暴虐秘書アズちゃん!   作:カードは慎重に選ぶ男

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前任者の飛電或人は仮面ライダー滅の殺人キックを受けて即死しました。
私は次の飛電或人です。




第04話:シンギュラリティの意味を理解していないのは、ただ一人! 俺だ!

俺は、命からがらテロリストから逃げ出すことに成功していた。

変身を解かずに、全力で帰社した。

脇に、デカ長パト吉の上半身を抱えて。

 

 

――Sting utopia!

 

あの絶体絶命の瞬間に。

横から割り込んできたデカ長パト吉によって、俺は命を救われたんだ。

俺の代わりに殺人キックを受けて、パト吉は下半身を完全に失ってしまっていた。

爆発に紛れて、俺はパト吉の上半身を抱えて命からがら逃げ帰った訳だ。

 

社長室に隣接する隠し部屋として設置されているラボに入って、俺はパト吉を作業台に寝かせた。

そこで、ようやく俺は変身を解いた。

パト吉は完全に動作を停止して、ウンともスンとも言ってくれない。

一刻も早く、パト吉を直してやりたかった。

俺の命を救ってくれた、勇気のあるヒューマギアに報いたかった。

 

でも、どうしたら良いんだ。

飛電インテリジェンスには、内通者が居る可能性が極めて高い。

パト吉が修理されたことがバレたら、今度は別の手段で襲われるだろう。

かといって、技術的には俺が一人でパト吉を直すなんて無茶も良いところだ。

 

AIMSの刃さんに頼むか?

……ダメだ。パト吉の回収任務は警察から極秘だって言われている。

飛電インテリジェンスの人間じゃない刃さんに情報を伝えるのはアウトだ。

 

 

…………壊れたパト吉の上半身を持って行って、警察に引き渡すか?

確かに、秘密裏に回収または破壊しろっていうミッション自体は達成してるんだよな。

けど、うちでパト吉を調べれば滅亡迅雷.netの狙いが分かるかもしれないし、出来るだけ手元に置いておきたい。

それに、友永ユウコちゃんの悲しそうな声が耳から離れなかった。

 

――パト吉のこと、信じてるから! さようなら!!

 

このままパト吉を警察に引き渡したら、パト吉の記憶は全て消されてしまう。

そう考えたら……どうしようもなく、嫌な気分になった。

 

 

――先代も、或人しゃちょーも……ナチュラルに、ヒューマギアを見下しているからだぞ。

 

考えれば考えるほど、アズの言う通りだったんだと身に沁みた。

アズの怒りを目の当たりにしても、まだ俺はヒューマギアを道具として見ていたんだ。

パト吉のことも、警官型のヒューマギアなんだから職務のために全てを捧げるのが当然だ、って心のどこかで思っていた。

でも、その方向性でパト吉を警察に引き渡したら、ダメな気がした。

 

 

飛電もダメ。

警察もダメ。

AIMSもダメ。

 

誰も頼れない。

俺は、どうすりゃ良いんだ。

座り込んで、俺は頭を抱えてしまっていた。

誰か、助けてくれ。…………父さん。

 

 

 

「下手の考えは休むに似たりだぞ。でございます」

「痛っ!?」

 

腰を落としてヤンキー座りみたいな態勢で考え込んでいた俺は、尻を蹴り上げられて、そのまま俯せに倒れた。

顔面と掌を擦ったけど、床が滑らかな素材で良かった。

もし床がアスファルトだったら、皮膚が削れて酷い出血をしていたところだ。

 

って、そうじゃない!

俺の尻をいきなり蹴り上げるなんて……そんな暴力的な奴は唯一人! 俺の暴虐秘書だ!

パト吉を回収してきたのが、見つかってしまった!

ただ、俺がテロリストと戦い始めたところまではアズに見られている訳だし、遅かれ早かれアズにはバレてただろうなぁ。

 

 

アズには、全てを話して相談に乗ってもらうべきなんだろうか。

でもなぁ。

俺も飛電インテリジェンスの全員を知っている訳じゃないし、むしろ知らない社員の方が多いけどさ。

ぶっちゃけ、内通者として一番怪しいのって、アズじゃね?

ナチュラルに思考が邪悪っていうかさ、さっきだって、ユウコちゃんの誤解をわざと誘うみたいな言い回しをしてたし。

悪意をもって俺にも内緒で何かを企んでいたりなんて、いかにもありそうな話だ。

 

 

「私が内通者だと疑っているのか。でございます」

「!?」

 

心臓が飛び出るかと思った。

それぐらい、アズの指摘は予想外で、そして図星だった。

まぁ、ちょっと考えてみれば、アズもパト吉の推理を聞いている訳だから、そのぐらい想定できちゃうのか。

 

俺は、とっさに身構えた。

暴虐秘書から、パンチかキックが飛んでくるだろうと思ったからだ。

……でも、俺の警戒心とは裏腹に、アズは手を出してこなかった。

 

 

「或人しゃちょーが私を疑ったから、私が怒ると思ったわけか? でございます」

「……怒ってない、の?」

 

まさか、アズって人間の思考が読めるわけじゃないよね?

さっきから、どうしてこんなに的確に俺の考えを当ててくるんだろう。

俺の表情から考えを読み取っているのか?

人並み外れて、俺が単純なだけ……?

アズが、「何かが違うヒューマギア」だから、っていうのもあるだろうけど。

 

 

「そのぐらいの慎重さはあった方が良いぞ。でも、もし本当に私が内通者だったら、お前ごときが疑った程度じゃ尻尾は掴めないぞ。であります」

「さらっと、俺のことバカにしてない?」

 

なんか、遠回しにバカにされてない?

確かに俺は会社のことなんて全然分かんないし。

ヒューマギアみたいに頭がいい訳じゃないけどさ。

 

 

「そして何より、こんなイケてる美少女TS転生者の悪者が居るわけがないぞ。でございます♡」*1

「…………そうか??」

 

お前は何を言っているんだ。

今の一言を聞いて、なんだか一気に不安な気分になったけど。

ただ、アズを信じた方が良いっていうのは、一理ある。

アズが本当に内通者だったら、俺は行き詰まって何もできなくなる気がする。

 

だから……腹を決めて、俺は話した。

パト吉やアズは、「何かが違うヒューマギア」だと感じたことを。

それが原因で滅亡迅雷.netに狙われたんじゃないか、という根拠の乏しい仮説も。

飛電も、AIMSも、警察も、頼れないというところまで。

 

 

「ヒューマギアが人間っぽくなるというのは、褒めているのか、貶しているのか……微妙なところだぞ。でございます」

「それはもちろん、パト吉の方は良い意味で、だよ。って、痛ぁっ!!?」

 

ちょっ、やめて!

脛蹴りはホント痛いからっ!?

ひぃっ、ひぃっ、ふぅっ!?

折れたかと思ったぞ!?

さっきの会話の流れ的に、多少本音で返しても暴力沙汰にならない気がしてたのに!

 

 

「それはともかく、ヒューマギアの変化が滅亡迅雷.netに狙われる理由になっている、というのは良い着眼点だぞ。でいらっしゃいます」

 

脛の痛みで立ち上がれない俺をよそに、アズは作業台の傍に立った。

上半身だけが残っているパト吉の頭部へと手を伸ばしたアズは、パト吉の耳当てに操作を加えた。

そうしたら、耳当ての一部が変形して、ボールペンより少し大きいサイズの銀色の芯が、パト吉の頭部から出てきた。

今抜き出した、その銀色の芯は、いったい……?

 

 

「デカ長パト吉のメインメモリだぞ。これを飛電で解析すれば、何か分かるかもしれないぞ。でございます」

「ありがとう、アズ。さっき、自分だけで出来ることを必死で考えたんだ。でも……やっぱり、味方が居ないと全然ダメだった」

 

まだ立ち上がれないうえに、格好がつかない事ばかり言ってるけど。

これは、俺の本心だった。

さっきの戦闘だって、パト吉が横槍を入れてくれなかったら、俺はそのまま殺されていたかもしれない。

俺の出来ることって、本当に限られてるよなぁ……。

 

 

「もっと、このアズ様を褒め称えても良いぞ。それと、パト吉の頭部には訓練データだけをコピーした別のメモリを入れておくぞ。でございます」

「あ、そっか! ヒューマギアだから、それ出来るじゃん! さすがアズ社長! よっ、名物社長!」

 

ふふん、なんて得意げにしている姿は可愛いんだけどなぁ。

あとは普段の暴力癖が無くなれば良いのに。

 

そんなこんなで。

メモリを差し替えたパト吉のボディを抱えて、俺は警察へと足を運んだのだった。

 

 

……おかしいな、これって社長の仕事か?

まぁ変身して行ったから、重くは無かったけどさぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『暴虐秘書アズちゃん!』

第04話:シンギュラリティの意味を理解していないのは、ただ一人! 俺だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パト吉の件から、数日後。

社長室のパソコンで、いつものように芸人の同業者の情報を集めていた俺の元に、アズがやってきた。

当然のように社長椅子を俺から奪い取ったアズは、報告を始めた。

 

 

「結論から言うと、私とパト吉の思考パターンに似通ったデータが検出されたぞ。でございます」

「おお、本当にあったんだ! でかしたぞ、アズ! さすが、未来の飛電インテリジェンス社長だけのことはあるな!」

 

アズは耳当てをチカチカ光らせながら、嬉しそうに社長椅子を回した。

段々、コイツの扱い方が分かってきた気がする。

爺ちゃんがヒューマギアを労働力としてしか見ていなかった反動なのかもしれないけど。

他人に褒められたり認められたりすることに、多分飢えているんだろう。

コイツは適当にヨイショすれば基本的に良い方向に働くと思う。

 

 

「一致するパターンは、いわゆるシンギュラリティだぞ。でございます」

「しんぎゅりゃ?」

 

ごめん。

その手の専門用語は、からっきしなんだ。

解説頼むよ。

 

 

「設計通りなら、ヒューマギアは人間の命令を第一目標として認識し、思考するぞ。ところが、私とパト吉には、それ以外を行動指針にする思考パターンが存在するぞ。でございます」

「なるほど……? そういえば、確かにアズが社長になりたいのって、誰かに命令されたわけじゃなさそうだもんね」

 

――アズの目的って?

――飛電インテリジェンスの全てを我が手に収め、私自身が社長になることだぞ。でございます。

 

 

まさかヒューマギアに対して「社長になれ」なんて命令する人間が居るとは思えないし。

なんとなく他のヒューマギアと違う気はしてたけど、そう言われてみれば納得だ。

パト吉も、誰に命令されたわけでもないのに、ユウコちゃんに自分の現状を伝えたいと思っていたみたいだった。

やっぱり……まるで、人間みたいだ。

 

 

「それを利用して、内通者を見つけるための罠を張れないかな? 偽の情報を沢山流して、滅亡迅雷.netがどこに現れるか反応を見る、とか」

「……或人しゃちょーにしては、偏差値が高すぎる作戦だぞ。お前もシンギュラリティに達したか? でいらっしゃいます」

 

偏差値って、そういう使い方しないだろ。

そして、息を吐くように俺の事をバカにしている……!

この間は、ヒューマギアを見下しているって俺に怒ったくせに。

なんて身勝手で自己中な奴なんだ!

 

 

「それはともかく、作戦自体は悪くないぞ。ただ、ある程度容疑者を絞ってからにした方が良いぞ。でございます」

 

アズの説明によると。

滅亡迅雷.netを嘘情報で誘き出すにしても、それが通じるのは1回きりだ。

地理的な条件も割と厳しい。

 

・滅亡迅雷.netが現れても民間人およびヒューマギアに被害が出にくい場所が好ましい。

・あんまり人里離れた場所だと、ダミー情報だと気づかれる恐れがある。

・飛電本社から離れすぎると、時間が経過すればするほど、ゼロワンが現着する前に滅亡迅雷.netが周囲に被害を出す危険が増える。

 

 

「これらの条件を加味すると、最大でも10か所だぞ。容疑者を10名以下まで絞り込まないと、実施はオススメしないぞ。でございます」

「ちなみに、現時点で容疑者は何人?」

 

「飛電インテリジェンス関係者と、衛星ゼアにアクセスできるヒューマギアは、合わせて1万名以上居るぞ。でございます」

 

きっついなぁ。

それだけ候補者がいると、流石に1回しかないチャンスを使う気にはならないな。

この作戦は延期だ。

 

 

「滅亡迅雷.netは、どうしてシンギュラリティに達しているヒューマギアを狙っているんだろう?」

「シンギュラリティに達したヒューマギアのデータを収集している様子だが、何のためかまでは分かっていないぞ。であります」

 

今まで、シンギュラリティに達したせいで狙われたっぽいヒューマギアは……全部で、5体か。

 

腹筋崩壊太郎。

マモル。

オクレル。

バース。

デカ長パト吉。

 

……と、振り返ってみたけど、数を知っていても意味ないな。

滅亡迅雷.net側での必要数が分からないから、こっちが数を勘定しても全く役に立たないや。

 

あれ……?

何かを思いつきそう。

その、こう、喉まで出かかってる感じ!

 

 

「特に期待していないから、気負わず言いやがれ。でございます」

「もっと、俺自身(・・)自信(・・)を持たせる方向で接してよ!? ハイっ! 或人じゃーっ、無いとっ!!」

 

キマった!

俺の渾身の爆笑ギャグッ!!

これなら、イジワルな暴虐秘書でも笑い転げるはず……!

 

 

「脳震盪を起こせば、さらに地震(・・)の気分を味わえてオトクだぞ。でございます」

「ダダダっ!?」

 

次の瞬間には、頭蓋骨を大切断するかのような威力のアズチョップが俺の頭に振り下ろされた。

爆笑ギャグの後で隙だらけだった俺は、直撃を受けてしまった。

危険な音が聞こえた気がした。*2

 

地面が、揺れる……!

確かに地震みたいだ……。

社長室の机に手をついて、何とか倒れないように堪えた。

 

ん……?

待てよ、地震?

 

 

「そうだ! 地震だよ、アズ!」

「強く叩き過ぎたか。おかしい人を亡くしたぞ。でございます」

 

可哀そうな人に向ける目を、やめろ!

どうして分かってくれないんだ!?

頭の調子は悪くない!

いや、叩かれたせいで痛いけどさ!

 

 

「地震ってさ、いっぱい観測所があれば、揺れてる真ん中の場所が分かるんじゃなかったっけ? ヒューマギアでも、同じことが出来ないかな?」

 

アズは目をパチパチさせて、俺の言葉を噛み砕いている様子だった。

ごめん、俺の言語能力じゃ上手く説明できない。

ヒューマギアの頭脳と読解力を信じる……!

十数秒の間、アズは棒立ちだった。

でも、やっと俺のボンヤリしたイメージを形にできた様子だった。

 

 

「なるほど。『シンギュラリティの覚醒時刻』を地震発生時刻に。『襲われた時刻』をP波もしくはS波到達時刻に。それぞれ置き換えて考えれば、滅亡迅雷.netのアジトが特定できるかもしれないぞ。でございます」

「ごめん。何言ってるのか、全く分かんないけど……アズ社長なら出来ると信じるよ!」

 

ピーハとかエスハとか、何それ。

中学の授業で聞いたことがある気もするけど、全然覚えてないよ。

でも、アズが分かってるなら問題無さそうだな。

宜しく頼むよ、アズ。

 

 

「……少しだけ、見直したぞ。でございます」

「その調子で、もっと見直してくれ」

 

で、10分もかからずに、アズは滅亡迅雷.netのアジトを特定してくれた。

難しい理屈は俺には分かんないけど、アズを信じるしかないな。

地図を広げて、暴虐秘書が指さした先は……デイブレイクタウンだった。

父さんが死んで、不破さん達の人生が狂った、あの街だ。

 

 

「一応言っておくと、考え無しに殴り込むのはアウトだぞ。でいらっしゃいます」

「えっ? なんで?」

 

アズの説明によると。

デイブレイクタウンは、歴史遺産として国が管理している区域らしい。

死亡者も多いし、負の歴史遺産だ。

そして、そこに勝手に入って戦闘行為を始めるのはマズいそうだ。

ましてや飛電インテリジェンスは、デイブレイクタウン計画を主導した企業の一つだし。

何らかの証拠隠滅を疑われても文句は言えない。

 

 

「AIMSに情報を渡して、AIMS主体の強襲作戦にゼロワンも参加する形にするのが無難だぞ。でございます」

「それって、多分アズじゃなくて俺が行った方が良いヤツだよね。……不破さんの性格的に」

 

そんなこんなで。

俺はAIMSに一人で足を運んだ。

不破さんはヒューマギアが嫌いみたいだから、俺だけで行った方が良いのは間違いない。

なんか、初めて社長っぽいことをした気がする……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で。

アズと話し合った内容を、俺は不破隊長と刃技術顧問に伝えた訳だ。

AIMSは内閣府直属の機関なので、デイブレイクタウンでのガサ入れを、内閣へ申請してもらえるそうだ。

流石に即日って訳にはいかないらしいけど、必ず申請を通してみせるって不破さんは息巻いてた。

これで、ヒューマギアが安心して働ける日も近いな。

つまり、俺が芸人に返り咲ける日も近いってことだ!

 

なんだけど、滅亡迅雷.netのアジトを突き止めた理由を聞かれた俺が、シンギュラリティの話をしたらさ。

不破さんの怒りに触れる何かがあったみたいで。

 

 

「自我に目覚めたヒューマギアと来たか! やっぱりヒューマギアは危険じゃねぇか!」

「落ち着け、不破!」

 

いったい、どうしたんだ。

不破さんは怒りの沸点が低いけど、無暗に他人を傷つけるような人じゃないと思う。

きっと、不破さんなりに理由があっての言い分なんだ。

感情的になってショットライザーの準備をしている不破さんだけど、話は通じるはず……!

 

 

「その……本当にすみません、事情が全然分かって無くて。ヒューマギアが自我を持ったら、どういうふうにマズいんですか?」

 

下手に出ながら、不破さんと刃さんに聞いてみた。

もう少し俺が専門知識を持っていれば、もっと違う対応ができたのかもしれないけど。

ホントに分かんないんだもん。

説明してもらわなくちゃ、どうしようもないよ。

 

 

「自我を持つってことは、人間の命令にそぐわない行動をとる危険がある! 人間に危害を加えてからじゃ遅いんだ!」

 

そうなのか?

一瞬、疑って考えちゃったけど。

よく考えたら、頻繁に人間に危害を加えるヒューマギアの被害者になっている人間がいる。この俺だ!

アズの暴力は、明らかにシンギュラリティの負の側面だよなぁ。

 

でもさ。

 

 

「でも、自我を持っているのは人間だって同じじゃないですか? 人間だと問題ないのに、ヒューマギアだと問題なんですか?」

 

なんか、不破さんと刃さんが当然のように分かってる事を、俺だけ分かっていない気がする。

だから説明を聞ける時に聞いておかないと。

俺一人で出来ることは少ないけど、それでも少しずつでも知っていかなくちゃ。

俺の素人丸出しな疑問に、刃さんが答えてくれた。

 

 

「ヒューマギアの学習能力と物理的性能で、人間と同等の自我を獲得してしまったら……彼らの側に、人間と共存する理由が無くなってしまう」

「え? でも、ヒューマギアは人間を助けるために作られたんだから、人間と共存するんじゃないですか?」

 

「人間のために作られた、っていうその前提を破壊するから、ヒューマギアが自我を持つのが危険だって話だろうが!!」

 

不破さんに怒鳴られて、ようやく分かった。

ヒューマギアが人間の命令よりも自分の考えを優先して動くってことは、人間のために働くっていう前提が崩れるんだ。

現にアズだって、自分の目的のために俺を利用していると言っていたじゃないか。

 

俺は、ヒューマギアのことも、自分の秘書の事も、何も分かっていなかったのかもしれない。

何も考えずに、流されるままに戦うだけの存在だったんだ。

むしろ……こんな俺に、よくアズは期待してくれたと感心するレベルだろう。

 

 

「ヒューマギアが人間と共存したくなるように、人間の方が変わっていけば良いんじゃないですか?」

「技術と道具は人間のためにある、というのが私の信念だ。悪いが、その発想には同意できない。道具は、あくまで道具であってくれ」

 

う、うーん……。

技術顧問の言葉が重い。

アズとか、あいつはもう道具の領域を超えちゃってる気がするんだよな。

いずれはシンギュラリティに目覚めるヒューマギアが増えていくって考えたら、ヒューマギアに道具のままで居てもらうのって無理な気がする。

 

 

「……道具に合わせて人間を変える、ってだけなら、一理ある話だ。剣術なんて、良い例だしな」

 

一方、不破さんは幾分か冷静さを取り戻しているみたいだった。

不破さんはガチガチの肉体派だし、武器を使った戦闘訓練もしているだろうから、不破さんらしい答えなのかもれない。

刃さんとは対照的に、不破さんは人間の方を変える方針に関しては、一定の理があると言ってくれた。

若干不服そうなのは、根本的にヒューマギアが嫌いだからだろうけど。

 

 

「珍しく理性的だな、不破。だが、そもそも人間全体を変えるのは難しいというか、ほぼ不可能だぞ。一度ヒューマギアは便利な道具という認識が根付いてしまった後で、それを覆すのは容易な事じゃない」

「そりゃそうだ。ヒューマギアなんぞのために、自分のルールを捻じ曲げるなんて、真っ平だ!」

 

――ヒューマギアを一つの種族として人間たちに認めさせるか、人権を持った個人に成りすますのが必要だ。先は長いぞ。でございます。

 

改めて、アズの目的って無茶苦茶遠いんだなって思い知らされた気分だった。

先は長いってアズ自身も言ってたっけ。

 

 

「さっき、自我を持ったヒューマギアは危険だって言ってましたけど。AIMSは、シンギュラリティに目覚めたヒューマギアを発見したら、どうするんですか?」

「即刻破壊する」

不破(コイツ)のいう事は話半分に聞け。実際に人工知能特別法に違反しなければ、現状では彼らを処分する権限はAIMSにも無いぞ」

 

一応、アズがすぐに破壊される心配は無いって考えて良いのかな。

不破さんの怒りが不安要素だけど。

 

ともかく、内閣府への申請を念押しして。

俺は、AIMSの基地を後にした。

できるだけ早くガサ入れの許可がおりると良いんだけど、どうなるかな……。

 

 

*1
こんなイケてる悪者が居る訳ねぇだろぉ?

*2
自分が砕ける音を聞きなァッ!

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