「すいません、葵先輩って人いますか?」
その日の朝、朝礼が始まる前にひとりの男がクラスを訪ねてきた。
「俺だけど、どうかした?」
見覚えのない顔と、先輩とこちらを称したことから後輩だと判断する。
「ちょっと相談したいことがあるんですけど…お時間いいですか?」
朝礼の時間まであと5分とないタイミングだが、その何か覚悟を決めた表情に、断るは失礼だと思い、話していた友人に朝礼に間に合わないかも知れないと言付けて、その後輩についていくことに決める。
「して、名前は?」
「境耕平っていいます、先輩」
「さて、それで相談って?」
境に案内され、なぜか体育館裏にまでつれられる。
ふむ、これは一時間目にも遅刻かも知れないな。
「もしもの話なんですけど…、もし自分の行いのせいで好きな人を泣かせてしまったらどうしますか?」
最初は急に何を言い出すんだと思った。
けどその真剣な目に、適当な質問なんかじゃないのが知れる。
好きな子と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、先日俺が告白し、見事玉砕した後輩の女の子、『日高 さおり』ちゃんのことである。
もし、彼女が俺のせいで泣いていたとしたら…
そんなの決まってる。
「自分をぶん殴ってやりたいくらい許せないに決まってる」
「じゃあ歯ァ食いしばれっ」
「は?」
境の拳が俺の左頬にめり込み、吹っ飛ばされた。
急に殴られた衝撃に、困惑や驚きがまずやって来て、そしてじわりじわりと痛みと、歯で切ったからであろう口の中に感じる鉄臭さが帰ってくる。
そして頭に血が昇る。
「な に すんだよっ!」
起き上がると同時に殴られた頬をと同じ場所を殴り返す。俺と同じように地面に転がった境に馬乗りになり、胸ぐらに手を伸ばそうとする前に
「お前の言った通りにしただけだろがっ!」
はね上がった境の頭突きをもろにくらい、目の前に火花が散ったようになる。
「言った通りだ?」
俺は何を言った?
確かに自分をぶん殴ってやりたいって言った。
けどその条件は?
つまり…
「俺のせいであの子が泣いてたって言いたいのか?」
「つい昨日、ついそこでな」
「なんでっ!!」
俺は確かにあの子にフラれた。けど、その後俺はなにもしてないぞ?フラれた男が付きまとってくるのも気味が悪いだろうからと近づいてさえない。
「人気な先輩は信者が沢山いていいですね、それこそ袋叩きにするくらいには」
「…っ、そういうことかよ」
苦々しくその言葉を吐き捨てる。
つまりは俺がフラれたって知った、奴らが過剰なやっかみを向けたってことかよ…
くそがぁ、自由に恋愛くらいさせやがれよ
「人気者も大変だな」
「変わりたいやつがいたらすぐ変わってやるよ」
「少なくても俺は遠慮する」
「ちっ、残念だ」
馬乗りになってた状態から立ち上がり、手を差し出す。
「んで、どうすりゃいい」
「それを考えようぜ」
境は俺の手をとり、立ち上がる。
「そんじゃまずは、俺を殴れよ」
「は?」
「今俺の方が一発多く殴ってる」
「は?そんなことかよ、そんなもん俺の方が年上なんだから余裕を見せて許してやるよ」
「は?先輩はやられたらやり返せないようなチキンなんすね」
……。
睨み合う。
「上等だ!全力でブッ飛ばしてやらぁ!!」
「バッチコイや!このへなちょこパンチ!!」
結局、二時間目に遅刻した。
そんなこんなでこのふたりは仲良くなって、あの放送に繋がります。
ふたりとも頬を腫らした状態であの放送をやってます。