劣等生の世界の一般魔法師女子にTS転生してしまったんだが   作:機巧

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原作の『物体又は事象に対する魔法干渉力の違い』についての独自考察、『サイオン偏光』が入ります。
主人公の魔法上昇についての説明するためです。それに伴い、解説回となります。


入学編Ⅸ 初実習

深雪など上級生の実習を見学した翌日。

 

玲香たち1-Bの生徒たちは、魔法科高校に入学して最初の実習を行っていた。

 

実習とはいえども初回であるためか、機材に慣れるためという意味合いが強い。基礎単一系魔法を数回行使するだけの簡単なものだ。

 

 

「──桜井さんのタイムは平均0.508秒です」

 

 

基礎単一系工程魔法では、起動式の読み込みから魔法発動まで半秒を切れば一人前と呼ばれる。

 

水波は、これを少しだけ下回る秒数を出して、先生の講評を聞きに行った。

 

「次、篠宮さん」

 

出席番号が一つ前の水波に続き、順番が来た玲香は訓練用据置型CADの前へと歩を進める。

 

 

(……さっきの香澄の秒数は平均0.356秒だったし、それは上回らないとまずい……かな? ギリギリだけど、ベクトル操作を用いた【擬似フラッシュ・キャスト】は使わなくても良さそう)

 

 

据置型CADの操作パネルに手を当て、サイオン波を送り込む。

 

普通のCADならば、ボタン操作等により行使する魔法を指定しなければならないが、今回用いるのは訓練用の据置型だ。計測器とも連動したこのCADは、授業の間は行使する魔法の種類が一つに限定されている。

 

授業毎に展開される術式を一つに限定することで、魔法暴発の防止という意味もあるのだろう。

このため、サイオン波を送り込むだけで、訓練用の魔法を行使することが可能だった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

今回用いるのは、基礎単一系の移動魔法。

 

レール上の平べったい円柱(ルンバのような形)の金属体を、10メートル後方に移動させるというだけの魔法だ。

 

達也と服部の模擬戦で、服部が達也に使おうとした魔法といえば分かりやすいだろうか。

 

移動魔法は対象物の座標を書き換える魔法であり、移動速度は魔法力に応じた加速度で移動する。

 

よって、対象に衝撃が加わるため、通常の移動魔法では加速工程を含ませて衝撃を緩和したりする。逆に、緩和させなければ服部の思惑のように戦闘不能を誘えるということだ。

 

この実習ではその性質を逆手にとって、加速度センサーによって魔法力を計測している。この性質はよく知られており、干渉力の評価項目としてもよく使われる。

 

 

送り込んだサイオン波が、CADによって【起動式】というサイオン波の構造体になり返ってくる。

 

魔法師はサイオン感受性という言葉がある通り、サイオンを感じることができる。

 

玲香は、白半透明のフォース・フィードバック・パネルより返されてくる、起動式であるサイオン波を認識した。

 

ベクトル操作によってこれに変数を代入しつつ、自らの魔法演算領域に送り込む。

 

魔法式という干渉力を持ったサイオン構造体となったそれを、意識領域の最下部たるゲートから、イデアにある対象のエイドスへ投射する。

 

すると、対象の情報構造体であるエイドスが一時的に書き換えられ、結果として現実世界の円柱は後方へと移動した。

 

それを数度繰り返し、結果が出る。

 

 

「篠宮さん、平均0.324秒です」

 

 

おぉ、と少しざわつくクラスメイトを横目に、玲香は担当の先生のところへ向かう。

 

 

「最大加速から見ても、干渉力は充分なようです。タイムも素晴らしいですね。ただ……」

 

 

そうして褒められつつも、少しの改善点を言われたあと、玲香はクラスメイトの輪に戻った。

 

玲香はクラスメイトからもタイムのことを称賛されたが、それに少し居心地の悪いような気がした。

 

というのも、少しズルをしているようで、純粋な賞賛が気恥ずかしかったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで、玲香が魔法力をどうやって底上げしたかを解説しよう。

 

現在魔法科高校では、魔法師能力国際評価基準を採用している。

 

これは【魔法式の構築・実行速度】、【魔法式の演算規模】、【干渉力】の三つによって評価される。

 

玲香はこの三つについて、元々一科生としては十分という程度にしかなかった。

 

故に魔法科高校で首席入学を狙うためには、この三つの項目について底上げをする必要があった。

 

ここで、玲香が色々考えた結果、編み出したのが二つの方法だ。

 

 

 

 

 

一つ目が魔法式の構築・実行速度、演算規模を底上げするための【事前変数代入】だ。

 

これはベクトル操作を用いた、擬似的な照準補助システムだ。

 

 

現代魔法においては、一般的に魔法発動座標(発動対象)・改変強度(威力)・終了条件などが起動式の変数に設定され、処理されている。

 

これらの変数は、魔法師自身が起動式を読み込んだ時にイメージとして取り込まれたものが、魔法式構築時に魔法演算領域で追加処理される。

 

ここで“追加”処理とあるように、これらが定数化されていれば、演算処理の負担が軽減されて発動速度が向上する。

 

故に、強度を固定することで定数化したり、終了条件を秒数で定数化するということはとても多い。

 

だが、座標は別だ。これが定数として起動式に記されていることはほとんどない。

何故なら強度や終了条件と違い、座標が適当な値ではそもそも魔法が発動しないからだ。

 

魔法は拳銃などとは違い、照準をピンポイントに合わせることができる優位点と引き換えに、座標を把握できずに照準を合わせられなければ魔法式を構築する事に失敗する。

 

さらには、魔法式の発動中に視界から外れただけで、照準はずれてしまい、魔法式は無意味なサイオン粒子に分解される。

 

つまり『対象物の認識』と『対象物の座標』が一致していなければ、魔法は発動しない。

 

この能力が高い人物の例としては知覚系能力を併せ持つ司波達也、七草真由美があげられ、逆に低い人物としてはレンジ・ゼロこと十三束鋼が挙げられるだろう。

 

このことからも、座標の変数化というものは魔法の発動にとってほぼ必須なものということはわかる。

 

もし、座標が定数化されているとしたら、魔法師自身がその距離を正確に測って距離を取るという無駄な行動が必要になってしまう。

 

故に、特化型CADは銃身を伸ばし、魔法の数や種類を制限してまで、照準補助システムなどをわざわざ搭載しているのだ。

 

照準補助システムは起動式展開の時点で、座標情報を起動式に組み込み、使用者の演算負担を軽減している。

 

この結果は、特化型と汎用型の魔法発動スピードの差を見れば歴然だろう。

 

……尤も特化型のアーキテクチャは汎用型と異なり、高速化システムも存在しているので一概にはいえないのだが。

 

 

そして、玲香が考えた魔法力の底上げの方法は、この照準補助システムに近い。

 

特化型CADではアクティブレーダーで銃身を向けた対象の座標を起動式に代入している。

 

これに倣い玲香は、ベクトル感知で対象物からの光から座標を認識、それから座標を起動式にベクトル操作で代入する。

 

こうすることによって、玲香は演算を軽くして、汎用型でありながら特化型に近い発動速度を得ているのである。

 

まぁ、これは特化型を使ったときにはそれ以上に速くならない問題点が存在しているが、学校での授業などでは特化型を使うことはないので問題はあまりないといえよう。

 

ちなみに、ベクトル感知によって得た対象の座標情報を、どうやって起動式の変数に当たるサイオン波に変換するかというと、これは単純に『逆算』である。

 

変数を変えて魔法を何度も使うことで、それぞれ起動式を構成するサイオン波の違いを認識、座標情報と起動式の変数の対応を解析した。

 

これは、『一方通行』のベクトル感知・解析能力をフルに活用した結果といえよう。

 

この割り出した対応に従い、起動式中の変数にあたるサイオン、もしくは感応式によってそれに変換される前の電気信号をベクトル操作で制御することにより、玲香は変数を代入している。

 

これを何度も繰り返すことによって、今やほぼ考えなくても起動式の変数に【座標】、【規模】その他もろもろの代入ができる。

 

故にその代入追加処理の時間を省略して、魔法式を構築することが可能になったのだ。

 

 

こうして、国際評価基準のうち、【演算速度】、【演算規模】については余裕を持てるようになった。

 

 

 

 

そして、最後の一項目である【干渉力】の強化は、玲香にとって最優先項目であった。

 

というのも、『一方通行』らしき能力のことを『加速系減速魔法の干渉力の発露』と言い訳してしまったからには、実際に干渉力を上げなければ齟齬が出てしまう。

 

……最悪、念動力のみ干渉力が高いという苦しい言い訳もなくはなかったのだが(実際達也は『分解』『再生』以外の干渉力が低い)、できるに越したことはない。

 

 

ここで、玲香の行った対応の2つ目、【サイオン偏光の制御】である。

 

最初に気づいたのは偶然であるのだが、とにかく玲香は魔法式を構成するサイオン波に、電磁波でいう『偏光』のようなものを見つけた。

 

これを便宜的に『サイオン偏光』と玲香は呼んでいる。光ではないのだから、『偏サイオン波』と呼んだ方がいいのかもしれないが、自分の分かりやすさを考慮した。

 

 

 

そもそも、『偏光』というものについて知っているだろうか。

 

『偏光』とは電場および磁場の振動方向が規則的な光のことである。言い換えるならば、振動方向が一定の方向にしかない光といえばいいだろうか。

 

逆に無規則に振動している光は、非偏光あるいは自然光と呼ぶ。ちなみに自然光を一部の結晶や光学フィルターに通すことによって偏光を得ることができる。

 

この『偏光』は様々な分野で応用されている。

 

先ほども言った通り、偏光フィルターというものを用いると、特定の方向に振動する電磁波の透過を抑制することができ、水辺などにおいて水面の反射光を除去して水中の撮影ができる。

 

また、偏光サングラスというものは、反射光の眩しさを軽減してくれる。

 

これらは反射する光は特定の方向にのみ振動しているという偏光の性質を利用しているものだ。

 

他にも、液晶ディスプレイでは、各画素ごとにフィルターで制御することによって映像を表示していたりする。

 

ひと昔前のテレビなどでは、斜めから見ると途端に画面が暗く見えると言ったことがあるが、これが影響しているためだ。

 

 

 

この『偏光』のようなものが魔法式にもあると分かったのは『エイドスの反発』と言われる現象が元だった。

 

魔法式がエイドスに干渉する過程で、改変されまいとするエイドス側からの反作用が生じ、これを魔法師は感じ取ることができる。

 

これによって、魔法師は魔法式がどんな改変を行おうとしているのかを直感的に読み取ることができ、この反動の波紋を辿ることで魔法発動時点の術者の位置を読み取ることができるとされている。

 

 

ここで玲香は一方通行を感知能力として用いることで、何が波紋として放出されているのかを捉えることができた。

 

その波紋の構成要素は、魔法式を構成するサイオン波のうち、その物体に干渉しなかったサイオン偏光の残骸であったのだ。

 

……正確にいうのならば、特定の『サイオン偏光』のみが物体のエイドスに作用する、というべきか。

 

その後幾度となくデータを集めたが、これは魔法の種類ではなく、魔法の対象物の種類によって作用しやすい『サイオン偏光』が決まるようであった。

 

つまり、魔法の発動に関して、あらためてまとめると以下である。

 

 

 

魔法演算領域から魔法式を構成する『サイオン自然光』がイデアにあるエイドスに投射される

その魔法式のうち、魔法の発動対象のエイドスに応じた『サイオン偏光』のみがエイドスを書き換える

魔法式中の残りの『サイオン偏光』は魔法式として成り立たず霧散し、エイドスの反発として計測される

 

 

 

ここで、これらは振動の『向き』があることから、玲香はベクトルを操作し、実習装置のエイドスが受け入れる『サイオン偏光』の振動方向のみにベクトルを揃えた。

 

この結果として、干渉力は強まった。

 

つまり原作でいう『特定物質や事象への干渉力の違い』は、魔法演算領域が発する魔法式の『サイオン自然光』のうち、どの角度の『サイオン偏光』が強いか、というものではないかという仮説が立った。

 

例を挙げるならば、ほのかだろう。

おそらくではあるが、彼女の魔法演算領域が発するサイオン波は、光学系統に干渉しやすい『サイオン偏光』の強度が高いのだ。

 

尤も、干渉力にはそれ以外の要素……つまりは霊子振動が関わっているようであったが、それは解析中なので割愛する。

 

 

こうして、玲香は、普段は無駄になる分の『サイオン偏光』を揃えることで、少ない労力で最大限の干渉力を得ることに成功したのだが、そうすることでとある副次効果も生まれた。

 

先ほども言った通り、余分なサイオン偏光はエイドスの反発とみなされるように、魔法の兆候として現れてしまう。だが、これをベクトル操作によって揃えて、余分な偏光をなくしたことにより、ほとんど魔法の兆候が感じられなくなったのだ。

 

このことから『魔法の兆候など隠せて一人前』こと四葉の魔法師は、特定の偏光のみを発するようなサイオン操作技術を編み出しているのではないか、と玲香は予想した。

 

自分の力のみで偏光を制御しようとした結果、いらない偏光を多少少なくすることはできたためだ。

 

だが、これをすると、自分の干渉力の上限以上の干渉力は生み出せない。ベクトル操作で揃えた方が、干渉力としては上になるので、あまり使うことはなさそうだった。

 

感覚としては、四葉の技術は『いらない動作を極限まで削ぎ落とした武術』で、玲香のベクトル操作は『普段は使わない筋肉まで全てを動員した武術』であろうか。

 

このように違いは大きいものの、魔法の兆候がでないと勘違いされる恐れもある。故に玲香は、一部のサイオン偏光はそのまま残し、魔法の兆候を消さないようにすることにした。

 

 

ここで少し問題になったのが、どの物体に対してどのサイオン偏光が干渉しやすいのか、わからないという点だ。

 

サイオン偏光を一つの方向にまとめるのは良いのだが、まとめた後は逆にその物質以外には干渉しづらくなるのである。

 

この問題を解決したのもゴリ押し帰納法による『逆算』だった。

 

さまざまな物体に魔法式をかけ、逆算していくことを2年続けた結果、初見のものでもどのような性質のエイドスであるかを判断し、それに合わせて『サイオン偏光』を調節できるようになった。

 

 

こうして、玲香は最後の項目である【干渉力】の底上げに成功し、第一高校に主席入学したのである。

 




原作での

・同じ人物でも、対象物によって干渉力が異なる。
・達也は先天魔法と仮説魔法演算領域で干渉力が大幅に異なる。
・魔法発動の兆候たるエイドスからの反発。
・四葉の魔法師は『魔法発動の兆候など隠せて当たり前』。
・USNAの最新技術より、個人個人に違った『サイオン波形』が存在する。

この辺に関する個人的な考察を交えてみました。

私の考察としては、
『干渉強度はサイオン波の『振幅』と『偏光』、『プシオン振動(今回は解説なし)』によって決まる。
『振幅』によって全体的な干渉強度が決まる。『サイオン偏光』によって、干渉の得意な対象が決まる。
また、『サイオン偏光』は魔法演算領域によって変わる』
ということです。

イメージですと

◯普通の魔法師
振幅・普通
偏光・満遍なく

◯ほのか(光学系統得意)
振幅・やや大きい(一科生上位)
偏光・光学系統に相性のいい偏光が強い

◯七草真由美(全体的に得意な七草)
振幅・大きい
偏光・満遍なく

◯深雪(バグ)
振幅・かなり大きい
偏光・粒子振動に関する偏光が強く、他は平均的(それでも普通の得意な人の偏光をゆうに超える)

◯達也(魔王)
本来の魔法演算領域
振幅・非常に大きい
偏光・情報構造そのものに関する偏光のみしかない
仮設魔法演算領域
振幅・全体的に弱い
偏光・満遍なく

◯玲香
振幅・やや大きい(一科生普通よりやや上程度だが、一方通行により波の合成が可能)
偏光・一方通行により変更可能

という感じです。
できる限り矛盾しないようにしているつもりですが、矛盾点がありましたらご報告お願いいたします。優しく教えてくださると幸いです……。

評価、感想ありがとうございます。とても励みになっています。

次回『入学編Ⅹ 新入生勧誘期間』

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