劣等生の世界の一般魔法師女子にTS転生してしまったんだが 作:機巧
「深雪さん、そして篠宮さんだったかしら。大丈夫?」
「はい。七草先輩。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
七草先輩によって、上野議員の長話から解放された深雪と玲香は、決定的な断定口調を避けつつも礼を返した。
というのも、まだ教職員の目があり、そこから上野議員に批判などが伝わることを、深雪は恐れたのである。
このため、深雪は「迷惑であった」などの上野議員を批判する言葉を避け、七草先輩に礼を返し、玲香もそれに倣った。
玲香の様子をチラリと見た真由美は、深雪へと紹介を頼んだ。
顔は先程の入学式の答辞で覚えられていたのだろう。ただでさえ目立つ髪色だ。覚えることは簡単だったに違いない。
「今年の新入生総代の子ね。深雪さん、紹介していただけるかしら」
「はい。こちら、今年の新入生総代の篠宮玲香さんです」
その紹介に続いて、玲香は真由美へと自己紹介を行う。
「篠宮玲香です」
その言葉が終わると同時、深雪は流れるように真由美の紹介へと移った。
「篠宮さん。こちらの方は、昨年度当校の生徒会長であった、七草真由美先輩です」
「今紹介してもらいました、七草真由美よ。よろしくね」
「……よ、よろしくお願いします。去年の九校戦などで拝見させて頂きました。すごかったです」
九校戦の話をだすと、少し照れたような表情で頬を染める真由美。
その表情を見て、玲香は可愛い人だな、という第一印象を持った。
ただこの顔で、原作ではバレンタインデーに殺人チョコを作ったのだから、人は見かけによらない小悪魔ということだろう。
真由美はそうして妹と同じ学年の子に褒められて、一瞬満更でもないような表情をした。だが、すぐに切り替えて、後ろについてきている双子の紹介をし始めた。
「あ、それと、こっちにいるのが私の妹の香澄と泉美。今年入学で、貴方とは同学年になるから、どうか仲良くしてくれると嬉しいわ。……ほら、香澄、泉美」
「はいはーい、ボクは七草香澄。所属は1-Bだって。よろしくね!」
「……わたくしは七草泉美です。所属は1-Cみたいです。よろしくお願いします」
初めに紹介されたのが七草香澄。次に紹介されたのが七草泉美だ。
香澄はショートカットの左の前髪に小さいリボンを、泉美はセミロングの頭頂部に同じデザインの大きいリボンをそれぞれつけている。どちらかと言うと香澄の方が元気そうに、泉美のほうが大人しめに見えるが、基本的な顔の作りは同じだ。
もし髪型を揃えて、リボンを外したら見分けられる人はほとんどいないに違いない。
表面上の性格はともかく、 2人は双子で酷似しており、魔法演算領域の形まで同一であったりする。
そして、この魔法演算領域が同一であることが、この2人を語る上で重要なポイントだ。
(……乗積魔法)
乗積魔法、マルチプリケイティブ・キャスト。
複数の魔法師の魔法力を掛け合わせて、1つの魔法を発動させる技術。
魔法式の構築と事象干渉力の付与を分担して一つの魔法を発動する、と言ったこの技術は、普通の魔法師ならありえないものである。
なぜならば、複数の魔法師が同様のことを行なったとしても、他人のサイオンで他人の魔法演算領域で作られた魔法式をつかう訳であるから、魔法はそもそも効力を発揮しえない。
むしろ、達也たちが一年生の時の九校戦へと向かう途中で起きた魔法の干渉のように、何一つ魔法が効力を発揮しないと言った現象しか起こりえない。
だが、魔法演算領域とサイオン特性が全くの同一であるならば話は別である。
この二つが同一であることは、双子でも滅多に起こりえず、故にこの技術を扱うこの双子は「七草の双子」としてよく知られているのだ。
この技術の一部を用い、ベクトル操作によって演算能力を嵩増ししていた玲香にとっては、ある意味で気になる2人であったが、玲香は努めてなんでもないように答えた。
「篠宮玲香です。所属は1-Bです。香澄さん、泉美さん、よろしくお願いします」
玲香が所属も含めて自己紹介を行うと、同じクラスであることを知った香澄がすぐに距離を詰めてきた。
「おー! クラスおんなじだ! ますますよろしくね! それとボクのことは香澄でいいよ!」
掴んだ手をブンブンと振りながら握手をしてくる香澄。いきなりのフランクさと顔の近さに、悪い気はしないのだが、内心玲香は苦手意識を感じる。
(……完全な陽キャだぁ……JKのノリだよ……)
そんな玲香の中の男子大学生としての意識の出す悲鳴には目もくれず、香澄はそのノリのまま、すぐ後ろにいるであろう双子の妹にも同意を求めた。
「ね? 泉美ちゃ……ん?」
だが、どうやら泉美のほうは、玲香の方を向かず、深雪の方をぼーっとして見つめているようだった。
これには双子の姉である香澄も違和感を覚えたようで、玲香の手を離して何か妹に言おうとしたが、その前に真由美の言葉が発せられた。
「ほら。深雪さんにも、ご挨拶なさい」
「七草香澄です。よろしくお願いします」
その言葉に従い、香澄は玲香から少し離れて深雪へと向き直った後、挨拶をした。そして、次は泉美の番となるはずであるが……。
だが、泉美は挨拶をしない。
どうやら、泉美は深雪の方だけを向いて、呆けているようだった。
「泉美、泉美ってば」
「はい?」
香澄に肘で突かれてようやく現実に戻ってきた様子の泉美に、真由美は両手を腰に当てて厳しく注意をした。
「はい、じゃないでしょう。深雪さんにきちんと挨拶して」
姉の言葉にやるべきことを理解した泉美は、慌てて挨拶をする。だが、その様子は深雪にどう見ても見惚れている様子だった。この分では先程呆けていた様子であったのも、深雪の美貌に見惚れてのことであったのだろう、と簡単に予想できるくらいであった。
「……七草泉美です。あの、深雪先輩とお呼びしてもよろしいですか?」
「ええ、構いませんよ」
泉美は、九校戦の話などを持ち出し、深雪を褒めちぎる。その後、散々深雪を褒め称えた泉美は、「同じ学校に通うことができて、感激です」と締めた。
玲香が深雪たちにあった時のために貯めてあった「九校戦デッキ」という会話デッキを、どんどん墓地に捨てさせられていく泉美の行為はかなり続き、内心玲香はとてもヒヤヒヤした。
外見から見れば普段は大人しそうな方の妹の暴走に、戸惑った声をする真由美であったが、その戸惑いは泉美の次の発言によって驚愕へと変化した。
「あの、わたくしのお姉さまになっていただけませんか」
「お姉様⁉︎」
「ちょっと落ち着いて、泉美ちゃん! 貴方のお姉ちゃんはこの私よ!」
裏返った声でその発言に驚く深雪と真由美。この2人をそろって驚愕させることができる存在など、他には達也くらいしか玲香は思いつかない。
ある意味で泉美に尊敬の眼差しを向けつつ、そっぽを向く香澄に話しかける。
「ええっと、変わった子だね……」
「……いつもはあんなんじゃ、ないんだけど……」
香澄は歯切れが悪そうに答えた。
その会話のうちにも、どうやら泉美は深雪へと迫っている。
そうしていると、先ほどから深雪の後ろで待機していた女生徒が、会話に入り込んできた。
「七草さんが深雪姉様の妹になるのは可能だと思われます」
「水波ちゃん?」
少し戸惑った様子でその名前を呼ぶ深雪。
会話に入ってきた生徒の名前は桜井水波。
四葉の調整体魔法師シリーズ「桜シリーズ」の第二世代であり、遺伝子的には沖縄海戦で達也たちの身を守って殉職した桜井穂波の姪にあたる。
障壁魔法を得意とし、攻撃力等まで含めた総合的なものでは十文字の「ファランクス」に遅れをとるが、単純な障壁だけならそれにも引けを取らない。
今現在は達也と深雪のガーディアンとして、達也たち兄妹の姪ということになっている少女であった。
この少女に、玲香はつい今朝遭遇していた。
昨年の入学式の日、深雪に合わせて早く登校してきた達也だったが、手持ち無沙汰になり、しかも当時の生徒会長(真由美のことである)に絡まれることになった。
このため、達也は控室に水波を連れてきていたのだった。
入学式前ということもあって、皆緊張しており、特に会話はなかったものの、玲香が1番初めに顔を合わせた同級生といえよう。
「先程ぶりですね、篠宮さん。そして、七草さん。改めて、桜井水波と申します。こちらにおられます深雪姉様と達也兄様の従妹です。所属は1-Bでしたので、篠宮さんと香澄さんと同じクラスということになりますね。以後お見知り置きを」
「お兄様⁉︎」
そうして、水波はくるりと回転して、自らの背後にいた達也を示しながら自己紹介をした。
達也がいたことに対し、先程声が裏返ってしまったことに対して恥ずかしさを感じたのだろう。深雪が慌てたような声を出して少し変な空気になったが、自己紹介をされた形になった玲香がなんとか答えたことで、空気が固まるのだけは防がれた。
「……これはご丁寧に。篠宮玲香です」
同じように自己紹介の対象にされたはずの七草の双子は、なんだかそれぞれ別のことに気を取られているようだったが、2人とも挨拶はきちんと行うことができたようだった。
そして軽く自己紹介が終わると、水波はふと思い出したように自然に先程の話題に戻った。
「それで、七草さん、先程の話ですが、達也兄様の妹になることなら可能ですよ。七草さんのお姉様が達也様とご結婚なされば、七草さんは達也兄様の義理の妹と言うことになります」
「絶対反対!」
水波の言葉に対して、真っ先に反応をしたのは香澄だった。
真由美と達也の間に割り込むように立ち、有る事無い事、達也への罵詈雑言を並び立てる。
「えっと、香澄ちゃん、仮定の話だよ?」
一方が逆上すると一方が分別を取り戻すということは真理なようで。
騒ぎ立てる香澄とは裏腹に、先程まで深雪に見惚れての暴走をしていた泉美が、今度は抑える方に回っていた。
たが、それは香澄が止まるということとは等号で結ばれず、香澄は達也へ威嚇を続けている。
それを見た真由美は、香澄の頭に拳骨を振り下ろした。その細腕からどうやってこのような鈍い音を出せるかわからないほどの音がして、香澄は痛みを堪えるように頭を押さえた。
「なんかもう、おバカな妹達で……本当にごめんなさい」
申し訳なさそうに謝る真由美は、香澄と泉美の頭の後ろに手をやった。
そうして達也と深雪に謝罪の意をもう一度伝えた真由美は、そのあと玲香にもその目を向けた。
「この埋め合わせはきっとするから。篠宮さんも、こんなのだけど、どうか見捨てないでくださいね? ──2人とも、さっさと帰るわよ」
「くっ! 苦しいよ、お姉ちゃん」
「お姉さま、痛いです! なんで私にまでこんな仕打ちを」
2人共、真由美に襟を掴まれ、仲良く引き連れられて行った。
「あの……、なんだか嵐のような方達でしたね……」
「ええ、そうだと思います」
その場に残された玲香たちは、なんとも言えないような雰囲気になった。
というか、本当に人物が濃すぎて自分が場違い感を感じるくらいだった。正直、よく言葉を捻り出せたものだと思う。
水波の方をチラリと見ると、今まで何事もなかったようにニコニコとしていた。
先程の七草の双子が姉に連れて行かれた時から、ずっとこの笑顔である。
この顔が読めない四葉のガーディアンと、先程暴走しがちであることを証明した七草の双子の姉。
この2人がクラスメイトになることになる。
さらに、深雪に対して暴走しそうな七草の双子の妹、そして、原作では事件を起こすことになる七宝の長男までいる始末。
玲香はその事実を改めて実感し、今後の高校生活が途端に不安に思えてきたのであった。
◇
その予感はどうやら当たるようだった。
翌日、月曜日の朝。
教室に向かう際に必ず通ることになる事務室の窓口は、割と混雑している。
校則にCAD携行制限があるためだ。故に、生徒会役員と風紀委員以外の生徒は、授業開始前に事務室にCADを預け、下校時に返却を申し出なければならない。
学校で自分のCADを用いることができるのは、模擬戦などにより、CAD一時返却のための書類を提出した時のみだった。
だが玲香は、その窓口を軽く挨拶するだけでスルーをした。
というのも昨日、あの騒動の後、玲香はあずさに勧誘され、生徒会役員になっていたからだ。
第一高校には、後継者育成のため新入生総代を務めた一年生が生徒会役員になる、という風習が存在する。
よって、母親から替えのストッキングを受け取ってトイレで着替えた後、生徒会室に向かった玲香は望んだ通り生徒会役員に勧誘されたのだった。
玲香としては、達也と関わりを確保しておくために生徒会役員になりたいわけであるが、このCADの携行許可も欲しいものであったから、即行で生徒会に入る意向をあずさに伝えた。
(IDカードに生徒会役員任命の処理を行なったり、事務の方々などに顔合わせといった、原作には書かれてない、細々としたことがたくさんあったけどね……)
ただでさえ上野議員の件で疲れていたところに、その作業の量である。一晩経った今でも少し疲れが抜けていないような気がするくらいだった。
そんな感じで、事務室を通り過ぎようとしている玲香を、背後から呼び止める声があった。
「……篠宮玲香とか言ったか」
「はい。そうですけれど」
その声の主は少しウェーブががった黒髪の男子生徒だった。
その男子生徒は異様に玲香を敵視しているような表情で、指を玲香の前に突きつけた。
「俺はお前を認めないぞ!!」
おそらく、容姿からして彼は原作で新入生総代を務めた、七宝琢磨だろう。登場当初は百家を含めた二十八家以外の全ての魔法師を下に見下すところがあったはずだ。
にも関わらず、二十八家以外の玲香に入試で敗れたことが彼のプライドに障ったのだろうか。
正直、その成績については演算規模、演算速度、そして干渉強度まで含めたすべての入試項目でズルをしている感も否めないので、その視線は辛い。
そんな負い目と、3年間一緒に過ごす同級生なのだから、わざわざ敵対するのも愚策だろう。玲香はなんとか、友好的に話そうとしたのであるが……
「あの──」
だが、その声は、昨日も聞いた声に阻まれた。
「何? 七宝君、流石にそれは玲香に失礼なんじゃないの?」
七草香澄。彼女が一方的な言い分で暴言を浴びせられている玲香を庇いに入ったのだ。
「お前は……七草! 手が早いことだ!」
「一体何?」
2人は事務室前だというにも関わらず、口論を始めた。
どうやら香澄が庇ったことによって、新入生総代を務めた玲香がすでに七草に取り込まれているという印象を琢磨に与えたようだった。
遠巻きに香澄を見つめる泉美の姿を尻目にどんどん言葉はエスカレートしていき、ついに2人とも手元に手をやることとなった。
そこでただの口論でないとみなされたのか、それとも騒ぎに気づいたのか、それを咎める声があたりに響いた。
「そこまで! なんの騒ぎだ! 僕は風紀委員の森崎だ! 事情を聞かせてもらおう!」
こうして、その場にいた風紀委員のおかげでその場は収まった。
2人は厳重注意を受け、玲香も少々時間を取られることとなった。
だが琢磨は「ちっ、魔法力の低さを小手先で誤魔化してるだけの一族が……」と誰にも聞かれないような声でこぼしていることを、音のベクトル感知で玲香は聞いてしまった。
そして立ち去るときには玲香の方も睨みつけてくる。
(なんというか、かんというか……本当に疲れるなぁ……、はぁ……)
実質登校したのは初日にも関わらず朝から騒動に巻き込まれていることに、玲香は内心ため息を吐いたのだった。
こうして、玲香の魔法科高校の日常は始まった。
しばらくは勘違い要素抑えめで、新入生同士キャピキャピ(死語)する話が続くと思います。
勘違いだけだと、不自然になるばかりか、話が進みませんので……
話の方も少し巻いていこうと思います。
次回からは、美少女たちが魔法科高校で、キャピキャピ(2度目)したり、九校戦へ向けて友情を深めたり、ツン男子の相手したりと、警戒されていることを知らずに魔法科高校生活を謳歌する主人公をお楽しみください。
次回『入学編Ⅷ トリプルセブン』
クラスメイト、オリキャラ出してもいいですか?
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オリキャラOK
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名前でないならOK
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オリキャラは嫌だ
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どちらでもない
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水波ちゃんと仲良くしろ
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香澄ちゃんと仲良くしろ