ミノタロスみたいな中ボスを乗っ取った   作:暗全畑

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第8話

 

「ぶもっ、ぶもーっ!」

 かわいいあの子から貰ったプレゼントが首輪です。今日から俺はポチだぜ、いぇーい!

 皮肉を心の中で言いつつも、『首輪=何者かに隷属している』という意味を持つ。これをしているだけで、飼い犬ならぬ飼い牛とわかってくれるだけ実用的かもしれない。

 『ポチ』という名前も刻まれているので自己紹介もバッチリである。

 本当は服が良かったが・・・森の中、維持管理が大変だし贅沢は言ってられないね。

 

 解剖しろだの、首輪だのポチだの、文明に帰りたい人間としての尊厳とは何か議論したくなるが、気にしないのが大事である。かわいいあの子達のためなら頑張るのが男である。時代もあるしな。

 

「ポチ・・・という顔をしていないが・・・。

まぁ、和香が気に入ったらそれでいいのかもしれないな。

本人も気に入っているようだし?」

 さすがの桜さんも、ポチという素敵ネーミングセンスには困惑気味である。

 

「わしの兵になる予定だから、わしの好きに名付けるんじゃ!

皆が犬を飼っては『ポチ』と名前を付けるから、わしの『ポチ』は別格ということを教えてやるんじゃもん!」

 こうして、筋肉モリモリ、デカくて回復術を使う巨大な『ポチ』が爆誕した。そんな和香の様子を生温かい目線で見る桜。

 

 それはいいとして、俺を騎馬用にしたいらしいけど、二本足で走る上に人が乗るスペースのない牛さんによく乗っかろうと思ったな。人力車のようなものならわからなくも無いが・・・。

 

「というわけでじゃ、よっこいしょっと。」

 和香が馬車に乗り込むと、板に皮で覆われた鉄の爪のようなものがついたものを持って来た。ふーむ、背負子(しょいこ)のようであるが。

 簡単言うと、人が座れるように『ト』みたいな形をした、背中に背負う道具である。

 

「『人馬鞍』を、ポチ用に改造して乗りやすくしたものじゃ!

さ、さっそく背負ってみぃ!」

「ぶももっ。」

 妙にテンション高いっすね。桜さんの方を見ると頷いてくれた。うむうむ。

 よっこいしょっと。ふむ、牛さんの肩でも担げるように紐は物凄く余裕を持って作られているようだ。

 

「そしてそこにわしが乗る!どうじゃ!」

 座って桜さんの手伝いのもと和香を乗せてみる。らいどおーん。

 

 なるほど、俺が人を背負うと少し大きい赤ん坊を背負っている程度になるから、意外としっくりくるようだ。

 この世界、一般人でも魔力による効果でかなりの脚力があるので、こういう個人タクシーとしての『人馬鞍』が存在するのかもしれない。

 跳躍で屋根に乗る世界だしね。人ぐらい余裕っすよね。

 と、まぁ、人を運搬する分には問題ないが・・・。

 

「たっかいのぅ・・・これがいつもポチが見ている景色か。」

 これで騎乗と言っていいのだろうか?

 乗ってる人と馬が反対方向なんですけど。進みたい方向はこっちが決めていいんすか・・・?

 牛さんが突撃する背中を守ってくれる巫女・・・?突撃する方向にダメージがいかないよ・・・?

 遊撃として敵側面とかに回り込んで和香ちゃんが燃やすのかな。撤退する時に和香ちゃんが攻撃に晒されますね。牛さんには戦術がよくわからない。

 

「よし、ポチ、取り敢えず走ってみよ!」

 取り敢えず軽く原っぱをランニングしてみる。

 

「歩いている分には問題ないが、揺れるのぅ!

もっとこう、背筋と骨盤をしっかり伸ばすんじゃ!」

「ぶももぅ!」

「良いぞ、そのまま速度を上げるんじゃ!」

 段々とスピードを上げていく。なるべく重心を上げ下げしないよう気をつける必要があるようだ。とはいえ戦闘となると気にはしてられないだろうが・・・。

 

 

「速い、馬よりよほど速いが、揺れが馬の比ではないのう。

これは慣れるしかないか。むむむ・・・。

姉上も大丈夫ですじゃ?」

「ぶももぅ・・・。」

 試運転を終え、ちょっとぐったりしている和香ちゃん。腰の痛みとかは術でなんとかしても、和香ちゃん視点だと高速バック走行である。三半規管まではどうしようもなかったようだ。

 

「船の酔い止め作る?」

 成穂が和香の背中をさする。

 成穂ちゃんはねぇ・・・マッドサイエンティストな割には優しいとこあるけど、この子、ノベルで知らんのである。

 盲目になり治癒されなかった結果、そのまま描写もなく時代の流れに埋もれていってしまったのか。

 

「そうじゃのぅ・・・。用意しといてくれ。

二足歩行と四足歩行の差は致し方ない。

とはいえ、速さはピカイチじゃ、前線で乗りこなしたいのぅ。」

「ぶもぅ・・・。」

 腕を組む和香ちゃん。

 

 もし、あなたが牛さんに乗って敵と相対して前線を指揮する場合、牛さんは敵に背を向けてなきゃならないんですが大丈夫ですかね?

 牛さんは運用面に不安を感じるのであります!

 

 ところでさっきから桜さんが馬車に入ったきり出てこないが・・・?

 

「準備はできた。」

 馬車から西洋式の鎧に、フルフェイスの兜を付けた人が出てきた。胴体や具足、小手などは金属製だが、可動部はレザーで作られた、この世界では中量級に分類される鎧である。

 普段の銅丸と違い、新品なのか傷もなく少々眩しい。装飾は少なく派手でもないので、指揮官用でも儀礼でもない実戦用なのか・・・別に鎧には詳しくないが。

 胸の部分が大きく膨らんで作られており、やはり鎧を着ていても胸囲的な戦力の高さが伺える。しかし、なぜ西洋式なんだろうか?

 

「では、これより、ポチ!

お前には私を地図のこの地点にまで運ぶ任を与える!

地図を確認しろ!」

「ぶもっ!」

 気をつけをした後、手渡された地図を確認すると・・・。

 

 いやいや、大陸の横半分をほぼ横断するような距離じゃないですかアハハ。まさかこの距離を行けとは言わないよね?

 しかも目標がこの森の中の小さい点とか・・・村だと思うが読めないけど何処だろうか。

 

「馬車で最短10日かかる距離だ。

しかし、それは道なり進んだ場合。お前なら森の中でもあの速度を出すことが可能だろう?

よって、目標を5日とする!ルートを確認するぞ!」

 

 えっ・・・あなた背負って5日もランニングするの?

 ブラックもびっくりな待遇に泣きそうである。ブラックからは逃れられない。ブラックが向こうからやってくる・・・。

 といっても術なしでも一日中、森の中を走り回っていたりするので、できなくはない。この身体にも慣れてきたというのもある。

 ブラックから逃げられないなら、ブラックに耐えられる身体になればいい。筋肉はいいぞ。全てを解決してくれる。

 

「大陸中心部の森を通る、最短ルートだ。

これは『鎌鼬』の利用する安全なルートが記入してある。

そして、これには現在地を示す地図もある。迷うということもないはずだ。

両方とも国家機密の品である。大切に扱えよ。」

 お、地図はノベルではヨウスケにプレゼントしてたやつっすね。恋のためなら国家機密もなんのその。

 

 といっても、ヨアキム国の色ボケ英雄は頼りにならないし、オトラン帝国の英雄は中指突き立てて戦争仕掛けにきてる以上、英雄のいない焔の国はヨウスケの庇護下に置かれないと、どうしようもなかったというのもある。

 というのが桜の建前で、本心は単にベタ惚れだっただけである。

 

「あっ、はい・・・ち、地図は私が作ったやつです。

鳥の帰巣本能の妖術を利用し、魔力回路を他の薬品で加工して、額縁のカラクリの回路と連動させた品でです。はい。

他国の村となると、そもそも地図が正しいのか微妙なところもあるのでお気をつけください。

動力となる魔力はなんでもいいので、ポチでも、術をつかえば利用できるはずです。」

「ぶももも・・・!?」

 え、いや、この時代でGPS機能を作るとか、何この子。成穂ちゃんはなんでノベルで登場しなかったのか。時代の名流れというのは理不尽である。

 

「ふっふっふっ、その通りじゃ!

成穂は天野家おかかえの学者にして、天才なのじゃ。

彼女の目を癒したことは誉めてつかわそう。」

 和香ちゃんが無い胸を張り、まるで自分のことのように誇らしげである。

 だが、こんなものが作れるなら天野家がバックについてもおかしくない天才ではあるよな。人工衛星とか無いのによくやるわ。

 

「食糧はある程度持ったが、足りなければ現地調達だ。何か質問は?」

「ぶももも?」

 地図を指差して取り敢えず疑問っぽいことを言ってみる。結局何処に行きたいのだろうか?何をしたいのか?

 

「そうだったな、文字が読めないお前に目的地の名前を言っていなかったな。

目的地はゲルトマン王国、『ワイズマン村』である!

王国でも辺境にある、特に名産もない、なんの変哲もない農村ではあるが・・・私は行かなければならない。」

 ワイズマン村、ワイズマン・・・賢者の末裔・・・。

 

「わっ、ワイズマン村の特産は葡萄です!

そして名前の通り500年前の英雄が、最後に隠居して身を落ち着けた場所として細々と続いてきた歴史があるようです。」

「姉上、次期最高指導者と目される者が、一人で旅をするというのは、これはどう考えても危険な旅ですのじゃ。

わしらどもに任せるのではなく、どうしてもポチと行かれるというのですか?」

 賢者とも呼ばれた『水』の英雄の末裔。ヨウスケのヒロイン。

 

 レイチェル。

 

「散々、話し合ったことだが・・・。

今、私たち姉妹が二人とも国を離れるわけにはいかない。

この時期に間違いなく村に妖の襲撃があると『予言』があったのだ。

我が国の英雄は静観を決め込むようだが、私は行かなければならない、なんとしてもな。」

「姉上・・・。」

「ぶもっ・・・!」

 思わず目を見開く。妖、向こうで言うなればモンスターの襲撃が『予言』されているとなると、もうあの出来事しかない。

 ノベルの最序盤で起こる出来事、背中に巨大な鉱物を含む、山のようなモンスター、ロックザウルスの変異種の襲撃である。

 巨体に見合わない俊敏さと、刃物も魔法すら通さない皮膚のせいで、村の人々はただ抵抗もできず、ひたすら逃げ惑い、子供も含めて容赦なく二人を残して咬み殺された。

 ヨウスケが村の住民とも打ち解けてきた頃なので、鬱要素満載である。

 

 ノベルの筋書きをなぞるとか、もはや気にしてはいないが、誰かの不幸な運命をこの手で変えることができる可能性がある・・・。

 人の不幸ねぇ・・・俺自身が怪物化して指名手配とか大変な目にあっているが、まぁ、それはそれである。気にするな俺!

 可愛い女の子がピンチで、可愛い女の子の頼みである以上、頑張りますかな。主人公いるなら恩を売っときゃ何かあるでしょう。

 

「安心しろ。

私とこのポチならば、生半可な相手には負けることはないだろう。

私は婆やのところで療養していることとなっているが、和香、後のことはよろしく頼む。」

 そんな友達の家に泊まる的な嘘で、彼氏の家に泊まるノリでいいの?

 と言っても、知ってしまった以上、桜さん抜きでも一人でも向かうつもりである。どうせ暇ですし。

 もちろん、焔の国最高峰の暴力装置さんの手助けがあればなお心強い。

 

「姉上・・・。

姉上はわしにはときどき理解しかねることをなさります。

そして、大抵が良い結果を生みました。どうかご無事で。」

「ごっ、ご無事で!

研究を進めることで恩を返します!はいっ!」

 屈んで桜さんを人馬鞍に乗せる。彼女の荷物と鎧含めてそこそこ重量があるが、まだ余裕がある。あとは術も併用すれば十分に走れるだろう。

 俺にも肩にかけるタイプの鞄ももらう、ところどころ金属で補強された結構頑丈なタイプである。

 肩紐は牛さんサイズに追加してあるが、軍事用かもしれない。中には旅糧や桜さんの追加の日用品が入っているようだ。女の子は荷物が多くなりがちだよね。

 

「皆、苦労をかけるな・・・。

では行くぞ!ポチ!」

「ぶもっ!」

 桜さんの指し示す方向に走り出す。

 美人さんな彼女とドライブだぜ!俺が車な!

 

「ポチー!知らない人にはついて行ってはダメだぞー!」

「ぶもももーっ!」

 牛さん運送、もっふもふで桜様をお送りしてやりましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、日も暮れてそこそこ走り抜いた。しばらく走っては位置を確認し、桜さんと一緒にルートとのズレを微修正を行っていく。

 『鎌鼬』のルート構築は素晴らしく、崖や川なども考慮された非常に走りやすいルートであった。背中をぶつけたりしないように気をつけねばならないが、なかなか爽快なドライブである。

 いや、牛さん目線走りやすいだけであって、一般人にはそれでも過酷なルートだろうけども。あと桜さんには、さすがに辛かったようだ。

 戦闘がありそうな場合も無理矢理に通り過ぎたりした。野生の生き物でも、森の中でここまでのスピードは出す奴はいないのだ。草原とかならいるかもしれないが。

 

「まさか疲れも見せずに目的地の三分の一近くを初日で達成するとは・・・。

このペースだと明日には着くぞ・・・。」

「ぶももも・・・?」

 日も暮れたので、弱い火術で焚き火を焚き、地図を眺めながら桜さんが木を背に横になっている。

 桜さんには肉体的なダメージはないのだろうが、恐らく三半規管へのダメージが大きいらしく、今にも吐きそうな青ざめた顔色である。

 鎧は外していないが、フルフェイスの兜は一応脱いだようだ。

 

 一応、何度も試した術を展開してみるが、治しているという感覚が返ってこない。酔いは治療できないということである。

 

「大丈夫だ、術は温存して、明日もこのペースで頼む・・・。

早い分には問題ないのだ・・・。

お前の術のおかげで、身体はむしろ元気だ、慣れてきてはいるしな・・・。

本当に和香は良い兵を見つけたな・・・。」

 

 桜さんが鞄から何かを取り出し、焚き火に焚べると、辺りに強烈なお香の香りが広がる。

 むっ!鼻がバカになってしまった。思わず涙目になり鼻をおさえる。

 

「ぶ、ぶもっ!?」

「あっ・・・そうか、すまない。獣と虫除けの香木だ。

獣に近いお前にはきつい匂いかもしれないが、我慢してくれ。」

「ぶもーっ・・・。」

 他の獣が来づらくなる代わりに、鼻が使えなくなって警戒できないので、結果として自分にとってはプラマイゼロ、いやむしろマイナスな気分であるが、仕方ない。

 

 自分に渡された鞄を漁ると、大きな袋・・・恐らく寝袋のような袋が見つかった。桜さんの状態が辛そうなので広げようとするも・・・。

 

「いや、私が番をする。まだ酔いはあるが、戦闘ぐらいならできるさ。

疲労ならお前の方が大きいのだ、森の中はお前の方が慣れているかもしれないが、ここは休んでくれ。」

 桜さんに止められた。確かにこっちはもう鼻が役に立たないしなぁ・・・。

 とりあえず、寝袋は背もたれとして使えそうなので桜さんの後ろに配置しておく。それは何も言わずに受け入れてもらえた。

 

 ちなみに夜中の方が妖なりモンスターなりの襲撃が激しかったりしたので、正直言って夜中に駆けて昼間は隠れて眠りたいくらいだったりするのが、牛さんとしての経験である。

 単純に桜さんが地図が見づらいので、迷いそうだから休んでいるのである。

 

 仕方がないので、旅糧を開けて桜さんに渡そうとする。クッキーともケーキとも言えるものに、羊羹、そしてナッツが少々入っていた。

 もしかしたら酔いで食欲がないのかもしれないが・・・。

 

「ありがとう、体調が悪くても食事はとらねば、な。

これから戦闘になる可能性はいつでもあるし、村で戦う相手も強敵だ。

足りるかわからないが、お前の分もある、食べておいてくれ。」

 こちらも開けてケーキらしきものをと食べてみる。素朴な味である。田舎の伝統的な土産物を思いだす味だ。

 

 

 

「お前、その身体になる前は恋人か妻はいたのか?」

 焚き火を前にして、ポリポリと木の実を食べ終わった後、いつか歯磨きしたいなーとか考えていると、桜が唐突に聞いてきた。

「ぶもももう・・・。」

 残念ながら!おりませんでしたっ!

 ブラック企業に勤めて身をすり潰した結果でもある。やめてください、質問されるだけでも辛いのです。

 

「そうか・・・では、激しく燃えるような恋をしたことがあるか?

その人のために全てを捧げられるような、熱い恋を。」

 首を横に振る。草食系男子でしたが、何か?

 

「ぶももぅ?」

 でもちょっと気になる質問だよね。牛さんと恋バナしよ?

 

「私か?そうだな・・・。

国のため、そんなことは許される身分じゃないことはわかっているのだが。」

 はにかんで、少し誤魔化すように笑う桜さん。

 あんまり、こういう話には慣れていないのか、少し可愛い。

 

 ふむ、もしかしたら、『予言』で恋をすることも聞いたのだろうか?

 たしかに、これから助ける彼はあなたの思い人となるんだ、とか言われたら気になるのも仕方ないのかもしれない。女の子って占いとか好きだもんね。ロマンチックですね。

 

「これから会う彼は・・・私が知った彼とは別の人なのだろうな。

英雄、『予言』、そして既にお前という存在が、道を大きく変えつつある。

別の道を歩む、別の人として・・・。

いや・・・同じ道を歩いてほしくはない。同じ道を進ませてはならない。」

「ぶもぅ?」

「ははは、わからないだろうな。わからなくていい。独り言だ。」

「ぶもぅ。」

 いや、曖昧ではあるが・・・わかるような気がするよ。結局のところ、お互いに目的は似たようなものなのだ。

 俺も、君ら姉妹には同じ道を歩んでもらいたくはないのでね・・・。

 

 俺が跪き、胸に手を当てて忠誠のポーズを・・・うーん、わかるか?

 とにかく力になるよ的な意味が伝わればいいんだよそれで!

 

「・・・そうか、ありがとう。西の国々の忠誠の証だろう?

どこの出身なのだお前は?

気になるが、忠誠の証は和香に立ててやってくれ。

私は大丈夫だ。和香を、彼女を脅威から護ってやってくれ、頼む。」

 むぅ、ジェスチャーというのは難しい。とにかく意味が伝わればいいのだ、彼女も嬉しそうではあるし。

 

「お前も変わった奴だ。

なぜここまで、我々に友好的なのかわからないが・・・今はお前の力が必要だ。頼りにしているぞ。

さ、詳しいことはお前が文字を覚えてからじっくり聞こう。

今は、お前は休んでくれ。明日もこのペースで頼むぞ。」

「ぶもっ・・・。」

 うーむ、異世界の人間ですとか信じてもらえるのだろうか?

 そこら辺の農民だと思われているんだろうけども。話をややこしてくしても仕方ないので、黙るしかないのだが・・・。

 

 そうして俺が木の背もたれで目を閉じようとすると、俺に聞こえないような声で彼女が呟いたのが聞こえた。

 

「ヨウスケ、今度こそお前を・・・。」

 その言葉の意味を、牛として小さくなったであろう脳みそで思索しながら、俺は眠りについていった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶもっ・・・。」

「おはよう、起きたか。では出発するぞ。」

 

 夜が明けた。

 既に桜さんは身支度を済ませているようだ、本当に隙がないなこの人。

 俺も用意されていた朝ごはんを済ませると、野営地を片付けて再び走り出す。

 背中で休ませてあげたくなるが、眠れるような乗り心地ではないし、地図を見るのは彼女の役割である。

 できれば早めに行って、桜さんをベッドに休ませてあげたい。そんな一心で走り続けていると・・・。

 

「ぶもっ!」

 森が人為的に切り開かれ、開けた場所に出た。

 

「ここは、道になっているのか。

確かに地図の通りだ。この方向に進めば村に出られるだろう。

慣れてきたが、もうすぐ村なのか、信じられないスピードだ・・・。

だが、お前が人目につくとまずい、森の中を並行するように走ろう。」

「ぶもももっ!」

 本当に自分の足のスピードに驚きである。牛さん飛脚便でもやれば大金持ちになれるかもしれない。

 もっとも、いくらお金を持ってもこの姿では使う場所すらないけどな!

 

 この世界にとって、森や草原とは脅威的な存在である。

 数々のモンスターが存在し、時として都市を脅かす。切り開けば領土となるが、切り開くのは命懸けなのである。森で隔てられた、というのは海で隔てられたのと同じくらい遠いのである。

 六助が所属していた都市間の運送業は、リスクはあれどかなり儲かるのである。その都市で生産できないものを運んでくる貴重な生命線であり、国同士でも大切に保護されている。

 護衛として冒険者を雇うこともある。専属として生計を立てる冒険者もいる。

 

 ちなみに、冒険者とは、そんな森の危険に立ち向かう、命知らずである。大型のモンスターを討伐することもあれば、古代の遺跡に侵入して命を散らしたりしている。

 ロマンを追求する人々の憧れでもあり、ロマンに殉ずる馬鹿者として蔑まれる存在でもある。

 名声を得れば、時としてパトロンが付き、裕福になれるチャンスもある。商人と組んで世界中に中立なギルドを形成し、ギルドのおかげで、基本的には礼節はまともな連中が多い。基本的には、だが。

 

 一方で、傭兵とは普段は賊だのやってるような、血生臭いゴロツキといのが一般的である。戦争で勝てば殺して犯して略奪する。負けそうになるとすぐ逃げる。ただ、傭兵でも、ごく稀に品性のまともな奴がいたりするが。

 

 

 

 そうこうしているうちに・・・。

「ぶももっ!」

「もう着いたのか・・・。

昨日まで焔の国にいたとは信じられないな。」

 村の外れの葡萄畑に到着したようだ。小高い丘になっており、村を見渡せる。日は傾き始めている。

 地球ではないのに、夕方は赤く、照らされた村が美しいのは同じだった。

 

 焔の国の村とはまた違った、西洋の田舎独特の雰囲気がある。木々の植生も異なり、葉の緑の濃さも少々薄い。

 毛皮のおかげで感じないが、気温は焔の国と比べると少し肌寒いかもしれない。建物も石造りのようだ。

 小川に水車小屋を作っている、小麦粉なども作っているのかもしれない。

 

 桜さんを降ろす。ふむ、その西洋風の鎧の格好でこの景色、なかなか絵になりますな。カメラが無いのが悔やまれる。

 この姿で一緒にツーショットを撮る気にはならないが・・・早く人間になりたい。

 とはいえカメラか。まだこの世界には無いが、成穂ちゃんが作ったりしてくれないだろうか。

 

「ここが、そうか・・・村がまだある。人々がいる。

私達は間に合ったということだな。」

「ぶもぅ・・・。」

 

 牧歌的な平和な光景である。ここが、魔物の襲撃で地獄絵図になるとは信じられない。暴走したモンスターは、ただ人を殺すことだけを考える。遺体も凄惨なことになったに違いない。

 一人一人、ヨウスケとレイチェルは時間をかけて埋葬したらしいが・・・。

 見ず知らずの人を弔うのもキツかったが、子供を含めた顔見知りを弔うというのは、あまり考えたくないものである。

 

 そう、この村のどこかに、ノベルの通りならばレイチェルが暮らし、ヨウスケがダラダラと仕事をこなしながら幸せに暮らしている。

 もし、村を救った二人はどうなるのだろうか。二人は幸せにこの村で戦火を逃れながら最後まで暮らすのだろうか?

 それとも、結局、英雄として残酷な戦争に巻き込まれて、多く手にするが多くを失う日々を過ごしてしまうのだろうか?

 

 穏やかなそよ風が、桜さんと俺を撫でる。

 

「とりあえず、私は宿を探すとする。

申し訳ないが、お前は村に入ると騒ぎになるので森で偵察だ。

活気はそれほどないが、宿場町も兼ねているはずだ。どこか空いているだろう。お前にはこれを渡しておく。」

「ぶもっ?」

 桜さんの鞄から、何やら灰色の筒?のようなものを渡された。仄かに香る、おそらく火薬の匂い。花火のようである。

 

「信号弾だ。ここを引っ張ればしばらくの間、ノロシが上がるようになっている。

モンスターの襲撃があるという『予言』なのだ。もし、何か異変を発見したら使ってくれ、すぐに駆けつける。

予備の時計を持ってくるべきだったな・・・夕方と、朝、定期的にこの丘で落ち合おう。」

 時計とかあるんだよね、高級品で、妖術仕掛けらしいが。

 気をつけの姿勢をとり、桜さんに目線を合わせてしっかりと頷く。桜さんはぐっと小手をはめた拳を握りしめる。

 

「ここまでは順調すぎるくらいに順調だ。だが、ここからが本番だ。

ここでの戦闘は激しいものとなるだろう。

この村の命運は私たちにかかっている、しっかり頼むぞ!」

「ぶもっ!」

 うーし、がんばるぞー!牛だけにな!

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