〈視点、中野一花〉
「デビューしてから、もう割と東京にも慣れてきたもんだなあ」
ドラマの撮影を今日は終えて、私はなんとなく街を散歩したくなった。仕事の関係で、東京へは昔より格段に来ることが多くなった今でも、なんだかまだ地理関係には疎かったりする。
だけど......風太郎君が日常をここで過ごしているのだと思うと、それだけで不思議と親近感が湧いてきたり、、、
ふふっ。
もう他の女の、しかも我が妹の男なのに、私って何でこんなに単純なんだろうね。一花お姉さんちょっとおかしいや。
そう、見知らぬ土地なのに、彼がいるかもしれないと思うだけで心が弾む。それなりに人気の女優がわざわざ社長を押し切ってまで散歩に出てきた理由が、君とバッタリ会えたら……って理由だなんて、彼女がいるのに、全く君は罪作りな男だよ。
まあ、今はサングラスにマスクとボタっとした服装の露出の少ない姿だから、どうせ風太郎君は今私に会ったとしても気付かないだろうけどね。
そんなことを思いながら私は知らない街を歩く。そして少しすると、ちょっと大きめの公園が目に入った。ベンチででも少し休もうかなと思って、その公園の中に入ると......
「......追い詰めたわよ......その緑リボンとともに......果てなさい、比企谷君」
「おうおうおぅ......ぎもじわるいぃぃぃ......」
「おいここで吐くな!!ま、待て落ち着いてくれ雪ノ下話せばわかるっ! っヒィィ!? 」
黒髪ロングの雪女みたいな美人が、とてつもない殺気を放ちながら2人の男女を追い詰めていて、どこからかフォークをその男女にヒュッと投げつけていた。そのフォークは男女からは少し外れて、後ろにあった木に綺麗に垂直に刺さる。
え? なにこれナニコレ。
なんかのドラマの撮影?
そして、追い詰められているその男女の、女の子の方をよく見てみたら......
「よ、四葉ぁぁぁぁぁ!?!?!?!? 」
お姉ちゃんとしての本能からなのか、なぜか泥酔状態っぽいの妹のもとへ、私は考える間もなく駆け出した。
* * *
〈視点、比企谷八幡〉
……やばい。やばいやばいやばい。
なんとかサイゼリヤからこの酔っぱらい女連れてここまで逃げてきたはいいものの……
「......追い詰めたわよ......その緑リボンとともに......果てなさい、比企谷君」
俺と酔っ払いは追い詰められ、後ろの木にもたれかかる絵面になっている。この女はもうこれ以上は走れないだろう。……まあよくこの状態で走ってこれたとも思うが……
ああ、どうやってサイゼリヤで荒ぶる雪ノ下から逃げ出せたかって? あいつの気をほんのちょっと逸らすくらいは訳ないさ。「あ! あんな所にパンさんストラップを咥えた猫がいる! 」って言ったらちゃんと隙ができたからな。雪ノ下と一緒にいた男に俺の財布を投げて、支払いも押し付けてきた。
だが、今のあいつは鬼だ。
すぐに逃げる俺たちをとんでもない殺気を纏いながら追いかけてきた。それに大学生になってからのあいつは、体力問題もだんだん克服してきた訳だから……
こうして追い詰められちまったって訳だ。
「おうおうおぅ......ぎもじわるいぃぃぃ......」
「おいここで吐くな!!ま、待て落ち着いてくれ雪ノ下話せばわかるっ! っヒィィ!? 」
再び吐き気を催す緑リボン。
俺の頰を掠めて後ろの木に突き刺さったフォーク。
ああ……終わったのか?
「よ、四葉ぁぁぁぁぁ!?!?!?!? 」
「あ、あれへぇ? いちかぁ? う、うおぅぇぉえぇぇぇぇぇぇぇぇ」
誰かが来た。この泥酔女の知り合いか?
ものすごい勢いで名前を呼びながら、俺にもたれ掛かったままの緑リボン泥酔女に駆け寄ってくる。
緑リボンはまた口からナイアガラの滝を作っていた。
「うわっ四葉ひょっとしてまた飲んだの!? 弱いんだからあれだけ気をつけてって言ったのにどうして! 」
「だってぇぇぇ風太郎くんがゔぉえぇぇ」
「あ〜!! もう風太郎君なにをした〜!? 」
「楽しそうね」
鬼が、すぐそこにまで迫ってきていた。
新たにやって来た女の肩に、鬼は後ろから手を置く。ビクゥッとしたそのマスクにサングラスの女は、一気に体を緊張に固めた。
「……えっと、もしかしたらウチの四葉が何かしちゃったかな……姉として一緒に謝るから、その手を離してくれると嬉しいんだけど……」
「私の目的はただ一つ、、緑リボンのその子への事情聴取と、横にいる男の身柄引渡しよ」
「事情聴取ねぇ、、安全が保証されないみたいだから、素直にウンとは言えそうにないよ」
「……なら、どうするの? 」
「……うふふっ……どうしよっか」
ま、待て。
なんだか分からないが、この外見不審者女とウチのパートナーが一触即発状態だ。このままでは、、俺がもうどうにもできない事態に発展しそうな予感がビシビシする。
も、もう俺には何もどうすることも出来ないのか……
「ハァハァハァっ……お前らっ……ハァ……多分、勘違いだぞ……うおぅえぇ、、走りすぎた……」
俺が諦めの境地に足を踏み入れそうになったとき、
雪ノ下と一緒にいた男が、満身創痍の状態でこちらに駆けてきた。