「……ヒューマギアは、欠陥製品です。道具として使われるだけなら良いが、自我を持ったらアウトでしょう。人類の脅威です」
ボロボロの状態で地に伏している天津垓を見下ろしながら、俺は今まで見聞きしたことを思い出していた。
AIMSで不破さんや刃さんに聞いたこと。
敵だった迅と話したこと。
そして、飛電インテリジェンスでアズや福添副社長と意見を交わしたこと。
「天津社長の言う通りだ。ヒューマギアは……『夢のマシン』なんかじゃない。もはや自我を持った一つの種族だ」
「それでは……飛電インテリジェンスは奴隷売買組織では?」
――そもそも、ヒューマギアが自我を持った新種族だという前提に立つなら、飛電インテリジェンスは奴隷売買組織だという認識は持った方が良いぞ。でいらっしゃいます
アズにも同じことを言われたっけ。
不名誉な評価ではあるけど、そこを認めずに先に進むことは出来ない。
幸い、もうコンペ用のカメラは回っていないみたいだから、俺も誤魔化し無しで話せる。
「俺の暴力秘書にも同じことを言われたよ。それは認めるしかない」
「或人君は、期待していたよりも張り合いの無い人のようだ。もっと感情的になって、理屈も言えずに逆上すると思っていました」
天津垓からの俺への評価は、間違っていないと思った。
そこで逆上するのは、すでにアズを相手にやらかした後なんだ。
あれを一度経験しているから、あの時ほど感情的になっていないというのは俺自身も思う。
「一度この世に生み出してしまったヒューマギアを一つの種族として確立させてやるのが、飛電インテリジェンスとしての責任だと俺は思っている」
「しかし、その暁には地上に人類の居場所など存在しえない。君は人類を滅ぼすつもりですか?」
これに近い会話は、福添副社長と一緒にしたような気がするぞ。
けど、その時から一歩踏み込んだ答えを出さなきゃいけない場面だ。
一応俺なりに考えていたことがあるんだけど、それが天津垓に通じるかどうか分かんないな。
「俺が倒した迅を殺さずに仲間にしたみたいにさ。ヒューマギアが人間より繁栄しても、人間を殺すとは限らないんじゃないか?」
「地上の支配者となったヒューマギアは、捕まえた人間を利用価値の多寡でしか見ないかもしれませんよ。
平行線だ。
自分という人間をラーニングしたヒューマギアばかりなら人類は存続できる、と俺は言っている。
自分という人間をラーニングしたヒューマギアばかりなら人類は滅亡する、と天津は言っている。
どちらが正しいかなんて、俺には分かんない。
「人類がヒューマギアの下位互換になってしまう問題を解消するために、人類の作業能力を1000%にまで引き上げるZAIAスペックを私は開発しました。
君に、人類を滅亡から救う手段が開発できますか?」
自分こそが飛電インテリジェンスの全てを握るに相応しい人間だ、と天津は続けた。
確かにヒューマギアが人類の存続を脅かす存在になった時への回答を、俺がきっちり出せているかと言われたら怪しい。
滅亡迅雷.netとの戦いには勝利したけど、それも他の人やヒューマギアの尽力があってこその勝利だったわけだしなぁ。
このままのペースでシンギュラリティに達する個体が増え続けたら、人類はヒューマギアの下位互換になってしまうというのも正しい。
「確かに、天津社長は凄い人だと思う。俺にはZAIAスペックを開発するなんて無理だし、ゼロワンドライバーですら爺ちゃんからの貰い物だ」
ZAIAスペックに加えて、さっき天津垓が使っていたサウザンドライバーも多分この人の発明品だもんな。
開発者としての能力で言ったら、爺ちゃんと同じかそれ以上の人だと思う。
本当に凄い人だ。
俺が色々な人の意見を聞いて知識のゲタを沢山履かせてもらっているのに、言っていること自体は天津社長の方が基本的に正論だしなぁ。
でも、俺の方にだって言い分はあるぞ。
「けどさ。俺にも最近になって、他人に誇れる特技が見つかったんだ。ヒューマギアと仲良くなることだ」
迅の存在が、少しだけど俺に自信をくれた。
今日だって、もとは滅亡迅雷.netの一員だった迅と手を取り合って戦うことが出来た。
アズに関してはまだ打ち解けているとは言い難いけど……大分距離の取り方が分かるようになったと思う。
「そのおかげで、アズに社長の座を譲る日までは俺が飛電の社長をやってみようって、少し前向きに考えられるようになったんだ。だから、飛電の社長の座は渡せない」
「……なるほど。君と迅のタッグに敗れた天津垓は黙って人間とヒューマギアの仲を信じろ、という訳ですね。確かに筋は通っています。残念ながら……1000%、勝利は君達のもののようだ」
そこまで先を読んで発言した訳じゃないんだけど、まぁ天津社長が納得してくれたなら良いか!
というか、タッグを提案した不破さんも、どこまで想定してたんだろう。
不破さんは一応頭は切れる人だけど、人間の情緒に関しての想定力はちょっと別問題な気もするしなぁ。
「そっちも終わったようだな! こっちも無事に終わったぞ!」
……なんて俺が思っていたら、ちょうどよく不破さんが駆け付けてくれた。
戦っていた俺たちがZAIA日本支部の屋上から飛び降りちゃったから、観戦していた不破さんは追いかけてきてくれたんだろう。
と思ったが、不破さんの台詞には聞き逃せないフレーズが混じっていた気がするぞ。
不破さんの台詞には、俺たちが戦っている間に不破さんも一仕事終わらせたみたいなニュアンスがあったよな……?
「バルカン、そういえば僕たちが戦い始めてからすぐに居なくなったよね」
「お前たちが戦っている間に、ZAIA日本支部へのガサ入れを済ませてきた! 滅亡迅雷.netへの資金提供の証拠データもばっちり確保できたぞ!」
え?
不破さん、そんなことしてたの?
俺と迅のタッグを見たいって不破さんが言ったくせに、その戦いを見ないでガサ入れに行っていただと……??
っていうか迅も気付いていたのか。
もしかして気付いていなかったのって、俺と天津だけ……?
「……野良犬のように杜撰な狩りですね。令状も無しの違法捜査によって得られた情報など、裁判において証拠能力は1%たりとてありません。当然立件など出来ない」
「そんな事は分かってる。だがこの証拠を公表すれば、3本勝負の敗北が既に放映されたZAIAにとっては十分な追い打ちになる。まぁその場合、俺は違法捜査の責任で公職を追われるだろうけどな」
ボロボロの天津と不破さんの間で、ピリピリした雰囲気が流れた。
天津は不破さんのことを野良犬と呼んだけど、俺にはそうは思えなかった。
自滅覚悟で天津に食らいつく不破さんの姿は、犬と呼ぶには獣臭すぎた。
「お前の罪を立件できないのは残念だが、人々の安全のために衛星アークの破壊ができるなら、成果としては悪くねぇ。資金提供の情報を公表されたくなきゃ、衛星アークの破壊に協力してもらう」
「仕方がありません。君達に従いましょう」
自分の身を顧みない不破さんのスタンスに、天津も何か感じ入るものがあったのかもしれない。
何はともあれ、天津は頷いてくれた。
これで、衛星アークを破壊できる。
ヒューマギアの暴走も無くなるし、本当に滅亡迅雷.netの事件が収束するんだ。
「その前に、
「あ、ヤバい。アズの素体も屋上に置いてきたままじゃん……」
「そういえば刃の奴も来てねぇな……」
……微妙に締まらない会話を挟む羽目になったけど、まぁ仕方ない。
ZAIA日本支部ビルの屋上で冷たくなっているであろうアズたちを回収するために、俺たちは今一度特設リングまで戻ったのだった。
倒れている
なお俺は、復活した暴力秘書に殴られた模様。放置してゴメン……。
『暴虐秘書アズちゃん!』
第12話:天津垓を説得できるのは、ただ一人! 俺だ!
ZAIA日本支部ビルの屋上で、俺たちは天津を詰問していた。
主に気になるのは、衛星アークを盗んだ理由と、その現在地だ。
「そういえばさ。
「目的は主に2つです。1つは、私の黒歴史を隠滅するため。もう1つは、衛星アークを完全に破壊するためです」
ん……?
どういうこと?
衛星アークを破壊すれば、天津の悪事の証拠も隠滅できそうだけど?
迅の質問に対する天津の答えは、いまいち理解しづらいものだった。
天津社長は俺の表情から全てを察したらしく、追加で解説をしてくれた。
「12年前、衛星アークに関わるプロジェクトの一員だった私は、打上前の衛星アークに人類史のあらゆるデータをインプットしました。*1
しかし、人類の争いの歴史を学習した衛星アークはデイブレイクを引き起こしました」
「なんだと……!? じゃあ、あの惨劇の元凶は、てめぇだったのか!!?」
不破さんが、天津の胸倉を掴んだ。
凄まじい剣幕だった。
とてもじゃないけど、「やめてください」なんて言って間に入るような隙は無かった。
デイブレイクの時に人生を狂わされた人間の筆頭みたいな感じだもんな、不破さんって。
「落ち着きなよ、バルカン。少なくともサウザーは衛星アークに嘘を教えたわけじゃないんでしょ?
人類の歴史を教えたら、争いの歴史になるのはある程度仕方ないんじゃないかな。それに関しては何かの罪に問えるとは思えないよ」
……不服そうに天津垓を睨みながらも、一応不破さんは天津の胸倉から手を離した。
迅の言っていることには、筋が通っているようには見える。
天津は当時のプロジェクトに正当にかかわる立場にいたみたいだし、不正アクセス系の罪も成立しなさそうだ。
けど、納得できない不破さんの気持ちも分かる気がする。
「罪に問われずとも、衛星アークを悪意の化身として育ててしまったことは、この天津垓の人生において最大の汚点です。
ですから、衛星アークを完全に破壊するために、一時的にZAIA日本支部ビルの地下室に確保したわけです」
まるで意味が分からないぞ!
ライダーキックで物理的に粉砕すれば良いじゃん!
どうして物理的に破壊しないんだ。
「どうしてすぐに破壊しないんですか?」
「バックアップの有無を割り出してから破壊しないと、いずれバックアップから復活してしまいますからね。すぐに破壊するのも全くの無駄という訳ではありませんが……」
なるほど。
確かにヒューマギアもバックアップから復活したなんて例はあるわけだし。
アークにもバックアップがあってもおかしくないな。
だからZAIA日本支部ビルの地下に隔離して解析を進めているわけか。
やっぱり技術的な知識がある人の意見って大事だな……。
「じゃぁさ。サウザーが
ああ、そういえばそうだったな。
そもそも今回の騒動は、
その
ところが、迅の質問は天津にとって想定外だったみたいだ。
「
「てめぇ! この期に及んで、しらばっくれようってんのか!?」
素知らぬといった返答を見せた天津に、不破さんが再び掴みかかろうとした。
まぁ今度は俺と迅で止めたけどさ。
アズが間に入って、
「私は命じていません。それどころか、昨日実施した動作確認テストの以前は再起動すらしていないハズです。しかし、君達が虚偽のデータを私に見せる理由も無い。となると……」
顎に手をあてて、天津は考え込んでいるみたいだった。
そのまま数十秒もの間、天津は動きを見せなかった。
さらに1分ほど時間をおいて、ようやく天津は何かに思い至ったみたいだ。
ポケットからスマホより小さいサイズのリモコンのようなものを取り出した天津は、そのリモコンを不破さんに向けた。
天津はリモコンのボタンを押したが、その先に居る不破さんには特に変化があるようには見えなかった。
「…………まさか、
何かが妙だ。
食えない笑顔を固めていたはずの天津が、額に冷や汗を浮かべている。
そのリモコンは何なんだ?
不破さんが反応しなかったら、何がマズいの?
「或人君。確認したいのですが……不破君の脳内のチップに、最近何か操作をしましたか?」
「ええっと? ああ、そういえば仮面ライダーへの変身用データの他に不審なデータがあったから、飛電インテリジェンスで預かってたと思う」
――変身に全く必要のない不審なプログラムが検出されたぞ。でござる。
会話の流れから察するに、天津が持っているリモコンが、不破さんの脳内にあった不審なプログラムと関係しているんだろう。
でもそれが、
「1000%事態は急を要します! すぐに飛電本社に連絡して、そのデータを物理的にネットワークから隔離された場所に移してください!」
「アズ! よく分かんないけど連絡任せた!」
「さっきは私の存在自体を忘れていたくせに都合が良い社長サマだぞ。でいらっしゃいます……」
アズは不満そうな顔をしながらも、耳当てをピコピコ光らせた。
飛電本社は……福添副社長が留守にしている時って、誰を頼れば良いんだっけ?
専務の山下さんが居れば良いんだけど、ネットワークから隔離っていう意味を理解できる人が居ないと困るぞ。
……あれ? まさか俺以外の社員は全員理解できるとか、そういうレベルの話だったりする?
……なんて思っていた俺たちの耳に、不穏な声と音が届いた。
何かが壊される音に、誰かの悲鳴だ。
町中から煙が上がっているのが、ZAIA日本支部ビルの屋上からは見えた。
俺たちはエレベーター経由で地上1階の出口から退出した。
そんな俺たちの目に入ったのは、阿鼻叫喚の図だった。
ZAIAスペックを装備した人々が、正気を失ったような目をしながら通行人に殴り掛かっていた。
「何してるんですか!? やめてください!?」
「こいつらを止めるぞ! 手伝え!」
「あと1%、遅かったか……!」
俺や不破さん達で暴徒を取り押さえようとしたけど、暴徒と化した人々は凄い腕力で抵抗した。
結局、天津の指示でZAIAスペックを奪ったら、暴徒は気を失ったけど……。
一体何が起こっているんだ?
町中から聞こえてくる喧噪を踏まえれば、たぶんZAIA日本支部ビルの周囲だけで起こっている騒動じゃないよね。
そして、事態の元凶は……探すまでもなく、俺たちの近くに現れた。
そいつらは、ヒューマギアの二人組だった。
一人は、オレンジ色の作業服を着た男性型ヒューマギア。
もう一人は、ジャケットにパンツルックの中性的なヒューマギア。
「仲間は返してもらった! アーク様とZAIAの社屋も俺たちが頂くぜッ! 滅亡迅雷.netの雷様と
「……」
オラオラ系、っていうのかな。
ガラが悪そうな男性型ヒューマギアは、自分自身の事を親指で指して「雷」と呼んだ。
とすると、隣の中性的な方が
迅の方に視線を向けてみたら、迅は首を横にふってみせた。
残念ながら迅は、この雷と
俺たちは、それぞれ変身して滅亡迅雷.netの残党を取り押さえようとした。
でも、できなかった。
ZAIAスペックを介して操られた人々が、身体を張って俺たちの進行を食い止めたからだ。
操られているだけの人達に大怪我を負わせる訳にはいかない……!
人の盾に手こずっている俺たちを背に、雷と
こうして、ようやく追い詰めた衛星アークは、ZAIA日本支部のビルごと滅亡迅雷.netの手に落ちたのだった……。