劣等生の世界の一般魔法師女子にTS転生してしまったんだが   作:機巧

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皆さん、誤字報告等ありがとうございます。
挿絵注意。嫌な方はオフ推奨。挿絵修正いたしました


入学編Ⅱ 入学式打ち合わせⅠ

達也からなんか視線を感じたりした気がしなくもないが、臭いものには蓋をせよ、魔王も避ければ怖くないという格言がある。そんな感じでガンスルーを決め込んだ。

 

先ほど見たことが不自然にならない様に、あたりをちらちらと見渡しながら、事務室へ向かうと、そこから職員室に通された。

 

上級生はおそらく始業式をやっているのか、それともガイダンスをやっているかわからない間、玲香は学校関係者と式の段取りについての話をした。

 

式やガイダンスというだけあり、職員室に行っても先生は誰もいないのでは、と思うかもしれないが、2096年現在、担任制度と言うものは存在しない。

だからこそ、原作での『ミズファントム』こと小野遥カウンセラーのような、スクールカウンセラーという役職がいるのである。

 

そこでの話は、主に入学式での来賓への対応などの仕方であった。打ち合わせといっても、生徒会メンバーとの対面が2度目ということで、学校側からの指導は既に何度か受けているため、予定より早く終わりそうだった。

 

魔法科高校は、おおよそ生徒の自主性を尊重しているが、どうも来賓が訪れるような公的行事は異なるらしい。生徒会ではなく学校側主導の準備が行われているのだった。

 

一通り、対応についての説明を受け、それが終わったところで、予鈴がなった。

聞くところによると、式が終わって1時間目は履修登録に充てられるが、2時間目からは通常のカリキュラムが始まっているらしい。

なので、放課後にならないと生徒側に余裕ができないと言われ、職員室を退室した。

 

 

 

 

 

「……どこで食べろと……?」

 

職員室を退席して少し。

玲香は、校内の所々にあるベンチで、途方に暮れていた。

 

というのも数分前。

先程の退室時の教師の言葉は、『放課後になったら生徒会室に行け』ということだと解釈した玲香は、先に食堂で昼食を済ませようとしたのだが……。

食堂の食券機の前に立った瞬間。

 

『IDカードを提示してください』

『え?』

 

という具合で、食堂の食券を買うことが出来なかった。どうやらこの学校では、生徒手帳代わりのIDカードをどこに行っても使うらしかった。

 

何度か学校側の打ち合わせで来てはいるものの、午前中に来るのは初めてであったので、IDカードに関する問題が露呈したのがこの瞬間といえよう。

 

そのIDカードは、入学式が終わった後、クラス発表とともに配られるものである。

入学式の打ち合わせに来ているということは、入学式を迎えていないということと同義である。つまり、まだ入学していない玲香は、そのIDカードを持っていない。

 

そして食堂も、カフェテリアも購買も全てIDカードで完結しており、にっちもさっちも行かなくなってしまったのである。

 

ちなみに、IDカードを持っていないことと、見た目が目立つことが重なったのか、ジロジロみられる視線も感じたので撤退したのもある。

 

(……あの教師たち……食券とか渡してくれてもいいんじゃないか? 弁当持参とも書いてなかったし……これでいったいどうやって昼食を食べればいいんだ)

 

そうして、高校の敷地内で昼食を摂ることを諦めた玲香は、心の中で学校の対応に愚痴を言いつつ、あたりのベンチに腰をかけた。

 

(……学園前の通りには結構お店があったし、食事処もありそうだよなぁ……)

 

そうして、再び携帯型端末を開き、学園前通りのカフェなどで昼食を摂れないか探すことにし、今に至る。

 

 

 

 

 

そんな時、玲香がいい感じのお店をピックアップし、行き帰りの時間を計算していると声をかけられた。

 

「あれ、こんにちはっ。篠宮さんじゃないですか」

 

オレンジがかった赤髪の毛に、緑色の瞳。女子の平均である158センチより少し低い身長。

 

第一高校の生徒会長、中条あずさがそこに立っていた。

 

「……中条会長、こんにちは。お世話になっております」

 

あずさとは、春休み中の打ち合わせで、一度会ったことがある。この時は千代田花音と一緒であり、原作登場人物との(九校戦のアクシデントを除き実質)はじめての対面と言うこともあり、玲香は少し緊張した。

 

だが、今回は話したことがないわけではなかったためか、意外とするりと言葉が出てきた。

 

聞くと、どうやら用事が終わって午後の打ち合わせに向けて生徒会室に行く予定だったらしい。

 

「それにしても、入学前なのに、もう携帯端末がスクリーン型なんてしっかりしてますね……」

「恐縮です……。禁止されてると聞いておりましたので」

「はいその通りです。当校では仮想型の端末は禁止となっていますからね。スクリーン型を持っているんですから、心配ないと思いますけど、注意してくださいね」

 

玲香の前世で、一人一台スマホ時代がやってきていたように、今世でも一人一台携帯端末時代がやってきている。

 

生活のほとんどが携帯端末で完結しており、今や現金を持ち歩くことはほとんどない。玲香も学外のレストランで食べる際には、これらのマネーチャージ機能を使うつもりだった。

 

スクリーン型に買い替えた時にチャージをいくらかしてあったので、支払いという意味では問題はなかった。

高校前の物価が地味に高くて、お小遣いのかなりを持っていかれることを除けば、であるが。

 

そして、そんな生活に密着した携帯端末には、大まかに分けて二つの種類がある。

 

仮想型端末とスクリーン型端末である。

 

仮想型端末は、いわゆるARと言うやつで、ミラーシェード型ヘッドマウントディスプレイが利用されている。簡単に言うとサングラスを通して見ることで、画面が見えるようにするものである。(仮想型端末を初めて使った時に「リンク・スタート!」と心の中で叫んだことは玲香の秘密である)

 

スクリーン型端末は、前世でもよくあるもので、そのままタブレットやスマホなどを想像してもらえたらいい。もっとも、最近の流行りはペラペラの折りたたみも可能な有機ELスクリーンのものであるらしい。

 

玲香の携帯情報端末も最近買い替え、この流行りに乗った有機EL型スクリーン情報端末であった。紙のようにペラペラで不安になるものの、嵩張らないと言う点でとても使い勝手がいい。

 

ちなみに、スクリーン型に買い替えたのは最近ではあるが、その理由は前述の通り校則によるものだった。

 

仮想型端末は、視覚的に魔法を使ったような現象も主観視点で見ることができる。これによって、「使えない魔法を使えたと錯覚してしまう」可能性があるため、魔法科高校では校則で使用が禁じられているのだった。これはイメージが現実そのものである魔法師にとっては致命的で、特に魔法力が発展途上にある学生は有害性があると言う理由らしい。……もっとも今や仮想型の便利さから、スクリーン型を使うものは少なく、魔法師でも仮想型を使う人が多くなっている現状もあるのだが。

 

あずさが「しっかりしていますね」と言ったのは、玲香が入学前にこういう校則について学んできていて、それをすすんで実践していることについての言葉だった。

 

「それはそうとして、どうしたんですか、こんなところで。職員室に呼ばれてるかと思ったのですが」

「はい。そっちは早めに終わって、放課後になったら生徒会室に行けと言われたところです。そこで時間が少しあるので昼食をと思ったんですが、IDカードが必要みたいで……学校の外で済ませようかと、今調べていたところなんです」

 

あちゃー、という顔をしたあずさは、慌てて表情を元に戻した。

 

そして、例年なら先生の打ち合わせも含めて全部午後からであることを教えてくれた。どうやら、去年起こった横浜事変などで、来賓の方々が魔法師という存在を警戒している。それに対応するために、今年は新入生総代に早く来てもらった。だが、それはいいが、例年と違うが故に昼食などの対応を忘れていたのだろう……とのことだった。

 

今年は抑え(七草前会長のことだろう)もいないので、結構大変だろうと思います……と言われ、玲香は内心とても嫌な顔をした。

 

正直、とばっちりを食った感が否めない。

ある意味、入学式での来賓対応は、地獄ですよと宣告されたのに等しいからだ。

 

あれ、七宝琢磨やその他もろもろの人は来賓の対応に困ってたりしたっけ? ともはや朧げな原作知識を引っ張り出す。

 

ダブルセブン編では確か恒星炉の実験をしていたが、確かあれは議員への対応だったような? と玲香の脳裏に朧げな知識が浮かんでくる。

 

(あれ? これ対応間違えると先生の反応とかからみてやばいやつ? えぇ……? メイジアンカンパニーという利益確定・安全な会社に就職する可能性を増やすために、達也と接点持とうとして主席取ったけど、これミスったんじゃ? 七宝くんに主席譲っても彼辞退するから次席でも生徒会入れなくはないだろうし……いや、それだと確実性がないか……むしろ手を抜く余裕とかなかったし……)

 

落ち込んだ時特有の、無駄な思考の空回りが連発する玲香。

 

一方通行によって表情は制御されているものの、気落ちした雰囲気を感じ取ったのか、それとも普通に昼食の心配をしてくれたのかはわからないが、あずさは玲香にとある提案をしてくれた。

 

「なら、生徒会室で食べるのはどうでしょうか。一代前の会長が、自費で生徒会室に自動調理器を設置するような方でして。メニューそのものは多くはないんですが、よろしければ案内しますよ」

「ではお言葉に甘えさせていただきます。中条会長、よろしくお願いします」

 

 

……結局、全部忘れて食に走ることにした。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

流石、七草家の御令嬢が自費で設置した自動調理器と言うべきか、かなり料理の種類があった。メニューを選び、出来上がるまで少しの間待つことになった。

 

「えっと、ここの時候の表現は、天気に左右されますからね。昔はともかく、今の気候では珍しいですから……。その時の天気によって数パターン用意しておくのがいいんじゃないでしょうか」

「わかりました。考えておきます」

 

そのうち来るだろうとのことで、一足先に答辞の添削となっていたところで、生徒会室の扉が開いた。どうやら、生徒会役員は生徒会室で食事を済ませることが多いらしいので、生徒会所属の誰かであろう。

 

「こんにちはー」

「こんにちは、光井さん」

「こんにちは。お邪魔しております」

 

やってきたのは、光井ほのか。

明るい系の茶色の髪を首の後ろで二つに纏めた紫眼の少女である。

 

原作で深雪のクラスメイトにして、光学振動系魔法を得意とする優等生。深雪、雫に次いで学年3位となっており、優しいものの、たまに思い込みが激しいことが玉に瑕。魔法の分類ができる前に開発されたエレメンツという家系で、達也に想いを寄せている……

 

という大体の原作でのプロフィールが浮かんできたが、それにばかり囚われすぎるのもまずいので、頭の隅に追いやっておく。

 

にしても、普通に顔面偏差値が高い。

優れた魔法師の家系は容姿が良いものが多いとはいえ、あまりケアをしていなそうなのに理不尽だ……という思いが玲香を襲う。

 

もっとも、他の人から見れば玲香のスキンケアは理不尽な方法なのだが。

 

いつも、聞くことのある声と違う声による挨拶があったからか、それとも普通に視界に入ったのかわからないが、ほのかは玲香に話しかけてきた。

 

「あっ、もしかして、新入生総代の?」

「はい。篠宮と──」

 

それに対し、玲香は答えなければと口を開いたのだが、その瞬間またもや入室者が現れた。

 

「こんにちは」

「五十里先輩、こんにちは」

「こんにちはです、五十里くん」

 

言葉を発するタイミングを奪われた玲香は、とりあえず先ほどほのかに向けた挨拶と全く同じ文言を発した。

 

「──こんにちは、お邪魔しております」

 

入ってきたのは、黒髪の男子。

 

五十里という名前からして、おそらく原作で千代田花音と許嫁の五十里啓だろう。

 

申し訳ないが、原作としては優しく、それなりにすごいエンジニアで、お兄様に横浜騒乱編で再生を使われたことくらいしか覚えていない。

 

心の中で、前世で死ぬ前にもう一度読み返しとけばよかったとの思いに駆られるが、それを論じても仕方のないことである。

 

「あっ……もしかして会話を遮っちゃったかな?」

 

五十里は優しく、コミュニケーション能力に少々問題のある花音の婚約者というだけあり、気遣いにも長けていた。

故に、自分が入ってきたことによって話を止めてしまったかもしれないことに目敏く気づいたのだろう。

 

それに対してほのかは、先輩に気を使わせてしまったという意識からか、慌てた様子で、体の前で手を振った。

 

「あっ、全然大丈夫ですよ? ねっ?」

「は、はい」

 

慌てているからか勢いのあるその言葉に思わず頷いてしまう玲香。それをみた五十里はほのかに注意をした。

 

「光井さん、それじゃあ、強制して言わせてるみたいになっちゃうよ」

「あっ、その……」

「……、大丈夫です。光井さんがそのようなお人ではないというのは、なんとなくわかります」

 

五十里に言われ気づいたのか、割と申し訳なさそうにみてくるほのかに対し、空気が悪くならないように、少し笑った感じの声でフォローをする。

 

生徒会室の空気は和み、みんな少し笑った表情をしたので、玲香は胸を撫で下ろした。

 

……魔法科高校のコミュニケーションは難しい。

 

「気を使わせてしまったね。あと数分で司波くんたちが来て揃うから、自己紹介はそのあとでもいいかな?」

「大丈夫です」

 

そうして、副会長の二人がやってくるまでの間、少しの間歓談に勤しむこととなった。

 

 




歓談の一幕
「そういえば、この制服着替えに時間がかかるのですが、お二人はどうしてますか?」
「──篠宮さん、それはね……?」
あずさとほのかは目を見合わせて、同時に言葉を発した。
「「慣れです(ね)」」
玲香は諦めたように息を吐いた。


日刊一位ありがとうございます。
登録、感想、評価、誤字報告をしてくださった全ての皆さんに感謝です。とても励みになります。

そして遅まきながらですが、魔法科高校の優等生と追憶編、アニメ化決定おめでとうございます。

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