暴虐秘書アズちゃん!   作:カードは慎重に選ぶ男

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Q:なぜ、ゲストキャラの性別がパロ元と違うのだ!?
A:カッコイイからだ! じゃなくて作者の性癖だ!


……でもなくて、ゼロワン原作に出てきた裕太君と読みが一緒だと、混乱(誤変換)の危険が生じるからです。



第03話:失踪したデカ長パト吉を探し出せるのは、ただ一人! 俺だ!

今日も、俺は社長室のパソコンで芸人の同業者たちの情報を集めていた。

一応社長ではあるけど、お飾りの俺には基本的に書類仕事なんて回ってこないし。

ゼロワンとしての出動時以外は基本的に暇だからね。

アズに助言された通り、お笑い芸人の情報を少しずつでも収集しておかないと。

 

……なんて、思っていた時だった。

福添副社長とアズが、厄介ごとを持ち込んできたのは。

 

 

「今回の或人君の任務は、来図警察署から盗まれた警官型ヒューマギア試作機を『秘密裏』に『回収』または『破壊』することだ」

「通称、『刑事(デカ)長パト吉』だぞ。であります」

 

ディスプレイに映し出されたのは、青い制服っぽい服に警察坊を被ったヒューマギアの姿だった。

なんだか、おかしな話だ。

警察用のヒューマギアってことは、戦闘もかなり出来るはずだし、盗まれるなんてこと……ある?

そもそも、警察署から盗まれたってどういうことだ。

この世界で一番、泥棒が仕事をしづらそうな場所な気がするよ?

諸々の疑問を、俺はアズたちに話してみた。

 

 

「デカ長パト吉は、来図警察署の地下施設で密かにラーニングが行われていたが、今朝になって姿を消しているのが発覚したらしい。滅亡迅雷.netの犯行である可能性が高いから、或人君に依頼が回ってきたんだ」

 

福添さんの言う通り、確かに滅亡迅雷.netならそれぐらいやりかねない。

だから警察が捜査するんじゃなくて、俺たちに御鉢が回ってきたわけか。

いやまぁ、同時並行で警察も調査しているとは思うけど。

 

 

「衛星ゼアなら、リアルタイムでデカ長パト吉の居場所が分かるんじゃない?」

「昨日22時を境に衛星ゼアとの通信が完全に遮断されているぞ。でございます」

 

衛星ゼアは、飛電インテリジェンスが打ち上げた人工衛星だ。

全てのヒューマギアのデータを管理している、なんか凄いマシンだったはず。

なんだけど、ダメらしい。

俺が思い付くぐらいのことは、アズ達も試してるか。

でも、ノーヒントで現在地を探すのって、かなり難しいよね。

少しでも手掛かりは無いの?

 

 

「デカ長パト吉のバックアップデータが、衛星ゼアにはありますよね? その中に、何かヒントになりそうなものは?」

「そこに気づくとは、或人君も段々ヒューマギアに詳しくなってきたね」

「今の会話の途中で、ちょうど解析が終わったぞ。興味深い情報が出てきたぞ。でございます」

 

分析自体は既に始めてたのか。

でも福添副社長に褒められて、ちょっと嬉しいぞ。

一方、アズが社長室の壁に映像を出していた。

デカ長パト吉の視点カメラで撮影された映像だろう。

 

映像の中では、小学生と思しき女の子が、排気口から地下施設へ侵入して来ていた。

楽しげに話しかけてくる女の子の姿を、カメラは正面から捉えていた。

しかも、アズの補足情報によると、こっそり週に5回以上のペースで会いに来ていたらしい。

 

 

「アズ。この子の身元は分かる?」

「映像を見せている間に調べておいてやったぞ。この子は友永ユウコ。来図第5小学校の4年生だぞ。でいらっしゃいます」

「その情報、どうやって調べたんだ? ……いいや、私は何も気づかなかった。気付かなかったぞ」

 

福添副社長が何かをブツブツ呟いていた気がしたけど、よく聞き取れなかったなぁ。(難聴主人公感)

でもさ。

その友永ユウコちゃんって、今回の盗難騒動と関係あるのかな?

ユウコちゃんが一人で排気口から出入りするのは出来るだろうけど、映像を見る限りだと大人が通るのは無理なサイズだったし。

警察の地下施設に居るデカ長パト吉を、何の痕跡もなく運び出すなんて、10歳の女の子に出来るとは思えない。

それこそ、滅亡迅雷.netぐらいの技術があれば、電気仕掛けのセキュリティを突破することは出来るだろうけど。

……もしくは、警察組織のセキュリティを知り尽くした、何者かの手引きがあったか?

 

 

 

「くれぐれも気を付けてくれよ、或人君。今回の件は、キナ臭い要素が多すぎる」

「福添副社長が思い付くだけ全部、キナ臭い要素を挙げてもらっていいですか?」(震え声)

 

なんか、考えれば考えるほど怖くなってきた。

福添副社長は、どこかから出してきたホワイトボードに、不審な点を箇条書きにしてくれた。

 

 

不審点A:対象を「秘密裏」に「回収」または「破壊」という警察からの指定。

不審点B:何故わざわざセキュリティの厳しいはずの警察署からデカ長パト吉が盗まれたのか。

不審点C:どう見てもAIMS管轄の事件なのに、なぜか警察から飛電インテリジェンスへ直接依頼されている。

不審点D:そもそも、どうやって警察署からパト吉を盗んだのか。

 

 

ヤベーイ。*1

Bは滅亡迅雷.net側の都合かもしれないけどさ。

AとCは明らかに警察組織が何か隠してるよね!?

 

仕方ない。

福添副社長のことは嫌いじゃなかったけど、最後の手段だ。

俺は、漢字2文字が書いてある封筒を、そっと懐から取り出した。

 

次の瞬間には、福添副社長が俺の手から封筒を引ったくって、ビリビリに破り捨てた。

福添さんによって破り捨てられた封筒は、「辞」の文字と「表」の文字が泣き別れになって地面にバラまかれた。

 

 

「何するんですか!? やめてください! どうして分かってくれないんだ!? 円満退社は人類の夢なんだよ!!」

「断ったら断ったで、事情を既に知ってしまっている我々に逃げ場なんて無いんだ! 察してくれ、或人君!」

「もし逃げ出したら、デカ長パト吉を警察から盗み出した犯人として、飛電或人『元』社長が明日の新聞の一面に載るように手配してやるぞ。でございます」

 

ヒェッ……。

警察と同じぐらい身内も怖い件。

俺の人生はいつから、お笑い芸人から綱渡り芸人にジョブチェンジしてしまったんだろう。

 

そんなこんなで。

デカ長パト吉の捜索に、俺たちは着手したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『暴虐秘書アズちゃん!』

第03話:失踪したデカ長パト吉を探し出せるのは、ただ一人! 俺だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、友永家を訪問した俺たちは、ユウコちゃんの母親に少しだけ事情を話して、客間へ通された。

福添副社長はいつも通りの業務があるから、俺とアズの二人だけでの訪問だ。

平日で授業があるから、友永ユウコちゃんに会えたのは放課後になってからだった。

首を長くして待っていた俺たちの前に現れたのは……ごく普通にしか見えない女の子だ。

アイスブレイキングに俺の爆笑ギャグを披露したが、まったくウケなかった。解せん。

お互いに自己紹介と挨拶もそこそこに、俺は要件を切り出した。

 

 

「実は、デカ長パト吉っていうヒューマギアが行方不明になったんだけど、何か知らないかな?」

「……知らないわ」

 

友永ユウコちゃんは、明らかに動揺していた。

たぶん、不法侵入の証拠をこっちが掴んでいることを、ユウコちゃんは気付いているんだろう。

聡明な子だ。

 

 

「デカ長パト吉は、滅亡迅雷.netという凶悪で危険なテロリスト集団に狙われているぞ。一刻も早く保護しないと、改造されてテロリストの仲間にされてしまうぞ。でございます」

「そんな、パト吉が……!?」

 

ユウコちゃんの顔色が悪くなったのが、見て取れた。

アズの言っていることは根拠のない憶測だけど、どちらかと言うと友永ユウコに揺さぶりをかけるためのブラフなんだろう。

テロリスト並みに凶悪で危険な性格をしているアズなら、それぐらいの嘘を平気で吐くに違いない。

 

アズが、俺の方に目配せして、耳当てをチカチカ光らせた。

なんとなく、俺はアズの言いたいことを察した。

いわゆる「良い警官」と「悪い警官」のムーブをしろってことかな。

むしろ、捜索対象の方が警官なんだけど。

 

 

「デカ長パト吉は、俺たちが絶対に守り抜くよ。だから、デカ長パト吉について知っていることを、出来るだけ詳しく話して欲しいんだ」

 

長考の末に頷いた友永ユウコは、少しずつ語り始めた。

ユウコとパト吉の、出会いから。

 

 

事の発端は、半年前。

可愛い野良猫を追い回しているうちに、警察署の裏手の草むらに足を踏み入れたユウコは、地面に空いていた穴に落ちてしまった。

そして、排気口の奥で出会ったのが……警察署の地下で密かにラーニングを受け始めたばかりの、デカ長パト吉だったそうだ。

当時は人間に似せるためのスキンすら付いていなかったみたい。

 

会話もカタコトで、まだ最低限の社会情報もインプットされていない状態で。

何もかもが未発達なパト吉のことが、何だか気になってしまったユウコは、その後も頻繁に排気口を使って地下施設に忍び込んだそうだ。

歩くのも覚束なかったパト吉は、毎日のように語りかけるユウコのおかげか、スポンジが水を吸うように知識と知恵をつけていった。

もちろん、警察組織の教育係によって身に付いた経験もあったんだろうけど、俺はそんなツッコミは入れなかった。

 

格好良い決めポーズを、二人で考えたこともあった。

算数の宿題を、ヒューマギアの演算能力で解いてもらったこともあった。

ユウコの要望で、銃をクルクルと回すアクションを試してもらって。

最初は銃をすぐに地面に落としてしまっていたが、1週間もしないうちに成功するようになって。

日常の何でもないことをユウコが話して、パト吉もそれを聞いてくれた。

そんな関係が……いつまでも、続くと思っていた。

 

昨日の逢引の時に、デカ長パト吉から告げられた。

次の朝には、パト吉は本庁に配備されるのだ、と。

その際に、デカ長パト吉は任務用データ以外の全てのデータを消去されて、今後の警察用ヒューマギアのコピー元となる予定だったのだ。

友永ユウコとデカ長パト吉は、今までの思い出を二人で語らい合って、涙ながらに別れを済ませたそうだ。

……ここまでが、昨日の話だってさ。

 

 

「今日は、パト吉には会いに行っていないわ。パト吉が行方不明だっていう話も、今初めて聞いたの」

 

不安そうにしながら、ユウコちゃんは話を終わらせた。

うううーん。

特に矛盾や不自然な点は感じなかったけど、嘘が混ぜられている可能性もある。

分かんないぞ。

結局、パト吉の現在地に繋がる情報は無さそうだ。

 

 

「ありがとう。俺たちは、もうしばらくデカ長パト吉の捜索を続けてみるよ」

 

ユウコちゃんは、軽く頭を下げて客間を去っていった。

俺は、その背中が扉の向こうへ見えなくなるのを待ってから、大きく息を吐いた。

 

一体誰に連れて行かれたんだ、パト吉。

こういうのは警察とか探偵とかに任せるべきだと思うんだよ。

……って、むしろ今は警官の方が捜索対象なんだけどな。

 

アズは、何か気付いたことがあるんだろうか。

何だかんだで色々な能力は高いし、俺が気付かなかったことにも気づいてたりしない?

 

 

「友永ユウコに仕掛けた盗聴器によると、友永ユウコはライズフォンの留守電メッセージを聞いているようだぞ。でいらっしゃいます」

 

俺が気付かないうちに、何やってんの!?

それ犯罪!

犯罪だから!

……と思ったけど、ヒューマギアは犯罪の主体としては扱われないんだっけ?

やっべぇ! 名目だけとはいえ、俺が社長だから罪に問われるのも俺じゃん!

 

 

『ユウコ。私だ。公衆電話から発信している。どうしても会って相談したいことがあるんだ。昨日ユウコが言っていた『いつか二人で行きたかった場所』で待っている。携帯電話の電源は切ってから来てくれ』

 

盗聴器から送られてきた音声データの一部を、アズが再生してくれた。

男性の声だった。

もしかして、デカ長パト吉の声か?

盗み出されたはずのデカ長パト吉が、どうしてユウコちゃんを呼び出すんだ?

 

まさか……パト吉が盗まれたっていう前提が間違っていたのか?

パト吉が自分の意思で警察署から脱走したんだって考えたら、福添さんに言われた不審点A*2と不審点C*3の説明はつく。

 

不審点Aに関しては、警察が手塩にかけてラーニングさせたヒューマギアが自発的に脱走したなんてバレたら大変な不祥事だから、ってことだ。

不審点Cに関しても同様だ。

不審点D*4は、警察のセキュリティを知り尽くしているパト吉が自発的に脱走したなら、セキュリティぐらいどうにでもなる。

 

それはそれで、どうして脱走なんてしたんだって話だけどな。

もう、訳わかんねぇ!

……まさか、ユウコちゃんに関する記憶を消されるのが嫌で逃げ出したか?

でも、ヒューマギアってロボットだろ。

そんな、人間みたいに自分の意思で仕事を放棄して逃げ出すなんて、有り得ないよな。

 

 

「ライズフォンの電源を切られても、盗聴器の電波があるから追跡は可能だぞ。でございます」

「ナイス! でも、あんまりソレは多用するなよ!」

 

俺たちは、友永家の客間を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アズの案内で俺が訪れたのは、小さな橋の下の散策路だった。*5

川の流れる音が静かに聞こえて、こんな時じゃなければ落ち着いて考え事でもしたい場所だ。

そんな橋の下の散策路をよく見ると、二人分の人影が見えた。

たぶん、パト吉とユウコちゃんだろう。

会話の内容を聞きたいけど、あんまり近づくと気づかれそうなんだよな。

あんまり盗聴器に頼るのもどうかと思うけど、頼むぞアズ。

 

 

『急に呼び出してしまって済まない。ユウコ』

『非常事態なんでしょ。分かるわよ。パト吉は、とても勇気がある警察官だもの。少なくとも、記憶を消されることを恐れて脱走するなんて、有り得ないわ』

 

そうだよな。

人間に代わって危険な仕事をするのも、ヒューマギアの存在意義の一つだし。

まさに、おそれを知らない勇敢な戦士って感じだよね。

盗聴器ごしに会話を聞いて、これから事件の全容が見えてくるんだろう、と俺は期待した。

 

 

『昨晩、警察署のセキュリティを全て掻い潜って、地下施設に入ってきた者が居た。データ照合の結果、滅亡迅雷.netの者だと分かった』

『それって、ヒューマギアを改造してテロを起こしているっていう……?』

 

あ、ホントに滅亡迅雷.netも一枚噛んでたのか。

正直、今回は滅亡迅雷.netは冤罪かもしれないって思ってたけど。

で、パト吉は滅亡迅雷.netから逃げて市内に潜んでいたわけか。

でも、それはそれで変な点があるよな。

パト吉は警察組織との連絡を絶っているみたいだし、衛星ゼアとの接続も切っている。

なんで、そんなことをしているんだ?

 

 

『奴は、私を仲間にするために来たと言った。だが、おかしいんだ。私の存在は、警察組織か飛電インテリジェンスしか知らないハズだ。そのどちらかから、情報が回っているとしか思えない』

『私も、昨日まではパト吉のことを誰にも話していないわ』

 

ん……?

そういえば、確かに変だよな。

滅亡迅雷.netは、どうやってパト吉の存在を知ったんだ?

警察組織か飛電インテリジェンスのどちらかに、テロリストと内通している存在が居るっていうパト吉の推理は、筋が通っているように思える。

だから、警察組織にも連絡せず、衛星ゼアとの接続も切って、唯一信頼できる友永ユウコへと相談したって訳か。

 

 

『警察も飛電も信用できない。私はしばらく単独で滅亡迅雷.netの動きを探ろうと思う。だが……私が行方不明になった件が、万が一ユウコの耳に入ったときのために、『ユウコにだけでも事情を話しておきたい』と思ったんだ』

『そうだったの……。こんな事を言うべきじゃないかもしれないけれど、記憶を失う前の貴方にまた会えて、本当に嬉しかったわ。……ありがとう』

 

盗聴器ごしでも、ユウコちゃんの声が震えているのが分かった。

橋の下の遊歩道に、小さく見える人影が……少しだけ動いた。

ユウコちゃんが、パト吉に抱き着いたんだろう。

 

何となく、俺はパト吉の言動に違和感を見出していた。

パト吉の言動は、警察も飛電も関係なく、自分の意思でテロリストと戦うと言わんばかりだ。

俺の知っているヒューマギアのほとんどは、人間に言われた通りに仕事の手伝いをするロボットなのに。

今のパト吉から感じる不思議な雰囲気は、まるで……。

 

 

――こう言われても……まだ、ヒューマギアに情熱が無いなんて抜かせるか? でございます。

 

俺の暴虐秘書みたいだ。

アズは他のヒューマギアと何かが違う、というのは漠然と感じていたけど。

パト吉も同じように「何かが違うヒューマギア」だ。

上手く言えないんだけど、人間っぽいってことなのかな。

 

そして、パト吉がそういう存在になった原因は、たぶんユウコちゃんだ。

毎日のようにユウコちゃんが話しかけて、一緒の時を過ごした経験が、パト吉を変えたんだ。

直感的に、俺はそう思った。

 

……もしかして、「何かが違うヒューマギア」であることが、滅亡迅雷.netに狙われる条件か?

わざわざ警察組織の地下施設に隠されていたパト吉を狙った理由が、それ以外に思い付かない。

アズはゼロワンの近くに居ることが多いから狙えないにしても、成長したヒューマギアが狙われているとしたら?

パト吉は、ユウコちゃんとの逢引を警察の人間に悟られまいとしただろうし、警察組織の人間がパト吉を「何かが違うヒューマギア」だと判断できたとは思えない。

十中八九、飛電インテリジェンス側に内通者が居る。

衛星ゼアの管理データを閲覧できる何者かが、滅亡迅雷.netに情報を流しているんだ。

 

 

『お前か。迅の手に負えなかったというヒューマギアは』

『逃げろ、ユウコ! 奴の狙いは私だ!』

『分かったわ! パト吉のこと、信じてるから! さようなら!!』

 

……って、黒ずくめの不審者がパト吉たちに急接近してるぅ!?

あと、ユウコちゃんは迷いなく全力で逃げるのね。

こういう時は、もっとパト吉に反論して「一緒に逃げよう」って粘るのが御約束な気がするけど。

足手纏いになりたくない、っていう思考が大きいのかな。

 

 

「変身!」

『A jump to the sky turns to a riderkick』

 

会話の内容的に、多分あれは滅亡迅雷.netの仲間だ!

俺は、とっさにゼロワンに変身して、人間を逸した脚力で不審者の前へと躍り出た。

刀を振り回してパト吉に襲い掛かっていた不審者は、刀を蹴り飛ばされて、俺から距離をとった。

 

こっちを睨みつけている、威圧感のある不審者は……初めて見る顔だ。

頭にバンダナを巻いて、鋭い眼光で俺を射抜いてくる。

その足元には、今までの暴走ヒューマギアが装備していたのと同じ、謎のベルトが落ちていた。

謎のベルトをパト吉に付けようとして、抵抗されたんだろう。

パト吉は警察官として体術をラーニングしているから、不審者に抵抗できたんだ。

 

 

「なんでだ! 他のヒューマギアじゃなく、パト吉を狙ったのは、どうしてだ!?」

「……聞かれて、ペラペラと喋るとでも思うか?」

 

低くて良く通る声で、不審者が答えた。

まぁ、そうだよね。

というか、ここであっさり聞き出せたら、多分嘘だろって思うよな。

 

 

「変身」

『Break Down』

 

と思っていたら、不審者も独自のベルトを使って、紫色の戦闘スーツを纏った。

ゼロワンドライバーとも、暴走ヒューマギアの謎ベルトとも違う、初見のベルトだ。

サソリのプログライズキーを使って、不審者は変身を遂げていた。

 

 

滅亡迅雷.netも変身できたのか!?

驚愕している場合じゃないって分かってるけど。

驚かずには居られないよ!?

 

そんな俺の驚愕と困惑を知ってか知らずか。

変身済みのテロリストは、堂々と俺の方へ歩いてきた。

嫌な感覚だった。

こっちが何をしても、的確に迎撃されてしまうような。

 

 

「勇気があるのはパト吉だけじゃないって、見せてやる!」

 

俺は、一足飛びに距離を詰めて、あいさつ代わりの飛び蹴りをお見舞いしてやった。

でも俺の飛び蹴りは片手で弾かれてしまった。

しかも、空中で態勢を崩した俺の腹に、的確にハイキックが叩き込まれた。

悲鳴をあげる暇もなく、俺は浅い川に落ちた。

 

紫のテロリストは、落下防止用の柵を悠々と飛び越えて、俺を追って川に入ってきた。

川上に立ったテロリストは、やはり堂々と俺の方へと歩いてくる。

こいつを倒せるイメージが、まったく湧かない。

 

それでも、俺はガムシャラに不審者へと殴り掛かった。

だが、俺の攻撃は紙一重のところで回避され、的確に殴り返されてしまう。

蹴ってもダメ。殴ってもダメ。

体当たりも試みたけど、正面から蹴り返されてしまった。

 

どうすれば良いんだ。

まるで、10年以上も一線級で戦い続けてきた大ベテランを相手にしている気分だ。

迷っている間にも殴られて蹴られて、どんどんジリ貧になっていく。

 

 

……逃げよう!

勇気は何処行った、だって?

人間には、意地を捨てる勇気だって必要なんだ!(マックス大屁理屈)

俺は、バッタの力を宿した脚力で川底から跳び上がった!

 

 

「逃がさん」

『Sting utopia!』

 

だが、蠍の尾みたいなチェーンが俺の片足に絡みついてきて、俺は空中でバランスを失った。

そして、地面に俺が叩きつけられるより前に、俺はテロリストの元へと引っ張られた。

世界の全てが、ゆっくりに見えた。

 

とっさに俺もベルトを操作しようとしたけど、何もかもが遅かった。

俺はここで死ぬんだ、って理屈とかじゃなくて分かった。

 

 

 

   塵

滅     殲

   芥

 

 

 

流れるような動きで、不審者が殺人キックを繰り出していて。

爆音が、全てを塗りつぶした。

 

 

*1
ビルド感

*2
不審点A:対象を「秘密裏」に「回収」または「破壊」という警察からの指定。

*3
不審点C:どう見てもAIMS管轄の事件なのに、なぜか警察から飛電インテリジェンスに依頼されている。

*4
不審点D:そもそも、どうやって警察署からパト吉を盗んだのか。

*5
いつもの東映橋の周辺。


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