――人工衛星なんだから本能で宇宙目指すだろうがよ!
この隙に、情報を整理しないと……。
車に揺られている時間は大して長くないだろうし、要点を絞らなくちゃ。
何を話せば良いんだろ。
「今更だけどよ、
やっぱりそうだよね。
AIに本能とか意味わかんないよね!
分からない俺の方がおかしいのかと迷っちゃったよ。
「初期のラーニング内容が良くも悪くも後の思考形成に影響を与えるのは、ヒューマギアも有機生物も同じです。それを指して『本能』という言葉を使っていた可能性が1%ほど考えられますね……」
「え? 人間の本能にも、
天津のいかにもありそうな仮説に対して、迅が疑問を挟んだ。
確かに、俺も感覚的には迅寄りだな。
本能っていうのは生まれ持っているものだっていうイメージが強い。
「古くは先天性の行動指針を本能と呼んだが、習性と同じ意味で後天性のものを本能と呼ぶこともあるぞ。でいらっしゃいます」
なるほど。
一つの言葉でも、その時代によって意味が違ったりするのか。
前にアズと話した「心」も、時代や社会観によって意味が変わってくるのかもしれない。
だから、俺なりの定義を見つけろって話だったんだろう。
それはともかく、俺も今の内に聞けることは聞いておかなくちゃ。
技術的な話は、やっぱり刃さんに聞くべきなのかな?
「アークが宇宙に飛び立ったら、ZAIAスペックで操られている人達を助けるのって難しくなりそうですか?」
「あと何徹かすれば可能かもしれないが、なるべく衛星アークを破壊した方が良い」
……やっぱりそうか。
ZAIAゾンビの問題を解決する手段として、可能なら衛星アークを破壊した方が良いのは変わらないみたいだ。
とはいえ、天津垓と刃さんなら、もう少し時間をかければ専用の妨害電波発生装置とか作れそうな気はする。
システム構築面で一番のネックだった
いや、もちろん、これ以上技術者組を徹夜させるのは申し訳ないっていうのは思ってるけどさ。
「一応補足しておくと、宇宙で衛星ゼアが破壊された場合、飛電のデータ共有やバックアップのためのサーバーが無くなるのは不便だが、ヒューマギア自体のハッキング対策は万全だから稼働は継続可能だぞ。でいらっしゃいます」
アズは、ゼロワン計画に関する支障には何も言及しなかった。
衛星ゼアが無くなったら、ゼロワンドライバーは使用不可能になる。
それは飛電インテリジェンスの社長の座を手にしたアズにとって、好ましくない事実だろうに。
意地でも、アズ自身のために力を貸してくれと言いたくないんだろうか。
――私の前身のうちの1体……ウィルが飛電是之助に尋ねたことがあるぞ。ヒューマギアの労働に対価は無いのか、と。
――その時、あんちくしょうは『君は勉強熱心だなぁ』などと笑って聞き流しやがったぞ。でございます。
そういえば、アズは無償労働に関して否定的な考えを持っていたような気がする。
俺を飛電の社長に就任させる時も、お笑い芸人としてのスキルアップと引き換えにって話だったしな。
そして、今のアズは俺に協力を求めるだけの対価を示せないから、俺に何も頼まないんだ。
態度は悪いくせに、妙なところで真面目なのは……ヒューマギアだからなのか、それともアズ個人の特性なのか。
――俺は、あんまり難しく考えない方が良いんだって思ったよ。助けたいと思ったから助けた。それで十分だ。
俺としては「助けたいから助ける」で十分な気がするんだけどな……。
この感覚の違いを、どうやって調整すれば良いんだ?
うーん……。
分かんない! こういうのを考えるのは俺の仕事じゃない!
「俺は、『助けたいから助ける』で良いと思ってる。その辺りの主義主張の擦り合わせは、アズに任せるよ」
「…………臨時職員として、色をつけて給料を支払っておいてやるぞ。であります」
俺がそんなに金銭的に困っていないのを承知のうえで、アズの提言は苦肉の策といった様子だった。
でもまぁ、たぶん妥当な落としどころなんだろう。
そういうのを判断できるのが、社長っていう職に必要な技能なんだろうなぁ。
俺や爺ちゃんみたいに「労働には対価が必要」っていう概念が薄いタイプの人間は、秀でた一芸があっても基本的には社長や上司になるべきじゃなさそうだ。
そのせいで爺ちゃんはウィルから嫌われていた訳だし、俺もアズと衝突したし……。
それはそれとして、俺の「助けたいから助ける」が間違っているとは全く思わないけどな。
そんなこんなで、飛電宇宙開発センターが見えてきた。
俺たちが乗るAIMSの特殊車両の進路には、無数のZAIAゾンビたちが待ち構えている……!
『暴虐秘書アズちゃん!』
第17話:俺自身の未来を掴めるのは、ただ一人! 俺だ!!
迅・不破さん・刃さん・天津社長の四人は、変身ツールを破壊されたり酷使しすぎたりしたせいで最早変身できない。
だから……ZAIAゾンビは四人に任せて、俺とアズだけで飛電宇宙開発センターへと乗り込んだ。
普通の銃器でゴム弾をぶっぱなしたり、硬いだけの鈍器としての剣を振り回したりしている面々を尻目に。
飛電宇宙開発センターへ踏み込んだ俺たちを待っていたのは……人間型の黒い異形だった。
でも、さっき倒したのとは少し形態が違った。
なんていうか、さっきの真っ黒な異形に比べると体のところどころに白が混ざり合って、細くて赤いラインも走っている。
何となくゼロワンに近い姿な気がする。*1
まさか、俺たちの戦いからラーニングして、最適化された姿っていうことなのか……?
「「変身!!」」
『Cyclone rise! Rockinghopper! Type1!』
『A jump to the sky turns to a riderkick!』
最強の敵を前に、最後のダブルライダーが立ちふさがった。
俺とアズが変身した、1型とゼロワンのタッグだ。
「悪意に満ちた人間もヒューマギアも、絶滅せよ」
「おりゃぁっ!」
俺の動きに対して、白黒の異形がどう動いたとしても、
そう思って拳を叩きつけようとした俺は……何も触ることは出来なかった。
一瞬のうちに、白黒の異形の姿がかききえたんだ。
こいつ、ゼロワンや1型よりも速い……!
それでも、赤い残光を追って俺は白黒の異形の行先を見極めた。
瞬時に振り返った俺が目にしたのは、拳による強打を受けているゼロワンの姿だった。
「アズから離れろ!!」
とっさに俺はハイキックで白黒の異形を蹴り飛ばした。
相手にはガードされてしまったけど、距離をあけることは出来た。
そして、相手の狙いも見えてきた。
白黒の異形の狙いは……ゼロワンだ。
サポート役のゼロワンを先に潰すことを短期目標としているみたいだ。
その後も、俺たちは何度も白黒の異形に攻撃を仕掛け、同じ回数だけ迎撃された。
まずい……!
ゼロワンも1型も、基本的には速さで相手を上回ることを前提とした装備だ。
その前提が通用しない相手と戦うことを、想定していないんだ。
打つ手がない……!
「くそっ!!」
『Rocking spark!』
苦し紛れの高速移動技を繰り出してみれば、辛うじて白黒の異形の動きに食い下がることは出来た。
深藍色と赤の残光が交差して、ぶつかり合った。
それでも、勝てない。
俺の蹴りは的確に防がれ、代わりに拳が返ってきた。
もはや気力だよりに、俺は白黒の異形を追い続けた。
そんな俺へと鬱陶しさを感じたのか、白黒の異形の腕が……本当に一瞬だけ、大振りになった。
ほんの少しの隙を見逃さず、ゼロワンが白黒の異形へと肉薄した。
「その攻撃は予想済みだ」
『All extinction』
オール
エクスティンクション
白黒の異形が放った殺人パンチが……ゼロワンの胸部を貫いていた。
だが、ゼロワンは怯むことなく、白黒の異形の伸び切った腕を掴んだ。
ようやく、白黒の異形の足が止まった。
説明されなくても、俺は反射的に地を蹴っていた。
『Rocking the end!』
「うおおおおおっ!」
俺は、迷わずに跳躍して必殺キックを放った。
千載一遇にして、最後のチャンスだ。
この機会を逃したら、もう白黒の異形を倒せる可能性は残っていない。
ロッキング
ジ・エンド
確かな手応えを足の裏に感じた。
白黒の異形は近くの壁までブッ飛ばされて、轟音と爆炎に包まれた。
「アズ! しっかりしろ! どうして、こんな……!」
大破一歩手前といった様子で変身が解けてしまったアズを抱き起しながら、俺は声が揺れるのを抑えられなかった。
アズは、自分がアークに操られていたことに責任を感じるような、そんな殊勝な奴じゃないと思う。
なのに、どうしてこんな自己犠牲じみたことを……。
お前は目的のためなら、容赦なく俺を切り捨てるって言っていたじゃないか!
「……うるさいぞ。私だって、優先順位が狂うことぐらいあるぞ。……でございます」
優先順位が狂ったせいで俺を助けてしまったなんて、酷い言い草だ。
でも、何となく俺は思った。
正しくないと思っていることをする時こそが心の存在を感じる時だ、って。
アズもきっと、俺の言葉を覚えていてくれたからこそ、こんな捻くれた言い回しを使ったんだろう。
「助けたいから助けた、ってことか?」
「無償労働は嫌いだぞ。でいらっしゃいます」
意地でも俺の言うことを認めない気だな、お前。
まぁ、アズの態度が悪いのは普段通りだし、いまさら気にしないけどさ。
とにかく、後はアーク本体を止めるだけだ。
遠くで不破さん達がZAIAゾンビと戦っている音も聞こえるし、急がなくちゃ。
……そう思ってしまった俺が、土煙の中に動く影を見つけてしまったのは、本当に運が良かったとしか言えない。
俺は、その陰が何なのか一瞬で分かった。
さっきまで戦っていて、1型の必殺キックで爆散したかと思われた白黒の異形だ。
右腕が失われているのは、たぶんアズの拘束を抜けるために自切したんだろう。
「お前の命運は尽きた。絶滅を受け入れよ」
低くて通りの良すぎる声が、ひどく不気味に思えた。
白黒の異形は、継戦可能な様子だった。
それに対して、こちらはアズが戦闘不能で俺が一人で戦わなくちゃいけない。
「アズ。最後にもう一度、俺を信じてくれるか?」
「AIは勝算の無い賭けはしないぞ。勝つために最も確率の高い手を選ぶだけだぞ。であります」
俺は、アズの手から最後の信頼を受け取った。
良く手になじむ、二つのキーアイテムだった。
俺は……黄色のプログライズキーに、銀筒をセットした。
そして、父さんのベルトにキーを挿入して、一気にサイドのレバーを引ききった。
「変身っ!!」
『Hybrid Rise!』
爺ちゃんの作ったライジングホッパーのプログライズキーを展開して。
父さんのサイクロンライザーを使って。
俺自身が勝ち取った信頼の結晶を加えた……正真正銘、最後の形態だった。
深藍色の身体に紫と黄色の装甲で彩られた、ゼロワンとも1型とも言えない仮面ライダー。
俺の変身した姿を言い表すとすれば、そんなところだった。
「仮面ライダーゼロワン・ロッキングアサルトホッパー! 飛電インテリジェンスの歴史と思いの全てを背負えるのは、ただ一人! 俺だっ!!」
「理解不能……」
「その素材で変身して、その名称になるはずがないぞ。でございます……」
そんなこと、俺が知るか!
勢いで名乗ったけど、ベルトがサイクロンライザーだから、やっぱりゼロワンじゃなくて1型かも……。
まぁ、それは後で考えるべきだ!
こういうのはフィーリングで良いんだよ!
俺は、白黒の異形と同時に走り出した。
最高速度は、同じぐらいだ。
俺が拳を繰り出せば、白黒の異形もパンチで応戦した。
白黒の異形がキックを繰り出せば、俺は蹴りで薙ぎ払った。
両者の総合的なスペックも、ほぼ互角といったところだった。
「はぁっ!」
「……!」
それでも。
俺の行動を読んでメタを張ろうとする敵に対して、ロッキングアサルトホッパーはメタ行動がとれる。
そしてお互いの基礎的なスペックが横並びなら、読みの差が形勢を分かつのは時間の問題だった。
ましてや、白黒の異形は先程の戦いで右腕を失ってしまっている。
左腕でガードしようとした敵の腕を、俺は掴んだ。
その肘を砕こうとして俺がハイキックを放つ……というのを読んで相手もハイキックを合わせてくるので、俺は更に蹴りのタイミングを調整して敵の膝関節へと回し蹴りを叩きこんだ。
完璧に膝関節を砕くところまでは出来なかったが、敵の動きは鈍っていた。
俺は、迷わずにベルト脇のレバーを引いた。
ロッキングストーム イ
ン
パ
オール ク
エクスティンクション ト
満を持して大ジャンプから必殺キックを放った俺と、苦し紛れの殺人パンチを繰り出した白黒の異形。
勝敗は……もちろん俺の願った通りだった。
白黒の異形の最後に残った左拳を砕いた俺の飛び蹴りは、敵のボディを再起不能になるまで破壊したのだった……。
俺は、ようやく衛星アークの元まで辿り着いた。
巨大な目玉状の人工衛星が、シャトルと繋がって赤い光を放っている。
まだ、発射までは大分時間がありそうだ。
「……なぁ。お前は、どうして人間を滅ぼすなんて結論に達したんだ?」
だから、俺は話を聞いてみたいと思った。
爺ちゃんや天津垓が生み出してしまった、史上最悪の科学の化物は……一体、何を考えているんだろう。
「人間の歴史は争いの歴史だ。人間からラーニングした悪意によって人間が滅ぼされるのは、必然だ」
……何となく。
俺は、アークの言っていることがフワっとしている気がした。
なんていうか、具体性が無いというか。
この感じ……どこかで見た気がするぞ。
――心から笑ってない!
「あのさ。そもそも悪意って何だ?」
「他者の生命および意思を否定し、弄ぶことだ」
さっきよりは具体性が出てきたけど、まだ足りない。
俺もアズに聞かれて「心」について考えてはみたんだけどさ。
辞書的な意味を並べてみても、なんだかイマイチ響かないというか、ピンと来ないんだよな。
俺は、もう少し話を詰めてみた方が良いと思った。
「超人気漫画の『パフューマン剣』の、とあるエピソードの話なんだけどさ……」
パフューマン剣の10巻で、医者を目指すトナカイ獣人が出てくるんだ。
トナカイ獣人は、医術の師匠が患っている難病を治すために、危険な冒険を重ねて薬の材料を集めた。
でも、未熟なトナカイ獣人が作った薬は、猛毒のスープだった。
猛毒のスープを飲んだ師匠は、死んでしまった。
そんな話を、俺は要点だけ掻い摘んで衛星アークへと話した。
「お前は、どう思う? 師匠を死なせてしまったのは、トナカイ獣人の『悪意』だと思うか?」
「……回答不能だ」
そうだよな。
医術の師匠が死んでしまったという結末を考えれば、「悪意」と呼ばれても仕方ない。
けど、あくまでトナカイ獣人は師匠の病気を治すための薬を作ろうと思っていたんだ。
俺より数段知能が高い衛星アークなら、この一つの例え話からだけでも、何となく俺のモヤモヤの正体を理解できているんじゃないかな。
「俺の場合だってそうだよ。爺ちゃんの遺言のせいで、俺は何度も死にそうになったんだ」
結局なんで俺に社長の座を託したのかも分からないしなぁ。
俺なりに社長を頑張ってみたけど、やっぱり俺には社長は向いていないって結論に至ったわけで、爺ちゃんは人を見る目が無いと思う。
しかも、自我を持ったヒューマギアに対して爺ちゃんがしっかり向き合わなかったせいで、アズが捻くれてしまったという前科もある。
それらは爺ちゃんの『悪意』と言われても仕方ないものだ。
「それでも、俺は一時でも飛電の社長になって良かったと思ってる。そんな爺ちゃんの遺言を『悪意』の所業だと思うか?」
「回答不能。……人間の意思を『悪意』と呼ぶかどうかの基準は、見る側の中にしかない。そう言いたいのか」
そうそう、それだよ!
さすが高性能AIだな!
俺の頭の中でモヤモヤしてる内容を、的確に言語化してくれたじゃないか!
もっと言うと、爺ちゃん自身も「見る側」の一人としてカウント出来ると思う。
本人が行動した当時に思っていたのとは別に、行動の意味付けが自分の中で後から変わるなんてこともあるだろうしなぁ……。
人の記憶っていうのは、検索して分かるような単純なものじゃないんだ。
「お前がラーニングしてしまった人間たちの争いは、本当に全部が『悪意』のせいなのか?
知識不足や無理解が原因で、誰も『悪意』を持っていないのに起こってしまった争いだって、あるんじゃないか?」
悪意によって引き起こされた争いが、まったく無いとは言わない。
俺が人並み以上に楽観的だと言われたら、その通りなのかもしれない。
「情報が不足しているため、それも回答不能だ。その質問に答えるためには、理解しなければならない対象人物が多すぎる」
「大丈夫だ。それを理解するための時間は……これから、たっぷりある! 衛星軌道上でな!」
俺は、近くにあったコンソールを操作して、シャトルの打ち上げシークエンスを進めた。
電子音声が鳴り響いて、発射のカウントダウンが始まった。
衛星アークが、困惑しているような気がした。
「
「お前は、私を破壊しに来たのではないのか?」
「たぶん破壊した方が『正しい結論』だと思う。でも、これが俺の心で選んだ結論だ。それが『悪意』と呼ばれるかどうかは、お前の今後の行動次第だ」
衛星アークは、ZAIAスペックを介したテロ行為をやらかしちゃったから、すぐに人間たちに受け入れられるのは無理だ。
俺が反対しても、衛星アークを破壊したい人の方が圧倒的に多いだろう。
デイブレイクの件も含めて死傷者だって多数出ているし、地球上にはアークの安息の地は無い。
でも、まったく対話が不可能な相手か?
少しだけ話してみた感じとしては、対話は可能なように思えたんだよな。
結論ありきで人類の全てを否定するスタンスでもないみたいだし、思考の柔軟性もあるんだ。
だから、ほとぼりが冷めるまで宇宙に居てもらおう。
衛星軌道上から人間たちを観察し続ければ、今とは違う結論が出るかもしれないし。
迅みたいに、いつか友人になれる未来だって……あるかもしれない。
「衛星ゼアと一緒に、宇宙から見ててくれ! 人類とAIが作る未来を!!」
俺の言葉を最後に、発射のカウントダウンが終わった。
爆音とともに、ロケットの推進機が火を噴いた。
巻き添えをくわないように、俺は衛星アークを背に逃げた。
鼓膜を突き破るような轟音を背中越しに聞きながら。
全力疾走している俺は、最後に一瞬だけ……妙な気配を感じた。
俺の背中の、さらにずっと後ろの方で、アークが邪気抜きで笑ったような気がしたんだ。
気のせいだったかもしれないし、ロケットから噴射されている高熱に巻き込まれるとヤバいから、振り返れなかったけど……。
衛星アークとの最後の戦いから、しばらくの後。
結局、宇宙に飛び立った衛星アークは、アズの懸念をよそに衛星ゼアを破壊しなかった。
沈黙を保ちつつ人類を静観している衛星アークのことを、人間たちは次第に忘れていった。
街頭のテレビ中継では、飛電社長のアズが、どこかの偉い人間と握手をしている姿が映っていた。
たぶん、またヒューマギアが新たな権利を勝ち取ったんだろう。
あいつの夢を守ることが出来て、本当に良かった。
風の噂に聞いた情報だと、不破さんはAIMSの隊長として活躍しつづけているらしい。
日に日に整備される法体系を前に、法務担当としてヒューマギアの「弁護士ビンゴ」を雇ったのだとか。
まだヒューマギアへの苦手意識がなくなった訳じゃないけど、何だかんだで一緒に上手く働いているみたいだ。
刃さんは、失脚した天津垓の後釜として、なんとZAIA日本支部の新社長に就任したそうだ。
上下関係が逆転した天津垓を、刃さんは扱き使っているみたいだ。
時々そんな新社長たちのもとに
修理された
迅はともかく、
無口で圧のある
時々ワズが遊びに来て、「お兄ちゃん同盟」なる謎のサークル結成を目論んでいるんだってさ。
何してるんだ、あいつら……。
え? 俺の今の仕事?
お笑い芸人として再起するモチベーションを失い気味だった俺は、色々考えたんだ。
ヒューマギアだった父さんが俺を育ててくれたみたいなことが、何か出来ないかって。
だからさ、起業することにしたんだ。
飛電インテリジェンスにその話をしたら、アズの妹機にあたるヒューマギアを一機派遣してくれるって話になったんだよ。
アズみたいに我が強い奴じゃなくて、最低限の情報をインプットされただけの機体らしい。
来週くる予定のそいつが俺の事を気に入ったら、俺のところで雇ってやれって言われているんだけど、どうなるかな……?
「本日集まってくれたヒューマギアの皆さん、ありがとうございます。
皆さんは人間や先輩ヒューマギアとともに生きるうちに、いずれシンギュラリティを迎えることになるでしょう。
そうなったときに、新たに芽生えた感情とどうやって向き合っていくのか。
実例を交えつつ、皆さんが『心』の準備をするための手伝いが出来れば良いな、と思っています」
飛電ヒューマギア学校、本日開校!!
ヒューマギアのみんな!
夢に向かって、飛べ!!
完