「みなさんこんにちわ〜、あ、初めましての人もたくさんいますね、まずは全員乗っちゃってください〜」
結衣先輩からの電話の通り、同じ顔の似たような人がいます。まあ、髪型違うのでなんとなく識別できるかな? くらいの差ですかね。まあ別にどーでもいいです。
私はテキトーに大学のある四谷でそれなりに大きいレンタカーを借りて、今代々木まで来たのですが……
「あっせんぱぁ〜い。せんぱいはもちろん助手席に座ってくださいね♡」
ドライブデートまでできるなんて、
今日は本当についています!
* * *
「しかし、なんだか災難でしたねぇ。そのゲロ……リボンの女の子の酒の弱さも相当です」
「ああ。そのせいで雪ノ下に本気で殺されかけてな。久々に本気のあいつを見た気がする……3ヶ月前にお前が失神するまでやったようなやつな」
「ああ……」
あれから、全員をテキトーに車に乗せて出発しました。
せんぱいと楽しいおしゃべりをしながらのドライブデートは、やっぱり最高ですね♪
あ、失神うんたらの話はどうでもいいじゃないですか。ただ私が雪乃先輩を怒らせてしまった話ってだけで、はい。
「……いろはちゃん。私たちもいるんだけど」
「あ、ごめんなさい結衣先輩♡ せんぱいが横にいるとつい、イケナイイケナイ」
「むぅ……いいもん」
ほんと、結衣先輩はどうしてこんな敵に塩を贈るようなことをしたのか。恋愛や人間関係方面では頭のキレる人だとは思ってたけど、やっぱりこっち方面もお馬鹿さんだったのかな?
なんて、私は調子にのっていたのです。
* * *
一色いろはちゃん。
ヒッキーやゆきのんよりも、少しだけ早く私は彼女と知り合っている。
最近は、なんだかちょっと舐められ始めてる気もするけど、距離感が近くなったことによるものだって私は理解してるんだ。基本的には大好きで、大切な後輩であり、友達。それはハッキリ言える。
そして、いろはちゃんはヒッキーのことが好き。
もうそれは私もゆきのんもよく分かってる。3ヶ月前にいろはちゃんがゆきのんの手によって失神させられちゃったあの事件から、ヒッキーも多分もう勘づいてる。
いろはちゃんのことは大好きだけどさ、
でも恋のライバルとしては、譲れないよね。
ねえいろはちゃん。流石に何も考えずに敵に塩を送ることは、私だってしないよ?
さて、そろそろ作戦を開始しようか。
車の中で、逃げ場はないよ?
いろはちゃん。
* * *
結衣先輩が、車に話し声が途絶えたタイミングで突然声をあげた。
「陽乃さん。元気出してください!」
何故か意気消沈しているハルさん先輩を、不自然に結衣先輩は元気づけます。なんで?
「……ガハマちゃん。いいの。どうせ私はポンコツ。こんなんじゃ雪乃ちゃんの頼れるお姉ちゃんじゃいられないのよ……車だって都筑に言えばいいのにそれができなかったのは、間接的にお母さんにコレがバレるのが嫌だったからの延命措置だし。……私なんて……私なんて……しかも今日は肉まんに負けたようなもの……」
……えっと、肉まん?
そこら辺の経緯は知りません。いったいハルさん先輩はどんな愉快な戦いに負けたんでしょう。
「陽乃さんは本当にゆきのんのことが大事なんですね!」
「当たり前じゃない! 私の雪乃ちゃんだもんっ!」
「じゃあ、ゆきのんが悲しんだり嫌な気持ちになることされたら、怒っちゃいますよね〜」
「もちろんよ。今回は……ごめんね? みんな。それに二乃ちゃんも五月ちゃんも」
一瞬だけ目に鈍い光を灯すと、ハルさん先輩はそのあとすぐにそれを引っ込めて同じ顔二人に謝罪し始めます。その二人はなんだかハルさんにビビりまくりで、カクカクしてました。
それにしても……結衣先輩。
どうしてこんな話を?
なんだか嫌な予感が……
「あ、そうそういろはちゃん! そういえばもう枕にはトラウマなくなったかな?」
「え? あ、はあ。まあ流石にもう……はっ!?」
ま、まずい。これは激ヤバ!
横のせんぱいも勘づいたようで……あ、指で耳栓した。
逃げたなこの人!!
「枕? なんでそんなものにトラウマが?」
ハルさん先輩が疑問を口にします。
だ、ダメ。結衣先輩お願いそのシスコンにその話はやめて!!
「それがですね? 3ヶ月前、一人暮らしのヒッキーんちにいろはちゃんが酔ったふりして無理矢理お邪魔して……あ、もちろんまだいろはちゃんは未成年だから、わざわざお酒の匂いがする香水つけて、酔ったフリしてたみたいなんですけど〜。そのまま、酔って潰れたふりして、ヒッキーが寝るために布団に入った時にいきなり起き上がってですね? ここぞとばかりに襲いかかったことがあったんですよ〜」
あ、ぁあああああああああああああああ
「……へぇ。続けて?」
ハルさん先輩の一気に低くなった声が車内に響き渡る。
運転する私の、額にとめどなく流れる冷や汗をミラー越しに見ながら、結衣先輩は微笑を浮かべ話を続行しました。
「ヒッキーも不意打ちだったから……最後まではもちろんいかせなかったみたいなんですけど、深いチューはされちゃったみたいなんですよね。……そこに、合鍵をもってたゆきのんがちょうど帰ってきて……もう、ゆきのんがとんでもない怒り方したみたいで」
「へぇ」
ハルさん先輩が魔王モードに入りました。
結衣先輩はここでもう仕込みは済んだと思ったのか、一気にあっけらかんとして
「あとは、ゆきのんが近くにあった枕を投げまくって、いろはちゃんは自分に当たった枕がゆきのんに跳ね返るほどのとんでもない威力の豪速球を間近で浴びまくって、あまりの威力と恐怖に失神しちゃたってお話です♪ それから、いろはちゃんは枕にトラウマができてたんだよね〜? でももう治ったんだ! よかったぁ!!」
その話には続きがありましてね。
翌朝。事情を知った結衣先輩がせんぱいの家にやってきたんです。
そして二人の目がない時を見計らって、目を覚ました私に、息ができるかできないかのラインギリギリで枕を私の顔に押し付けてきたんですよ。
雪乃先輩が修羅ってた時も怖かったですが……
多分、結衣先輩のあれがトラウマの真の原因です。
真顔ですよ、真顔でそれやりましたからねこの人。
「私だって、怒るんだよ?」
あの言葉は忘れることはないでしょう。
結局、結衣先輩が怖かったのはそれだけで、あとは優しいいつもの結衣先輩に戻り、雪乃先輩を宥めてくれたのですが……
あの日は、結衣先輩を絶対怒らせちゃいけないって学んだ日です。
でも、そんなことも、私はもう言えるだけの元気はありません。
「一色いろはちゃん。……あとで私が取ったホテルについたら、私と二人でお話ししよっか」
完全魔王モードになったハルさん先輩が、私をロックオンしていたのだから。