性別が変わる病気にかかったって話   作:山田ヘイタロウ

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男の嫉妬

 別に変わらないんだと。

 いつもと同じだと、俺はそう言い聞かせてた。

 だって十年以上の付き合いで、性別が変わったからといって俺は突然に女になった親友を異性として見ることは出来ない。いや、理性的にそう言い聞かせてるだけかもしれないけど。

 まあ、見てない、

 ただ、前までのこいつとは決定的に違う。

 近付けば良い匂いするし、庇護欲がそそられる。その見た目が、俺の五感がこいつは女なのだと訴えかけてくるんだ。

 今まで以上に、近くに居なきゃって思う。いや、前までは楽しかったからと言うのがあったけど、今は義務感が強く働きかける。

 

 こいつは変わらない。

 女になっても、そんな事どうでも良いというように普段通り振る舞ってる。

 歩く速度が遅くなったとか、転ぶ事が多くなったとか。それくらいのものだと思っているんだろうか。

 何も知らなければ、俺は普通にこいつの事を可愛い女の子だと思ってたんじゃなかろうか。

 こいつの元々を知ってるから、付き合いたいとかは絶対に無いけど、魅力的かどうかと言われたら、まあ魅力的なのだと思う。

 正直なところ、こいつに嫁とか何とか言われた時も、一瞬こいつが元男だという事を忘れかけた。まあ、すぐに思い出したけど。

 俺とこいつは親友で、それ以上でもそれ以下でも無い。

 

「ポテト食べたいで候」

 

 そう言って詩音は俺の手首を掴んで、見上げてくる。

 

「家帰るぞ。寄り道したらお前の親も心配すんだろ」

「高校生やぞ。子供扱いすんなっての」

「……せめて、連絡入れてからにしろや」

「分かったよ」

 

 突然にやりたい事とか言い出したりするのは慣れていた。詩音の親はちょっとだけ過保護になってるようにも思えるけど、それも妥当か。

 女の子として一ヶ月くらいか。

 そんな成り立てのこいつを心配するのは親として当然のことだと思う。

 

「いーってよ」

「お前の親が?」

「おう。お前いるって言ったら、父さんが渋々って感じ」

「なるほど」

 

 俺はこいつに信頼されてんだろう。

 こいつの家族にも。

 俺がこいつを貶めるとは考えられていない。だから、俺もその期待を裏切るまいと必死になる。

 別に、害する気なんてさらさらないんだけども。

 

「そういやさ。俺、学校祭とかで買い出し必要になったら、どうしたら良いんだろ?」

 

 あー。

 俺も部活とかで忙しかったりするけど、詩音は今、部活やってないからな。任される可能性が高いかもしれない。

 

「お前、絶対一人で行くなよ?」

「俺の自由はどこへ行ってしまったんだ……」

「仕方ないだろ」

 

 心配なんだから。

 

「お前、おじさんにお菓子あげるよって言われても付いてくなよ?」

「俺は小学生か」

「見た目がな」

「馬鹿にすんなよ。父さんもアレだし。あのな、俺にだって危機管理能力はあるんだよ」

「ほら、飴があるんだけど」

 

 夕張メロン味よ。たぶん、美味いはず。

 

「わーい」

「おい」

「わざとだよ! 別にお前から何かもらっても問題ねぇしー?」

「相手は選んでると」

「おう」

「長岡だったら?」

「いや、無理」

 

 何でだよ好きな相手だろ。

 受け取ろうよ、それが愛だよ。

 

「んー、でも山野だったら大丈夫かも……」

「いや、何でだよ」

「あの人、良い人なんだよ」

 

 何あったんだよ。

 

「お前がそう言うって事は、本当に良い人なんだろうな」

 

 下らない嘘とか吐いたりすることもあるけど、詩音は付き合う人間は選ぶタイプで悪どい人とは基本的には関係を持とうとしない。それくらいには察する能力がある。

 

「あ、もし俺が山野と仲良くなったら嫉妬する?」

「……まあ、ちっとは」

 

 こいつの中身が元々、男だから。そう考えたら嫉妬するかもしれない。

 

「ふへっ」

「何だよ、その笑い方。気持ち悪っ」

「……男子の嫉妬って気持ち悪ぅって思って」

「じゃあ、お前。俺が長岡と付き合っても嫉妬しないのかよ?」

 

 こいつが好きだって言ってた長岡が、親友と付き合っても、嫉妬とかそう言うのは無いのかね。

 

「…………」

「な、何だよ。黙んなや……」

「はあ」

 

 溜息つきやがった。あと、その馬鹿にしたような顔もやめてくれませんかね。

 

「私がそんなに醜い人間に見えるかね?」

「うん」

「せいっ!」

 

 俺のノータイムレスポンスにノータイムで蹴りを入れてきやがった。確実に俺の答えを予測してただろ。

 

「いったぁ……」

 

 足蹴んなし。

 わりと痛いんだかんな。

 

「俺は別に長岡さんとお前が付き合っても嫉妬なんかしないねー」

「へー」

「お、信じてねぇのか? 蹴り上げんぞ?」

「何処を!?」

「あ? 言わせんなよ、恥ずかしい。金◯に決まってんだろ」

「躊躇いなく言ったな!」

 

 強がりだとか、そう言うのなのか。

 それともこいつは女になったから、こいつの中での決着がついたのか。俺にはよく分からないけど。

 

「ポテト、ポテトー」

「はあ……」

 

 店の中に入る。

 

「溜息つくなよ────」

「幸せが逃げんだろ?」

「そうそう」

 

 注文したポテトが出来上がったのか、それを受け取ってテーブルに向かい、俺たちは対面する形で座る。

 

「食べる?」

「貰うわ」

 

 うまっ。

 何か久しぶりにポテト食べた気がする。Lサイズを頼んどいてこいつはあまり食べずに、「もう無理……」と残りを俺に差し出してきやがった。

 こいつ、腹の許容量も下がったらしい。

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