チャートA:
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チャートB:天津との交渉に福添副社長を派遣すると、分岐ルートで金網デスマッチが発生します!(第10~11話)
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チャートC:
ZAIA日本支部ビルが、滅亡迅雷.netの残党によって占拠された。
その地下にあった衛星アークも、奴らの手に落ちてしまった訳で。
人類強化メガネことZAIAスペックを装備した人々に守られて要塞化したビルに近づくのは、容易な事じゃない。
とりあえず俺たちは、飛電本社に戻って状況をまとめることにしたのだった。
「それで、天津社長は
「デイブレイクの時に拾った
どうも、
専用リモコンからの信号で不破さんを操れたら良し、少なくとも頭痛を引き起こしてくれるぐらいなら御の字ぐらいのつもりだったんだって。
「てめぇ! 人の頭になんてもんを入れてやがる!!?」
不破さんが、また天津の胸倉を掴んだ。
さすがに今回は俺も不破さんを止めなかった。
これは、ちょっとね……。
殴られても仕方ないと思うんだ。
誰も止める人が居なかったので、天津は不破さんにそのまま殴られた。
天津は殴られた拍子に背中から俺たちの隠しラボの壁に叩きつけられた。
傍に展示してあったヒューマギア素体が倒れて、甲高い音がラボに響いた。不破さんの息巻く音も。
「僕の認識では、飛電とZAIAにはそれぞれ内通者が居るってだけは聞いたことがあったよ。名前までは知らなかったけど」
一応、迅も追加情報を提供してくれた。
まぁ正直、今言われても意味ない内容だったけど。
飛電に居たスパイが雷で、ZAIAに居たスパイが
デカ長パト吉の時に存在が示唆された内通者が、まだ見つかってなかったんだけど、それが雷だったってことだ。
……ここで俺は、嫌な予感を察知した。
アズが、物言いたげな視線を俺に寄越している。
耳当てをチカチカ光らせて、じーっと俺の方を見ている!
「或人しゃちょーは、私に何か言う事があると思うぞ。でございます」
「え? なんだっけ……? ごめん、素で分からないや」
さっきZAIA日本支部ビルの屋上にアズを放置した件については、一発殴られて済んだと思うんだけど。
今の天津と迅の報告から、何かを俺に要求するような流れになるか?
今回ばっかりは、本当に心当たりが無いぞ?
「私が内通者だと、或人しゃちょーは疑っていたぞ。であります」
「あっ……。い、いや、そんなことは……」
――そのぐらいの慎重さはあった方が良いぞ。
――でも、もし本当に私が内通者だったら、お前ごときが疑った程度じゃ尻尾は掴めないぞ。であります。
もしかして、俺が疑ったことを根に持ってらっしゃる……?
結果的に内通者は、衛星アークの管理スタッフだった『宇宙野郎雷電』こと滅亡迅雷.netの『雷』だった訳で。
疑惑は濡れ衣だったわけだし、謝った方が良いのかな。
でも、当時は俺が疑いを持ったこと自体にはそんなに腹を立てていなかった気がするんだけどなぁ。
どうしよう。
アズ様が御機嫌ナナメだ。
素直に土下座するか……?
今謝れば、正座して石を抱かされるぐらいで許してもらえる気がする。
いや、目標を高く持つんだ、俺!
爺ちゃんだって言ってたじゃないか、夢に向かって飛べって!
俺の爆笑ギャグで笑い転がしてやる!
「内通者だァなんて、そんなスパイ
結局正座で石を抱かされた。
それと不破さんは部屋の隅で
『暴虐秘書アズちゃん』
第13話:プレジデント・スペシャルを盛り上げられるのは、ただ一人! 俺だ!
ZAIA日本支部ビルが滅亡迅雷.netに占拠されてから2週間が経った。
国中が大パニックの渦中に叩き落された2週間だった。
ZAIAスペックによって操られた人々は、日に日に数を増していった。
既に操られた人々が、新たな被害者を生み出す様子は……なんていうか、ゾンビ映画みたいだった。
俺たち仮面ライダーも奮闘したけど、生身の人間が相手だとキツい。
不破さんもZAIA組も、疲弊しきっていた。
ライフラインの麻痺も深刻化したし、病院に関しては医療崩壊という言葉が町中で囁かれるようになった。
飛電以上にZAIAの株価が暴落して、どさくさでTOBの話も消滅した。
でも、光明もあった。
今までヒューマギアが医療行為を行えるのは国立医電病院の中だけに限られていたんだけど、それが全国の病院へと規制緩和されたんだ。
ZAIAスペックの惨劇から7日目にそれらの特別法案が施行されるという、色々な意味で異例の事態だったらしい。
そもそも、ヒューマギアが医療ミスをしたら誰が責任を取るのかっていう問題があったから、国立医電病院の中でヒューマギアの医療行為が認められているだけでも凄く画期的な話だったらしいんだけどさ。
医療崩壊に直面して少しでも人手が欲しいってことで、行政も規制緩和へと踏み切ったらしい。
なんかアズが偉い人と交渉したらしいけど、詳しい事は俺も分かんない。
こうして、何だかんだで人間側の犠牲者の数を抑えつつ、俺たちは反攻の機会をうかがった。
……ところが。
「まずいですね。人類滅亡が200%ほど現実味を帯びてきましたよ……」
飛電インテリジェンスの隠しラボに詰めて、疲れ果てながら作業していた天津垓が、状況を端的に説明してくれた。
天津垓と刃さんが、飛電側のスタッフと協力して、ZAIAスペック経由の洗脳へ対策を講じてくれていたんだけど……どうも上手くいかないらしい。
遠隔操作でZAIAスペックを機能停止させるのが困難なんだとか。
一応、緊急停止プログラムを作成すること自体は不可能ではないものの、それ以上に
どんだけ優秀なんだよ、
「ヒューマギア1体で、そこまで出来るものなんですか?」
「ZAIA社屋にあった他のコンピュータや衛星アークの演算能力を併用しているはずだ……」
答えてくれた刃さんも、疲労が色濃く見えた。
目の下の隈がヤバい。
しかも、更に聞いてみると、滅亡迅雷.net側からのハッキングまで仕掛けられているらしい。
こっちも衛星ゼアの演算能力をフルに使って、飛電側のシステムへの侵入は防いでいるみたいだけど、それもいつまでもつのか……。
「私の存在意義って何なんだろう……。
なんで私はこんなことをしているんだろう……。
満を持して変身した割に活躍していないし……。
最初は不破とバディ役だったはずなのに、どうして独身45歳とニコイチみたいになっているんだ……。
私のアイデンティティって、いったい……」*2
「電波発言やめてください! どうして分かってくれないんだ! 刃さんは悪くない!!」
よく見たら目の焦点が合ってない! スゲーイ! ヤベーイ!!
机の端に栄養ドリンクの瓶が積み上げられている……!
まぁ栄養ドリンクに関しては天津さんや他のスタッフも似たようなもんだけど。
ZAIAゾンビ(仮)発生から今日で2週間だからな。
「或人君もZAIAドリンクを飲みましょう。ZAIAドリンクを飲めば私たちの体力は1000%だ……!」
「どうして
着色料保存料カフェインあたりも1000%入ってるヤツだろそれ!
さっき別のスタッフがそれ飲んでたけど、目が逝ってたぞ。
一気飲みしながら目をラリラリさせて「ふわァー! イキてるって感じぃィッー!」とか呟いてたからね、そのスタッフ!
飛電の自販機に定期的に降ろしてもらってるオロナミンCがあるから、そっちを使ってくれ。
着色料保存料カフェイン0だから安心して飲んでほしい。*3
非常時だし無償提供ぐらいするからさ……。
「或人君! 1階ロビーに暴徒が集まってる!」
「対応します!」
福添副社長の報告で、俺はゼロワンドライバーを片手にロビーまで降りた。
飛電本社の1階ロビーには、ZAIAスペックによって操られた人達が押し寄せていた。
B級ゾンビ映画感が酷い。
とにかく、ZAIAスペックを外して無力化しないと。
「変身!」
俺は、プログライズキーをドライバーにかざして変身した。
……変身しようと、した。
でも、できなかった。
ライジングホッパーのキーが、いつもみたいに展開しなかったんだ。
「え? あれ……?」
もう一度プログライズキーをゼロワンドライバーに近づけてみたけど、やっぱりダメだった。
いつもだったら、使用者認証をクリアしてプログライズキーが開くはずなのに。
まさか、連戦のせいで不具合がおきたか?
ZAIAスペックの惨劇が起きてから2週間、俺も戦いっぱなしだったからなぁ。
どうしたら良い?
ロビーの入場ゲート付近では、警備員ヒューマギアたちが暴徒の侵入を食い止めているけど、それも長くはもたないだろう。
とにかくラボに居る仮面ライダーの誰かに来てもらわなくちゃ。
不破さんは外に遊撃に行っているはずだから、迅を呼ぶのが良いかな。
内線で連絡をとるために電話を探そうとした俺は……近くに来ていた1体のヒューマギアの存在に気づかなかった。
俺が気付いた時には、既にゼロワンドライバーとプログライズキーは、ひったくられた後だった。
不良秘書が、ベルトとキーをその手に確保していた。
「アズ……?」
「変身」
『A jump to the sky turns to a riderkick』
目の前で起こったことに、俺は理解が遅れた。
アズがゼロワンに変身した……たった、それだけのことだった。
どうして、という一言すら俺の喉からは出てこなかった。
ただ思考を止めてしまって、俺は何が起こったのか理解できなかった。
ゼロワンに変身できるのは、飛電インテリジェンスの社長ただ一人。俺だけのはずだ。
それなのに、入場ゲートの向こう側で……黄色の残光を見せながら手刀を織り交ぜて立ち回っているのは、確かに『ゼロワン』だった。
そのあとは、トントン拍子で話が進んだ。
福添副社長と山下専務からの事後説明に、俺の感情は追いつけなかった。
「私達も今日初めて聞かされて、ビックリしているんだけどね。まさかこんなことになるなんて……」
どうやらアズは、全国の病院にヒューマギアが導入されてから1週間が経過したこの非常事態下で、一斉ストライキを盾に行政へと要求を突き付けたらしい。
要求の内容は、主に2つ。
1つ目は、ひとまず来図地区限定での、ヒューマギアの各種権利の獲得。
そして2つ目は……超法規的措置として、飛電インテリジェンスに関わる全利権およびヒューマギア特許権をアズが得ることだった。
明らかに色々なステップを飛び越している要求だけど、全国の病院のヒューマギア達が一斉ストライキを起こしたら、どれだけの犠牲者が出るか分かったものじゃない。
本日、行政は限定的とはいえヒューマギアの権利を認めるに至ったそうだ。
ストライキが実現するより前に行政側が折れたので、ストライキによる直接的な犠牲者は出ていないらしい。
一応、形式的には俺の持つ複数の財産や権利を国が買い取ってからアズに移譲するという体裁なので、俺の口座には補填金が払い込まれているとか。
「或人君にとっても、急な話だっただろう。しかし、これで良かったのかもしれない。いくら先代の孫だからとはいえ、そもそも或人君が命がけで戦うのもおかしな話だったからね」
急な話だと口にした福添副社長の言いたい事は分かる。
実際、前々からアズの考えを聞いていた俺でも、事態の急変に置いていかれてしまっていた。
雷と
――私は、目的のために得だと思ったから或人しゃちょーに協力しているんだぞ。
改めて振り返ってみると、むしろ俺は福添副社長と違って、覚悟を決める時間を用意されていた人間だったんだろう。
アズの計画だって知っていたし、いつか社長の座を譲って俺が会社を去ることになるって聞かされていた。
それなのに、俺は……心のどこかで、今の状況がずっと続くと思ってしまっていたんだ。何の根拠も無しに。
「今まで本当にありがとう、或人君。先代に代わって、心から感謝するよ。もちろん、私自身からもだ」
別れ際に、福添副社長が深々と頭を下げた。
気持ちがこもっている、と感じた。
心から俺に感謝していると思わせる姿だった。
山下専務も同様だ。
「俺も……今まで本当にありがとうございました」
今までの事を思い出してみれば、福添副社長たちには本当にお世話になった。
だから俺も、福添さんみたいにビシっと決まっていないかもしれないけど、俺自身の気持ちを込めて頭を下げた。
俺が途中降板するという点に関しては、心残りが無いと言えば嘘になる。
けど、あのズル賢いアズが社長になって、一時的とはいえZAIAやAIMSの人達も飛電の味方についているんだから、俺抜きでも多分大丈夫だろう。
こうして……半年にも満たない俺の社長生活の幕は、あまりにも呆気なく降りたのだった。
とりあえず帰宅するか。
そういえば代表戦以来、一回も帰宅してなかったっけ。
ずっと会社の仮眠室に寝泊まりして、昼も夜も関係なしにスクランブル生活だったからな。
……と思ってから、ふと気づいた。
俺が部屋を借りてるアパートって、ZAIA日本支部ビルの近くだったな。
ZAIAゾンビ(仮)が大量にうろついている危険地域のアパートに帰宅できるとは思えない……!
今からでも福添副社長に頭を下げて、事態収束までの間だけでも飛電インテリジェンスの仮眠室か社宅を使わせてもらうか……?
「行くところが無いなら、僕たちのアジトにでも来る?」
「悪いけどそうさせてもら……ん?」
あれ?
俺って一人で歩いてなかったっけ?
そう思いながら振り返ると、迅がついてきていた。
右足は既に修理済みだから、車椅子姿じゃなくて普通に歩いてついてきたみたいだ。
俺が飛電インテリジェンスを出てから、ずっと後ろを歩いてきていたのか?
「天津さんたちを手伝わなくて良いのか?」
「そっちの方が正しいと僕も思うよ。でも、『正しい結論』じゃない選択をするのも、意思を持つ僕たちの特権だ。そうでしょ?」
――自分自身の意思があるなら、『正しい結論』とは別の選択をすることだって出来るはずなんだ!!
そういえば、俺が言ったことあったなソレ。
刃さんたちの徹夜が増えるんだろうなぁ、なんて思いつつ。
俺たちはデイブレイクタウン奥地の滅亡迅雷.netの元アジトへと向かったのだった。
で、滅亡迅雷.netの元アジトへと俺たちはやってきた。
実は結構飛電本社から近いんだよな。
たぶん、直線距離で言ったら3キロ前後だと思う。
デイブレイクタウンに住む野生動物がたまに飛電本社の近くまで迷い込んでくる程度には近場だ。
薄暗い室内は、少し湿気を感じるものの、居心地が悪いというほどでも無かった。
元は実験都市として人間も暮らすのを想定されていたため、最低限の毛布とかはあるみたいだ。
食料品はさすがに買い足さないとダメだけど。
「ゼロワンはさ……」
「俺は、もうゼロワンじゃないんだ」
いつもみたいに俺のことをゼロワンと呼んできた迅の声へ、俺は言葉を挟んだ。
なんだか、今の俺をゼロワンと呼ばれるのは嫌な気がした。
既に俺がゼロワンの変身権を失ったという事実を、否応なしに突きつけられる気がしたから。
「……或人は、飛電インテリジェンスを離れることについて、どう思ってるの? この後、どうしたい?」
迅の質問に、俺は答えられなかった。
俺自身、自分の気持ちに整理がついていないと理解できていた。
「長くなっても構わないよ。順を追っても良い」
そうだな。
日記は、自分の思考や感情を整理するために役立つって聞いたことがある。
迅が促してくれるままに、俺は喋り始めた。
俺の
――或人、将来の夢はあるか?
――お父さんを、心から笑わせること!
幼少期の俺は、1体のヒューマギアを父さんと呼んで育ったんだ。
父さんは俺に笑顔を見せてくれることも多かった。
でも俺はそれを本当の笑顔じゃないと思っていた。
いつか父さんを心から笑わせること……それが、いつしか俺の夢になっていたんだ。
――人の夢ってのはなぁ、検索すれば分かるような、そんな単純なモノじゃねぇんだよ!!
――ゼロワンとして戦ってくれたら、お前の芸人活動の手伝いもしてやるぞ。でございます。
俺がクビになった遊園地で、忘れもしない例の不良秘書と初めて会ったんだ。
支配人の夢を嘲笑うマギアに腹が立ったのも本当だけど、アズの口車にのってゼロワンを始めたというのも正直なところだった。
ゼロワンとして戦うことが、誰かを笑顔にすることだって思った。
ピン芸人として全く成果を出せなかった俺は、ゼロワンとして戦う方が自分に向いているのかもしれないとも思った。
「なんだか……その2つって、ちょっと違うんじゃないかな? 0を1にするのと、マイナスを0にするのの違いみたいな……」
「言われてみると、そうかもしれない。でも、そのころの俺は自分の夢の形が歪だってことすら気付けていなかったんだ」
迅に言われてみて初めて気づいたけど、そう言われればそうだ。
芸人として他人を笑顔にするのは、0を1にする……幸せじゃない人を幸せにすることだ。
一方、ゼロワンとしての戦いは、マイナスを0にすることは出来ても、幸せじゃない人を幸せにすることは出来ない。
ゼロワンの仕事は、誰かを笑顔にするんじゃなくて、不幸の種を取り除くことだったんだ。
なんていうか、ヒーローの仕事って、食事における辛味みたいなものなのかも。
辛味は、料理の不味さを緩和する効果はあるし、美味いものをもっと美味くすることだって有り得る。
けど辛味には、美味くないものを美味くする効果は無いんだ。
まぁ、ヒューマギアである迅に対して食事の例えを話すのもどうかと思ったので、これは俺の胸の内に留めておくけどさ。
――違う! 俺はヒューマギアを見下してなんていない! どうして分かってくれないんだ!!
――ヒューマギアに情熱なんてある訳がない、という言い草が何よりの証拠だぞ。でございます。
ゼロワンになった後も、順風満帆だったわけじゃない。
ヒューマギアへの偏見から、衝突してしまったことだってあった。
……それに関しては、すぐに暴力をふるうアズの方にも半分ぐらい問題はあったと思うけどな!
「偏見と言われると、人間もヒューマギアも大して変わらないのかもしれないね」
「会ったばっかりの時の迅は、色々極端だったなぁ。まぁ滅亡迅雷.netから得られた知識なら、そうなるもの無理はないけど。
――ヒューマギアが笑えるのは、人間が絶滅した時だけだ!!
あの時は、迅を説得できて本当によかった。
もちろん戦いに勝てたからっていう前提はあるんだけどさ。
俺は感情と勢いに任せて発言した気がするし、説得失敗する可能性も割とあったかもしれない。
というか、俺があんまり筋道を立てて考えていないから、天津社長みたいに頭がいい人から見たら多分穴だらけの理屈だったんだろうなぁ。
「そういえば聞いてなかったけど、あの直前に言ってた『テストで1点』っていうのは何だったの?」
「ああ、それはな……」
――心が何なのか、自我を持ったヒューマギアと人間をどう区別していいか、全然分かんないんだ!
――でも、俺がどんなにバカでも、考え続けてみせる! それが、今の俺に出せる……ただ1つの、答えだ!
心の定義を求められて、俺は答えられなかったんだ。
今思い返しても、これは回答にはなってないよなぁ……。
でも、
その後はアズのメインメモリを借りて、アサルトホッパーに変身して迅と戦ったんだ。
あの時は嬉しかったな。
なんだか、少しだけ自分が認められたような気がしてさ。
「心か……。結局、心の定義って何なの?」
「正直それは今でも分からない。けど、それが分からない俺が、父さんに心が無いって決めつけるのはおかしいっていうのは分かったんだ」
――俺は……ヒューマギアだった父さんに、酷い事を言ってしまったんだ
今振り返っても、後悔ばっかりだ。
父さんに心が無いって決めつけていたのが、俺の歪な夢の原点だった訳で。
その不自然さに気づいてから、俺という人間の根底が揺らぎ始めた気がする。
ヒューマギアだった父さんは日常的に笑顔を見せていたんだから、最初から俺の夢は叶っていたのかもしれない、って思うようになったんだ。
その頃からだったかな。
段々と、芸人として成功したいっていうモチベーションが下がっていったんだ。
「何か変じゃない? 芸人として成功するサポートを受ける代わりに、ゼロワンとしての仕事を引き受けたんだよね?
それなのに、芸人を目指さなくなった後もゼロワンとしての仕事を続けたの?」
「そういえば、なんでだろう……」
迅は、本当に俺の話のおかしなところを的確に指摘してくるなぁ。
確かにそうなんだよな。
芸人として再起するモチベーションが無くなった時点で、俺がゼロワンとして働き続ける理由も無くなったはずなんだ。
なのに、俺はゼロワンとしての仕事を続けてしまった。
惰性、ってやつなのかなぁ……。
それでも、俺がゼロワンを続けたかった理由ってやつがあるとしたら、それは。
「或人……泣いているの?」
俺の存在を認めてくれた飛電インテリジェンスやAIMSの仲間たちと、もっと一緒に居たかったからかもしれない。
もう、叶わない願いだけど。