劣等生の世界の一般魔法師女子にTS転生してしまったんだが   作:機巧

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挿絵注意。嫌な人はオフ推奨。
プロローグでの主人公の思考がわかりにくいという方がいらっしゃったので、軽く触れていますが、分かっている方なら読み飛ばしてもらっても結構です。



入学編Ⅲ 入学式打ち合わせⅡ

歓談と言っても、正式な自己紹介の前ということもあって、話すことはもっぱら魔法科高校についての話だった。

そうなると、身内の話が多くなる。まだ入学していない玲香を慮って、外部の人間でもわかる九校戦の話になっていくのは必然であった。

 

「先程話題に出た司波さんというと、去年一年生にも拘わらず、本戦のミラージバットに出場し、飛行魔法を使いこなして優勝した司波深雪さんでしょうか」

「うん、片方はそうだね」

「片方は?」

 

玲香としてはわかっていることなのだが、一応聞き返した。「聞いた」という出来事を作っておくに越したことはない。

ここで司波兄妹のことを聞いても、去年の九校戦で活躍したから気になった、と言い訳できるのも大きい。

そんなわけで、色々と詳しい話を聞いていた。

 

何が原因で「ヨシ!お前分解な!」となるかわからないのである。流石に同じ高校の生徒を分解することなどないだろうと、第一高校に入学したが、怖いものは怖い。

 

「うちの高校は副会長が2人いるんですけど、兄妹で副会長やってるんですよ?」

「なるほど、司波副会長がお二人いらっしゃるということでしょうか」

「そういうことになるね……」

「お二人で生徒会副会長なんて、すごいですね……」

「……あの二人はすごいというか……なんというか」

 

まぁ、言うなれば規格外ということだろうな、と五十里が言葉を濁したその先を玲香は察する。

正直副会長が二人でしかも同姓というと、呼びにくくないだろうかと不安になるが。

 

「そういえば、光井さんも新人戦バトル・ボードで優勝なさっていましたよね? アイス・ピラーズ・ブレイクで第一高校が1位から3位まで独占していらっしゃったのと併せて、皆さんの学年の快進撃は当時衝撃でしたので、よく記憶に残っております」

「よくご存知ですね」

「実は通っていた魔法塾の友達が、九校戦に熱を上げていて……エクレール・アイリに憧れて金髪に染めて巻き髪にしちゃうような子なんですが、その関係で去年の九校戦は現地でみさせていただいたんです。その時にすごいなぁって思ってました」

「ありがとうございます。……でもじつは、アレ私たちの力だけじゃなくて、達也さん……あっ、司波副会長のお兄さんの方です……のおかげなんです」

 

ほのかは、少し頬を染めて答えた。

自分に対する褒め言葉が恥ずかしかったのか、それとも達也のことを口にするのが恥ずかしかったのかは本人にしかわからないが、多分後者だろうな、と玲香は感じた。

 

「お兄さんの方はエンジニアとして参加していてね。とても優秀だよ。……まぁ、アクシデントで競技にも出てたけどね……」

「あっ、アクシデントってもしかして、お兄さんの方は、新人戦モノリスで三高の一条将暉さんを撃破した方でしょうか」

「よく知っていますね。その通りです」

 

そんなふうに会話をしていると、時間はすぐに経ったようで、まもなく生徒会室のドアが開いた。

 

「おっはよー、啓!」

「失礼します」

「失礼いたします」

「失礼します」

「……失礼します」

 

あろうことか、一気に5人も入ってきた。

 

最初に入ってきたテンションが高い女子は千代田花音で、次の二人は先程あった司波兄妹、その次のスレンダーな女子は北山雫で、さいごに少し遠慮しつつ入ってきたのは、おそらく吉田幹比古だろう。

 

あれ? 原作で、新入生総代の七宝琢磨が生徒会メンバーと対面した時って、生徒会メンバーだけではなかったっけ……と内心焦るが表情を制御する。

 

そして、こちらの方を見た四人の反応はそれぞれだった。花音は五十里に「もしかして新入生総代の子?」と尋ね、雫はほのかに「ほのか、少し遅れた」と報告し、深雪は眉を軽く寄せ、達也は無言でこちらを見てくる。そして幹比古は、

 

「……君は?」

 

と、去年の九校戦の時のことを思い出したのだろう。少し驚いた様子の幹比古は、それでもすぐに尋ねてきた。それに対して玲香は、はんなりと優雅に見えるような(筋肉ベクトル操作による特訓をした)所作を見せる。

 

 

 

「──この度今年度の新入生総代を仰せつかりました、篠宮玲香と申します。司波達也さん、吉田幹比古さん、その節はどうもお世話になりました」

 

 

 

だが、動作と声色は優雅に決まったと内心優越感に浸ったのも束の間、とんでもないことに気付いた玲香は、その内心の顔を絶望に変えた。

 

というのも、予想外の出会いに焦っていたからだろう。まだ名乗られてないにも拘わらず、名前を言ってしまったことに気づいたのだった。

 

先ほどから名前の出ていた司波達也はともかく、幹比古のことは一度も話題に上がっていない。

 

 

(あっ、やばっ)

 

 

 

◇ ◇

 

 

 

そんなこんなで放課後。

 

結論から言えば、なんとか切り抜けることができた。

先ほどから、司波兄がモノリスに出たことについて知っていると伝えていたことを思い出し、その時に吉田幹比古の名前も覚えていた、ということにしたのである。

 

『驚きました。なんと言っても、モノリスコードの代役の方が、前日に助けていただいたお二人でしたから』

『それで印象に残ったんです』

 

と、もっともらしい(その場で考えた)言い訳をした玲香は、まもなく昼食の時間ということもあり、なんとか誤魔化すことができた。前にあった時に名前を聞いておけば……と少し後悔したが、あの時はアクシデントで出会ってしまい、焦っていたので仕方はないだろう。

 

そうして、昼休みというものの時間の短さと食事のおかげで、窮地を切り抜けることができた玲香は、その後も『去年の九校戦』という会話デッキによって、和やかに昼食を終えることができた。

 

異性ということもあったのか、今回の昼食の席では、達也とあまり話すことはなかった代わりに、深雪とは少し話すことができた。

 

正直、深雪と面と向かって話した印象は、「人間じゃない」である。というのも、

 

 

(なにあの肌! あんまりケアしてなさそうなのにめっちゃ綺麗でモチモチっぽいんですけど⁉︎ 髪の毛もツヤツヤだし!)

 

 

玲香は、ベクトル操作を使って、人間にできることを最大限活かすような形で、美容ケアをしてきた。

だが、それでも届かないと思われる微妙な差。玲香はその能力も相まって、人間に到達できる「美」の範囲は十分理解しているつもりだったが、その薄皮一枚先に、深雪は存在している。

 

言うなれば、初期型スイッチとバッテリーが長くなったスイッチのように、見た目はともかく、中身が違う。他の人は言われても気づかないかも知れないが、他ならぬ玲香には、超えられない壁が存在していることを感じ取れた。まさに、普通に生まれた人間には決して届かぬ造形だ。さすが四葉の最高傑作の調整体である。

 

その美貌は玲香に、もし自分と同じケアを彼女がしたら、とんでもないことになるのではないか、と思わせた。

 

……まぁ、教えるつもりはないが。

 

(なんたって、美容ケアは戦争だからね!)

 

人間の美というものの限界の、一歩先をみてしまった玲香であったが、落ち込むことはなかった。むしろ、その経験を活かして更に良い美容ケアをすることを決心したのだった。

 

 

その深雪といえば、新人戦モノリスコードの話の際、『あの伸びる武器、硬化魔法の応用ですよね? 正直、すごいなと思いました』などと言ってみると、妙にニコニコしているのが印象的だった。

 

そうして昼休みが終了する頃。

生徒会室にいさせてあげたいけど、IDカードがないと閉じ込められる可能性がある。とあずさに言われたことで、食堂で時間を潰すこととなった。

 

昼休みが終わったカフェテリアは、先程と違い生徒が誰もおらず、がらんとしていた。玲香は、スクリーン型端末を取り出し、読書を始めた。

 

(うーん、あれに届かせるには、やっぱり保湿だけじゃなくて、成分的な問題なのか? 触らせてもらって、生体電気の流れから肌の分子構成を探ることができないかなぁ……いや、知覚系能力は観察対象に悟られる可能性があるから、そんな危険は冒せないか……あーでも気になる!)

 

先ほど見た深雪の肌から、新しい肌のケアの方法を次から次へと思いついてしまったりして、読書が進まなかったのだが。

そうして考えてるうちに、時間というものはすぐに過ぎ去り、そして今に至る。

 

 

 

 

 

「改めて紹介します。今年度の新入生総代を務めてくれる篠宮玲香さんです」

 

あずさの紹介の後、あらかじめ設定しておいた身体を制御するベクトルを入力し、玲香はできる限り優雅に見えるように、ぺこりと一礼をした。

 

放課後の生徒会室には、昼休みのように風紀委員の方が入ってくることはなく、生徒会メンバー5人と玲香だけが顔を揃えていた。

余談ではあるが、9人という大人数が入るには生徒会室は少し手狭で、昼食の時はそれをいいことに、深雪は達也に、花音は啓に密着して食事を摂るという事態が起きるほどだった。

 

あずさの紹介のあと、年長順なのだろう、五十里の挨拶。五十里は先程挨拶はすぐ後と言ったのに有耶無耶になっていたね、と謝罪をした。

たしかに言われていたが、そこを謝るなんて律儀だな、と律儀さが印象に残った。

 

 

そして──

 

玲香の前には、一人の男子生徒が立っている。

 

 

日本人らしい黒い髪に少し青みがかった黒目。少し前髪が長く、ともすれば目にかかって不潔感を与えてしまうほどの長さであるが、きちんと整えられているためか、不快感はない。

 

整っているわけではない、と原作で明記されていたが、そんなことはない。アイドルグループのセンターはともかくとして、メンバーには入れていそうな顔立ちだ。

 

これで騒がれることがなく、ちょっとカッコいい程度に収まるという、魔法師の血筋が少し怖い。

 

その一見端正で穏やかな顔だが、その瞳の奥はここにないナニカを見つめているようで、少し恐怖を感じる。“凄み”というものだろうか。得体の知れない何かに見つめられているような、ベクトルでは表せない、何かが常人とは違うことを玲香は感じ取った。

 

そんな彼の名前は──

 

 

 

 

「副会長の司波達也です。よろしく、篠宮さん」

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

そもそもの話、玲香は達也という存在に、必要以上に強い危機感を持っているわけではなかった。

 

 

前にも語ったが、『魔法科高校の劣等生』という物語は、要はなんか仕掛けてきた相手を、なんやかんやで達也が撃退する……というだけのストーリーなので、敵対しない限りは達也は安全だ。

 

達也は、基本的に良識があって(妹のためなら簡単に捨てるが)、同じ一高生に甘いところがある。CADを向けた森崎にしろ、襲撃した平河妹にしろ、結局のところなぁなぁになっているところからも、それがわかると言えよう。逆に敵にさえならなければ、のちにメイジアン・カンパニーを立ち上げることになる達也と関わりを持つことは、むしろ安全とまで言えるかもしれない。

 

 

国際情勢が緊迫していることや、社会情勢として反魔法師感情が高まっていることの方がよほど差し迫った危険である。

今述べた二つの要因から、この時代を生きるにあたっては、魔法師であることそれ自体がリスクといえよう。

 

魔法師は、絶対数が少ない。少数であれば、差別の対象となりえ、兵器として利用される確率も上がるからである。

もし、魔法師を目指さないにしても、魔法力を失ったと偽ったとしても、元魔法師というだけで(隠していても情報時代ということもあり、バレる可能性はかなり高い。見つかったらリンチor公安行き)、今後の社会情勢次第では差別の対象となり得る。魔法師協会の庇護がない分、むしろひどい差別を受ける可能性があるとすら言えよう。

 

なので自衛能力を高めるためにも、魔法力があるのならそれを鍛えるに越したことはないわけである。となると、一番国立魔法大学への入学者が多い一高は選択肢に入る。(ついでにいうならば家も通学範囲内にあった)

 

 

玲香としては、平和に生きたいと思っているのだが、世界情勢と社会情勢が何もせず生きていることを許してはくれない。

玲香が生きるこの世界では、『原作通り(又は原作に関わらない)= 平和に生きる』の方程式は決して成り立たないのだ。

 

それに原作通りといったところで、自分がいる以上乖離は生じるのだろうから、ぶっちゃけ玲香は原作云々などどうでもいいと思っている。ある程度これまでの経験で信用は置けるが、大事なものは自分とその家族、あとは親しい友達といった周りの人間と普通に暮らすことである。(できることなら魔法を使いたいという気持ちもあるが)

 

 

そんな玲香にとって、達也が作る『魔法の平和的活用によって魔法師と一般人の融和を図り、魔法師の居場所を作る組織』、すなわち、メイジアン・カンパニーがどうなるかというのは大きな問題であった。

これがあるかないかでは、今後の人生計画に大きな違いが生じてくる。原作通りにこの会社が立ち上がるにしろ、立ち上がらないにしろ、どちらなのかを早く知ることはかなり重要だった。

なので、より早く情報を得るため、達也たちと関わりが持てるよう、死ぬ気で能力を応用して新入生総代を奪取したわけだ。

 

この情報さえ得られれば、立ち上がらないなら立ち上がらないで、知っていれば何か対策を立てられるし、立ち上がるとしたらこの安全な組織に就職できる可能性も増すからである。

 

 

この世界を生きるものとして玲香は、原作の内容をただの情報源の一つとして考え、実際に調べた国際情勢や社会情勢から、就職先から人生計画といったものまで考慮に入れて、今後のことを真剣に考えた。それが、玲香の出した中学留年という選択であったのだ。

 

 

こうして、念願の達也に接触することができた玲香であったが、一つ誤算があった。

 

 

 

(──めっちゃ怖いんですけどおおおおおお!)

 

 

 

──すなわち、本人を目の前にした時の印象である。

 

先程は一対一で向かい合わなかったから気づかなかったが、めっちゃ怖い。

女子の体は小さくて、平均以上の身長を持ち鍛えられた体を持つ達也は、ただでさえ玲香に圧迫感をもたらしている。

 

加えて、達也は分解という凶器を抜き身で持っている。

それなりに安全と分かってはいても、所詮それは情報源の一つである原作知識と先輩方の伝聞だけで、実際の人となりを詳しく知っているわけではない。

故に、その尋常ならざる雰囲気と相まって、最強の凶器を持っている達也は普通に怖かった。

 

 

いくら安全と言われていても、目の前にガチムチの銃を構えている人がいたら怖い。

生徒であるから世間体上体罰はないと分かっていても、威圧感のある体育教官は怖い。

 

言うなれば、そのような状況に近かった。

 

 

(──えっ、えっ、なんで高校生こんな雰囲気出せんの? これから大丈夫かなぁ……)

 

 

という、そもそもの「メイジアン・カンパニー」が設立されるかどうかという情報を得られるほど、この怖い人と仲良くなれるのだろうかという不安に苛まれる玲香。

 

玲香は先程も行った礼の筋肉制御ベクトルを覚えていたので、なんとか不自然な間ができないよう、すぐにそれを入力し、

 

 

「篠宮、玲香です。よろしくお願いします」

 

 

という言葉をなんとか捻り出した。

 

途中、少し噛みそうになったものの、なんとか穏やかに挨拶を返すことができて、玲香はホッとしたのだった。

 

 




メンタル一般人なので、達也の直接的な戦闘能力よりも、どちらかというと高校性らしからぬ雰囲気の方を怖がってしまう系主人公である。

ちなみに玲香が生徒会室で感じた人数についての違和感について。

本来なら、
4月6日 始業式 
朝。達也、七宝とすれ違う。
昼。本編のメンバーでプチ歓迎会。七宝の人柄について梓から聞く
夜。深雪と達也、七宝についての会話を交わす。
4月7日
放課後。生徒会メンバー、七宝と対面。深雪、氷の女王になる。
4月8日 入学式

という流れですが、七宝くんと主人公への学校側の指導回数に差があったため、会う日程がずれ込んだ感じです。
ダブルセブン編にて、総代の人によって指導回数が前後することが書かれています。


あと、一方通行の能力は反射ではなくベクトル操作であるとのご指摘をいただきましたが、把握しております。
主人公も同じで、常時オート(または任意)で180度反転するベクトル操作を行っているものを、便宜上反射と呼称しております。






『──今年の新入生総代の少女、篠宮玲香は、話す限り普通の少女だった。だが、普通の少女が十師族を超える魔法力など持つものだろうか。
入学式前日。九重八雲師匠から彼女についての調査報告を受ける俺と深雪。いくつかの情報から浮かび上がってきた衝撃の事実とは』


次回、「入学編Ⅳ フラグ」








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