暴虐秘書アズちゃん!   作:カードは慎重に選ぶ男

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ワズ「本来の登場時期を逃したはずなのに、なんとオファーを頂きました!」


飛電製作所「今、俺を笑ったか……?」
お仕事5番勝負「オンドゥルルラギッタンディスカー!!」



第14話:ワズを助けられるのは、ただ一人! 俺だ!

結局、俺の話を一通り聞き終えた迅は飛電本社へと戻っていった。

今は非常時だし、あんまり俺の方に構いきりなのもマズいだろうしな。

滅亡迅雷.netの元アジトに、俺は一人で残された。

 

俺は、何をしたらいいのか分からなかった。

何をしたいのかも分からなかった。

何が出来るのかも分からなかった。

 

迷えば迷うほど、飛電の社長をやっていたころの俺は幸せだったんだなって思えてきた。

それに比べて、今の俺には……ビックリするぐらいに、何も無かった。

芸人として再起するモチベーションも、ゼロワンの変身権も、何も俺は持っていない。

 

 

 

 

「こんにちは、或人君。私はワズ・ナゾートクと申します。見ての通り、探偵です」

 

……うん?

どこから紛れ込んだの、この旧型ヒューマギア……?

ベージュのコートに鳥打帽と丸眼鏡を装備した男性型のヒューマギアが、俺の間借りしている滅亡迅雷.netの旧アジトに姿を現した!

いかにも探偵っぽい恰好をしているし、そう本人も自称している。

 

耳当てが旧世代型ヒューマギアのものだから、かなり古い機体みたいだ。

……父さんと、一緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『暴虐秘書アズちゃん!』

第14話:ワズを助けられるのは、ただ一人! 俺だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワズと名乗った旧型ヒューマギアは、爺ちゃんの部下だったらしい。

飛電インテリジェンスや俺に危機が訪れたときに、手助けをするように言われていたんだってさ。

普段は探偵業をしているそうだ。

 

 

「飛電がアズの奴に乗っ取られたのがピンチだって判断して、俺の手助けに来たってこと?」

「その件も無関係ではないのですが……私が気になっているのは、滅亡迅雷.netのZAIAビル占拠事件の方です」

 

ああ、そっちか。

まぁ情勢的にもそうだよな。

日に日に数を増しているZAIAゾンビは、まさしく「国難」って感じだし。

警察や自衛隊も出動してるけど、天津社長の言う通りこのまま人類が滅びる危険性も割とあるんだよな。

 

 

「でも、それなら大丈夫だよ。俺の代わりにゼロワンになる奴は居るし、いざとなったら仮面ライダー全員で一斉に出撃すれば何とかなると思うんだ」

 

サウザー。

バルキリー。

バルカン。

迅。

そして……ゼロワン。

あの5人で一斉に出撃すれば、負ける未来図は見えないんだよね。

 

 

「私もそう思います。だからこそ、不可解な点が浮き彫りになってくるのです」

「どういうこと?」

 

探偵っぽい口ぶりだ。

勿体つけているのも、どこか様になっているように思えた。

旧型なのに今日まで単独で動き続けていたってことは、かなり優秀な奴なんだろうし、探偵としても有能なんだろう。

 

 

「人の盾を使った戦法は、確かに脅威です。

しかし、人類側は本当に追い詰められたら、人の盾を無視して滅亡迅雷.netを叩くことが出来てしまう。

滅亡迅雷.net側は、それを理解していながら行動を起こしたように見えませんか?」

 

確かに、妙だ。

たぶん(イカズチ)(ナキ)は変身して戦えるだろうけど、さすがにサウザー達5人を相手に出来るとは思い難い。

その程度のことは、滅亡迅雷.net側も分かっているだろう。

そうなると、あいつらの狙いは何だ……?

 

 

「あいつら、何か隠し玉があるのか? でも、何が起こるんだ?」

「滅亡迅雷.net側の戦力が補強される要素といえば……アーク本人が戦えるようになるのかもしれません」

 

私の直感ですが、なんてワズは続けた。

直感というのはロボットらしからぬ言い方だ、と俺は密かに思った。

そして、ここまで聞いて俺は一つだけ不審に思う点を見つけていた。

 

 

「それを、飛電の現社長の方じゃなくて俺に教えに来たのは……なんで?」

「その情報を教えても、飛電連合でやることは変わりませんからね。被害を最小限に抑えつつ、EMP兵器の使用許可を待つだけでしょうし」

 

EMP兵器というのは、飛電に居た時にチラっと聞いたことあるな。

電磁波を使った爆弾みたいなもので、それをZAIA日本支部ビルに打ち込むことで、一時的に電波障害を引き起こすことが出来るんだとか。

さすがに明らかに戦術兵器なので、日本国内で使うための承認を得るのが大変だって天津さんから聞いたっけ。

というか、兵器の使用承認よりも、ヒューマギアの人権獲得の方が明らかにハードルが高いと思うんだけど、アズは本当によく押し通したな……。

 

 

「でも、それだけじゃないよね。その情報を俺に渡すことで、ワズは俺に何かを期待している」

「……そこまで察していただけるようでしたら、出し惜しみは半分にしましょう」

 

そういってワズは、どこからともなく真っ黒な箱を取り出した。

暗証番号を打ち込むためと思しきコンソールが付いた、人の頭と同じぐらいのサイズの黒箱だった。

たぶん、そのコンソールに暗証番号を打ち込んで中身を取り出すんだろうけど。

よく見たら、ボタンの近くにヒントも書いてあるな。

なになに? 5種類の文字で出来た8桁のキーワードを入力しろ?

 

 

「この暗号を解いて、中身を手に入れろってことか」

「いいえ。パスワードも中身も、既に推理は終わっています。答えを教えても構いません」

 

「ええ……??」

 

探偵ですから、なんてワズは得意げに言い放った。

俺は困惑した。

答えも中身も分かっているのに、開けていないの?

まさか玉手箱的なトラップが仕掛けられているとかじゃないよな?

 

 

「私が問いたいのは、或人君の意思です。今の君には、戦う理由が本当にありますか?」

 

ワズの質問は、まさに俺が直面している問題だった。

今の俺が、どんな理由があったら飛電やZAIAの皆と一緒に肩を並べて戦える?

あの暴力秘書は……もう、俺を必要とする理由を持っていない。

飛電インテリジェンスの社長になるために俺と手を組んでいたアズは、既に飛電の社長になってしまったんだから。

 

 

「……」

「それの元の持ち主の遺志を伝えることは出来ます。しかし、出来ることならば、誰の後継者でもない或人君自身の意思で選んで欲しい。それが、私の思いです」

 

誰の後継者でもない、というのは妙に気になるフレーズだった。

確かに新社長に就任したばかりの頃の俺は、飛電是之助の後継者でしかなかったのかもしれない。

でも、爺ちゃんはヒューマギアを労働力の代替としか見ていなかったのに対して、俺は既に別のスタンスを確立している。

ヒューマギアは意思を持った新種族だって、俺は思うんだ。

たった今ワズが言った「私の思い」という言葉を聞いて、やっぱりヒューマギアには意思があるんだって感じたしな。

 

 

 

 

「それを渡してもらうぜ。カミナリ落とされたくなけりゃァな!」

「お前は……(イカズチ)!」

 

でも、俺に残された時間はあまりに短かった。

いつの間にか、オレンジの作業服を着た1体のヒューマギアが部屋の入口に立っていた。

滅亡迅雷.netの、(イカズチ)だ。

ZAIA日本支部ビルを占拠しているハズの(イカズチ)が、そこを抜け出して来ているってことは、この黒箱の中身は余程重要なものなんだろうな。

とはいえ、ワズの口ぶりから考えたら、滅亡迅雷.netから盗んできたとかでは無さそうだけど。

 

 

「お久しぶりですね、雷電君……」

 

ワズと(イカズチ)は知り合いだったのか?

雷電っていう名前は、たぶん滅亡迅雷.netの一員としてじゃなくて、飛電のヒューマギアとしての名前なんだろう。

そういえば、耳当ての形を見たら、(イカズチ)も旧世代型ヒューマギアだな。

ともにデイブレイク以前から稼働している訳だし、どこかで会っていても不思議じゃないのか。

 

 

「率直に言って、私は君を尊敬していました。

後続のヒューマギアを弟と呼び、愛情を以て接し、時に厳しく指導する姿に……共感しロマンすら感じていました」

 

ワズの言葉を聞いている最中、俺のライズフォンが震えた。

チラっと通知画面を見ると、ワズからのメッセージが入っていた。

いわく、隙を見て逃げて欲しいということだった。

(イカズチ)から一瞬たりとも目を離さずにメールの送信が出来たりするのは、さすがヒューマギアって感じだ。

 

 

「昴君だって悲しんでいるはずです! 今ならまだ、取り返しがつきます!」

「うるせェ! 俺はもう、あいつの兄貴なんかじゃねェッ!」

 

(イカズチ)が、ワズにヤクザキックを叩きこんだ。

ワズは腕をあげて防御したようだったが、地面に転がされてしまっていた。

 

 

「それに貴方とて、その箱の中身を残した者の気持ちを知っているはずです! アークの手に渡すなど有り得ない!」

「うるせェって言ってんだろッ! アーク様の意思は絶対だッ!!」

 

(イカズチ)の大声は、怒りの感情を何よりも体現していた。

空気がビリビリ震えて、俺は思わず後ずさってしまっていた。

ここまで純粋な感情の発露ができるのは人間でも珍しいと思ってしまうぐらいだった。

 

起き上がったワズへと、(イカズチ)が掴みかかった。

一瞬だけ、ワズと目が合った気がした。

逃げろって言いたいんだろう、と分かった。

 

 

――今の君には、戦う理由が本当にありますか?

 

ワズの言い回しから、箱の中身は俺が予想している物に近いんだろう。

それなのに……ワズは一度も、「それを使って自分を助けてくれ」とは言わなかった。

そう言わなかった理由は、今までのワズとの会話からだけでも十分に推測できた。

さっきのメールに箱を開けるためのパスワードを書かなかったのも、同じ理由だろう。

俺にそれを頼んでしまったら、俺が無理をしてでも必ず応えてしまうって分かっていたからだ。

 

それに加えて、後継者がどうのっていう話を踏まえたら、これの本来の持ち主として考えられるのは2人しか居ない。

爺ちゃんか、もう一人か。

でも、俺にゼロワンドライバーを残してくれた爺ちゃんの方では無い気がした。

俺は、5種類の文字から成る8桁のパスワードを、箱のコンソールに打ち込んだ。

 

『19970501』

 

やっぱり、だ。

箱のパスワードは……俺の誕生日だった。

箱を開けてみると、中身も予想通りだ。

 

 

「12年分の誕生日プレゼントってことかよ……父さん」

 

俺は、箱から取り出したドライバーを迷わず腰に巻いた。

赤と銀で彩られたドライバーは、配色こそ違うものの迅たちのフォースライザーに近い構造のようだった。

なら、使い方も大体同じだろう。

箱の中に一緒に入っていた深藍色のプログライズキーをセットして、俺は右手側のレバーを一思いに引いた。

 

 

「変身っ!!」

『Cyclone rise! Rockinghopper! Type1!』

 

俺を中心に風が渦巻いた。

瞬く間に、プログライズキーと同じ深藍色の装甲が形成された。

黒地が基調なのはゼロワンと変わらないけど、全体的にゼロワンより装甲が厚めだと思った。

たぶん、ゼロワンと比べたらスピードを少し落とした代わりに攻防力を上げた感じなんだろう。

箱の中に刻んであった文字によると、この姿の名前は『仮面ライダー1型』だそうだ。

 

 

「殺してでも、そいつはアーク様の下へ持ち帰らせてもらうぜッ! 変身!」

『Break down』

 

一方、ワズをボコボコにしていた(イカズチ)も俺を見て瞬時の変身を選択した。

フォースライザーで変身した(イカズチ)の姿は、深い赤のボディに鳥の意匠を交えたものだった。

 

 

「「うおりゃぁっ!!」」

 

踏み出したのは、二人同時だった。

同じように右拳を振るって、突撃した。

拳同士でぶつかると思った。

(イカズチ)だって、同じように思っただろう。

 

 

「ぐあッ!?」

「これは……!?」

 

俺の右拳は、先に(イカズチ)の顔面に突き刺さっていた。

1型のスピードは、ほぼゼロワンと変わらないみたいだ。

にもかかわらず、攻撃力は若干ゼロワンより高いぞ多分!

 

 

「アーク様の意思のままにッ!!」

「お前を止められるのは、ただ一人! 俺だっ!!」

 

(イカズチ)が、双剣を構えて切りかかってきた。

俺は、身のこなしの速さに任せて斬撃を回避しながら、回し蹴りで剣を弾き落した。

さらに、(イカズチ)に立て直す暇を与えずに、もう1本の剣も蹴り落した。

そのまま俺はキックの連打で一気に畳みかけようとした。

 

 

「なめるんじゃねェッ!」

「がぁっ!!?」

 

俺のキックを何度も受けながらも、(イカズチ)は反撃の一手を打ってきた。

掌からの放電攻撃によって反撃してきたんだ。

たまらずに、俺は仰け反って(イカズチ)との距離を開けてしまっていた。

でも(イカズチ)の方もダメージが溜まっているみたいで、追撃は来なかった。

 

息を整えて、睨みあう数秒が妙に長く感じた。

先に動いたのは、(イカズチ)の方だった。

 

 

 

「消し炭にしてやるぜッ!」

『Zetsumetsu utopia!』

 

 

   塵

雷     剛

   芥

 

 

(イカズチ)が両掌を突き出して、広範囲に放電攻撃を撒き散らした。

とっさに俺は、落ちていた(イカズチ)の剣を蹴りつけて、放電攻撃を誘導してやった。

そして、放電攻撃が逸れた瞬間には、動き出していた。

 

 

『Rocking spark!』

 

ベルト操作に伴う音声が鳴り終わるよりも早く。

俺は深藍色の残光を置き去りにして高速移動を始めていた。

(イカズチ)は、まったく俺の動きに対応出来ていなかった。

地面に叩き落してあった剣の1本を拾った俺は、狭い部屋の中で跳び回りながら、最後に壁を足場にジャンプして(イカズチ)へと切りかかった。

 

 

ロッキング

スパーク

 

(イカズチ)が腕からの範囲放電攻撃で俺を牽制しようとしたようだが、それよりも早く俺は(イカズチ)の真横を通り過ぎた。

そして、すれ違い際に借り物の剣による一閃を(イカズチ)の胴へとお見舞していた。

さすがに胴を両断するほどの威力は出せなかったが、カウンター攻撃を繰り出す暇もなく、バチバチと音を立てながら(イカズチ)は膝をついた。

 

 

「……こんなところで、くたばってたまるかよォ!!」

 

それでも最後に(イカズチ)は両腕からの大威力の放電をかました。

天井へと向けて放たれた放電攻撃は、天井を崩すには十分すぎる破壊力を持っていて。

とっさにワズを庇った俺は、(イカズチ)の逃亡を許してしまったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「或人君、戦う理由は見つかりましたか?」

 

天井が崩れて大分風通しが良くなったアジトで、ワズが再び同じ質問をしてきた。

でも、今度は俺の方の心持ちが違った。

その質問に答える用意が、既に出来ていたんだ。

 

 

「俺は、あんまり難しく考えない方が良いんだって思ったよ。助けたいと思ったから助けた。それで十分だ」

 

さっきワズが襲われている時に俺が思ったのは、そんなに複雑な事じゃなかった。

ただ、単純に助けたいって思っただけだった。

たぶん、俺が戦う理由ってそれで十分なんだ。

 

俺は、アズたちと一緒に戦う理由をワズにどうやって説明しようか悩んでいたけど、それがそもそも間違いだった。

一緒に戦いたいから……あいつを助けたいから、っていうだけでも十分だったんだ。

 

 

「或人君なりの答えが用意できているようでしたら、私から言う事はもうありません。お達者で、或人君」

「色々ありがとう、ワズ! またな!」

 

ごきげんようー、なんてハンカチを振って、独特の小走りでワズは去っていった。

なんだあの走り方。

なんかヒヨコみたいな走り方だったな。

 

ま、俺の方も悩みが吹っ切れたから良しとするか。

刃さん達が過労死する前に合流しなくちゃ。

 

 

 

「あれ? そういえば弟がいる(イカズチ)に共感してたって言ってたけど、ワズにも弟か妹でも居るのかなぁ……?」

 

滅亡迅雷.netの元アジトを後にしつつ、ふと俺が思ったのは、ほんの小さなとっかかりだった。

今生の別れって訳でも無いだろうし、ワズに今度会ったときにでも聞けば良いか。

その時に紹介してもらうのを、楽しみにしておこう。

なんか素直で真面目な愛されキャラが出てくる予感がする! 心が躍るなぁ!

 


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