃがなぁ・・・。
「ところで、本当にその牛のような人型とは話が出来たのか?」
「うむ、文字を覚えたらわしの兵になると約束したぞ!」
「まことかぁ!?」
「まことですじゃ!」
姉上のこんな表情は初めて見たわ。
わしがいたずらしようと、大抵のことには動じぬ人なんじゃが。いたずらしたらお仕置きとして稽古を付けさせられたがのぅ・・・。
「いや、まさか、真莉には話を聞いていたが、本当とは。」
これは真莉に信用が無いな?真莉の説明はたまに下手くそになるからのぅ。
雫はわしが話した方がいいと思って、報告しなかったか、そんなところじゃろう。
「うむ、あの目にはちゃんと人間と変わらぬ理性を持っておった。
二度もわしを助けてくれたし、良い部下になりそうな予感がするのじゃ!」
わしも、手ずからの部下が欲しい。そう思ったのはいつ頃からか。
姉上はいつも良い部下を連れてくる。しかも、適材適所、その場所しか考えられぬほどピタリと、用人がうまいのじゃ。
だから、わしの部下はいつも姉上が連れてきた、いわばお下がりじゃ。当然、わしとの相性も考えてくれるし、優秀なものしかおらん。部下そのものに不満があるわけではないんじゃ。
今回も、英雄様の気まぐれな急な任務で下級の巫女を選べということで、わしと姉上の付き合いの多い小巫女を選んだのじゃが・・・。
「和香を眷属、僕にしようとしているだけなのでは?
いやしかし、そもそも話などできる相手ではないはず・・・?」
己の眉間に人差し指を突き立てて、必死に何かを考えておられる姉上。
「文字も覚えようとしとったぞ!
あの巨体、戦争にもなれば絶対に役に立つじゃろうて!
そしてあれにわしが乗るんじゃ!」
「あんなのに乗るの!?」
「乗るんじゃもん!」
呆気に取られる姉上。さすがに姉上も参ったようじゃな、ふっふっふっ。
「あの巨体に乗って戦場を暴れまわってやるのじゃ!
国を滅ぼすほどの化け物なら、さぞ良い乗り物になろうて!」
「え、えぇ?
とにかく、あの化け物は国のために退治せねばならないものだよ、わかるな。」
頭を優しくポンポンと叩く姉上。やっぱり子供扱いしておるなぁ。
「うう、姉上までも・・・。」
優しく微笑む姉上。馬鹿なことだとわかっておる。こんな馬鹿なことを言っても、姉上は優しくしてくれるのじゃ。大切な姉じゃ・・・。
「すまないな、諦めてくれ、なんとしても私の手で葬ってやりたいのだ。
これだけは譲れないのだよ、何か埋め合わせするからな。」
「なぜですか・・・?」
ちょっと涙が出てきた。やはりダメかぁ、すまぬ牛のような何かよ・・・。庶民で流行りの『ポチ』と付けてやろうと思ってたのだが。恐らく、骨すら溶かされて墓も作れぬじゃろうな。
「どうしてもなのだよ。」
「うう・・・。」
姉上の手を握る。今だけは子供でもいいと、そう思ったのじゃった。
「さ、これから訓練だ。なるべく実戦に即したものとしよう。
それから出発する。何か質問は?」
何もないと思ったが、気になるものが一つあったのじゃ。
「・・・英雄様の『例の話』とは?」
「『火産霊』の解散だ。」
「そんな!?」
あの腑抜け男め!例え、国をして守る存在であっても、そんな不埒なことを考えておるとは許せぬ、許せぬぞ!
「まだ聞いてなかったか・・・。
今のところ各社、母上の了解も得られていない以上、話だけだがな。しかし、英雄様は本気で『浮蜘蛛』に組み込もうと考えているようだ。」
「ぐぬぬぬぬ・・・!
何なんじゃあの英雄は!?
どうしてそこまで、わしらを解体してでも、己の名前のつけた外様の傭兵上がりの部隊にこだわるんじゃ!?」
「・・・。」
姉上は何も応えてくれなかった。悲しそうな顔をしておられる。姉上としては国を守ることが至上であり、その形はどうあってもいいという考えのようではあるが・・・。
「姉上・・・。」
「耐え忍ぶしかないよ。二百五十年の伝統はそう簡単には覆させないさ。
だが、掴みどころがないように見えて、英雄様の手管はかなり手強い。『ヨアキム国』との繋がりも深いものがあると聞く。」
キョウスケは何か企んでいるのは見てわかるのじゃが、いったい何がしたいのか、単純に己の名声のためでも、国を思ってでもない。不気味としか言えぬ。
「今は乱世になろうとしている。
長い歴史の上では敵対的とはいえ、隣国と友好を結ぶのは私は悪くはないと思うが、彼は近すぎるものがある。それに、英雄を擁する以上、ヨアキム以外の他の国だって信用ならないのだ。気をつけるのだぞ、和香。」
「わかっておるのじゃ・・・。」
いったい、この国はどうなってしまうのか・・・?
姉上は訓練ばかりでタコのついた手で、わしの手をそっと握り返すのじゃった。
「お前を絶対に死なせない、守ってみせる。」
「わしもじゃ、姉上!」
くよくよしても仕方がない、家族で力を合わせて、頑張るのじゃ!
「やれやれ、将来的には結婚を申し込まなければならないのに、可愛い子をイジメなければならないのは辛いねぇ。」
自室の、焔の国の都を一望できるラウンジ。もともと、先代の英雄様が使っていたものだそうだ。
月を肴に、ヨアキム産のブドウ酒と、焔特産の清酒を飲み比べする。どっちも最高級のもの、いやぁ、いい身分になったものだね。
「心にも無いことを・・・。」
『フレデリカ』は壁に持たれかかって、同じように月を眺めている。表では『キョウスケ』に仕える忠臣だと言うのに、つれないねぇ。
「そうかなぁ、確かに僕は女に興味はなく、心に決めた人は別にあるけど。子孫はどうしたって残さねばならないからねぇ。頑張らないと。」
「理解できんな。」
「君もそうなんじゃないのかい?
興味なさそうなフリをしてるけど。」
「・・・・・。」
ま、口には出さないか。彼女だって心に決めた人がいることぐらいわかってるさ。偲ぶ恋。僕らは似た者同士なのだろうねぇ。
もっとも君は、僕と違って、働き次第では側室ぐらいにはなれるんじゃないかな?
「で、どう思う?
『アレ』が意思疎通できるって信じられないのだけど。
だって・・・『アレ』だよ?触手で女の子をどうこうしたり、洗脳までできるとか、ねぇ?君も女の子だから詳しくは言わないけども。
『話し合いで解決した』『あれは危険じゃない』とか、和香ちゃん既に洗脳されたりしていないかな?
わりと僕、不安なんだけれども。」
ぶるるっと身震いをする。僕のイジメにぷるぷるする和香ちゃんに変わった様子は・・・いやいや、まさかね。
とはいえ、炎の術を使えない兵を送りつけても、犠牲者が増えるだけだし。桜様まで毒牙になんてことは・・・。勘弁してほしいよ?
「『予言』は絶対ではない。既に我々の存在自体が『予言』を狂わせているんだ。
それに、私から見ても、どう考えても荒唐無稽な話だ・・・。」
眉間の皺を撫でる彼女。
まぁ、ほんとは彼女も僕と同じく乙女だしね、思うところも色々あるんだろう。『アレ』の詳細を聞かされた時は僕も耳を疑ったよ。媚薬なんてものは眉唾ものの話が多いからねぇ。色々試したりしたけど。
「我々の存在で『アレ』がまともな存在になったと?
いいね、国に表彰されたっていいくらいだよ。くーっ!」
試しにブドウ酒と清酒を両方いっぺんに呑んでみる。
両方の香りがいっぺんに口に広がる。なかなか悪くない。ま、僕の舌はそこまで肥えてはいないけどね。
「そう思うなら、将来の婚約者を送り出すべきではないのでは?」
フレデリカの言う通り、そうなんだけどねぇ・・・。別に悪意があったわけでもないんだよ。
「『予言』が本当なら、和香ちゃんくらいの実力者じゃなければ、犠牲を増やすだけだからさ。
でも、彼女が犠牲になっていいなんて思ってないよ、そこは誤解しないでほしいね。
かといって、失敗したリスクを考えると桜様は使いたくなかったんだけども、じゃあ本国に応援は流石に頼めない・・・うーん、手強い!」
桜様には頑張ってもらわないといけない。最終的に桜様と『あの方』がゴールインすれば、大抵のことはなんとかなると見ている。
ただせめて、その前に、僕の操(みさお)は『あの方』に捧げておきたいなぁ・・・。どうだろうか。彼の操を奪ってもいい。
顎を撫でる。酔いすぎたかな。いい案も浮かばないし、体温も上がってきてる。お酒もほどほどにしなきゃね。
妙な飲み方しているし、明日は悪酔いするかもしれないねぇ。
「ともかく、『アレ』が本気を出す前に仕留める必要がある。
交渉できるなら交渉してみたい気がするけども。
生贄を用意してアッチの意味で交渉できるなら・・・?」
さっきから、我ながらゲスな考えが浮かぶなぁ、酒のせいかもねぇ。正直なところ、この国をボロボロにしてくれれば楽かなと思うけど、その後が大変だからなぁ。
「『アレ』は滅ぼすべきと、『ご主人様』からも言われたはずだが?」
彼女に冷たく睨みつけられる。戦況に余裕はないし、使えるものは使いたいのが本音なんだどねぇ。さすがにこれは危険か。
『あの方』は甘いところがあるからなぁ、けど、そこがまたいいんだ。彼の笑顔を思い出すだけで、幸せな気分になれる。
「わかった、わかったよ、でも情報は気になるんだ。」
降参するけど、気になるのは確かだ。今後、『アレ』がどう動くのかは僕らにとって大事な情報だ。
「スカウト隊を送ろうか?」
「そうだねぇ、できればベテランで、『アレ』の魔の手から逃げられそうな子を頼むよ。どうにもならなくなったら、応援を含めた別の手を考えよう。あれは人道の敵さ。」
桜様がきれいさっぱり退治してくれるなら、おそらく杞憂なんだろうけど、僕は嫌な予感がするんだよね。怖い、怖い。
「あ、ところで、あの『銀狼』とか名乗ってたかな?
哀れにも、巫女の『アレ』討伐に巻き込まれた山賊の頭領はどうしようか?」
手塩にかけて育てた狼藉者が、あっという間に壊滅だもんなぁ・・・。
「首はまだ刎ねられてはいない。秘密裏に解放することは可能だ。
だが、山賊の殆どが灰になった。桜様も行動する以上、全滅はほぼ必須。
解放したところで、今までの費用に見合った効果は得られないだろうな。」
あちゃー、と頭を抱える。秘密裏に動かすお金はそこまで潤沢というわけでもないんだよねぇ。『浮蜘蛛』が傭兵上がりばかりなので、表で動かすお金に余裕があるわけでもないからなおさら。
ま、彼女が優秀だから兵の質はなんとかなったのは救いかな。
「南部の商業が主体の『都市同盟』への妨害も兼ねてるから、そこそこ期待していたんだけどね。腕は良かったんだが、相手が悪かったよ。
やはり、出来るだけ速やかに『火産霊』は解体させるべきかな。姉妹の父親である人が上に立つ、風を操る『鎌鼬』もできれば。
まさか、隊商を襲える規模を揃えた山賊を、下級の巫女合わせて三人で壊滅させるとは思いもよらなかった。頭領も相当な腕が立ち、賊も百人規模だったんけどねぇ。」
歯痒いなぁ、表では散々貶しているくせに、内心ではべた褒めなんだもん。できれば穏当に少しずつでも手札に加えて行きたいけども。どこまで『本国』が待ってくれるかな?
「今回の任務を与える際、考慮に入れるべきだった私の責だ・・・。」
自分を責める彼女。うーん、僕も同罪ではあるし、あまり責める気にはならない。よろしくないね。
「どうせ山賊を無視しろとか警告してても、和香ちゃんならヤっちゃったさ。
『アレ』が出現した位置が悪い、そういうことにしておこう。
ただ、まだまだ引っ掻き回して欲しいから、山賊のお頭にはまだまだ現役を張ってもらおうかな。
残党をうまく集めてくれれば、多少の妨害にはなるでしょ。」
「わかった、どこまで効果があるかわからないが、手配しておこう。」
本当に有能な子だよ。彼女のおかげでなんとかなってるけど、こんなことをさせるのは惜しい。
身分が低いというだけで、僕の手元なんかより、本来の場所に帰してあげたいね。恐らく、どうやっても、もはや僕は帰れないし、彼女も難しいだろうけども、彼女はそれだけの価値はある子だ。
せめて『クリスタ』、この子だけは、『あの方』の下に、ね。
「頼むよ、彼の狼藉っぷりに期待しよう。」
うーん、悪いことばかり考えると肩が凝るね。僕なりにこの国の将来は考えているんだけども。ここは気楽にやろうか。
「どうだい、一杯?少しだけでも。
同じ人を愛する者同士。」
ブドウ酒を注いで彼女に手渡す。
「・・・お前と一緒にされるのは嫌だが、一杯だけなら。」
僕は片手に清酒。
「では、我らの愛しの『ショウヘイ様』に乾杯。」
クリスタは少し躊躇う。
「・・・乾杯。」
願わくば、これが、我らが愛しの人に捧げる勝利の美酒となりますように。