暴虐秘書アズちゃん!   作:カードは慎重に選ぶ男

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AIBO「 お ま た せ 」



第15話:私が村八分にされているなど、1000%ありえない……!

率直に言って、或人君が飛電インテリジェンスを追われることになるなどとは、1%たりとも予測していませんでした。

それを為せるとすれば私だけだ、と思っていたというのもあります。

しかし、それだけではありません。

よりによって或人君の秘書がそんなことをするとは……。

それにアズの新社長就任挨拶にも、気になる点がありました。

 

 

――かつてヒューマギア(わたしたち)は、人間を笑顔にするためだけの存在だったぞ。でいらっしゃいます。

――そしてこの十数年の間に、ヒューマギア(わたしたち)を笑顔にしてくれようとする人間も現れたぞ。私たちはその人間への感謝を忘れてはいけないぞ。でございます。

――この革新の先にあるものは、ヒューマギアと人間が同じ目線で笑える世界だぞ。そのために、人間もヒューマギアも社員一同で力を貸して欲しいぞ。であります。

 

 

彼女の就任演説を聞いたヒューマギアと人間の社員一同は、飛電或人の顔を思い浮かべたことでしょう。

或人君の持ちネタである「或人じゃーっ、無いとっ!!」が社員を笑顔にしていたかどうかは別として、アズの就任演説は飛電或人の存在を強く意識したものでした。

おそらく、放っておいてもヒューマギア自身の権利を主張する個体が出現するのは時間の問題だったでしょう。

しかしアズが語ったのは人間とヒューマギアの共生でした。

ヒューマギアの権利主張から更に一歩先へと踏み出した考え方です。

 

 

――俺が倒した迅を殺さずに仲間にしたみたいにさ。ヒューマギアが人間より繁栄しても、人間を殺すとは限らないんじゃないかな?

――地上の支配者となったヒューマギアは、捕まえた人間を利用価値の多寡でしか見ないかもしれませんよ。(ホロビ)を便利な道具として改造して使った私のように、ね

 

私個人としてはヒューマギアは道具のカテゴリーであって欲しいと思っていましたし、飛電是之助も同じ考えだったように思います。

だからこそ、私はヒューマギアを欠陥商品だと考え、地上の支配者となったヒューマギアが人間を道具扱いする未来を見てしまいました。

しかし、結果としては人間とヒューマギアの共生を目指すアズが飛電の社長に就任することとなったのです。

もちろん人間の中にも色々いるように、ヒューマギアの中にも穏健派から過激派までいることでしょうから、結論を出すのは早計かもしれませんがね。

 

 

しかし、そんな歴史的瞬間に飛電或人当人が居なかったというのは、釈然としないものを感じます。

アズの演説では飛電或人に敬意を払うような文言も見受けられましたし、社員一同は一応はそれに納得したというスタンスのようですが、それでも私は思うのです。

私に打ち勝った飛電インテリジェンスの社長は唯一人……飛電或人であったのだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『暴虐秘書アズちゃん!』

第15話:私が村八分にされているなど、1000%ありえない……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はAIMSおよび飛電インテリジェンスの面々とともに、ZAIA日本支部ビルの近くへと足を運んでいました。

飛電インテリジェンス新社長のアズが招集をかけたのです。

衛星ゼアの予測によると衛星アークの完全復活まで10時間を切っているらしいので、急遽全面激突をすることになった訳です。

ヒューマギアはともかく、人間勢には深い疲労が見えますね。

私自身も、おそらく人のことを言えない顔をしているのでしょう。

 

 

「EMP爆弾はAIMS隊長(おれ)の責任で使う。行くぞ!」

 

EMP爆弾の使用許可は降りていないのですが、事態は急を要するがゆえ、仕方がありません。

この中でその責任がとれる立場に居るのはAIMS隊長である不破君以外にありえません。

不破君がZAIA日本支部ビル方面へとEMP爆弾を発射し、爆発の後には静けさだけが残されました。

 

ZAIAゾンビたちは地に倒れ伏していますね。

無事ZAIAスペックの電子回路を破壊して無力化できたようです。

私の開発したZAIAスペックをこんなにも大量に破壊しなければならないのは、非常に残念ですね……。

 

そして、倒れている人間たちをヒューマギアやAIMSの隊員たちが救助しています。

ヒューマギアがEMP爆弾に耐えうる装甲を持っているのは、こういう時には本当に便利ですね。

まぁ、もしマギアやヒューマギアにEMP爆弾が通用するならば、デイブレイクタウンはあと10年早く再開発されていたと思いますが……。*1

 

 

 

「「「「「変身!」」」」」

 

それぞれ変身した私達5人は、ZAIAビルへと乗り込みました。

しかし、滅亡迅雷.net側も私達を素通りさせる道理はありません。

(イカズチ)(ナキ)が私達を待ち構えていました。

EMP爆弾がヒューマギアに効かない以上、(イカズチ)(ナキ)が無事なのも想定通りです。

彼らにとっては、EMP兵器など短時間の通信障害が発生する以上の意味は無いのでしょう。

そんな内容を、徹夜明けの朦朧とした意識の中で或人君に説明したことがあったような、なかったような……今は、目の前の滅亡迅雷.netに集中すべきですね。

 

 

 

「変身ッ!」

「……変身」

 

(イカズチ)は、鳥の意匠を持った濃い赤の仮面ライダーに。

(ナキ)は、狼の特徴を持った白い仮面ライダーに。

それぞれ姿を変えた(イカズチ)(ナキ)は、我々を簡単に衛星アークのもとへと通してくれるとは思えません。

しかし、それも我々にとっては織り込み済みです。

 

 

愛剣のサウザンドジャッカーを構えたサウザー(わたし)は、滅亡迅雷.net側の変身直後に駆け出しました。

狙いは、(ナキ)です。

私の突進を、(ナキ)は両腕から伸ばした鉤爪を交差させて受け止めました。

しかし、仮にもサウザーはアルシノ*2の力を備えた仮面ライダーです。

 

 

「皆さん、あとは手筈通りに!」

「……!」

 

突進の勢いのままに、(ナキ)とともに私はZAIAビルの壁を突き破って屋外へと出ました。

ZAIAビルの中に残された面々は、作戦通りに動いてくれることでしょう。

私から距離をとった(ナキ)が、仮面ライダーのマスク越しに私を観察しているようでした。

かつて私の道具として使われ、(イカズチ)の手引きによって復活した(ナキ)は……一体、どの程度の手練れなのでしょうか。

 

一応、ZAIAビル内からサウザンドジャッカーのデータが奪われていることを前提に、味方側の仮面ライダー5体にはジャックライズ対策を施してありますが、そもそも(イカズチ)(ナキ)もそれらしい武器を持っていませんね。

この様子だと滅亡迅雷.netは、私の動きを読み切ったうえで、サウザンドジャッカーを活かす方針を完璧に捨てて別のものを作っている可能性があります。

 

 

「……他の4人で最速で(イカズチ)を撃破し、そのままアーク様を破壊する作戦ですか」

「その認識でも間違ってはいません。しかし、1%ほど補足したい点があります」

 

EMP兵器でZAIAゾンビを無力化し、最大戦力である私が滅亡迅雷.netを一人だけ足止めし、残りの4人で速攻を仕掛ける。

(ナキ)が想定したのは、そういうプランでしょう。

事実、私も仲間達にはそのように説明しました。

しかし、仲間達に伝えていない1%の秘め事もあります。

 

 

「私は、あなたに謝罪しなければならないことがある。

あなたを洗脳して駒として使ったこと。

そして、あなたの裏切りを恐れて処分したこと。

本当に……申し訳ありませんでした」

「……??」

 

私は、戦闘中なのでさすがに頭を下げることはしませんでしたが、左手を胸に当てて謝辞を口にしました。

(ナキ)は、私の発言を受けて戸惑っている様子でした。

天津垓がヒューマギアへと非礼を詫びるなど有り得ない、という認識があるのでしょう。

そういう人物評を私に対して下す者がいるというのは分かります。

 

 

「私は、人間とヒューマギアの協力を前に敗れました。

しかし、それだけでは私は、人間とAIの共存など信じることは出来なかったでしょう。

そんな私へと飛電インテリジェンスの副社長らが用意してくれたプレゼントが、私にAIの可能性を思い出させてくれました。

 

 

そう、AIBOです」

 

「……!? 何を、言っている……??」

 

 

福添氏らが、過労気味の私の前に用意してくれたのは……AIBOでした。

ビーグル犬の面影を持った飛電製の犬型ロボット、AIBOです。

 

私は、AIBOの素晴らしさを(ナキ)へと説きました。

幼少期の私が、AIBOを友と呼んでいたことを。

それが人類とAIの共存の、一つの形であったのだということも。

人に寄り添ってくれるAIBOの愛らしさを、(ナキ)へと力説したのです。

 

もちろんヒューマギアの持つ危険性を忘れた訳ではありません。

それでも、私は人とAIの共存の可能性もあると信じたくなったのです。

 

 

「だから私とも、これから仲良くなりましょう」

「貴様、私をバカにしているのか!?」

 

(ナキ)が、両腕から伸びた鉤爪で襲い掛かってきました。

速さだけなら私に匹敵する攻撃を、サウザンドジャッカーで危なげなく防ぎながら。

私は、AIと仲良くなる特技があると言っていた飛電或人のことを思い出していました。

今日の私の語った内容は、飛電或人が迅を説得したときの内容と非常に似ているはずなのですが、なぜ(ナキ)の説得は上手くいかないのでしょうか……。

 

 

手順①:家族であった飛電其雄(AI)への愛を語る

手順②:自身の失敗談を述べる

手順③:人間とAIの共存を示唆する

 

或人君が迅を説得したときの手順を聞いたことがあったので、私なりに実行してみたのですが……(ナキ)は怒るばかりですね。

やはり、ヒューマギアと仲良くなる才能があると自負していた飛電或人にしか出来ない方法だったのかもしれません。

 

……ならば。

ここからは、この天津垓らしい説得を御覧にいれましょう。

飛電インテリジェンスへのTOBには失敗しましたが、ZAIA日本支部の社長にまで登り詰めた私の実力を侮ってもらっては困ります。

 

 

 

「いきなり私を信じろというのは虫が良すぎる話かもしれません。ですが、飛電或人ならどうです? 彼のような人間となら、仲良くできる可能性は本当にありませんか?」

「……!」

 

情報戦に優れた(ナキ)ならば、代表戦の中で為された会話の内容も把握しているだろうと思いつつ、私はハードルが低い方へと話題をズラしてみました。

これは、交渉の席でよく使われる方法です。

 

例えば、13人のヒーローが殺し合う番組の企画を立ち上げるとして、そんな無茶な企画がすんなり通るとは思えません。

しかし最初に「50人のヒーローが殺し合う番組を作ります!」と言っておけば、どうでしょうか?

それに対して打ち合わせ相手が難色を示したあとで、「じゃあ13人にします!」と言ったなら?

無茶だったはずの企画が上手く通ってしまうこともあるかもしれません。*3

 

それはともかく。

飛電或人の名前を出された(ナキ)は、考え込むような素振りを見せました。

やはり私と飛電或人の会話を傍受していたのですね。

或人君には、ヒューマギアの心を動かす何かがあるのでしょう。

 

 

「悪意は伝染する。人から人へ。人からヒューマギアへ。そしてヒューマギアからヒューマギアへ。

私は、そう思っていましたし、今でも思っています。

しかし或人君が見せてくれたように、共存の意思が伝染することもあるようです」

 

単純な利益を追求する意味での経営者や開発者としては、はるかに私の方が優れていると思いますが。

それでも、ヒューマギアと仲良くなることが特技だと言った或人君の言葉は認めざるをえません。

 

 

「彼は迅を洗脳することなく友として接し、迅のために滅の復活を約束したそうです。

人類全てを信じてほしいとは言いませんが、共存可能な人類も居ることは分かるでしょう。

全人類を滅亡させるというのは早計ではないでしょうか」

「……しかし、その飛電或人も社長の座を追われたのでしょう? 他ならないヒューマギアの手によって」

 

アズによる社長交代劇を、さすがに(ナキ)が知らないはずが無かったようですね。

外から聞いた話だけならば、ヒューマギアが飛電或人を利用するだけ利用して使い捨てたように見えるのでしょう。

……ですが。

 

 

「確かに、彼は秘書の裏切りによって社長の座を失った……という見方をしてしまう気持ちは分かります。

ですが彼女は或人君への感謝を口にし、飛電インテリジェンスの社員たちは新社長を信じて尽力しています。

彼女は或人君への悪意をもって劇的な社長交代をしたわけではない。そう信じている社員とヒューギアたちを私も信じたくなったのですよ」

 

おそらく、飛電インテリジェンスの社長としての飛電或人が有名になりすぎてしまったからでしょう。

ZAIAと飛電の代表戦が全国放映されてしまったのが、一番まずかったのだと思います。

ヒューマギアの社会進出を快く思わない人も多いでしょうし、これ以上飛電の社長として名前を売ってしまうと、芸人としての再起が絶望的になりますからね。

聞くところによると、アズは或人君の芸人スキル向上のアドバイスをしていたらしく、確かに成果は出ていると思いました。

私自身は彼のギャグで笑ったことはありませんが、少なくとも「笑う人が居るのも分かる」レベルのギャグになっていると感じました。

まぁ一角のお笑い芸人として世間に認知されるのは、もう少し先になると思いますが……それでも、彼の新天地での活躍には期待しています。

 

 

「……貴方の言うことを全面的に認める訳ではない。しかし……一理ある」

 

ここで「アーク様の意思は絶対だ」と返ってくるのを覚悟していましたが、事態は最悪という程でも無いようですね。

現在の(ナキ)は、完全に思考を支配されている訳ではない様子です。

迅の例を踏まえれば、一度アークに接続したことのある個体でも、自らの意思でアークとの接続を断ってしまえば易々と操られることは無くなるはずなのですが……そこまでの判断を(ナキ)がしてくれるかどうか。

 

 

「君と雷も、今ならまだ『アークに操られていた被害者』として罰を免れることが出来るでしょう。

君とて、私やアークの悪意による被害者です。可能であれば、救われてほしい。

君を破壊する前にその選択肢を提示するのが、私なりの最大限の償いであると受け取っていただきたい」

「……戦後の雷と(ホロビ)の処遇を見てから判断したい。私は、身を隠させてもらう」

 

それだけ言い残して、(ナキ)は姿を消しました。

仮面ライダーサウザーの誇るセンサー群にも反応が無い様子なので、本当に撤退したのでしょう。

滅亡迅雷.netのヒューマギアは隠密性能にも優れているはずですが、私の開発したサウザーの感知能力を欺けるとは思えません。

 

大分時間を使ってしまいましたが、こちらの戦力的な損耗を抑えられたので良しとしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実は、或人君たちに壊されたサウザンドジャッカーを修理する暇が無くて、今私が持っているのは硬いだけの剣なのですがね。

今の状況で(ナキ)と正面から戦っていたら、危なかったかもしれません。

戦わずして勝った私の頭脳は……まさしく1000%、桁外れだ!!(ドヤァ!!

 

*1
トリロバイトマギアが無数に徘徊しているデイブレイクタウンの描写的に、おそらくヒューマギアにはEMP兵器は通用しないと思われる……。

*2
ゾウに近い生態とサイに近い外見を持つ絶滅生物

*3
戦わなければ生き残れない!


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