劣等生の世界の一般魔法師女子にTS転生してしまったんだが   作:機巧

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挿絵注意。嫌な方はオフ推奨。




プロローグⅣ 入学前

「司波くん、春休みの入学式のリハーサルは来られないんですよね?」

 

すでに春休みに入ってから数日。

春休みに入っているとは言え、魔法科高校の生徒会役員には少々の仕事がある。

この春から入学してくる新入生、進級する在校生への新学期の対応の調整や、備品確認などである。

 

そんな細々とした仕事を済ませるために登校する妹の付き添いとして、今日も達也は生徒会室に訪れていた。

 

それに、内々の話であるが、既に達也は来年度の生徒会副会長に内定していた。これは風紀委員長の千代田花音と生徒会長の中条あずさの密約によるものらしいのだが……。

 

断ることもできなくはないだろうが、その場合には最愛の妹、深雪が説得にやってきて結局自分が折れることになることが目に見えたため、抵抗せずに承諾したのであった。妹の付き添いと言うことであれば長くは滞在しないであろう生徒会室に、かれこれ長い時間書類を整理しつつ居座っているのもこれが理由だった。

 

そんな中、達也が生徒会副会長に任命される(予定だが)きっかけを作った少女の1人、中条あずさ生徒会長が達也に話しかけてきた。どうやら、春休み中に行われる入学式のリハーサルの日の予定を確認しにきたようだ。

 

「はい。少々用事がありまして」

 

その日には、どうしても外せない『家』の用事が存在したため、事前に言っておいたのだが、何か不都合が生じたのだろうかと達也は疑問を覚えた。

あずさは『リハーサルって言っても読み上げとかはない、ただの打ち合わせですからね! 1人で大丈夫ですよ』と言っていたので、それに甘えるような形になってしまったのだが、やはり1人では難しかったのだろうか。

 

その訝しげな視線を察したのか、あずさは違いますというふうに手を体の前にして振りながら答えた。

 

「あっ、司波くんと深雪さんにやっぱり登校して欲しいというわけではないですよ?」

「そうですか、よかったです」

「ただ、新入生総代の子のデータが来たようだったので、来ないということならば目を通していってもらえるとっていうだけです」

「なるほど。そういうことでしたか。了解しました」

 

つい少し前に魔法科高校の入試が行われて、その治安管理のために、一応はまだ風紀委員所属であるものとして、会場の警備誘導などに駆り出されたことがあった。

その時の結果が既に出たということなのだろう。

 

「司波くんならわかっていると思うんですが、データの持ち出しは厳禁なのでこの生徒会室にある端末のみのチェックでお願いしますね?」

「分かっています」

 

そう言って、書類の端末を一旦元の棚に戻しながら生徒会室専用の端末に向かう。だいたい個人情報というべき情報の類は、生徒会室でのみ扱えるような専用のオフライン端末に管理されている。

 

その途中で、妹である深雪が別の端末で作業しているところが見えた。

 

「深雪、聞いていたかもしれないが、入試成績が出たそうだ。入学式直前のものはともかく、俺たちは春休み中の打ち合わせには出られないからな。新入生総代の後輩のデータを確認しておくようにとのことだ。まだ見ていないのなら一緒に確認しておかないか」

「はい、お兄様。進行状況を一旦保存するので少々お待ち下さい」

 

深雪は手早く書類データをフォルダーにまとめ、保存し始めた。

 

 

「すみません、中条先輩」

「いいんですよ? お二人一緒の方が作業も一回で済みますし……」

 

少し待たせてしまう形にはなったが、別々に見るよりはまだ時間的にはいいだろう、と思ってのことだったが、ここは誠意として謝罪の言葉を口にしておくべきだろう。

 

「お兄様、終わりました。お兄様、中条先輩、お願いいたします」

「ということですので、中条先輩、お願いします」

「わかりました。あっ、開いておいたのが省電力モードで解除されてしまってますね……すぐに戻します」

 

あずさは生徒会専用の端末を操作し始めた。どうやら、新入生総代の生徒のページを開いてあったはずが、少し時間が押したことで生徒一覧のページに戻ってしまっていたようだ。

 

スクロールされていく生徒一覧を眺めながら、こうして昨年七草先輩は入学式前に自分の成績のことを知ったのだろうなと奇妙な納得を覚えた。

あの先輩のことだから実家の権力を使って知ったと言う可能性も十分にあったが、その疑念は(一応は)払拭された。

 

そして、あの地獄の1週間の流出するデータというのも、これと同じものであろうことが簡単に予想がつく。

 

(……今年はデータ流出など、なければ良いが)

 

だが、おそらくは先生経由か何かで流出しているのであろうから、こちらからそれを阻止するのは不可能か……と若干未来の騒動に気疲れを感じた。

 

 

「そういえば、今年は七草先輩の妹さんが入学なさるということでしたが……」

「はい。そうですよ。七草先輩の妹さんたちだけじゃなくて、二十八家の七宝くんもいますよ。今年は豊作ですねぇ」

「……では、新入生総代はその3人のうちの誰かでしょうか」

「そう思いました? 司波くん?」

「……? はい」

「実を言うと私もそう思ってました。けど違ってたんです。今年の総代の子は一般家庭の子みたいなんです……」

 

質問の意図が分からずとりあえず肯定を返した達也は、顔には出さなかったものの、内心あずさのその言葉にとても驚いた。

 

「……十師族を押さえて一位ですか」

「そうなんです……すごいですよね……」

 

それは深雪も同様だったようで、見る人が見ればわかる程度には動揺していることがわかる。

だが、丁度兄妹に背を向けて端末をいじっていたあずさにはわからなかったようだ。

 

そうしたところで、ちょうど目的の生徒を見つけたようで、あずさは画面のスクロールを止めた。

 

 

「いました! この子です! 篠宮玲香さん!」

 

 

そう言ったあずさが立体画像を投影する。

そこに映し出されたのは、1人の白い少女だった。

 

艶やかに光を反射する白い髪の毛に、血のような色を持つ鋭くも麗しい眼光。

その特徴は、いわゆる白皮症と呼ばれる遺伝子疾患の一つで、アルビノと呼ばれるものの特徴であった。……それにしては少々肌が赤い気がするが、白皮症のものは少しの日光でも肌が荒れやすいと聞く。それで写真を撮った時にその症状が出ていたのかもしれないとあずさは勝手に思っていた。

 

印象としては深雪が百合であるとしたら、芍薬(しゃくやく)だろうか。

 

「2位の七宝くんに10ポイント以上差をつけての首位! すごいですよね……まぁ、去年の深雪さんはもっと凄かったらしいですけど……。一般家庭の生まれなのにこの美貌といい、十師族にも迫る魔法の実力といい、なんだか深雪さんに似てますね」

 

魔法の資質は遺伝によるところが大きい。

そのなかでも十師族の血を引いている事実は、とても大きい。その一族の平均であったとしても、ただその血を引くと言うだけで、他の一般人魔術師のエリート程度の力を持つ。

 

それを覆したとなると、実は四葉の血を引くインチキ一般人出身の深雪と違い、正真正銘在野の天才ということになる。

 

どうやら母親から魔法力を受け継いだようで、それならばどちらかと言うと雫に似ていると言った方がいいのだろうな、と深雪は感じたが、それを口に出すことはなかった。

藪蛇になるからである。

 

 

 

深雪とあずさが少し会話をしている間、達也は立体映像に映し出された少女について考えていた。

 

達也は彼女とは会ったことがある。

 

去年の九校戦の時のことだった。夜半、幹比古が古式魔法の練習をしているのを見かけた時の話だ。

 

幹比古と協力して、4人のテロリストを確保した時の話だ。全員を昏倒・拘束し、一息ついたところで、少し離れたところから人が倒れる音を聞いた。

 

幹比古と急いでその場に向かうと──

 

 

 

『──誰ですか?』

 

夜の闇に紛れながらも、淡く発光したような白い少女がいた──。

 

光っているのは魔法式に必要以上のサイオンを注いだ時に発する残光だろうか。いや、違う。肩甲骨のあたりまで伸びる白い髪と、『精霊の目』で見た彼女が纏うサイオンの量が尋常ではなく多いことが相まって、達也にとって光っているように見えたのだ。

 

そして、彼女の足元にテロリストの仲間の格好をした人物が、文字通り倒れていた。おそらくは、彼女がなんらかの魔法を用いて撃退したのであろう。

 

少し警戒しつつも話しかけると、彼女はこちらを向いて、倒れた者の仲間かどうかを尋ねてきた。それを否定すると一転、少女の超然とした雰囲気は消え、まるで普通の人のように少し怯えた様子に変わり、こう言ったのだった。

 

『──すみません、これは正当防衛だと思うのですけど……もし警察の方が来られましたら、証言してもらえますでしょうか』

 

 

 

 

「司波くんどうかしましたか?」

 

会話が途切れた瞬間、あずさは達也が先程から会話に入ってこないことに気がついた。気になったあずさが振り返ると、達也は何か考え事をしているようだった。

 

「お兄様?」

 

深雪がそう言ってくるのを知覚した瞬間、言葉と同時に達也は思考を断ち切った。

 

「──いえ、なんでもありません」

 

そうは言ったものの、テロリストを(おそらく)一撃で倒したことからも少女の魔法力が高いことは理解していた。だが、あの時まだ中学生で、しかも一般人となると気になる要素が大きい。

 

進級の挨拶の時に、あの自称「忍び」の師匠に相談することが増えたな、と再び達也は思考に意識を割いたが、深雪はめざとくそれに気がついたようだった。

 

「まさか一目惚れしたのではないでしょうね」と詰め寄る深雪に、達也はどう説明すべきかと内心小さく息を吐いた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

あわや第一高校の生徒会室が氷河期になりかけた事件から数日後。国立の魔法科大学附属高校の合格発表が恙無く終わった翌日。

 

「おい、来年度からどうやら予算拡充されるようだ。俺らにも特別手当が出るみたいだぞ」

「本当にあの子に感謝、ですね。先輩」

「ああ」

 

 

──国立魔法進学塾、神奈川県川崎支部。

 

 

そこに勤める教師達は、合格の喜びに震える生徒達の姿を少し離れた場所から見守っていた。

 

日本において、高校教育に該当する魔法教育を行う高校は、魔法大学附属の第一高校から第九高校の計九校しか存在しない。

 

そして、それら全ての高校が国立魔法大学附属であるため、合格発表の日付は9つの高校全てにおいて同一の日程であった。

 

故に遠方に存在する高校の合格発表も考慮してこの魔法塾では、例年合格発表の翌日に合格者達が集まるのが恒例となっていた。尤も結果は転送されてくるデータでも見れるので、直接見にいく人は少ないが。そして合格者と言っても、例年9割以上の生徒がここに参加する。

 

というのも、実用レベルで魔法力を持つ年齢別の人口割合は中高生なら1/1000である。故に15歳時点男女の人数にして、1200〜1500人程度の魔法師の卵が存在している。

魔法科高校9校の定員は合わせて1200人であるから、よほどのことがない限りは魔法の技能を持ち、魔法師や魔工技師を望む少年少女達は、殆ど進学ができる計算だった。

 

そういうこともあって、例年この会は塾に通う殆ど全ての生徒達が、合格者として喜び合う会となるのが通例である。

 

尤も、一部のものは合格できず夢破れるものもいないわけではないのだが、今年は魔法科高校への進学を希望する川崎支部の中学3年生14人全員が、各高校に合格を決定した。

 

そんなこともあって、生徒達から合格の熱が伝わってくるのは例年通りであるのだが、今年は文字通り「熱」が違った。

 

 

 

『──もう一度言って? ね?』

『──総代に決定ということでした……』

『──なんてこと……』

 

昨日合格発表の時間の後、かかってきた電話で聞かされて文字通りぶっ倒れたほどの事実。

 

彼・彼女達の中から、魔法科高校の首席(・・)合格者が現れたのである。しかも各高校の中で魔法科大学への進学率一位である第一高校の、である。

 

これはこの魔法塾始まって以来、幾度とない程の快挙であった。

国立の魔法塾は、子供の魔法技能を高めつつ魔法を生業にする力があるかどうかを、保護者と本人に見極めさせることが目的である。

 

だが、国策として不足する成人の魔法師の確保を目指す国としては、魔法科高校に上位成績者を送り出した場合、塾に送られる臨時手当……有り体に言えばボーナスが存在した。

これは、教師達により良い教育を目指させる目的から存在するらしい。

 

そんなわけで、この川崎支部の教師達もこの度その特別手当を受け取ることになったのである。

 

こうして教員達まで喜び出したのが、『熱』の原因でもあった。

 

 

 

「なんだ、そんな顔をして。教え子が首席だぞ、首席! もっと喜んでやれ」

「先輩は特別手当が嬉しいだけですよね? 私は純粋に喜んでるんですぅ」

「おっと、勘違いすんなよ?」

 

 

そんな会話を教師の先輩にしつつ、とある女性教師は自らの教え子でもある少女の方へと視線を向けた。

 

どうやら『さすが私のライバルですわ』と、いつも彼女に対抗心を向ける、金髪ロールの少女に絡まれているようだった。

金髪ロールの少女も、たしか第三高校の専科に受かった筈である。『エクレール・アイリ』に憧れて、あんな格好をしているのであったか。

 

押しが強い金髪ロールの友達の対応に、慣れた様子で九校戦での戦いを約束する彼女に、つい2年ほど前のことを思い出す。

 

 

『なんか事故以来干渉力が高まったのか分からないんですけど、感情が昂ると周囲の物体を静止させてしまうようなんです』

 

 

そう言った彼女は、中学2年生の時、魔法と関係ない事故にあった。

生死の境を彷徨った彼女は、その時以来、近くにあるものを不用意に静止させてしまうことがあるようで、とても困っていた。

 

色々と協力して調べた結果、彼女のそれは単純に干渉力であるもの、という仮説しか出なかった。おそらくは事故によって脳機能になんらかの変化が起きて干渉力が強まったのだろう。

 

脳というものは現代でも解明が進んでいない器官の一つである。特に魔法師の脳には、精神体の情報を受け取る受信器官である、と言う説も出てきているほど未解明の部分が多い。

 

そんな形で干渉力が強まった彼女だったが、演算能力や演算速度の方は、干渉力に追いついていない感じであった。

 

だが、彼女の必死な努力が実ったのか、それとも不用意にものを浮かせる干渉に演算能力を持っていかれていたのが抑えられた、ということなのかはわからないが、だんだん能力が高まっていった。

 

 

「知ってますか? 先輩」

「ん? 何を?」

「彼女、なんだか、四の隠された数字落ちである説とか後輩の中で出ているみたいですよ?」

「ははっ」

 

 

そんなわけがない。彼女の父は一般人であるし、彼女の母は、元魔法師ではあるものの、何ら特別な家系ではない。

 

あの能力は、彼女が事故で高まってしまった干渉力を必死に補うために身につけたものだ。それは彼女の努力の成果以外の何物でもないことは、この塾の教師はみんな知っていた。

 

能力の伸び、という点では確かに才能もあるのだろうが、事故の影響からか彼女の精神は非常に成熟していた。それが、努力の質という点での一助となったのは確かである。

 

そんな努力も実ったようで、最近はあまり不用意にものを浮かせることはないようだ。そしてよく因縁をつけていた金髪ロールの少女の影響か、どこかに消えてしまいそうな危うい雰囲気も消えた。そして、最後には首席にまでなった。

 

 

「──よかったね……」

 

 

年甲斐もなく涙が出てきそうになったので、目頭を押さえているが、そんな時にちょうど彼女が駆け足でやってきた。

 

その白い綺麗な眉とまつ毛を、少しだけ心配そうに揺らしながら彼女は、

 

「すみません、胴上げをみんなで交互にしたいとのことで、実習室をお借りできませんか? 安全のために魔法を用意しておきたいんです」

 

どうやらこちらで特別手当の話をしている間に、合格した彼女らの間では胴上げの話になっているようだった。

あぶないと色々なところで禁止されている胴上げであるが、幸いここは魔法塾である。

ミラージ・バット練習用の軟着陸術式も常備してあるため、危険性という点ではあまりなかった。

そこまで考えて彼女たちはこの相談となったのだろう。

 

「いいわ。今日くらいは特別に練習室開放するわ。いいですよね、先輩?」

「はぁ……あぁ、許可しよう」

「……ほら、開けるから行くわよ?」

「わかりました先生」

 

 

許可した後、窓の外に少し目をやった彼女は、合格生の輪にすぐに戻り、許可されたことを報告した。

やったぁ、と喜ぶ彼女達を微笑ましく感じながら、一行は実習室へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その塾の窓の外から、中を見る坊主がいた。片目に傷跡があるその坊主は、とある少年から数日前に頼まれた調査を行なっていた──。

 

(ふむ、気付かれていない筈だが……。しかし、あながち隠された数字落ちの可能性とやらも否定できないかもねぇ……。四のことについては達也くんちの方がよっぽど詳しいだろうけど、これは達也くんに報告するべきかな?)

 

 

 




今更だけど、魔法科の高校生たち、高校生なのに察する能力とか高すぎない?

ちなみに主人公が外を眺めたのは外から差し込む光のベクトルが微かに揺れたからなのです。そんなことは雲で遮られたりとかでよくあることなので、今回は単純に眩しかっただけだと本人は思っています。

今回でプロローグが終わって、次回から入学編(ダブルセブン編)やっていきます。






──俺たちは魔法科高校の2年生に進級し、新たに後輩を迎える運びとなった。そんな中、去年の深雪と同じ新入生総代の役を務めることになったのは、謎の白髪の少女だった。

次回『入学編Ⅰ 入学式前々日の邂逅』



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