一色の運転する車は、とあるホテルの近くにある駐車場にとまる。
それから一色と陽乃さんだけがその場に残り、俺と由比ヶ浜、二乃さんに五月さんと上杉がホテルの方に歩いた。
それからしばらく歩き、待っていてくれた三玖さんに連れられるように俺たちは雪ノ下たちがいるであろうホテルの部屋に向かう。
その部屋の前に着くと、三玖さんは由比ヶ浜と二乃さんと五月さんの胸部を見た後、ウンザリしたような顔をして俺たちに向けて言った。
「あの……みなさん。……ちょっとめんどくさいことになってるから、そこだけは覚悟しておいて」
「めんどくさいこと? いったい何なのよ三玖」
「どういうことなのですか? 三玖」
「……まさか、ゆきのん」
女子たちはそれぞれに反応する。
最初こそ三人とも頭にクエスチョンマークが飛んでいたが、由比ヶ浜だけは何かに気づいたかのように顔を顰める。
ついでに、今は俺も顔が渋いものになっていると思う。
なんとなく、今の雪ノ下雪乃がどんなことになっているかが想像できてしまったから。
「じゃあ、入るよ」
三玖さんが言って、扉が開いた。
* * *
「いやぁ……どうして……どうしてなのぉ……ぐすん。なんなのよ今日は、なんで私はこんな目に遭わないといけないのよ……もういやぁぁ」
「ど、どうしたのこの人……」
「な、何があったのですか一花」
入ってすぐに、ニ乃さんと五月さんは狼狽える。
というのも……中でホテルの部屋の床に崩れ落ち、泣きながら何かをブツブツ言っている俺のパートナーを見つけてしまったから。
元々中にいた一花さんと三浦は頭に手を当ててもうどうしようもないといったようで
ゲロリボンこと四葉は、そんな雪ノ下をどうしていいか分からないようでオロオロしていた。
どうでもいいけど、お前もう吐き気と酔いは何とかなったんだな。
少しして、床を涙で湿らせた雪ノ下雪乃は俺たちを見た。起き上がったその顔は赤らんでいて……
ああ、やっぱか。
酔ってるわこいつ。
「ご、ごごめんなさい比企谷さん……私が、沈んでいた雪乃さんを何とかしてあげたくて、なんとなく持ってた缶ビールあげたら……」
「……なあ、なんてことしてくれたんだよ……ゲロリボン」
「ゲロリボン!?」
頭を押さえながら言った俺の言葉に衝撃を受けた中野四葉。多分一花さんと三浦の目を話した隙にやったんだろう。二人のシラーっとした目線が四葉を襲っている。
そう。
雪ノ下雪乃は……精神が弱ってる時にアルコールが入ると、とてつもなく面倒な酔い方をするんだ。
「ゆ、ゆきのん……ほら、とりあえず、立てる?」
見かねた由比ヶ浜が野良猫に近寄るように雪ノ下に近づいた。
「むんっ!!!」
「ゆきのん!?」
稚い言葉を吐いて、雪ノ下は由比ヶ浜の手を払う。
ちなみに酔った時のこいつは何をしでかすか分からないブラックボックスだ。前に酔った時は俺の部屋の中で花火しようとしてたからなこいつ。
「……ゆいも、わたしをいじめるのね……ひっく……うしろのふたりも、わたしのこといじめてる。ここにいたよにんとおなじ」
「ゆ、ゆきのん? いじめてなんかないから!!! 」
由比ヶ浜が必死に弁明した。
半開きの目で雪ノ下は俺たち全員を睨む。
「うそよ、みんな、みんなわたしをいじめる。ゆいも、いちかも、よつばも、ゆみこもみくも、あとそこにいるふたりも、わたしのこといじめてる。でも、ひきがやくんとうえすぎくんはなかま」
……どういうことだ?
「……うっ……ひっぐ……うえ〜ん。おんなのこがみんなわたしをいじめる〜」
顔を下に向けて幼児みたいに泣き始めた。
「どうしたんだ雪ノ下……」
「比企谷でも分からないのか……」
俺と上杉もお手上げだ。
もうやだこの子。なんでポンコツになる時こんなトコトンポンコツに……
「なあ、雪ノ下。どうしていじめられたと思うんだ? 教えてくれ」
その俺の質問に再び顔を上げて、雪ノ下は泣いたまま、口を開いた。
「だってここにいるみんな、みんなみんなおっぱいがおおきいのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
一花さんや三浦、三玖さんの顔が馬鹿らしげにやつれていた理由が、分かった気がした。