劣等生の世界の一般魔法師女子にTS転生してしまったんだが   作:機巧

9 / 14
今回、スマートフォン専用アプリ『魔法科高校の劣等生 LOST ZERO』より、家の名前だけをお借りしています。設定などは異なりますのでご注意下さい。


入学編Ⅴ 真実(笑)

「その可能性は十分にあると思うよ?」

 

八雲は深雪の推測に対し、そう答えた。

 

深雪の言った推測は、事故以前の彼女とそれ以後の彼女が、『別の存在』である可能性だった。

 

「そう。この事故の前後で彼女は変わりすぎているんだよ。容姿、交友関係、性格、……魔法力。そう、まるで別人だ。そして、それを隠すかのように留年している。

……直接的な証拠はないにしても、これだけの情報が集まれば、本当に別人であると考えるのは、なんら不思議じゃないだろう?」

 

八雲は訳知り顔で語ったあと、最後にこう付け加えた。

 

「変わった先が人であるにしろ、そうでないにしろね」

 

深雪は八雲のその言葉に、息を呑んだ。想像してはいたが、改めて言葉として突きつけられると、衝撃を受ける。

 

「それはパラサイトである可能性……ですか?」

「うん、変わった魔法力を一応それでも説明できるからね」

 

パラサイト。

 

昨年度末。つまりほんの数ヶ月前に起きた騒動の原因ともいうべき存在。

彼らの起こした事件により、USNA最強の魔術師アンジー・シリウスこと、リーナと共闘したことは記憶に新しい。

 

超常的な寄生物(paranormal parasite)の略で、各国で悪霊や妖魔とかつて呼ばれていたもののうち、人に寄生して人を「人以外のもの」に作り替える「魔性」。

 

彼らに寄生された人物の魔法力は高まっており、その点においても彼女の状況とは合致する。

 

事件の記憶が新しいこともあり、その可能性を強くは否定しなかった八雲は、達也にも問いかける。

 

「達也くん、君はどう思ったかい?」

「……それは彼女が事故以前と別人である可能性についてでしょうか。それとも、パラサイトである可能性についての問いかけでしょうか」

「とりあえず後者についてかな」

「それでしたら。少なくとも、パラサイトの気配はしませんでした。活性化していないと感じ取れないので、正確なことは言えませんが」

 

少なくとも、達也は彼女がパラサイトであるような兆候は、感じ取れなかった。

 

故に、パラサイトの気配はないと伝える。

これはピクシーも、同族が近づいているというようなことは言っていなかった、ということも理由である。

 

ピクシーは現時点では、仲間との接続が切れているが、仲間の活性が高まるもしくはある程度まで近づけば、感知できる。

 

達也は前回の事件の時、パラサイトを感知できなかった。これを改善するために「精霊の目」を鍛えようとはしているのだが、成果は芳しくない。

ゆえに、もし同族を感知したら、すぐに伝えるよう、ピクシーに命令しているのだ。

 

学校の敷地内くらいの範囲であれば、充分その「ある範囲」に該当するため、感知できないと言ったことはほぼないだろう。

 

故に達也は、彼女がパラサイトではないという感触はある。

 

そして、達也の感触を裏付けるかのように、八雲は肯定した。

 

「僕もそう思っているよ。……少なくともこの前の事件とは関係ないんじゃないかな。時期にもあっていないし、彼女の周りで不審な事件も起こっていないようだったし。それに、僕の霊視力にもなんの反応もなかったしね」

 

人間に取り憑いたパラサイトは、自己保存本能と自己複製本能によって、周りの人間を襲う。

そのような事件がないということは、ある意味で彼女がパラサイトではないという何よりの証明だった。

 

そして、ダメ押しとばかりに、八雲はおもむろに携帯型端末を懐から取り出した。

 

「もう一つわかりやすい理由があるんだ。とりあえず、これを見てくれないかい?」

 

その携帯端末で再生され出した動画に映っていたのは、くだんの少女だった。

画像は少し粗く、映っている少女はカメラに気づいている様子もない。

 

「これは隠し撮り……ですか?」

 

少し責めるような顔で、深雪は言った。

同じ年頃の同性として、無防備な姿を撮られているという事実に、何か思うところがあったのだろう。

 

だが、八雲はその言葉を華麗にスルーした。

 

「さて、達也くんならわかるだろう?」

「……なるほど。どうやらパラサイトではなく、別人であるようですね」

 

達也のその言葉の根拠がわからず、深雪は兄に問いかけた。

 

「どういうことでしょうか、お兄様」

「いいかい、深雪。このふたつの動画を見てみるんだ。明らかに歩く時の重心の位置が変わっている」

 

そう言って、いくつかの動画の中から2つの動画を指し示した達也。

 

映っている少女は、どうやら事故前と事故後それぞれの歩いている様子であるようだった。

言われた点に注目して見てみると、確かに重心移動が微妙に異なっているように思われる。

 

「歩くときの重心移動の仕方というものは、そんな簡単に変わるものじゃない。本人の骨格や筋肉のつき方による制限が大きいからね。体重、身長などが多少変わったとしても、数年寝たきりになっていたとしても、重心移動の癖というものはほとんど変わらない」

 

体の使い方というものはそう簡単に変わらない、と達也はいう。これは体術を学んでいる達也からすれば自明のことだった。

 

おそらく、八雲もそうであろう。

 

「前回の事件においても、パラサイトはあくまで宿主に寄生する形で息を繋いでいたようだけど。物質次元にある体は、あくまで本人のものだ。ゆえに、ほとんど重心の移動というものはかわらないんだよね」

 

常人にはわからないだろうが、癖というものは如実にでる。僅かな差でも感じ取れる2人にとって、この変化は他人であると取るに十分なものだった。

 

これほどの変化は、脳に損傷を負って半身麻痺にでもなれば、起きるかもしれないが、彼女にはそんな様子はない。

 

あと考えられるとしたら、そう、それこそ重力が違うところ──月などにでも行かない限りは、このような変化は起きないだろう。

 

「だから、彼女がパラサイトではなく、それでいて以前とはまったくの別人であるということは、まず間違いないと見ていいね」

「それは、思い過ごしということはないのでしょうか? 事故にあったということは、骨格などに歪みが出る可能性はゼロではありませんよね」

「深雪、そうだとしても、体の動かし方の癖というものは残るんだよ。それがこの動画にはないんだ」

 

さらにその後、八雲は彼女が事故以降、皮膚の問題で学校を休むことがなくなったことを付け足した。

彼女はアルビノで肌がとても弱く、事故以前は本や雪の結晶に反射した程度の弱い光にも弱く、よく休んでいたようだ。

 

だが、事故にあってからは、それが全くなくなったとのことだ。このことも、彼女が別人であると言う証拠のように思えた。

 

まぁ、新手のパラサイトである可能性も捨てきれないから、踏まえておいた方がいいとは思うけどねと、八雲は付け足しながら携帯端末を回収した。

 

携帯端末を懐に入れ、改めて2人に向き直った八雲は、話を先に進めた。

 

「こうなると、生じてくる疑問がある」

「何故彼女は入れ替わったかということでしょうか?」

 

深雪の問いかけに、八雲は「そうだね」と肯定しながら、その理由として考えられるものを挙げていった。

 

他国のスパイとか、数字付きのどこかの隠し子……などである。

だが、スパイだとするには色々と不自然なところが多いと言わざるを得ない。

 

普通、正体を隠したいのならば、わざわざ魔法科高校首席入学などはしないであろう。

そしてアルビノのような目立つ容姿は、そういう意味では適性がないと言える。

 

八雲もそう思ったのだろう。

スパイの疑惑については軽く流し、もう一つの理由について、考察と調査結果を話し出した。

 

「だから僕は、彼女と数字付き(ナンバーズ)の関係を調べてみることにしたんだ。……もっとも繋がりは途切れていたんだけどね。……でも、調べていくうちに妙な噂を聞いたんだよ」

 

八雲は先程から数段声のトーンを落として、その噂の内容について語った。

 

「どうやら彼女の周りでは、四の数字落ちであるという噂があるようなんだ」

「…………あり得ません!」

 

その噂について、深雪は強く否定をする。四葉家を生み出した第四研究所は、今や四葉家の指揮下にあり、そこで開発された家系はあまねく四葉という家系に吸収されている。

 

四葉家は、各分家の中で当代最強のものが当主となるという仕組みの家である。

 

研究所をルーツに持つ一族の一つに四葉があるのではなく、第四研究所出身の家系すべてをまとめて四葉と呼ぶのだ。

 

だから、四葉以外に第4研究所出身の魔法師一族など、存在するはずがない。

 

「本当にそう言えるのかい?」

「どういうことでしょうか」

 

声には出さなかったものの、深雪と同じ点を疑問に思った達也が、疑問を呈するかのような口調の八雲に、問いかけた。

 

「火のないところに煙は立たぬ。……百家ではなくても、研究所が十師族を研究する前に、研究所で開発されていた魔法師がいるだろう?」

「──エレメンツ、ですか」

 

エレメンツ。

 

日本で最初に作られようとした魔法師一族と言われている。

2010年代から2020年代にかけては4系統8種の分類・体系化が進んでおらず、伝統的な属性に基づくアプローチによって魔法は研究されていた。

 

これらは、魔法の体系化が進むことによって、非効率だとみなされ、エレメンツの開発は中止、開発を行っていた研究所のほとんどが閉鎖された。

 

この後、2030年代にかけてできたのが、第一から第十の国立魔法研究所である。

 

「そして、国立魔法研究所のうち、第4研究所だけは国有化される前の前身となる、民間の魔法研究所が存在するね。十師族を生み出す前に開発されたと考えれば、どうだろうか。研究所を移籍する例もなくはないのだしね」

「では彼女はその末裔であると……」

「いいや。エレメンツも調べてみたけど、急に消えた娘はいなかったよ?」

「では……」

 

それは、結局どこの家でもないということで、思い過ごしなのでは?

と深雪は思ったが、八雲は唐突にこんなことを言い出した。

 

 

「調べる限り、彼女はかなり強い念動力を持っているようだね。……達也くん、ところでだけど。一番最初の現代魔法を知っているかい」

「……まさか!」

 

 

先程、エレメンツは日本で最初に作られようとした魔法師であると言ったが、それらの属性魔法とやらが、最初の現代魔法であることを意味しない。

 

一番最初に実用化され、世に魔法というものを知らしめた魔法は、学校の歴史で習う通り核分裂を止める魔法だ。

 

だが、一番初めに実験室で作られた魔法は、それですらない。魔法というものの確認として実験室で開発された魔法。いわゆる『超能力』ではなくなった、魔法式を用いた最初の『魔法』。

 

それは──

 

 

 

「そう。簡単な単一移動工程魔法──つまりは念動力さ」

 

 

 

一瞬の静寂。

達也と深雪の反応を待たず、その後に八雲は解説を付け加えるかのように、語り始めた。

 

「では、最初に魔法が研究されたその実験室は、何処の研究所の研究室なのだろう、という話になる。もしかしたら四ノ宮というのも、あながち嘘じゃないかも知れない、といったね」

 

八雲は、さきほどの自身の言葉を真似するように言った。

 

「零宮っていう家を知っているかい? 十師族のプロトタイプにして、零の番号を持つ家の一つだ。分家の令ノ宮もいつしか絶えているんだけど」

「令ノ宮、ですか」

「そう。『れいのみや』と、『しのみやれいか』。これは偶然の一致かも知れないけど、十師族に迫る魔法力を持つことから、関係がないとするのもいささか早計だろう?」

 

ここで、達也は今までの情報をまとめてみた。

 

十師族のプロトタイプである、零の家との名前の関連性。

最初に作られた魔法が、彼女が持つ『念動力』を魔法化したものであること。

十師族にも迫る魔法の腕前。

 

(──たしかにそれならば、彼女が十師族を押さえる魔法力を持つことにも、納得がいく……)

 

番号はおそらく、第四研究所の前身となる研究所に移ったときに変わったとすれば、辻褄は合う。

 

 

 

そして。

達也は昨日生徒会室で対面した彼女との挨拶を思い出す。

そういえば、あの時、彼女は──

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『篠宮、玲香です。よろしくお願いします』

 

 

──妙に家名を強調していなかったか。

 

 

そのことに思い当たった瞬間、達也の中で何かが繋がった気がした。

 

 

「そう。彼女はもしかしたら、現代魔法師にしたら、この国で一番古い魔法師の家系かも知れないね」

 

 

八雲が語っているのはただの仮説。事実と事実を恣意的に繋げただけの暴論。ただの推論に過ぎない。

 

確かに、このことを証明する直接的な証拠はなにも存在しない。

だが、関係ないとするにはあまりにも、状況証拠が揃い過ぎていた。

 

 

「結局、この情報をどう取るかは君たち次第なわけだけど。君たちの事情が事情だからね……警戒しておくに越したことはないんじゃないかな」

 

 

八雲は最後にそう締めくくった。

 

達也にとって、それが推測で根拠のない話であったとしても、情報があるのとないのでは雲泥の差だ。

 

深雪のことを考えれば、いくら警戒しても警戒したりない。だから、達也の辞書にとって警戒しすぎるという言葉は存在しない。

 

だから達也は、警戒すべき対象という意味で、有用な情報を調べてくれた八雲に感謝の言葉を送った。

 

「情報ありがとうございました、師匠」

 

「ですが」と達也は真顔で続けた。

 

 

 

 

 

「正直言って、ストーカーはどうかと思いますよ」

 

その言葉に同意するかのように、妖しい笑顔で微笑む深雪に、八雲は身をすくめた。

 

 




ストーカー、ダメ、絶対。

八雲先生や達也は、歩行時の重心の位置で別人だと思い込みました。体の動きというものは指紋や声紋と同じように、達人にとっては確実に人を判断できる要素……ということでお願いします。
このため、他人であるということを確信してしまい、「怪しい」という疑念から調査や考察がスタートしているので、負のバイアスがこれでもかというほどかかりまくっています。

ちなみに動きの重心の位置が変わった理由は、プロローグに書いてある通り、手足の長さの感覚の違いや、歩行時にもベクトル操作で負担軽減(重力軽減)をしているためですね……。玲香自身にかかっている重力が以前とは異なるので、重心移動も異なります。

後、『LOST ZERO』要素ですが、今回用いたのは家名だけです。配信終了していることもあり、その設定自体は用いません。
あくまで今作では十師族のプロトタイプということにさせていただきます。
……というか、一時期やっていたのですが、私自身忘れていまして、思い返すのが困難です。

あ、魔法科のアプリといえば『リローデッドメモリ』がもうすぐ配信されますね。とても楽しみです。

次回より主人公視点に戻ります




追記

◇勘違いの理由解説◇

少し質問が多かったので、解説させて頂きます。

まず前提として、達也たちは危機管理のため、周りを疑わなければいけない状況にあることを、ご理解ください。そして、達也たちはリーナの時のように内心疑っていても手を出されない限りは、大体疑っていることを隠して静観する傾向にあることも、ご理解ください。

この世界の魔法師たちには、『十師族の魔法力は格別』という意識が前提にあり、達也たちは生まれからも、その傾向が強いことをよく理解していると思います。
このため、『十師族に匹敵する魔法力を持つ少女』は、常識として、どこかの家の血を引いているということ(もしかパラサイト)が、達也たちの意識の上でほぼ確定します。
そんな少女が、確実に以前と別人であると判断できる状況にあるので、陰謀を疑うのは当然でしょう。

この『怪しさ』を前提に推測を勧めているので、間違った方向に行ってしまった感じです。
私たちにとっては「そうはならんやろ」という推測になってしまいますが、本人たちにとっては、どうとも言えない怪しさが根底にあります。
生きている世界が違うため、この辺の感覚まで違うということを表現したかったのですが、言葉足らずであったようです。

また、今のところは警戒と言っても、『どこかの家でお家騒動が起きているようだ。行動範囲も被っている(高校内)ので、とりあえず身構えとこう』くらいの意識ですね。
『原作初期の美月への警戒』+『十師族への警戒』くらいの感じです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。