性別が変わる病気にかかったって話   作:山田ヘイタロウ

1 / 4
性別が変わる病気にかかったって話

 後天性性別変態症候群。

 俗らしく言うならTS病という物。

 これに罹患した人はその後、一生この病気と共生しなければならない。

 この病気はマトモな恋愛ができなくなるのではないかと、誰もが口にしていた。

 何せ、今付き合っている異性が、元々は同性だったのではないかという疑念が頭を過ぎるから。

 プライバシーだの、何だのと口にしたところで元々知っていた者の口を塞ぐ事はできない。

 だから、ここ日本でも法の成立は後手後手に回っていた。

 今現在も、法整備に関しては中途半端な物で障害者区分とされる事となる。

 そして、これは過去の話なのだが、別の病気を発症していた女性がいた。だが、TS病が発症した為に、綺麗さっぱりその病気がなくなったと言う事もあった。

 何故こんな話をしているのかと言ったら、俺がそのTS病に感染してしまったからだ。

 

「マジで女、なんだよな……」

 

 鏡を見て溜息が漏れる。

 長い黒髪、僅かながらに俺の元々の顔の面影がある。

 性別という物に対して俺はそこまでの執着は無かったが、こうして変わってみると何もかもが違ってしまう。

 性別が変わった事で生活は大きく変わる。まず病院へ行き、診断を受ける。そして市役所への書類など諸々の手続き。

 そして、俺には選択肢があった。

 転入するか、元の学校に通うかだ。

 

『転入とかダルい』

 

 と、母に言って、俺は自分のことながらどこか他人事のように過ごしていた。

 父さんは娘が欲しかったとか言ってたから、どうだ娘になったぞと揶揄うように言って見せると新聞を読むふりしながら複雑な顔をしていた。

 読むふりをしていたと気が付いたのは父さんが新聞を逆さまで読んでいたからだ。絵に描いたような動揺具合に思わずへらりと笑ってしまった。

 声変わり前の男児、或いは低い声の女性くらいの声で、完全に俺のものだとは思えない。

 

「母さん、髪切りたい」

 

 顔を洗ってから台所に行くと、母さんが作った料理が並んでいて、いつも通り父さんも座っている。

 

「お父さんもお母さんも仕事だから一人で行ける?」

「まあ、いいけど」

「ひ、一人?」

「あら、お父さん。不安なの?」

 

 一番不安だったのは父さんのようだ。俺が男の時は大して丁重に扱うような様子は見せなかったが。

 娘が欲しいとか言ってたが、案外、俺が男だった方が父さん的には良かったのかもしれない。親バカになりそうだ。

 

「娘が一人で出かけるのは不安に決まってるだろ」

 

 震える手でコーヒーカップを持って父さんは口に運ぶ。一口飲んでも落ち着いたようには見えない。

 

「まさか、小学生でもないんだから」

 

 母さんが呆れたようにいうけど、どうやら父さんとしては違うようだ。

 

「いや、小学生以下なんだよ」

「俺、高校生だよ?」

「お前、女の子して何年だ?」

「まだ数日だけど……」

 

 確かそうだよな。

 この数日間、慌ただしかった気がする。俺のTS病の所為なんだけども。

 

「ほら、危機管理能力も低いに決まってるだろ」

「大丈夫だって。俺に、んな事する物好きとか居ないから」

「……何でかしら。お母さんも心配になってきたわ」

 

 大袈裟じゃない?

 

「分かったよ。一人じゃダメなんだろ?」

「どうするのよ?」

「んー、謙也(けんや)呼ぶか」

 

 幼馴染のアイツなら大丈夫でしょ。変なことするはずもないだろうし。

 

「夏休みだし、謙也も暇してると思う」

「ま、まあ、謙也なら大丈夫か」

 

 父さんもオーケーみたいだし、母さんも反応見る限り問題ないみたいだ。

 

「それじゃ父さんたち仕事行くからな?」

「おう、いってらー」

 

 とりま謙也に電話するか。

 

「しもしもー」

『悪戯電話か?』

「おれおれ」

『……どちら様で?』

「声で分かんないかー?」

『……いや、分かんないです』

「愛が足りてないなぁ」

 

 俺ぁ、悲しいよ。

 俺たち幼馴染ーズの絆はそんなもんだったのか。

 

「取り敢えず、俺の家に来て。話はそれからだっ」

『だから誰だよ!?』

「え? 名前見ろし」

『……詩音(しおん)? 何か声おかしくね?』

「百聞は一見にしかずってね。取り敢えず家来いよ」

『ちょ、まっ────』

 

 待たん。

 問答無用で連絡を切る。こうすれば気になって謙也も家に来るだろ。

 俺ってば策士だな。

 

「さーて、ゲームでもしてよっかな」

 

 ピンポーン。

 

 早いな。

 いや、幼馴染ーズの絆はやっぱり堅いのよ。まあ、家近いんだけどね。

 女なって転ぶこと増えたからマジで階段は気をつけねば。

 

「へいへーい、らっしゃーい」

「え、だ、誰ですか」

「俺よ俺」

「…………」

「愛しの詩音様だぞー?」

 

 ま、上がれよ。

 思考放棄してるように口開けて玄関に立たれても困るんだけど。その口の中にぶっといキュウリを突っ込みたくなるな。

 

「まあ、座れや」

 

 座布団用意して、俺はベッドに腰掛ける。

 

「…………」

「おーい、謙也?」

「はっ」

「気が付いたか」

「お、俺は何を?」

「お前は俺の家に来た瞬間に気を失ったんだ」

「……詩音?」

「おう」

「何か……、違くね?」

「何も変わらんさ」

「いや、色々違うんよ。まず、性別からして違いませんかねぇ?」

「そうだな」

 

 性別に関しては今から説明してやろう。

 

「何があったのかをわかりやすく解説〜」

「ん、おう」

「TS病に罹患しました〜」

「…………」

「何か言えよ」

「それだけ!?」

「これ以上、何言えってんだよ。じゃあ次にお前を呼んだ理由を説明してしんぜよう」

「あ、はい」

「髪が切りたいでござる」

「…………」

「だからお前を呼んだ」

「ねえ、俺、髪切れないよ?」

「誰もお前にそんな事は頼んでない」

 

 何を勘違いしてらっしゃる。

 

「どんなつもりで俺を?」

「母さんと父さんが心配性でな」

「お前の言葉は過程がすっぽ抜けてんの! 数学だったら途中式が無い感じなの!」

「そりゃあ夏休みの宿題は答え写してますから」

「……もしかして、俺はボディガードと」

「うむ、良きにはからえよ」

「ははー……、ってなるか、ボケ!」

「まあ、わかる。お前だって俺みたいな可愛くない一応女の子と一緒に出かけたくないのは。俺も嫌だ」

「いや、そこまでは言っとらんが……」

「なら俺が可愛いと思うか?」

「……可愛いんじゃね?」

「謙也。お前はやっぱりロリコンだな」

「違ぇから! 不名誉な呼び方しないで!?」

「それでこそ、我が同志よ」

 

 こいつは悪いロリコンじゃない。良いロリコンだ。イエスロリータノータッチ。

 

「取り敢えず、お前のお父さんが心配すんのも分かるよ」

「まあ、考えてみろよ謙也。俺は高校生、流石に自分の身くらい自分で守れる」

「いや、今のお前に言われても説得力皆無なんだけど」

 

 ふむ……。

 それな。

 

「身長百四十四センチ、体重三十四キロ。どこに問題が?」

「完全に小学生くらいの体格なんよ」

「お前、全世界の百四十四センチ女子に謝れ。まあ、その話は置いておこうか。……取り敢えず、髪切りに行きたいんだが何度も切るのは面倒だと思うんだ」

「……うん」

「て事で、坊主にしたいんだが、どう思う?」

「TS病ってだけで怪訝な目向けられんのに、何でわざわざ坊主にしようとすんの!? 何なのお前! ドMなの!?」

「む、そうか。なら、流石にやめとくか。じゃあショートだな。長くなったら結べば良いし」

 

 流石に出かけんのにこの格好はないよな。こいつ幼馴染だから、この格好見せても良かったけど。

 着替えるか。

 パジャマに指をかけた瞬間に変な叫び声が聞こえた。

 

「や、止めー! 止まれ! 男子、男子がいるの!」

「気にすんな。俺は気にしない。お前に裸を見られてもな」

 

 えーと、下着も母さんが買ってくれたんだよな。ちゃんと調べたし。

 

「おう、準備できたぞ」

「準備できたって、……いつものじゃねーか」

「おまえ、パーカーとかジャージとか、スラックスとか動きやすいんだぞ。流石に暑いから下は半ズボンだけど」

「や、分かるけど。……女子力のかけらも無いな」

「女子に何を求めてる。俺は女子に何かを求めるのはやめたぞ」

 

 その前に俺は男子だったんだ。俺を普通の女と一緒に考えるんじゃねぇ、火傷するぜ。

 

「ほら、行くぞ謙也」

「分かったよ」

「……お前さ、性別男子でよかったって思う?」

「考えた事ねぇな」

「俺は良かったって思うよ。球蹴り上げられんのは痛いけど」

「そりゃあ、いてぇよ」

「でもさー、生理とか辛いんだろ? いやー、それが本当に心配でさ」

「……お前、痛いの無理だもんな」

「なー。変わってくんない?」

「嫌だ」

「だよなー」

「でも、女子だって得する事あんだろ?」

「みたいだよな。ただ、ちょっとアレな話になるけど、陣痛とか初めてとか痛いらしいし。俺は化石になるべきかな」

 

 愛があればー、とかよく言うが俺個人としては愛があっても受け止められない物もあると思う。

 俺にとって誰かを受け入れるって言う愛の形をよく知らないだけなんだけど。

 

「……なあ、嫁欲しく無い?」

「お前だけは絶対嫌だ」

「何でだよ」

「専業主婦って良いよな、とか言ってた奴と結婚すんのは嫌だ」

「何でだよ。将来の夢として立派じゃねぇか、お嫁さん」

「お前のお嫁さんって言葉には打算が多分に含まれてる気がすんだよ」

「……いざ女になって見ても、あんまり変わったって感じもしねぇんだよな」

 

 周りが慌ててる感じ。

 俺としては寧ろ置いてけぼりくらってる。

 

「っ」

「あぶねっ」

「わ、悪りぃな。助かった」

「お、おう」

 

 やっぱバランス崩しやすい。

 

「もうちょいゆっくり歩いてくれ、謙也」

「いつもの感覚で歩いちまってたな」

「何なら俺を背負ってくれ」

「嫌だよ」

「良いじゃねぇか、野球部」

「黙れバスケ部」

「そういや、部活どうなんのかね……」

「どうしたいんだよ、お前は」

「んー、あんまり興味はないんだよな。それに、ちっこくなったから女子の方行っても大して出来ねぇだろうし」

 

 女なってから何でか体力テストやらされたけど、マジで何もできんくて笑うしかなかった話でもしようか。

 

「そうだ、握力十二キロだった話でもする?」

「は?」

「いや、マジでなんすよ」

 

 こんなんで運動部とか入ったら死ぬわ。

 

「お前が一人で出かけなくてマジで良かった」

「もしかして父さん、このことも考えてたのか……?」

 

 まあ、にしても心配しすぎだろ。握力十キロなんてよくあるだろ。

 

「取り敢えず、俺髪切ってくるから。お前、何やってる?」

「待ってるよ……」

「そうか、暇すると思うけど」

 

 いくら休みでも世間一般では平日。そこまで混んで無い。入ればすぐに順番が回ってくる。

 

「今日はどのくらいで?」

「あ、バッサリお願いします」

「ショート?」

「あ、それでお願いします」

 

 その後、なんか色々あって「夏休みなの?」とかの質問に答えたりしてた。何か高校生って思われてないような。

 

「こんな感じだけど、大丈夫?」

「はい」

 

 いやー、頭が軽くなったね。これで当分来なくても良い。

 とりま、金払いまして。

 

「終わったどー」

「ん、ああ」

「漫画読んでたんか」

 

 そりゃあ暇つぶしになりますわな。

 

「だいぶ変わったな」

「どや?」

「良いんじゃないか」

「お前に聞いても全部一緒な気がするよ、本当」

 

 そんなんだから彼女できねぇんだよ。それ言ったら、俺も彼女おらんけど。

 

「……あー、長岡(ながおか)さんと付き合いたかったなぁ」

「そういや好きだったな。告ればよかっただろ」

「見て分かるんだよ。あれは他に好きな人がいるタイプ」

 

 高嶺の花とかじゃなくて、もう誰かの花なタイプ。だから、俺がその花に触れる事は許されてない。

 

「お前は?」

「んー、別に。取り敢えず謙也居れば基本は暇しないし。つーか、お前の主人公属性とか見てると笑えるんだよ」

 

 だって長岡さんの好きな人って多分こいつだし。俺の失恋の原因、こいつだし。何だろ、腹たってきましたわ。

 

「ふんっ!」

「いった! 何すんの!?」

「いや、俺の恨みが勝手に右足を動かして……」

「おまっ!」

 

 どうした、いつもならやり返してくんだろ。何でやり返さない。

 

「どうした、来ないのか?」

「女に手をあげたら、俺、最低野郎だろ」

「ん? ああ、そっか。俺、女だったわ。なら一方的にお前に攻撃し放題か?」

「くすぐるぞ?」

「セクハラで訴えんぞ」

「すみません」

「分かればよろしい。取り敢えず、俺にはいつも通りに接してくれ。気にされたら寧ろ、こっちが気ィ遣う」

 

 女になったからって直近の生活で困ることなんてないよな。こいつの横にいれば基本問題ないし、何なら一生こいつの横にいれば良いんじゃないかと思いつつある。

 

「なあ、お前彼女とかいる?」

「何だよ、いねぇよ。ぶっ飛ばすぞ」

「何でキレてんだよ。じゃあ、気になってる奴とかは?」

「それなら山野(やまの)かな……」

「……どうしようか」

「何だよ、どうした?」

「お前に彼女できたとすんだろ」

「お、嫉妬か? 気持ち悪い」

「泣くぞ?」

「嫉妬ですか、可愛いですね」

「……冗談じゃなくてな。もしお前に彼女ができたら、高校で誰が俺の面倒を見るんだ」

「お前は要介護者か……」

「一応、障害者認定食らってるしな」

 

 面倒な人間だ。こう言う時だけ都合よく障害者だって口に出すんだから。

 

「で、お前が彼女を作るんなら、俺にも考えがある……」

「考えだぁ? 碌なもんじゃないだろ」

「いや、これは比較的まともな奴だ。俺が一人で学校で過ごせるように頑張るんだよ」

「は?」

「よく考えろ。……問題ない生活ってのは誰とも接触しないことだ」

「極端すぎんか?」

「だって、俺お前と話せなくなると、この状態は絶対孤立する」

「何でだよ」

「女子と話すの緊張すんだよ」

 

 過去のトラウマ的に。

 好きな女の子とかいるけど、絶対に話せない。マジで、ずっと足引きずってんだ。

 

「まあ、これをすればお前の青春は守られる。俺の青春は瓦解するけど」

「それ遠回りに俺に彼女作んなって言ってない?」

「言ってねぇよ。作ったなら、俺とお前の友情はそこまでだ」

「何だ、その傷の舐め合い。やっぱり彼女作んなって言ってない?」

「言ってない。でも冗談抜きで俺が困る」

「彼女作ってもお前のこと優先する。それが俺たちの絆、だろ?」

「そこは彼女優先しろや、ぶっ殺すぞ」

「何で!?」

「親友ならいつでも親友だ、謙也。けどな彼女ってのは親友よりも脆いんだ」

 

 俺の方に彼女の恨みとか、その他もろもろが向かってきそうってのも勘弁してほしい。

 

「女の子の嫉妬って怖いんだよ、たぶん」

「そ、そうか。お前もか?」

「あ? 俺は男だろ?」

「そうだな……」

 

 なんだ、その含みのある感じ。今は女だけど、元々男やぞ。

 

「もし、俺の事を彼女よりも優先したらブン殴る。勿論、お前の家族の事もだ。俺は一番最後でいい。幼馴染を、親友を信じろ」

「お前、今ロリだろ」

「カッコつけてんだろうが。分かんねーかな」

 

 伸ばした右手の拳でコツンと謙也の胸を小突いてやる。

 

「あ、彼女とか居ないなら積極的に助けろ」

「台無しだ、馬鹿タレ」

「うっせー、お前。今の俺は非力な女の子なんだよ。暇なら守れよ。他に守る必要ないんだったら俺を守れよ」

「何だその自分本位」

「……いや、マジでどうしよう」

 

 考えて見ても明らかに、こいつが彼女とか作ったら、俺が本気で悩む。どうしようか。こいつの事だからいつも通りにって言ったら、前と同じ感じで接してくれそうな気もするけど、マジでこいつの事が好きなやつに対して「ただの友達だから」って言って通じるかな。

 いや、どうでも良いわ。

 別に一人でも何とかなるでしょ。

 なってくんねーかな。

 

「普段通り過ごせば良いんだよ……」

 

 心配性でも移ったか。

 俺がそこまで悩む必要もないか。女子だって普通に生きてんだ。俺だって普通に生きれば問題なんて起きねぇだろ。

 なんて考えで夏休みも普段通りに過ごして、部活は先生と相談して辞めることになって、どれ、久しぶりの学校だと。

 

「よ、謙也」

「おう」

「どうよ、制服」

 

 その場で華麗にターン、二回転。鏡の前で三日間練習したからキレッキレだと思う。

 

「マジで気をつけろよ。パンツとか見えるかも知んねーから」

「え、男子学生ってパンツに一喜一憂するくらい(さか)ってたっけ?」

「お前はそこまで盛ってなかったか?」

「猥談の主導者は基本俺だったがな」

「盛ってんじゃねぇか」

「お前よりは盛ってねぇよ、机の鍵かかる引き出し」

「止めろ」

「……別に俺のパンツ見られても減るもんじゃねぇからな」

 

 いや、でもパンツ見えるとどんな反応するんだ?

 俺はパンツ見てましたって言われんのが怖いから目逸らしてたけど。男子の理解がある今、パンツを見られたら俺にできることは。

 先生に言うくらいのもんだな。

 

「つっても安心しろよ、ほれ」

「待て待て! スカートを持ち上げるな!」

「何だよ。スパッツ履いてるから安全だって言おうとしただけだろ」

「あ、なんだスパッツか。……って安心は出来ねぇからな?」

「過保護だな、おい。……そういや、母さんと父さんに、極力、お前といろって言われたんだが」

 

 普通嫌じゃね?

 俺だったら……、一緒にいるか。無理して彼女作って、無理して時間作るくらいなら、仲良い奴と一緒にいた方が楽しいし。

 

「どうする?」

「いや、一緒にいるけど? いつも通りじゃねぇか」

「側から見たら俺とお前は男女なんだよ。だから今まで通りだって俺たちが思ってても周りはそうなってくれないんだ」

 

 インターネットで見た。

 TS病患者の苦労した話みたいなので。

 

「俺と絡んでると、お前の青春は色褪せていくかもしれん」

「元々、だいぶ色褪せたセピア色だったぞ」

「うるせい。バレンタインにチョコが貰えなくなるかもしれん、俺も……」

「少なくともお前はチョコ作る側になったからな」

「まあ、生まれてこの方、母さんのチョコしかもらったことありゃせんけどね」

「よくそれでバレンタインの悲劇を語ろうと思ったな」

「あー、あと防犯ブザー持たされた」

「んー、ん。まあ、妥当だな」

 

 俺が子供扱いされてる件。

 

「お前が女子と仲良くなれたら、あんまり関係ないかもな」

「え? 無理だよ?」

「諦めんの早いんだよ」

「女子とか怖いわ」

「よくそれで長岡と付き合いたいって言ったな」

「あ? 理想を口にして何が悪い」

「何に惹かれた?」

「見た目」

「だから、男子サイテーって言われんじゃねぇの?」

「大丈夫。女子も所詮見た目で選んでるからな」

 

 けっ、このクソイケメンが。

 

「いっ! な、何でつねんだよ?」

「あ、悪い。何かイラっときた」

「はぁ……」

「他人事みたいに言ってたがな、お前だって山野好きな時点で、見た目で選んでんだからな」

「そう言われたら言い返せねぇ」

「男は女に顔を求めるんだよ」

「お前の恋愛対象は?」

「……よう分からんな。性自認としては身体女なんだから女って感じ。まあ元々、性別には頓着無かったから、俺は男なんだって意識よりも、もう元男って感じだし」

「あー、身体によると」

「そもそもでな。だから男の時は女が好きになってたけど、今は女だから男好きになるんじゃね?」

「ナチュラルに受け入れてんな」

「まぁな」

「もしかして、俺も入ってる?」

「誰がお前見て興奮するか。お前の粗末なもん思い浮かべても興奮せんわ」

「お口汚くない?」

「ちゃんと歯磨きしてますー」

「そうじゃないわ」

 

 つってもなぁ、俺が男を好きになるビジョンが見えん。元々、女を好きになるビジョンも見えんかったし。

 性愛的な意味で誰かを好きになれたことなんかないから。

 

「久しぶり、謙也くん」

「ああ、久しぶり長岡」

「あれ、石崎(いわさき)くんは?」

「ん、あれ? どこ行った……? さっきまで居たんだけど」

 

 悪いな。

 隠れさせてもらったぜ。流石に長岡さんと会話するほどの能力は無いからな。

 

「行ったか?」

「どこ行ってたんだよ……」

「お前と長岡さんの死角」

「何、サラッと高等技術使ってんだ」

「危ないとこだった」

 

 まあ、教室でも会うんだけど。

 女子と会話すんのは無理よ。男子の時だったら別にどうでもよかったけど、今この状態を見られたら話しかけられるのが当たり前な気がするから。

 余計に女子が怖くなるとは。

 おのれ、TS病。恐るべしっ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。