暴虐秘書アズちゃん!   作:カードは慎重に選ぶ男

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マモルが変身したエカルマギアは強敵でしたね。



第02話:この暴虐秘書と手を組める社長は、ただ一人! 俺だ!

あの警報の後、色々あった。

滅亡迅雷.netを名乗るテロリスト集団の存在が明らかになったり。

不破さんが、オオカミのプログライズキーを使って仮面ライダーバルカンに変身して大立ち回りしたり。

暴走ヒューマギアを相手に、俺もゼロワンとして一緒に戦ったり。

なんだかんだで、上手くやっていけそうな気がしてきた……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『暴虐秘書アズちゃん!』

第02話:この暴虐秘書と手を組める社長は、ただ一人! 俺だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、この間までのゴタゴタが終わって、俺が今どこに居るかというと。

超人気漫画家、石墨超一郎先生の豪邸だ!

アシスタント型のヒューマギアの発注を受けたって偶然聞いて、俺が行きますって名乗りを上げたんだ。

いやぁ、小さい頃から『パフューマン剣』が大好きだったんだよな。

今でも毎週アニメ見てるし。

サイン色紙も持ってきちゃった……!

 

何より素晴らしいのは、あの不良秘書アズが居ないことだよ!

あいつは態度も悪いし、すぐに暴力にうったえるから、石墨先生の前で粗相があったら大変だ。

石墨先生の前では俺も格好良い社長でありたいから、アズが居ないのは本当にありがたい。

なんかアズは、ヒューマギアのハッキング対策を手伝ってるらしい。

 

……けど。

なんだか、石墨先生の職場風景は、思ってたのと全然違った。

石墨先生は4体のヒューマギアに作画をまかせっきりで、自分では絵なんて描かない。

ヒューマギアにこっそり聞いたら、ストーリーも編集担当とヒューマギアで考えているって。

しかも、ヒューマギアには休憩もとらせずに常時フル稼働しているせいで、すぐにバッテリーが駄目になってしまうみたいだ。

バッテリーがあがって動きを止めたヒューマギアを、石墨先生が椅子から叩き落して床に転がしたのを見た時には、何だか嫌な気分になった。

 

結局俺は、動かなくなったアシスタント型ヒューマギアの1体を、バッテリー交換のために飛電インテリジェンス本社に持って帰ることになった。

なんか納得いかないものを感じるんだけど、お飾りの社長である俺が変な事を言って、福添副社長たちに迷惑をかけるのも良くないしなぁ。

 

 

 

 

 

「で、なんでAIMS(うち)の休憩室で油売ってんだ、社長さんよ!」

「それがさぁ、聞いてよ不破さん!」

 

この胸のモヤモヤ!

誰かに聞かせずには居られないよ!

でも福添副社長に話したら営利第一だって言われるだけだろうし。

逆にアズにこのことが知られたら、石墨先生が明日にでも不審死を遂げるかもしれない。

というわけで、本社に戻る前に寄り道でAIMSに来ちゃった。

 

だからさぁ!

聞いてよ不破さん!

お飾り社長も辛いんだよ!

 

って、自分で話し始めておいて、なんだけど。

不破さん、一応全部話は聞いてくれるんだな。

 

 

「……一応聞くだけ聞いたがな。そもそもヒューマギアなんかと一緒に仕事をするのが間違いだろ。あんな殺人マシン、頼る奴の気が知れねぇ」

 

……そういえば、こういう人だったな。不破さんって。

むしろ、俺の話を最後まで聞いてくれたことを有難く思うレベルなのかもしれない。

 

 

「刃さんは、どう思う?」

「そこで私に振るのか??」

 

俺たちが話し込んでいる途中から、休憩室でライズフォンを弄っていた刃さんが居たので、ついでに聞いてみた。

名状しがたい「我、関せず」みたいな雰囲気を出していたから、話を振られると思っていなかったみたいだ。

でも、刃さんは技術者なんだろ?

こう、ビシっと鋭い視点で助言してくれたりしませんかね?

 

 

「別に……使えるものは限界まで使った方が良いだろう」

 

あれ。

なんか興味なさげっていうか、ドライな感じの声だ。

それで良いのか、技術顧問。

うちのアシスタント型ヒューマギアのGペンは、昼も夜もぶっ続けで働いて、バッテリーが過労死寸前なんだよ?

 

 

「道具を製造した側の視点として、大事に使って欲しいというのは分かるが。あくまで道具は道具だ。顧客側が費用対効果を見て使い方を決めるなら、それは製造側が口を挟むことじゃないだろう」

 

そう……なのかな。

何だか、釈然としない。

俺が、刃さんの言うことを理解できていないのかもしれない。

 

 

「社長は、2つの問題を混同してるから面倒くさい奴になってるんだ。1つずつブッ潰していけば簡単になるぞ」

 

どういうこと?

不破さん、なんか物事を単純化しすぎて逆に分かりづらいみたいになってない?

 

 

「漫画家本人が漫画を描いていない。ヒューマギアの使い方が荒い。この二つの問題を分けて考えろってことだよ。とりあえずヒューマギアをスクラップにすれば片方は解決するぞ」

不破(こいつ)のいう事は話半分に聞け。まぁ無難なところで、商品の使い方が荒い客からは多めに修理代を請求できるようにサポート契約を見直せば良い」

 

ああ、なるほど。

ヒューマギアの扱いが荒い客からは、たくさん修理代を貰うわけか。

そういう契約にしておけば、修理代を一杯払うのが嫌なお客さんはヒューマギアを大切にしてくれるってことだね。

 

じゃぁ、もう半分の問題は?

石墨先生が仕事に対する情熱を失っちゃってる件は、どうすれば良いんだ?

 

 

「逆に聞くが、社長はなんでヒューマギアが全部漫画を描いていたら嫌なんだよ?」

 

俺みたいにヒューマギアそのものが気に入らねぇって訳じゃないだろ、なんて言いながら不破さんが聞いてきた。

質問されて、俺は石墨先生の家での気持ちを思い出してみた。

なんていうか、ガッカリした、っていうのが一番近いのかなぁ。

 

 

「石墨先生って、もっと情熱的に漫画を描いてる人だと思ってたんだ。なんか今の石墨先生は、ヒューマギアに助けてもらってるんじゃなくて、怠けるためにヒューマギアを使っているっていうか……」

「何を言っているんだ。そもそも、人間が怠けるためのヒューマギアだろう?」

 

あんたこそ何を言ってるんだ、刃さん。

……と思ってる俺の心境を察したみたいで。

刃さんは、ライズフォンでネット上の動画を見せてくれた。

って、コレうちの会社の公式HPじゃん。

結構古いデータだな。

えーっと、2007年のデイブレイクより前か。

 

 

『人類はあらゆる労働から解放されます!』by飛電是之助*1

 

え?

あれ?

そうなの、爺ちゃん?

一応「あらゆる」っていうのは言葉の綾で、AIMSみたいに人間の手でやる必要がある仕事は残るだろうけど。

でもこの演説を聞く限りだと、確かに「人間が怠けるためのヒューマギア」っていうのは正しい気がしてきた。

もっと言えば、ヒューマギアに漫画制作を任せて本人は絵を描かない石墨先生の状況が出来上がるのは、爺ちゃんの目指した未来図な気がする。

じゃあ、このままでも問題ないのか?

 

 

「まぁ現実には、ヒューマギアが殺人マシンなせいで、逆にAIMSなんていう新しい仕事が生まれたけどな!」

「ちょっと、帰って自分で考え直してみます。今日は、本当にありがとうございました」

 

ううーん。

モヤモヤが収まらない。

俺がおかしいのか?

とりあえず俺は、バッテリーが駄目になっちゃったヒューマギアをキャリーに載せて、AIMS基地を後にした……。

 

 

 

 

 

 

 

で、飛電本社に戻ってきたわけだけど。

どうするかな。

考えが、全然まとまらないや。

そもそも、俺はなんでこんなにモヤモヤしてるんだろ。

 

気が進まないが。

ほんっっっっっっとうに気が進まないが。

俺の暴虐秘書に相談するしかないか。

ヒューマギアを馬車馬のように働かせている石墨先生の身に危険が及ぶかもしれないけど……暴虐秘書から石墨先生を守れるのは、ただ一人! この俺だ!!(ヤケクソ)

社長室に戻ると、社長の椅子にふんぞり返っている秘書型ヒューマギアの姿が目に入った。

 

 

「ただいま、アズ」

「おかえりなさいませだぞ。AIMSへ敵情視察に行ってくるとは、良い判断だな。次は賄賂も持っていきやがれ。でございます」

 

AIMSは敵じゃないだろ! いい加減にしろ!

って、そうじゃない。

俺は、さっきまでのAIMS基地での話をアズに聞かせた。

爺ちゃんの話が出た時、なんだかアズは一瞬だけ不愉快そうな顔をしたように見えた。

 

 

「なんか、納得いかないっていうか、ずっと頭の中がモヤモヤしっぱなしなんだ。アズの意見を聞かせてほしい」

「刃唯阿の言う通りだぞ。飛電是之助にとって、ヒューマギアは都合の良い労働奴隷でしかなかったぞ。でございます」

 

え、そこ肯定しちゃうの?

爺ちゃんって凄い人ってイメージが漠然とあったんだけど。

なんかアズって爺ちゃんのことは嫌いっぽい?

 

 

「私の前身のうちの1体……ウィルが飛電是之助に尋ねたことがあるぞ。ヒューマギアの労働に対価は無いのか、と。その時、あんちくしょうは『君は勉強熱心だなぁ』などと笑って聞き流しやがったぞ。でございます。」

 

見るからに不満そうな顔をして、アズが愚痴った。

まぁ爺ちゃんの言い方は悪いと思うけどさ。

ただ、俺としてはロボットに給料を払うというのも、それはそれで変な話な気もする。

アズが怒りそうなので言わないでおこう。

 

話を戻して。

不破さんも言ってたけど、『ヒューマギアの待遇が悪い』のと『石墨先生が仕事をしない』のは別問題なんだよな。

アズの回答は、どっちの問題への反応としても受け取れる気がするけど、たぶん前者に対する回答だよね。

一応ヒューマギアの待遇が悪い件に関しては、刃さんの言った案を俺から福添副社長に伝えておくからいいんだよ。

 

でも、石墨先生が絵を描かない件はなぁ。

自分でも上手く言えない。

 

 

「なんていうかさ……。人間が情熱を無くしたら、ヒューマギアの勤勉さに負けるだけだと思うんだよ」

 

自分で言ってて思ったけど。

俺、石墨先生に自分の理想の漫画家像を押し付けてるのかも……。

もっと情熱的に漫画を描いている人であって欲しかった、っていう自分勝手な願望なのかな……。

 

ちらっと、アズの反応をうかがってみた。

アズは……さっき爺ちゃんの話をしたときと同じぐらいに、不愉快そうに見えた。

どうしたの?

いきなりアイアンクローしたりとか、しないよね?

 

 

「言うべきか言うまいか、迷うところだ。飛電是之助には、結局言わずじまいだったネタだぞ。であります」

「え? 俺のモヤモヤの正体が分かったの? ホントに??」

 

どういうこと?

爺ちゃんも、俺と同じような悩みを持ってたの?

なら、教えてくれれば良いじゃん。

アズが答えを知っているなら、無駄に悩まなくて済むし。

 

 

 

 

「先代も、或人しゃちょーも……ナチュラルに、ヒューマギアを見下しているからだぞ。下等だと思っている相手が、実際には遥かに有能だったから、自分自身の考えと価値を否定された気になっているわけだぞ。でいらっしゃいます」

「違う! 俺はヒューマギアを見下してなんていない! どうして分かってくれないんだ!!」

 

俺は、反射的に大声で反論した。

どうしてそんなことを言うんだ、アズ!

確かに、お前は性格が悪いし、すぐに暴力をふるうし、態度も悪いし、爺ちゃんの事を嫌っていただろうけど……だからって、そんな言い方無いだろ!

 

 

「ヒューマギアに情熱なんてある訳がない、という言い草が何よりの証拠だぞ。でございます」

「それは……!」

 

確かに、人間が情熱を失ったらヒューマギアに負けるって言ったけど。

ヒューマギアは人間を助けるのが仕事なんだから、それはそうだろ!

あくまで仕事の主体は人間が……って、あれ?

でもヒューマギアって、あらゆる仕事から人間を解放するために作られたんだっけ?

じゃあ、人間が仕事のリーダーである必要は無いのか……?

 

 

「ヒューマギアに笑いなんて分かる訳がない。腹筋崩壊太郎に関して、お前はそう言ったことがあるだろう。でいらっしゃいます」

「……!」

 

言葉に詰まった隙を突かれて、俺はアズに首を掴まれて、そのまま壁に背中を叩きつけられた。

息ができなくて、悲鳴をあげることも出来なかった。

苦しい!

首が絞まってる!

死んじゃう!

放してくれ、アズ!

 

 

「私は、目的のために得だと思ったから或人しゃちょーに協力しているんだぞ。逆に、その障害になるなら、いつでも処分する準備があるぞ。でございます」

 

本気だ、と感じた。

アズがその気になったら、本当に俺は処分されるんだろう。

次の人が連れてこられて、社長の肩書きを貰って、ゼロワンとして戦わされるんだ。

 

 

「こう言われても……まだ、ヒューマギアに情熱が無いなんて抜かせるか? でいらっしゃいます」

 

怖い!

息ができない!

殺される!!

アズの瞳の奥で、無機質なカメラアイが少しだけ動いた気がした。

俺は、とっさに近くの机に左足をかけて軸足にしながら、右足でアズの横っ腹に蹴りを叩きこんだ!

けたたましい音と一緒に、アズは社長室に展示してあったヒューマギア素体に激突して、2体まとめて地面に転がった。

 

必死に息を整えた。

追撃される前に逃げなくちゃ……!!

 

 

「……大した戦闘センスだぞ。でございます」

「げほっ、げほっ! うるさい! 不破さんの言う通り、お前なんて殺人ロボットだ!!」

 

俺は、命からがら逃げ出した。

ふらつく足に鞭打って、俺は社長室の出口へ向かった。

 

 

「やっぱり、先代と一緒か。言うべきじゃなかったぞ」

 

最後に、俺の背中へとアズが吐き捨てるように言い放った。

俺は、何も答えずにただ逃げた。

アズがどんな顔で言ったのか、見ることもせずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外に出たころには、既に日が暮れていた。

俺は、あても無く町を歩いた。

あの殺人マシンが居ない場所なら、どこでもよかった。

 

 

「……飛電さん? どうしたんだ、そんな浮かない顔して」

「石墨先生……?」

 

無意識のうちに、昼間歩いたのと同じ道を歩いてきちゃったみたいだ。

石墨超一郎先生と、俺は偶然鉢合わせた。

先生はコンビニの袋を片手に提げているところから察するに、たぶん買い出しの帰りなんだろう。

 

夜の公園に入って。

大人二人で、人気のない公園のベンチに腰掛けた。

石墨先生は、俺の辛気臭さを察してか、缶ジュースを一本渡してくれた。

ストレスもあって精神的に参っていた俺の舌は、いつも以上にジュースの甘さを美味しく感じた。

 

俺は、洗いざらい吐き出した。

昼間に石墨先生の豪邸を訪問したときに、本当は凄く嫌な気持ちになったこと。

AIMSの人に相談して、ヒューマギアが作られた理由を知ったこと。

会社に戻ったら、お前がヒューマギアを見下しているからだ、って暴力秘書に言われたこと。

 

気がついたら、空のアルミ缶は俺の手の中でベコベコに潰れていた。

石墨先生は、どこか言葉を選んでいるようだった。

夜の公園に、しばらくの沈黙が流れた。

 

 

「俺も、同じかもしれない……。俺が見下していたヒューマギアの方が、俺より面白い漫画を描いてるって、認めたくなかったのかもしれない。だから、あいつらにキツく当たっちまってたのかもなぁ……」

「そんな、やめてください! 俺は、昔から『パフューマン剣』が好きでした! 石墨先生は凄い漫画家です!」

 

考えるより前に、俺は声をあげた。

俺が小さい頃に「パフューマン剣」を読んで、面白いと思った時の気持ちを嘘だと言われたような気がして。

冷静じゃ居られなかった。

 

でも……薄々、俺だって気付いていたのかもしれない。

週刊誌は、基本的にアンケートの順位で掲載ページ順が決まる。

ある時期から、一気に「パフューマン剣」の人気は変わった。

その原因は、やっぱり……。

 

 

「ありがとうな。そう言ってくれて。おかげで……自分自身のことも、あいつらのことも、認めることが出来た気がするよ。あいつらの方が技術があるって認めたうえで、俺は監督役として胸を張って働いていこうと思う」

「先生……」

 

自分で絵を描くスタイルには戻らない、か……。

でも、ヒューマギアを凄い奴だと認めるのって、そういう事なのかもしれない。

石墨先生本人に漫画を描いて欲しい、っていう気持ちは、俺の中でいまだに燻ってるけど。

やっぱりそれは、俺自身がヒューマギアの凄さを認めてないからなのかな……。

 

 

「それとさ。飛電さんのトコの秘書が、先代に言わなかった事を飛電さんに言ったのって、なんでなんだろうなぁ……」

「……そういえば?」

 

――やっぱり、先代と一緒か。言うべきじゃなかったぞ。

 

アズは、それを爺ちゃんに言っても何も変わらない、って諦めていたんだろう。

じゃぁ、俺に対しては?

俺に対して、ヒューマギアを見下しているからだって指摘したのは、なんでだ?

それは……俺に、飛電或人に期待していたからじゃないか。

ヒューマギアを見下している俺が、そうじゃない俺に変わるかもしれない、って。

 

……本当に、勝手な奴だ。

勝手に爺ちゃんのことを諦めて、勝手に俺に期待して、勝手に俺に八つ当たりして、勝手に俺に失望して。

 

でも。

 

 

「石墨先生。ヒューマギアが、一度した失敗をもう一度繰り返すことって、ありますか?」

「俺の知る限りでは、無いかなぁ。一度ラーニングしたら、同じ失敗はしないんじゃないの?」

 

――その時、あんちくしょうは『君は勉強熱心だなぁ(笑)』などと笑って聞き流しやがったぞ。でございます。

 

それでも。

爺ちゃんに分かってもらおうとして、失敗したことをラーニングして……それでも、まだ別の人間を信じようとしたのは。

あいつにとって、勇気のいる決断だったんじゃないのか?

ヒューマギアが社長になるっていうアズの夢がどれだけ遠いのか、俺には分かんないけど。

爺ちゃんを嫌っていたアズが、その孫である俺に頼る判断をするぐらいに、どうしようもなく遠いんだろう。たぶん。

 

 

 

俺が、飛電インテリジェンス本社に戻ろうとした、その時だった。

足音が聞こえた。

まさかアズが迎えに来てくれるなんて、そんな気が利いた奴じゃないだろう。

そう思って俺が足音の方を見ると……そこに立っていたのは、石墨先生のアシスタントの『Gペン』だった。

 

様子がおかしい。

違和感を嗅ぎ取った俺は、Gペンの様子をもう一度観察してみた。

腰に、暴走したヒューマギア達が付けていたのと同じベルトを巻いている!

これは、滅亡迅雷.netとかいう奴らに付けられたのか……!?

 

 

「滅亡迅雷.netニ接続シマス。人類ハ絶滅シロ」

 

Gペンは、見る間に身体のシルエットを変えて、巻貝を思わせる怪人に変貌した。

頭部を巨大な巻貝で守って、両腕にも巻貝のようなドリルを付けている。

滅亡迅雷.netによってハッキングを受けてしまったヒューマギアは、現状では破壊するしか手が無い。

 

 

「石墨先生、隠れてください! こいつは危険なテロリストによってハッキングされています!」

「分かった! こんなオッサンが人質になっても漫画的に面白くないしな! 任せるよ飛電さん!」

 

逃げてくださいって言いたいところだけど。

Gペンに変なベルトを付けた奴がまだ近くに居るかもしれないから、石墨先生を一人で逃げさせるのも、それはそれで危険なんだよな。

石墨先生は、最近の公園であんまり見かけなくなった、大きくて丸くてグルグル回るやつの裏に隠れて様子を見ている。

その遊具、名前なんていうんだっけ。*2

 

 

「変身!」

『A jump to the sky turns to a riderkick』

 

ゼロワンドライバーを取り出した俺は、バッタの力を宿したプログライズキーで変身して、巻貝の怪物へと変わり果てたGペンを迎え撃った。

腕のドリルを回転させて俺をミンチにしようとしてくる、巻貝怪人。

その腕を回避しつつ、俺は相手の頭部にカウンターパンチを浴びせた。

 

 

「硬っ!?」

 

指が痛い!

胸から上を巨大な巻貝で覆っている怪人は、ムチャクチャ硬かった。

たぶん、両腕の巻貝ドリルも同じぐらい硬いと見た方が良いな。

つまり、攻撃力も防御力もムチャクチャ高いってことじゃないか!

どうするんだコレ!

 

ドリルを振り回して襲ってくるのをよけながら、今度はキックで反撃してみた。

……やっぱりダメだった。

何度かキックを打ち込んでみたけど、やっぱり硬い!

 

どうしたら良いんだ!

最悪、足の速さを生かして、石墨先生を抱えて逃げるか?

俺が逃げたら、巻貝怪人は周囲の民家を襲うだろうから、できればそれは実行したくない。

俺たちが戦っている夜の公園には人気が無いけど、その周囲には市街地が広がっているんだ。

数えきれないぐらい何度も攻撃と回避を繰り返しているものの、俺の集中力が切れたら、それがタイムリミットだ。

 

 

「あの貝をどうにかしないと……!」

 

ちょっと離れてこっちの様子をうかがっている石墨先生が、不安そうにしているのが見えた。

俺は、バッタの瞬発力で相手の攻撃を避けながら、必死に考えた。

そういや、この巻貝怪人に似た敵をどこかで見たような気がするぞ。

 

……そうだ、ヤドカリ獣人だよ! 『パフューマン剣』の15巻に出てきた強敵だ!

確か巨大ヤドカリそのまんまの姿で、ファンからは「ヤドカリって獣なの?」とか「獣人っていう割に人間の要素無いよな?」とかツッコまれてるヤツだよ。

アイツの攻略方法は……そうか!

 

 

バックステップで少しだけ距離をとった俺は、拳を振りかぶって、巻貝怪人へと襲い掛かった。

巻貝怪人はドリルで俺の拳を迎え撃とうとする。

けど、拳はブラフだ!

俺の狙いは殴り合いじゃない!

 

スライディングの要領で、俺は巻貝怪人の股下へと滑り込んだ。

怪人の頭部と両腕は頑丈な巻貝で守られているけど……下半身は、いつもの怪人と一緒だ!

頭の貝をどうにかする必要なんて、無かった!

 

 

 

グ イ ン パ ク ト

 

 

 

ローアングルからの必殺キックを、胴へと叩きこまれた巻貝怪人は。

断末魔の悲鳴とともに、大爆発を起こして消えていった……。

 

 

勝鬨をあげる余裕もなく、俺は地面に転がった。

9月の地面は、昼間に吸った熱気をまだ残しているみたいで、長く寝ていたら汗びっしょりになりそうだ。

どえらい疲労感だった。

思えば、今まで俺は一人で戦ったことなんて無かった。

戦いとなれば、AIMSの人かアズが居て、共闘なりサポートなりをしてくれたからな。

 

今夜、一人で戦ってみて思った。

やっぱり、一人で戦うのは辛いよ。

やられた時に回収してくれる人も居ないし、俺一人が負けただけで守るべき人の命は失われる。

何だかんだで、支えられて戦っていたんだ。

 

 

「飛電さん、大丈夫かい? 一応AIMSに連絡を入れたけど、無駄になっちゃったかなぁ」

 

ああ、そうか。

AIMSに救援を申請するとか、完全に頭から抜けてた。

目の前の敵のことで頭が一杯になって、そこまで考えられなかったよ。

 

 

……休んでばっかりも、居られないか。

俺は、少しだけ楽になった身体を起こして、何とか立ち上がった。

 

 

「もう少し休んでいった方が良いんじゃないか? 飛電さん」

「大丈夫です。今日は、色々すみませんでした。俺が破壊した分と合わせて2体の『Gペン』は、明日早くに搬送します」

 

戻らなくちゃ。

あの、素行不良な暴虐秘書のところに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ただいま、アズ」

「おかえりなさいませ、だぞ。『お勤め』ご苦労だった、褒めてつかわすぞ。でございます」

 

相変わらず、なんて態度がデカい秘書なんだ。

飛電本社に戻ってきた俺は、薄暗い社長室の椅子を占領している不良秘書に、一応声をかけた。

っていうか、俺がさっき蹴り倒したことは全く気にしていないっぽい?

ヒューマギアの感覚は、俺にも分かんない。

 

 

「さっきは……ごめん! ヒューマギアを侮る言い方をして、悪かったよ」

 

俺は、頭を下げた。

アズは、何も言ってこなかった。

そのあと数秒の間、お互いに無言が続いた。

下げていた頭の角度を変えて、俺はアズの反応を探った。

 

アズは耳当てをチカチカ発光させて、何かを考え込んでいる様子だった。

こんなにも早く俺が謝るなんて、期待していなかったんだろう。

 

 

「或人しゃちょーの首を掴んだことなら、私は謝らないぞ。でございます」

「オイ!?」

 

そこは、そうじゃないだろ!

もっと、こう、しおらしく「私も、ごめんなさい///」みたいにデレるところだろ!

普段ツンとして態度が悪い女子が、頑張った男子に対してテレながら惚れ直すシチュエーションは、人類の夢なんだよ!

どうして分かってくれないんだ!!

 

 

「そこは、謝るか褒めるか、どっちかはしてくれよ! 有能で素敵なアズ社長なら、ビシっと出来るだろー?」

「当然だぞ。でございます」

 

あれ?

もしかして、こいつ結構チョロい……?

案外、「アズ社長」って呼んでヨイショすれば、こっちの要求も割と通るんじゃないか……?

 

 

「お前は先代と違って伸びしろがある奴だぞ。これからも『情熱』を持って仕事に励みやがれ。でございます」

「それって、褒めてる……んだよな……?」

 

一瞬、どう反応して良いのか悩んだけど。

たぶん、こいつなりに俺のことを認めてくれたんだろう。

そう思ったら……なんだか、少しだけ嬉しくなった。

 

 

なんだか、この不良秘書ヒューマギアとも上手く付き合っていけそうに思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時の俺は、本気でそう思ったんだ。

 

 

 

*1
令ジェネ

*2
→もしかして:グローブジャングル

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