劣等生の世界の一般魔法師女子にTS転生してしまったんだが   作:機巧

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前回の内容の簡単な説明
・元から念動力のような常駐するSB魔法を持っていた。
・事故にあった影響か前世の記憶を思い出し、更に反射のような現象が起こっていることに気づく
・法令違反に怯える

挿絵注意


プロローグⅢ 篠宮玲香Ⅱ

そこから数日。

魔法行使とはみなされなかったのか、そもそも魔法式検出装置がなかったのかは不明だが、しょっ引かれて逮捕されることはなかった。逆に、助けた少女の両親やキャビネットの管理責任者などが面会しにきたりして、謝罪を受けたりした。どうやらあの事故は、過失割合的にキャビネットの方が10-0という事らしい。

 

飛び出し事故だとしても歩行者有利って……と、自動車という存在が無くなっていても交通法はあんまり改善されてないのだなと、モヤモヤしたものを抱えた。まあ、両親が負債を背負っているわけではないようなので、もう気にしないことにしたが。

 

それはそうとして、昏睡からの覚醒後の経過は順調に進んだが、困ったことが2つあった。

 

 

一つは最速で退院しないと出席日数が微妙に足りず、留年する可能性があること。

もう一つは、この世界が魔法科高校の劣等生の世界で、しかも達也たちと同学年であるということである。

 

後者で、魔法科高校の劣等生の世界であるということは、『魔法』、『第一高校』、『十師族』、『九校戦』というワードからわかってはいたが、達也たちと同学年と分かったのは完全に偶然である。

 

正直前世の男子大学生が、ライトノベル『魔法科高校の劣等生』にハマっていたのは中学から高校の初期あたりまでであり、その後はアニメの2期などは見たものの、惰性で読み続けていただけであり、大体がうろ覚えだった。

 

よく読み返していてしかもアニメも見た一年生部分はよく覚えているが、二年生編はきな臭い事件がそれなりに起こること、三年生編はお兄様が世界に羽ばたくことしか覚えていない。

 

正直、達也たちが2095年に魔法科高校に入学したということすら忘れていたくらいだ。自身の入学年を理解できたのは、単に父親が入院生活の慰めにと玲香もテレビで見た九校戦の録画を、携帯端末にコピーして渡してくれたことが原因だ。

 

そこの新人戦には、後の第一校三巨頭の姿があったのである。玲香が気になっていた巌のような人物は十文字克人だし、スピードシューティングで圧倒的な実力を以って新人にも関わらず本戦でも優勝した「妖精姫」は七草真由美だし、バトルボードで2位以下をぶっちぎってたのは渡辺摩利だった。

 

彼らが新人戦に出ているということは高校一年生で。そして自分は中学2年生である。

 

つまりこのままいくと1年後に自分中学3年生、三巨頭高校2年生。

そこからさらに一年で自分高校1年生、三巨頭高校3年生となり、達也たちと同じ学年になるわけである。

 

 

(──どうしよう)

 

 

敵対するとかなり容赦のない原作主人公たちに、気が遠くなりそうなのを抑えつつ、これからどうするべきか玲香は思考を巡らせた結果、魔法高校に入るメリットとデメリットをまとめてみることにした。

 

 

 

◆魔法科高校に入学するメリット

・魔法の練習が校内でより自由になる

・(1から3高校の場合一科生なら)教員の指導付きで魔法指導を受けられる

・上の二つの事項から魔法力の熟達が期待できる

・魔法科高校卒業資格が手に入る

・上に付随して世間的に立場のある魔法師という立場になれる

・魔法師の知り合いなどツテができる

・(事故にあったとはいえ)魔法が使えるから魔法師になるという世界で、魔法力が残されているのに魔法師に急にならないと言い出すのは不自然。

 

◆魔法科高校に入らないメリット

・お兄様の引き起こす時代の動乱に巻き込まれる可能性が減る(ないわけではない)

・魔法師排斥運動に狙われなくなる可能性がある→ただし魔法能力を持っていることを知られるとアウトの可能性あり

・魔法力を持っているのに魔法師にならないことは不審がられる→小野遥先生みたいに公安にしょっ引かれる可能性あり

 

 

 

 

(……あれ? 魔法科高校に入らない理由がないな……)

 

 

そうなのである。魔法力を持って生まれたという時点で、(これまでの経歴もあって)魔法師を目指さないのは割と不自然であり、しかも反魔法師団体とかに狙われる可能性があるのだ。

 

しかも、時代としてはお兄様のせいもあり、どんどんと魔法師という種族が苦しくなっていく可能性がある時代である。

 

それに対抗するためには、魔法科高校に入るなどしてツテもしくは自衛力を高めていく必要がある。

 

その自衛のための魔法力向上やツテの確保には、魔法科高校は最適なのである。

 

そんな理論武装と、魔法を公然と使えるようになりたいという前世か今世由来のどちらかわからない気持ちを持って、魔法科高校に入ることは決定事項ということにした。

 

 

(……よし、魔法力を失ってなければ魔法科高校に入ることは決定事項だな……。じゃあ問題は第一高校に入るかどうかか)

 

 

◆第一高校に入るメリット

・家が近い

・自分という存在がいるから原作通りになるとは限らないが、原作の流れがわかっているので、割とリカバリが利きやすい

・達也の味方扱いになれる可能性あり

→卒業後将来有望なメイジアンカンパニーに就職できる可能性がある。

・ただし敵認定される可能性も十分にある

→でもなんか森崎にしろ平河妹にしろ七宝にしろ、第一高校の生徒に関しては割と寛容

・原作キャラとご対面できる

・九校戦に出られたとしたら、優勝校の選手ということになれる可能性が十分にある

→ツテの確保がしやすい

・一年目のテロリストに関わらなければ、割と安全。(三年の戦略級魔法攻撃は除く)

・魔法科大学への進学者数が最大。

 

◆第一高校以外に入るメリット

・原作の魔の手から逃れられる可能性あり

・達也からあんまり認識されない

・専門的な攻撃魔法などを学べる可能性あり

 

 

これはこれでとても悩ましいところである。

第一高校以外に入った場合、達也と接点がほぼなくなるものの、原作からズレた時にあまりフォローが利かなくなることが難点である。(しかも実家から遠い)

 

無論、第一高校に入って達也に近づけば近づくほど原作乖離度が増していく事は分かっているが、そもそもの問題原作自体がうろ覚えであるため、あまり問題にならない。

それになにより、ツテができやすいところが大きいだろう。

 

 

(うーん、やっぱり一年目のテロとか横浜とか怖すぎなんだよなぁ……ん?)

 

 

そこで玲香は気づいた。魔法科高校の話と、もう一つ自身を悩ませていた問題を思い出したのである。

 

 

(……あれ? これちょっと入院引き伸ばして中学留年すればいいんじゃね?)

 

 

◆留年して第一高校に入った場合

・上記の第一高校のメリットを引き継ぐことができる

・一年目のテロリスト、九校戦の事件、横浜事変、USNA事件に巻き込まれない

・達也が一年目の全方位噛みつきモードが終わって先輩になっている

→普通にツテができそう

・2年目以降はあまり第一高校を現場にした事件が起きない

・九校戦に出られれば九校戦優勝校の選手になれる

・そもそも普通に勉強が遅れているので、時間を確保できる

 

 

と、達也三年生時の戦略級魔法分解事件を除けば、割とメリットが大きい。

何より実家に近く、散々心配させたであろう両親に、更に迷惑をかけないでいることができる。

 

 

(──よし、留年しよう)

 

 

 

そうして、玲香は中学を留年することになったのであった。

 

ちなみに、中学での留年は、正式名称では原級留置という処分であると担任の先生から教わった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

原級留置処分に対するいろいろな手続きなども終わった頃には、普通に退院できた。

 

退院時には半年近く昏睡していたこともあって、体がそれなりに成長している(病院食とリハビリで痩せ過ぎは戻った)……と思いきや、女子の身長は、すでに中学二年生時点で成長期がほとんど終わっているようである。

 

162センチだった身長が0.5センチ上がった程度で服が着られない……なんていうことはなく、下着を多少買い換える程度で済んだ。

 

衣服よりも大変だったのは、肌ケア商品などの補充である。

 

アルビノということで、肌のケア商品や太陽光対策のUVカットクリームが肌に合う合わないなど、色々あるようで、その補充のために各店舗を回るなどした日は、3日がかりで大変だった。

 

 

 

そんな色々なことがあったが、1番心待ちにしていた日がやってきた。公立の魔法塾への復帰の日である。

 

玲香は公立の中学校に所属しているため、魔法教育を学校では受けていない。日本の政策として、魔法の素質を持つ子供は、放課後に公立の魔法塾で魔法の基礎を手ほどきされるのが普通である。

 

この段階では魔法の優劣を評価せず、純粋に才能だけ伸ばし、魔法を生業にする道に進むだけの才能があるかどうかを、保護者と本人に向き合わせることが目的とされている。

 

このため、公立の魔法塾では、本人の固有の才能について伸ばす先生がいることが普通である。

 

この先生に、少しの相談があることもあって、この復帰日を楽しみにしていたのだ。

 

学校は原級留置処分になるということで、登校はしていないのだが、放課後に訪れる塾なだけあり生徒は皆制服が多いことから、ひさしぶりに中学校の制服であるセーラー服に袖を通して玲香は塾に訪れた。

 

あの覚醒1日目から、気を抜くと情報に飲まれそうになること。少し検証のために【反射】のような現象を家の更に布団の中で使ったこと。その二つ以外は、できる限り魔法じみた現象を起こさないようにしてきたが、いい加減使ってみたい。

 

でも不用意な行動をして、原作関係各位に目をつけられても嫌なので、その検証をしたいのである。

 

 

魔法塾ではやりたいことがいくつかあったが、主なものは二つの検証である。

 

一つ、事故にあったが、魔法力は失われていないのかということ。

一つは、この【反射】のような現象に魔法式があるのかということである。

 

前者は反射のような現象が扱えており、サイオン波を作ることもできていることからほとんど問題ないと思われる。だが、CADを用いた魔法を扱うのは事故前ぶりである。超能力の方だけ残って現代魔法が使えなくなっているという可能性もあるからにして、検証を行いたい。

 

後者は、純粋な疑問である。やろうと思えば【反射】は一日中でも展開できそうな感じなのだが、ベクトル反射術式と言うのは、そもそもサイオンをそれなりに要する。それに反して一日中展開できるのは明らかにおかしい。それにどうも魔法式がないような気がするのである。

 

現代魔法では、『魔法式がエイドスに作用』することによって『魔法の行使』とみなす。故に魔法式のない達也の【精霊の目】や真由美の【マルチ・スコープ】などの知覚系魔法技能は魔法の行使とみなされないのである。おそらくであるが、ベクトルの感知もその一種ではないだろうか。

 

そして仮に【反射】の方も魔法式がないとすると、常時扱っていたとしても『魔法の行使』には当たらない、とすることができる。

 

でも、それをそのまま伝えたとしても理由として怪しい。よって、もっともらしい理由というか考察を考えた。

 

『なんか事故以来干渉力が高まったのか分からないんですけど、感情が昂ると周囲の物体を静止させてしまうようなんです』

 

すなわち深雪の冷気のような、『干渉力だけが作用しており、魔法の行使ではないのではないか仮説』である。

 

先生は、年頃の干渉力が強くて魔法力を制御できない子供達にはよくあることだよ、と諭してくれ(少し罪悪感があった)、十分相談に乗ってくれた。

 

『本当に魔法式がないのでしょうか。無意識に魔法式が組み立てられてて、法令違反にならないのか不安なんです』

 

という相談をすることで、簡易的な魔法式検出装置で見てもらったが、魔法式はなく干渉が強すぎるだけである、ということがわかった。無論、無意識下の発露なら酌量の余地などは十分あり、法令違反にもならないことが多いのだが、不安に駆られる生徒は多いため、それを装ったのである。

 

ちなみに、測定時には【反射】では色々と手の内がバレてしまう可能性も考慮して、ベクトルを各方向に分散させて、向かってきた物体を静止させるようにした。

これならば、空間認識能力がそれなりに優れていないと使えないとはいえ、『移動系単一工程魔法』の『対物障壁』の亜種のようなものである、と言い訳できなくもない。

 

これで、深雪が『振動系減速魔法』の干渉によって周囲に冷気が発するように、玲香は『移動系静止魔法』の干渉によって周囲の軽い物体が静止する、ということに偽装できたのであった。

 

こうして、現代魔法が使えること、【反射】や【ベクトル操作】は自らの感覚と同じく魔法式がないことが確認できたため、玲香はほっとしたのであった。

 

 

……まぁ、魔法式がないのにこのような現象が起こるなんて、本当に何が起きてるのかわからなくなると言った、新たな疑問が生まれたのであるが。

玲香はBS魔法や超能力について考えても仕方がないし、はたから見ても干渉力の発露にしか見えないのならお兄様にも警戒されないだろうしいいか、と割り切ることにしたのであった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

【反射】を使っても干渉力の発露にしか見えない、ということがわかってホッとした玲香は、今まで使いたかった魔法を耐えていたことの反動が出たかのように、【反射】を(家の中限定だが)思いっきり使い始めた。

 

そもそも、魔法や超能力を扱えることに喜ばない男子大学生ではなかったし、しかも使える能力が【一方通行】もどきである。

【学園都市最強】という肩書きと、あの強さに憧れていたこともあって、少しテンションがおかしいまま【ベクトル操作】についての検証を進めた。

 

なお、より外に出る情報は少ない方がいいと思い、家の中で窓とカーテンなどを全て閉めたのち検証を行なっている。

 

すると、今までデフォルトで【反射しない】で、反射するものを個別に登録していく形式であったのだが、デフォルトで【反射】にして、反射しないものを個別に登録していくことが可能であることがわかった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

つまり、これまでは受け入れないものを【ブラックリスト】に入れて反射していたのが、【ホワイトリスト】に入れたもの以外を反射できるようになったのである。

 

玲香のうち、メインの前世の男子大学生の部分はより一方通行に近づいたことに喜んだが、ここで少ない今世の玲香の乙女心が暴走をした。

 

 

アルビノで、幼い頃から肌のケア肌のケア髪のケア。

 

メラニン色素がそもそもないことから日焼けをすれば火膨れを起こし、美しくなりたいと化粧をすれば肌荒れをし、シャンプーを変えれば頭皮が痛み、布団をクリーニングに出せば洗剤が合わなかったのか蕁麻疹が出る、と言ったなかなかにヘヴィーな人生を送ってきた玲香にとって、【反射】とはまさに『救い』だった。

 

 

肌のケアを反射で行い常時パックをしたような状態にして保湿を行い、髪の毛のキューティクルを保つために反射で保湿をし、常時刺激を加えることでエステのような効果を再現、体内にサプリメントのいい薬効成分を効果的に取り込む、etc…

 

 

そんな負担をかけない自然派ベクトルエステが幕を開けたのである。効果が出てくると、主体の男子大学生の方もフィギュアの塗装感覚でオタクの血が騒ぎ調子に乗ってきて、より一層エステは改良されていくのであった。

 

そんな努力の甲斐もあって、フライパンの上に手を当てて魚を焼くことで、旨味成分を閉じ込めたままにすることや(もちろん熱量の移動は反射)、自然な表情筋のベクトル操作などを手に入れたのであった。

 

 

 

 

 

時は経ち、2度目の中学2年生を終え更には中学3年生が終わる頃。

 

……途中、父親に連れられていった九校戦で、何者かを追う達也と幹比古らしき人物と遭遇してしまうというアクシデントはあったものの、何事もなくスルーできた事件は気にしないことにして。

 

この頃には、一方通行エステの甲斐もあり、ぷるんぷるんのお肌と光り輝く髪(無論ケアはしているが光っているのは太陽光の適切な【反射】である)、栄養バランスによって制御されたプロポーション、そして達也に問い詰められたとしてもスルーできる表情筋の制御を、ゲットすることができたのである。

 

 

そして、玲香は万全(?)の状況で魔法科高校の入試の日を迎えた──。

 

 

 




世界一戦闘の役に立たない一方通行の使い方。でも、争いに無縁の女子が一方通行手にしたらこう使うと思うんです(妄想)



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