近くて遠くてやっぱり近くて   作:鴨南蛮ver.2

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夏はビールがうまい
って思ってたらいつの間にか秋っぽいから山の幸でワインだわ


その時何を思ったのか

 

~あの時、ダリアは何を聞いたのか~

 

Side.Kohei

 

 

 

「んで耕平、辞めるってどういうことだ?」

 

何だかんだ長い付き合いになってきたジジイの問いに対しての俺の解はある。

 

だけどそれは解として成り立っているかはわからない。

いってしまえば…

 

「けじめのためだな」

「けじめだぁ?ガキがいうようになったなぁ」

 

そういって笑うジジイ。

 

「んで?けじめってこたぁ落とし前を着けなきゃいけないことをやらかしたんだよな」

「あぁ」

「何やらかしたよ」

「いや、これからやる」

 

まだ、やらかしていない。

これは本当である。

 

けど、これからやらかす。確実に。

 

「へぇ、んじゃこれから何をやらかすよ」

「俺は、俺のために一般人を殴り潰す」

 

俺の返答にジジイは、数瞬あっけにとられた顔をしたと思ったら爆笑し始めやがった。

 

「ははははは…あぁ、腹痛…それで、護るためにこの道場にきたバカはどんな理由で護る以外の理由で暴力を振るうんだ?護りたいって思った女のためか?」

 

すげぇ爆笑されたことにイラってくるが、このジジイに偽ったところで無駄だから今日あったことを、思ったことを話すとする。

 

 

「女の子が泣いてた」

「それで?」

「その涙を止めたいって思った」

「で?」

「それ以外に理由はない」

 

 

再び大爆笑される。

畳を転がり、バンバン叩きながら大爆笑される。

そして、一発ぶん殴られた。

 

ジジイの拳だがその威力は半端ではなく、壁まで吹っ飛ばされてしまう。

 

「お前さんの目標は家族を護るためだよな」

「…あぁ、そうさ」

 

口のなかを切ったのか、鉄臭さを感じながらも言葉を吐き溢す。

 

「それは家族を護るためになるのかよ」

「ならないな、心配はかけるだろうけど」

「それじゃあなぜやる」

「泣いていたから」

「お前が暴力をふるって泣き止むのか」

「…たぶん、いつかは」

「それでお前の護りたいやつは護られるのか?お前もいってただろ?心配をかけされるだけだってよ」

「あぁ、だから聞いてきた」

 

そう、道場に来る前に茉莉花に俺は打ち明けた。

これからやることを。

そしたら…

 

「そしたら心配だって言われた」

 

けど…

 

「けどな、ジジイ」

 

あいつは…茉莉花はいってくれた。

 

「"そこで動けないこうくんに護られたくない"っていってくれた」

 

不安そうな顔をしていた。

止めたそうな顔をしていた。

 

それでも押し出してくれた。

 

「だから俺は護るよ」

 

そんな茉莉花の思いに答えるために。

 

「俺は俺の意思に従ってあの娘を護る、それが茉莉花を護る俺だから…茉莉花を護る俺を護るために俺は動く」

 

俺の意気込みを聞いたジジイはひとつ、大きな溜め息をつき、

 

「それじゃ、なぜ辞めるよ」

 

そう、ぶっちゃけ有段者にもなってない俺は私情で武術を振るおうが破門なんかの罰は受ける謂れはない。

 

けど…

 

「ジジイが言ったんだろうが、力を持ったものには責任が付いて回るって」

 

そんで俺の腕前はジジイのお墨付きだ。

ダリアと並んで並みの有段者は既に越えてるもの扱いだ。

 

「有段者レベルならその責任はとらなきゃだろ」

「はぁ…お前なぁ、責任を取ろうって考えは偉い、誉めてやる。だけどな、取るからやるって考えはダメだ」

「んじゃどうすりゃいいんだよジジイ」

「単純に意識の問題よ、許されるのと許して貰うのはちげぇんだよ」

 

わかりゅ?とさっき殴ってきた頬をつっついてくる。

言葉と行動の全てでこっちを挑発してくるジジイに殴りかかりたい欲求に駈られるが耐える。

何だかんだこのジジイ鬼強いんだよなぁ…

 

「ってことで俺がお前に罰を与える

1つ、道場辞めるってなら辞めろ

2つ、その今回護る子も護るってんなら必ず護れ

3つ、今回送り出してくれた家族に何の形でもいいから報いろ

そして最後に、たまに遊びにこい、破門だから家にだけどな」

 

そういって今度は強めに頭を撫でてくるジジイ。

 

「今回護ってどうなったか報告に来いよ?酒の肴にしてやるからな」

「旨い肴じゃなくて辛い肴になるかもだけどな」

「ハハハ、それが青春ってもんだろ」

 

頭を撫でていた手が肩に添えられ、力強く叩かれる。

 

「精一杯正しいって思えるようにやってこい!」

「うっす!」

 

そうして俺は道場を辞めた

 

 

 

 

~クラブでの荒ぶり~

 

はてさて、面倒なことになったなぁ…

リカからヘイトをかっさらったはいいけど、

 

「ちょっとあんた!急に出てきてなんなのよ!」

「連れが絡まれてたからついつい出てきちゃっただけの一般性人男性ですね」

「連れ?そういえばあんた一緒になって騒いでた男じゃん!」

「ついつい、楽しくなっちゃってな」

「だよね!マジあがっちゃったよね!」

 

いえーい

 

と背後のリカとハイタッチ。

 

ついでに茉莉花ともいえーい。

 

「~~~!ほんっとあんたらねぇ!」

 

あ、やべ

ふざけすぎてたか?

 

激おこっ!って顔で掴みかかって来そうな女性。

 

はてさて、無力化は楽だけど騒ぎが大きくなるだけだろうし、多少すっきりするまでされるままが楽かな?

 

っとされるがままになろうとしたとき、間に割り込んでくる女性が1人。

 

ウェーブした長い銀髪。

女性にしては高い身長。

意思の強い眼光。

メリハリのある肢体。

 

その全てが記憶に残っているある女の子の成長した姿だと訴えてくる。

 

間に入って何も喋らず動かないその女性。うつむき加減なのもありその表情を伺う事ができない。

 

掴みかかろうとしていた女性も急な乱入に戸惑い、アイコンタクトであんたどうにかしなさいよと伝えてくる。

 

人間困ると意外と意志疎通が容易になるようだ。

ってことでなんか不穏な空気を醸し出すおそらく、間違いなく俺の知り合いだと思う女性に声をかける。

 

「えーと、久しぶり…ダリア」

 

その名を呼んだ瞬間に瞬発。

 

乾いた衝突音が俺とダリアの間に発生する。

いきなり正拳突きとは物騒ではあるが、その威力から予想から確信に変わる。

 

「ちょっと急になんなのよ!」

 

後ろからさおりの焦ったような声が聞こえてくるが説明する暇は暫く訪れそうにない。

 

「耕平っ!!」

 

その声とともに繰り出してくる蹴り。

その威力、速度、キレから俺が辞めた後も頑張ってたんだと実感させてくれる。

 

下段、上段、蹴り下ろしからの踏み込んで鉄山靠、その全てを受け、止め、堪えきる。

 

「なんでっ!」

「私たちにっ!」

「一言もっ!」

「なくっ!」

「辞めたのっ!!」

 

一言ごとに飛んでくる拳撃に蹴撃。

それを全て、受け止める。

 

「師範にはちゃんと伝えてたよねっ!」

 

繰り出された正拳突きを最初と同様掌で受け止める。

 

「真秀、泣いてたよ」

「…悪いことしたな」

「お兄ちゃん、だってさ」

「そりゃ本人から是非に聞きたかったな」

「私には言って欲しかったな」

「…止められそうだったからな」

「止めなかったよ、何でか聞いてたし」

「…マジかぁ」

 

思わず繋がっていない方の手で顔を覆ってしまう。

 

「なんで一言も残してくれなかったの?」

「なんでかぁ…女の子にカッコつけにいくのってばれたくないもんじゃん?」

「バカ…」

 

そう言って拳をほどき、抱き締めてくるダリア。

 

「ごめん、そして久しぶり、ダリア」

「いいよ、耕平」

 

そうして、俺たちは…

 

 

 

「え~と、お客様?他のお客様がおりますので…」

 

 

今、どこで何をしているのかに思い当たってしまった。

 

 

 




おまけ
耕平とダリアを見た周りの反応

リカ「ひゃーっ!ヒューヒュー!!」
さおり「え?えっ?えぇ…これどういうことぉ」
茉莉花「……(誰だろうあの女性こうくんの私の知らない交遊範囲だと…)」

店員「えぇ…(止めるに止めれない光景を眺めて)」
絡んできた女性客「えぇ…(急にラブコメが始まった件について)」

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