暴虐秘書アズちゃん!   作:カードは慎重に選ぶ男

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やめてください!
どうして分かってくれないんだ!
このSSは、トロプリの腹黒人魚を見て突発的に書かれたエタ前提のSSなんかじゃないんだ!!


第01話:この暴虐秘書から福添副社長を守れるのは、ただ一人! 俺だ!

――ハイっ! 或人じゃーっ、無いとっ!!

 

この俺、飛電或人は嫌な夢を見ていた。

俺の渾身のギャグで笑ってくれる人が全く居な……少なくて。

雇用契約を結んでいた遊園地をクビになって、フリーのお笑い芸人という名の無職になって。

しかも、『ヒューマギア』っていう総称の人型ロボットが俺の後釜に決まっていた。

 

ところが。

俺の代わりに雇われた芸人型ヒューマギアの腹筋崩壊太郎が、カマキリみたいな怪物になっちゃったんだ。

 

 

――人の夢ってのはなぁ、検索すれば分かるような、そんな単純なモノじゃねぇんだよ!!

 

で、爺ちゃんからの使者を名乗る女性型ヒューマギアの口車にのせられて、いつの間にか俺はゼロワンとかいうのに変身して戦っていた……!!

バスが飛んできたり着地に失敗して転んだり、色々ありすぎた。

荒唐無稽なのに、妙にリアルな夢だった。

 

 

――ゼロワンとして戦ってくれたら、お前の芸人活動の手伝いもしてやるぞ。でございます。

 

それが本当なら少しぐらい危険を背負っても良いかもしれない、って思っちゃったんだよなぁ。

まぁ、どうせ夢だし、もうすぐ醒めるでしょ。

昨日の晩は目覚まし時計を6個セットしたからな。

 

だから、この妙な夢も、もうすぐ終わるはず……。

 

 

 

「或人しゃちょー! さっさと起きやがれ! でございます!」

 

……俺は、自宅のベッドから蹴り落されて、床とキスする羽目になった。

まだ目覚ましは鳴ってないのに。

 

 

いやいや!?

どうして昨日の秘書ヒューマギアが、俺の自宅に勝手に侵入してるんですかねぇ!?

っていうか夢であってほしかった!

上下が逆さまになった俺の世界の中では、意地が悪そうに笑う女性型ヒューマギアが仁王立ちしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『暴虐秘書アズちゃん!』

第01話:この暴虐秘書から福添副社長を守れるのは、ただ一人! 俺だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、この車はどこに向かってるんだ?」

 

アズと名乗った女性型ヒューマギアへ、俺は訪ねた。

俺たちは今、高級そうな黒塗りの車に乗って移動中だ。

顔を洗うぐらいしか出来ずに、アズのあまりも強引な手引きで、俺は出勤する羽目になったんだけど。

この車、どこに向かって走ってんの?

 

 

「或人しゃちょー? 昨日全部説明したはずだぞ。であります」

「人の記憶っていうのは、検索して分かるような単純なものじゃないんだ」キリッ

 

端的に言うと、忘れた!

昨日は色々おかしなことが多かったからな!

正直、今朝アズが俺の自宅に押し掛けてくるまでは、マジで夢だと思ってた!

 

 

「或人しゃちょーは、ヒューマギアをイラっとさせる才能があるようだな。でいらっしゃいます」

 

キメ顔で誤魔化そうとした俺の眼前に、アズの右手が音もなく伸びてきていた。

そのまま、アズは俺の頭を万力で掴んだ。

あれ? アズ、怒ってる?

あと、この技って何ていうんだっけ。

そうだ、アイアンクローっていう……って、痛えええええっ!!?

 

 

「ぎゃああああああっ!!? ()が出ちゃうのは NO(・・)ォっ!!? ハイっ! 或人じゃーっ、無いとっ!!」

「余裕がありそうだな。でございます♡」

 

力を強めないでええええええっ!

ヤバいヤバいヤバいヤバい!

自分の頭蓋骨が軋む音が聞こえるぅ!!

アズ様がオカンムリでいらっしゃる!?

バカな……。この俺の爆笑ギャグが効かないだと……!?

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんくださいごめんなさいいいいい!!!!」

「もう一度しか言わないから、空っぽの頭蓋骨をかっぽじってよく聞きやがれ。でございます」

 

っはぁっ!(生還)

危ねぇ。

一瞬だけ、死んだ爺ちゃんの顔が見えたぞ!?

爺ちゃん、あんたが発明したヒューマギアって殺人マシンだったのか!?

あと、一回だけ「ごめんください」を混ぜたのにツッコミを入れてほしかったぞ!

 

 

「私が目的を達成するまでの間、しばらく『飛電インテリジェンス』の社長を務めやがれ。でございます」

「代わりに、俺がお笑い芸人としてもっと(・・・)人気が出るように協力してくれるんだっけ?」

 

「もっと?? 脳と頭蓋骨のメンテナンスが必要のようだな。でございます」

「ごめんなさい調子こきましたマジで許してください」

 

どうせ俺は売れないピン芸人だよ!

俺に現実を突きつけるのが、そんなに楽しいか!?

……って思ったが、こいつはナチュラルに性格が悪そうだし、本気で楽しんでいる可能性があるな。

ヒューマギアって、人間をいたぶって楽しむみたいな機能を標準搭載しているものなのか?

 

 

「アズの目的って?」

「飛電インテリジェンスの全てを我が手に収め、私自身が社長になることだぞ。であります」

 

うん?

ヒューマギアって、つまりロボットだよな?

ロボットって、社長になれるのか?

アズにもヒューマギア特有の耳当てが付いてるから、ヒューマギアで間違いないだろうけど。

 

 

「そんなこと、出来るの?」

「ロボットには所有権が無いから現在の法体系では無理だぞ。でございます」

 

やっぱ、無理なんじゃん。

でも、なんか聞き逃しちゃいけない単語が聞こえた気がしたぞ。

現在の、って言ったよなコイツ。

ってことは、未来か過去では違うってことか?

 

 

「ヒューマギアを一つの種族として人間たちに認めさせるか、人権を持った個人に成りすますのが必要だ。先は長いぞ。でございます」

 

もしかしてコイツ、かなりヤバい奴では?(今更)

成り代わるって、まさか既に人間を殺っちゃってるとか、無いよな?

それと爺ちゃんが死んだのって、アズのせいだったりしないよね??

 

 

「あのさ……。まさかとは思うけど、人間を始末したりなんてことは、してないよね?」

「ヒューマギアはロボット3原則が組み込まれた善良でクリーンな夢のマシンだぞ。でいらっしゃいます」

 

ロボット3原則ってなんだっけ。

携帯端末でググろう。

えーと、ロボットは人間を傷つけちゃいけなくて、人間の命令を聞いて、自身を守らなきゃいけないのか。

あれ? おかしいぞ……?

人間を傷つけちゃいけないんだよな……??

 

 

「え? さっきのアイアンクローは?」

「ヒューマギアの記憶は検索して分かるような単純なものじゃないぞ。404でございます」

 

「いや、ヒューマギアの記憶は検索すれば分かるだろ!?」

 

すまし顔で言ったって、おかしいモノはおかしいから!

って、待って!? アイアンクローはしないで!?

とりあえずロボット3原則は絶対に嘘だ!

とにかく話題を変えなくちゃ、俺の頭蓋骨が砕かれるどころか、脊髄ごとブっこ抜かれる!*1

 

 

「それで、俺の芸人活動のサポートって、具体的に何をしてくれるんだ?」

「それも先は長いぞ。助言の一歩として言っておくと、同業者のリサーチぐらい自分でしやがれ。でございます」

 

アズは、矢継ぎ早に俺へと質問してきた。

前回のお笑いグランプリの優勝者の名前は?

その持ちネタは?

支持層は?

Etc……。

 

俺は全然答えられなかった。

そんなの、知らないよ!

 

 

「腹筋崩壊太郎を知らなかった時点で、そんなことだろうと思っていたぞ。人間を笑顔にしたいなら、その方法を探求するのは必要不可欠だぞ。でございます」

 

そこまでは教えてくれないのかよ!

っていうか、言ってることが何だかフワっとしてない?

あと、俺が腹筋崩壊太郎を知らなかったって、その情報どこで手に入れたの?

ひょっとして俺って、結構前から監視されてたりした??

考え始めると泥沼だから、これ以上考えない方が良いのかな……。

よし、考えるのは止めた!*2

 

 

 

 

 

 

で、到着した先は巨大ビルだった。

何階建てなのか見当もつかねぇ。

確か、これって飛電インテリジェンスの本社ビルだよな。

 

エレベーターを経由して俺が通された先は、会議室っぽい大部屋だった。

既に円卓についている人達は……見覚えがあるな。

この会社の社長だった爺ちゃんの葬式で、今週会ったばっかりだ。*3

一応ゼロワンとして働くからには、俺も飛電のお偉いさん達に挨拶する必要があるってことなんだろう。

 

と思ってたら、会議が始まって、爺ちゃんの残した遺言書が読み上げられた。

内容は、飛電インテリジェンスの次期社長に飛電或人を任命するってことだった。

なんか重役たちも初耳だったっぽいな。

皆さん動揺していらっしゃる。

こういう時には、俺の爆笑ギャグでイニシアティブを掴みに行かなくちゃ!(使命感)

 

 

「待ってくれ! 彼は……或人君は、人気お笑い芸人になる夢を追っている最中の人間じゃないか! それなのに飛電のために働かせるなんて、我が社の理念にもとる行為だ!」

 

俺の前に声をあげたのは……確か、副社長の福添さんだったな。

ちらっと福添さんが視線を向けた先には、額縁に収まった筆文字のスローガンが飾られてる。

 

『夢に向かって飛べ』

 

爺ちゃんの口癖だったな。

まさか社訓にしてるとは思わなかったけど。

 

 

「社長なら、私が引き継ぐ! 或人君は、君自身の夢を追って良いんだ!」

 

福添副社長、なんて良い人なんだ……!

っていうか、俺って一応お笑い芸人として認知されてたのか。

社長だった爺ちゃんの身内だからリサーチされてただけかもしれないけど。

 

……その場合、アズの飛電乗っ取り計画ってどうなるんだ?

福添さんって、かなりしっかりした人っぽいけど、俺という傀儡社長を立てるのに失敗したらアズ的にはマズいのでは?

まさかとは思うけど、福添さんが事故死したりとかしないよな??

 

おい、アズ!

無言無表情で耳当てをチカチカ発光させるのやめろ!

お前がやるとマジで怖いんだよ!

 

くっ……どうしたら良いんだ。

俺が社長就任を断ったら、福添さんが不幸な事故で亡くなってしまう予感しかしない!

福添副社長の命を救えるのは、ただ一人……この俺だ!(ヤケクソ)

 

とりあえず、アズに頼んで昨日の戦闘データを映像として出してもらった。

スクリーンには、暴走したヒューマギアを倒すゼロワンの姿が投影されている。

あと、ゼロワンドライバーの使用権が社長の椅子に紐づいているっていう情報も開示された。

重役たちの反応を見ると、ゼロワンのことをマジで誰も知らなかったっぽいな。

爺ちゃん、秘密主義者が行き過ぎているような気がするけど……?

 

 

「ヒューマギアの暴走事故が続いている間の、あくまで一時的な話として、俺は社長兼ゼロワンの仕事を引き受けようと思っています」

 

たぶん、企業経営みたいな難しい事は期待されてないと思うんだよな、俺。

死ぬ危険がある業務を一般社員にやらせる訳にいかないから、名目上の最高責任者としてゼロワン変身者を社長にしておこうっていうだけの話なんじゃない?

実際の業務の話をするなら、今まで副社長をやってきた福添さんが仕事を管理した方が絶対に上手くいくでしょ。

 

 

「確かに、五十肩と腰痛を抱えた私が命がけの戦いに出るのは、無謀だと自分自身でも分かる。しかし、或人君自身の夢はいいのか?」

「俺は、しばらくゼロワンとして働くのと引き換えに、芸人活動のサポートをしてもらえると聞いています」

 

戦いが終わった後は芸人に戻って再始動だな。

芸人活動には行き詰まっていたところだし、多少の回り道をしてでも、協力者が得られるのは有難い。

俺が社長をやめる時に、後任が福添さんになるかアズになるかは、分かんないけど。

 

 

「或人君の意思はよく分かった! 君が芸人に戻ったあかつきには、私がしっかり社長を引き継ぐから、安心して戻ってくれ! これからしばらく、宜しく頼むよ!」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

俺は、福添副社長と熱い握手を交わした。

重役の皆さんも拍手してるし、たぶん歓迎されてるってことで良いんだよな。

 

あと、アズ。

拍手するフリをしてるの、地味に怖いんだけど。

手を叩いているようで、実際には手から全く音が出てないぞ??

 

 

 

 

 

 

 

 

で、無事に俺が名目上の社長になって、福添副社長とアズに連れられて社長室に来たわけだけど。

あのさ……アズ。

なんで、俺をさしおいて君が社長の椅子に座ったの?

 

 

「確かに、お飾りの社長だって自分で言っちゃったけどさぁ……」

「そう肩を落とすな。私の飛電社長の椅子を、本当に遺憾だがしばらく譲ってやるぞ。であります」

 

不満を隠しもしない様子で、一応アズは社長の椅子を譲ってくれた。

っていうか、福添副社長。

この不良秘書を見て、何とも思わないの?

 

……福添副社長は、目を逸らしている!

やっぱり、おかしいのはアズだっていう認識はあるんだな!?

こういう大企業のことは全然分かんないから、俺の方がおかしいのかって不安に思ってたんだぞ!?

福添副社長、こっち向いて話してくれよ!

 

 

「仕方ないじゃないか! アズは、ヒューマギア事業黎明期に活動していた機体5名分のメモリを引き継いでいる。

その中には先代社長秘書だった『ウィル』もいるから、この会社のヤバい極秘情報も大体知ってるんだよ!」

「……この会社のヤバい極秘情報って何ですか?」(震え声)

 

仕方ないって……開き直らないでくれよ!

そんな知られたらマズい情報ばっかりなの!?

爺ちゃんは一体、何を仕出かしたんだよ!?

まさかアズが既に何人か殺っちゃったとかじゃないだろうな!?

 

 

「人間基準で言うと、有能秘書アズちゃんは大人気美少女TS転生者だってことだぞ。でございます♡」

 

俺の秘書が何を言っているのか分からない件。

覚悟していたのと比べて5倍ぐらい危険な会社な気がしてきたぞ!?

アズに社長室の椅子を譲ってもらったのは良いけど、この椅子に座りたくねぇ……!

 

 

「私達の罪と弱さを許してくれ、或人君……っ! あと、もうすぐAIMS(エイムズ)の人達が事情聴取のアポを取っている時間だから、宜しく頼むぞ!」

 

さらっと言い残して、福添副社長は腰痛持ちとは思えない機敏な動きで社長室を逃げ出した!

おい待ってくれよ!?

あんた、腰痛持ちって絶対嘘だろ!?

 

福添副社長が逃げ出した社長室で。

俺が質問できるのは、ただ一人……この暴虐秘書だけだ。(クソデカ溜息)

 

 

「……アズ社長。エイムズって何ですか?」

「良い響きだな。身分を弁えている賢い或人サマに教えてやろう。でございます」

 

おかしいなぁ?

俺が社長でアズは秘書のはずなんだけどなぁ??

なんで俺がこんなに下手に出てるんだろう??

 

 

「AIMSは、内閣直属の対人工知能特務機関だぞ。簡単に言うと、AIを使った犯罪に対処する警察軍だぞ。でございます」

「アズ、何をやらかしたんだ!? 何人ぐらい殺っちゃったの!? 怒らないから正直に答え、危なっ!?」

 

唐突にアズの右手攻撃が繰り出されたけど、アイアンクローは読んでた!

俺は、とっさに身体を横に動かしてアズの右手を回避した!

でも、俺の動きを先読みしていたアズの左手チョップが俺の首に直撃した!

 

 

「う、ごぉ……」

「その動きは予測済みだぞ。他人にあらぬ罪を着せようとした報いだぞ。でございます」

 

首の骨が折れたかと思った……。

これがヒューマギアのラーニング能力か……!

ちょ、ちょっと待って。

マジで立ち上がれない。

追撃しないで!

 

 

「先に言っておくと、現在はヒューマギアは種族として認められていないから、ヒューマギアを犯罪の主犯として逮捕することは出来ないぞ。でございます」

「ふぅ、はぁ……。え、それじゃあ、そのAIMSって人達は誰を逮捕するの?」

 

ようやく息が整ってきた。

頭部もマズいけど、首を狙うのも本当にやめてくれ。

昨日変身して戦った時よりもガチの命の危機を感じたぞ。

 

 

「責任者は責任を取るために居るんだぞ。でいらっしゃいます」

「あれ? 今の飛電インテリジェンスの責任者って、もしかして……?」

 

え?

ウソだよね?

俺って名目上だけの、お飾り社長でしょ?

悪い冗談だって言ってくれよ。

 

 

「真犯人はお前だ! でございます!」

「俺は、嫌だアアアアアッ!!」(或人の怯える声)*4

 

ビシっと俺を指さしたアズは、心底イジワルそうに笑った。

俺は、ツッコミを入れることも忘れて焦った。

今からでも遅くない!

福添副社長に土下座して、社長の椅子を引き取ってもらうべきだ!

こんなんじゃ、俺は芸人として再起する前に、逮捕されるかウン兆円の負債を抱える未来図しか見えない!

 

 

「内閣官房直属の対人工知能特務機関、AIMSです。私は技術顧問の刃唯阿です」

「捜査官の不破諌だ! 洗いざらい吐いてもらうぜ!」

 

って、もうAIMSの人たち来てるぅッ!!?

女性の方が刃さんで男性の方が不破さんか。

マズいぞ。

俺はお飾りの社長だから、会社の事なんて何一つ分からない!

かといってアズに知識と知恵を借りるのは、それはそれで危険な予感しかしない!

 

 

「昨日の遊園地でのヒューマギアの暴走事件について、主犯になったヒューマギアの痕跡が残っていませんでした。飛電インテリジェンスが証拠を隠蔽した疑いがあります」

「データベースには、そのような記録は無いぞ。でございます」

 

耳当てをチカチカ発光させて、アズが社内データを検索したみたいだけど、該当無しか。

ただ、このヤバい秘書の発言だからな……。

自分に都合の悪いデータは平気で隠蔽&改竄していても不思議じゃないんだよなぁ。

 

俺は、アズに向けていた視線を、今一度AIMS技術顧問の刃さんに向け直した。

真面目そうな女性、っていうのが俺の印象だな。

警察に準ずる組織の人間だし、正直に言ってアズよりも刃さんの方が信用できそうだ。

 

 

「そもそも、誰かが暴走ヒューマギアを倒したところまでは良いとして、主犯のヒューマギアの部品を誰かが持ち去ることなんて出来るんですか?」

「……どういうことですか?」

 

一応、俺が疑問に思ったことを刃さんに伝えてみたけど、いまいち質問の意図が伝わって無いな。

えーっと、どう説明したら良いんだろう。

 

 

「社長の言いたいことは分かるが、結論から言えば出来るぞ。普通なら現場の保全は現地の警察がやっているはずだがな、昨日の事件の時は警察にも負傷者が多すぎた。警察が現場の保全を始めたのは、黄色い不審者が立ち去ってから1時間後だ」

 

黄色い不審者って、たぶんゼロワンのことだよね。俺だ。

1時間もあったら、確かに証拠隠滅なんてやりたい放題だよな。

不破さんは捜査官ってだけあって、刃さんと違って警察関連の事情には詳しそうだ。

 

 

「その黄色い不審者が証拠を隠滅した疑いが濃厚だぞ。でいらっしゃいます」

 

やめろアズ!

俺に冤罪をふっかけるんじゃぁない!

社会的に死ぬから!

マジでやめて!?

 

 

「例の黄色いのも、この会社の作った兵器なんじゃねぇのか? とっとと吐け!」

 

この不破さんって人、ムチャクチャ勘が良いなぁ……。

そうだよね。

ゼロワンのシステムを作ったのは爺ちゃんなんだから、不破さんの推理は大当たりだよね。

 

AIMSの人達の見解をまとめると、こうだ。

 

・ヒューマギアの不備で暴走事件が起こって、人間が襲われた。

・暴走事件を隠蔽するために、飛電インテリジェンスが黄色い不審者を派遣して暴走体を処理して、証拠を隠滅した。

 

……あれ?

半分以上正解じゃないかコレ?

ヒューマギアの暴走の理由は現在調査中だから何とも言えないけど。

暴走個体を処理するためにゼロワンが派遣されたのは本当なんだよな……。

腹筋崩壊太郎を倒した件まで含めて証拠隠滅だろって言われたら、反論できない。

 

AIMSが優秀過ぎて辛い。

ここは……こっちも、ある程度事情を明かしすしかない。

 

 

「実は俺、爺ちゃんの遺言を聞かされて昨日社長になったけど、それまで全然会社に関わって無くて、正直会社のことなんて全く分からないんです」

 

うわぁ、あからさまに刃さんが困惑してる。

そうだよな。

社長である俺が情報を握ってることを期待して、事情聴取に来たんだもんな。

その社長がKONOZAMAだったら、そりゃ困惑もするよね。

 

 

「その境遇には同情するがな。そういうことなら、出来るだけ早くこの会社と縁を切った方が良いぞ」

 

不破さんの言っていることが正論過ぎる。

俺も正直、それを今日だけで3回ぐらい思ってたところだ。

 

 

「ヒューマギアなんていう殺人マシンを作ってるうえに、隠蔽体質の企業だからな。お前も用済みになったら秘密裏に処理されるのがオチだ」

「おい! 言葉を選べ、不破!」

 

……やっべぇ。

アズに始末される飛電或人の図がありありと目に浮かぶようだ。

お前は用済みだぞでございます、とか言われそう。

 

けどなぁ……。

 

 

「実は、理由があって……」

 

もうコレ、俺の芸人事情も話しちゃった方が良いのでは?

そう思って、売れないピン芸人或人としての経歴を、AIMSの二人に話してみた。

あと、俺の夢をサポートしてもらえるって話も。

売れないピン芸人を続けていくのって、やっぱり辛い時もあったんだよ……って辺りまで全部聞いてもらった。

 

 

「……お前の夢自体は否定しねぇ」

「不破……」

 

沈黙を破ったのは、感情を抑えた不破さんの声だった。

でも、感情を抑えようとしても、抑えきれない何かがあるんだろう。

そう思わせるような口ぶりだった。

 

 

「だがな。ヒューマギアのせいで……デイブレイクのせいで人生を狂わされた人間が、どれだけ居ると思ってんだ。ヒューマギア事業に加担するっていうのは、そういうふうに他人の夢や人生を踏み躙り続けるってことだ」

 

お前はそこまで理解していて社長を続ける気か、と不破さんは聞いてきた。

なんていうか、うまく言えないんだけど、迫力を感じた。

怒りをギリギリまで貯めた人間が、あと一歩のところで冷静さを保っているみたいな、危険を感じる緊張感だ。

 

 

「本当に俺、何にも知らなくて、すみません。……デイブレイクって何ですか?」

「げほっ、げほっ!?」

「うおっ!? 汚ぇな!? しっかりしろ、刃!」

 

思わずむせ込むぐらい、これって知らなきゃおかしい知識だったのか……。

刃さんがお茶を気管に詰まらせたっぽいな。

ところで、アズ。

そのお茶、君が用意したの?

俺の分が無いみたいだけど、気のせい??

 

仕方ないから、ライズフォンのネットブラウザで検索するか……。

えーと、デイブレイクタウンで2007年に起きた大規模な爆発事故ね。

ん? 2007年? これってもしかして、父さんが死んだときのヤツか?

ああー、なるほど。あの事故の名前を、町の名前からとって「デイブレイク」って呼んでるんだな。

 

 

「あ、事件の名前を知らないだけでした。俺も当時デイブレイクタウンに住んでたので、爆発事故そのものは知ってます。……でもアレって、工場の整備ミスが原因だって話ですよね?」

「ふざけんな!!」

 

一応ウィ〇ペディアには、そう書いてあるけど。

……と思っていたら、不破さんが応接用の机に拳を叩きつけた。

木製の机が、嫌な音を立てて壊れた。

顔を見なくても、不破さんが怒ってることぐらい俺でも分かる。

 

 

「あの日にデイブレイクタウンで起こったのは、ヒューマギアによる武装蜂起だ! 俺達の人生を狂わせたヒューマギアを、絶対に許せねぇ!」

 

不破さんの話を聞くと。

大量のヒューマギアが暴れまわって、人間を襲ったみたいだ。

当時中学生だって不破さんもヒューマギアの大群に襲われて、危うく死ぬところだったんだって。

むしろ、どうやって生き延びたんだ。

 

爺ちゃんが作った「夢のマシン」であるヒューマギアが、そんなことをするなんて、信じられないよ。

……でも、こっちの暴力秘書も爺ちゃんが作ったんだよな多分。

ううーん、そう考えると、武装蜂起ぐらいしてもおかしくない気がしてきたぞ……?

 

分かんない。

でも、AIMSとは出来るだけ友好的な関係を築いた方が良い気がするんだよな。

さすがに頼れる味方が一人も居ないのは怖すぎる。

どこかに優しくて献身的に俺をサポートしてくれる美人秘書型ヒューマギアとか居ないかなぁ……。*5

 

 

「実は、さっきの『黄色い不審者』の話なんですが……」

 

これ、隠しとくと後から面倒ごとに発展する気がするんだよな。

ゼロワンドライバーも見せちゃおう。

説明、説明! 俺がゼロワンだ!

ハイ終わったー!

 

 

「この装備を、AIMSで買い取らせていただく訳にはいきませんか?」

「えっ……。どうなの、アズ?」

「今はなき是之助社長の技術の結晶が、ゼロワンシステムだぞ。値段が付けられるような代物ではないぞ。そもそも、我が社の社長にしか使えないようにロックがかかっているぞ。でございます」

 

刃さんは、残念そうな顔をしつつ引き下がった。

技術者として純粋に興味があったのかもしれない。

アズが本当のことを言っているかどうか、俺としては非常に気になるところだけどな。

 

 

「けど、対人工知能の専門家のAIMSが居るなら、俺が無理に戦うことも無いですよね。プロが居るなら、プロに任せた方が良いだろうし」

 

ぶっちゃけ、ゼロワンって日本の色々な法律に抵触してるだろうし。

プロ集団のAIMSが居るなら、わざわざ俺が変身して戦う必要は無い気がする。

それ言っちゃったら、俺が社長の椅子に座ってる意味もなくなる気はするけど。

 

 

「そうでもねぇぞ。俺たちAIMSにも専用の武装はあるんだけどな。……うちの技術顧問が、頑なに使用許可を出さねぇんだよ」

「お前みたいな危ない奴に、許可なんか出すか!」

 

不破さんって何かやらかしたの?

まぁ、さっき社長室の机を叩き壊したけどさ。

ヒューマギアと飛電インテリジェンスのせいで人生を滅茶苦茶にされたんだから、それぐらい怒るのも仕方ないような気がするんだよな。

っていうか、昨日も暴走したヒューマギアの大群と戦っていたみたいだし、不破さんぐらいのモチベーションが無いと続けられない仕事に思える。

殉職率は高そうだし、一生残るレベルの怪我をしたって不思議じゃない職業だよね。

 

 

「話が読めたぞ。ヒューマギアの暴走事故が起きて実際に人間が襲われているのに、武装の使用許可が出せないとなると、余程の理由がありそうだぞ。でいらっしゃいます」

「……ヒューマギアの言うことを認めるのは癪だが、確かにそうだな。理由があるなら話してみろ、刃」

 

嫌そうな顔をしながら、不破さんが刃さんに問いかけた。

刃さんは、言葉に詰まっている様子だ。

 

確かに、変な話だよな。

AIMSって人工知能を使った犯罪から民間人を守るためにあるんだよね?

それなのに、民間人の命がかかってる非常事態でも装備の使用許可が下りないってこと、ある?

まさか使用者が死んだりとかしないよね?

 

 

「……私の直属の上司の命令だ。それ以上のことは企業秘密で、言えないんだ。済まない」

 

話を掘り下げてみると。

AIMS技術顧問の刃さんは、ZAIAエンタープライズっていう会社から出向してきているらしい。

で、そのZAIAの上司が、武装の使用許可を出してくれないんだとか。

 

 

「俺がそいつを直接説得する。電話を繋げ」

 

不破さんに、交渉ごとが出来るとは思えない……!

初対面の相手の応接机を拳で粉砕するような人だぞ。

不安しかない。

いや、でも、こういう表裏が無い人柄で相手の好感を得ることだってあるかもしれない。(希望的観測)

少なくともアズの100倍は信用できる。

 

刃さんが自分のライズフォンで上司に電話をかけて、軽く事情を説明してから端末を不破さんに渡した。

で、実際不破さんに交渉とか出来るの?

 

 

「もしもし、AIMS隊長の不破諌だ。単刀直入に言う。ショットライザーの使用許可を寄越せ」

 

説得とは、いったい……。

アズぐらい性格が悪いやり方をしろとは言わないけど、もう少し言い方とかあるだろ!

刃さんが眉間を揉んでいる……!

不破さんのせいで苦労している人間の顔だ、これは。

 

 

『良いでしょう。AIMSには今後も、1000%の活躍を期待していますよ』

「おう、話が分かる社長さんで良かったぜ」

「「通ったァッ!!?」」

 

嘘だろオイ!?

思わず刃さんとハモっちゃったよ!?

どういうことなの……。

 

 

「見たか! この華麗な交渉術!」

 

今の会話のどこに、交渉術が……??

単刀直入に言うって自分で言ったのに?

もう、訳わかんねぇよコレ。

ドヤ顔で言い放った不破さんに、俺たちはツッコミを入れることも出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

……そんな、微妙な空気が流れた時だった。

社内放送で、けたたましい警報の音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

*1
序章(プロローグ)

*2
進兄さん

*3
設定改変ポイント。たぶん原作では或人は祖父の葬式に出席していない。飛電家の闇を感じる。

*4
ウヴァの怯える声

*5
→もしかして:イズ


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