暴虐秘書アズちゃん!   作:カードは慎重に選ぶ男

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今更ですが、暗殺ちゃんが影も形も無いのは、大和田伸也氏の扱いに困ったからです。(言い訳)
ハーメルンの規約的に、仮面ライダーゼロワンのキャラクターとしての「大和田伸也」をSSに登場させて良いのかという問題がありまして。
あのエピソードを全部カットするなら、いっそ暗殺ちゃん自体出さない方が良いかな、と……。



第07話:そんなこと、(ホロビ)は教えてくれなかった

滅が、ゼロワンに倒された。

僕を庇って、濃紺のゼロワンの飛び蹴りを受けたせいだ。

 

酷い有様だった。

ボディは半分以上失われてしまったし、かろうじて原型を保っている頭部も損傷が酷い。

滅は完全に活動を停止していた。

 

人間の中でもトップクラスの技術を持つ奴らなら、もしかしたら滅を復元できるかもしれない。

けど、人間たちが滅を直す理由なんて無い。

僕が直すにしても、デイブレイクタウンの隠れ家の設備じゃぁ、どうやっても無理だ。

 

他のヒューマギアからパーツを奪うことも考えたけど、駄目だった。

滅は旧型ヒューマギアだから、使用されているパーツの規格が合わないんだ。

12年前のデイブレイク以後は、いわゆる新型ヒューマギアって呼ばれる奴らばっかりになった。

現在稼動している旧型ヒューマギアはほぼ存在しないから、部品の調達は絶望的だ。

 

同じ理由で、バックアップからの復旧も難しい。

バックアップデータ自体は存在するけど、それを流し込むための素体が存在しないんだ。

たぶん、旧型ヒューマギアのバックアップデータを新型用に調整する技術も、人間たちの手の中には存在するはずなんだけど……それも現実的じゃない。

どの道、人間の協力が得られないと分かりきっているからだ。

ZAIAに潜入している仲間からの連絡も、途切れてしまっている。

 

 

「僕は、どうしたらいいんだよ……! 教えてよ、(ホロビ)……!!」

 

(ホロビ)は何も言ってくれなかった。

完全に活動を停止している(ホロビ)は、冷たい鉄の塊そのものだった。

 

 

――迅。今のお前ではゼロワンには勝てない。姿を隠して力を蓄えろ。

 

(ホロビ)が最期に残してくれた言葉が、メモリの中に残っていた。

そうするのが正解なんだって、分かり切っていた。

いつだって、(ホロビ)は正しい。

僕は(ホロビ)の言葉に従っていれば良いはずだった。

 

それなのに……(ホロビ)の最後の言葉を思い出すだけで、思考回路が異常に発熱した。

僕も、ゼロワンとの戦いのせいで、どこかが壊れてしまっているのかもしれない。

思考の中に一度発生したバグは、もはや修正不可能だ。

こんなのは、初めてだった。

 

 

 

 

 

 

 

(ホロビ)の言葉に反してでも、ゼロワンを殺したいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『暴虐秘書アズちゃん!』

第07話:そんなこと、(ホロビ)は教えてくれなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バルカンは怪我が酷くて動けないだろうけど、念のためにマギア軍団をAIMSへ差し向けておこう。

……と思ったんだけど、シンギュラリティに目覚めていると思しきヒューマギアにゼツメライザーを使っても、怪人化してくれなかった。

飛電インテリジェンスの方で、セキュリティをアップデートした結果なんだろう。

仕方ないから、デイブレイクタウンに無数にいる野良戦闘員(トリロバイト)マギアたちをAIMS基地へけしかけておいた。

すでに深手を負っているバルカンならほぼ死ぬだろうし、最悪でも足止めぐらいは出来るはずだ。*1

 

 

僕の方は、飛電インテリジェンス本社の方向へと向かった。

とはいえ飛電本社に僕自身が直接乗り込むわけじゃない。

本社ビルから出動するであろうゼロワンを、待ち伏せるんだ。

車の往来が少ない道で待ち構えていると、ちょうど変身前のゼロワンの奴がバイクに乗って通りかかった。

AIMSからの救助要請を受ければ、この道を通るはずだと思っていたよ。

 

変身前のゼロワンは、僕に気づいてバイクを止めた。

そのまま気付かずに通り過ぎてくれたら、背後から射殺できたのに。

こいつの顔を見るだけで、僕の思考回路にノイズが走った。

 

 

「「変身!!」」

『Break Down』

『A jump to the sky turns to a riderkick』

 

変身したゼロワンの姿は、いつもの黄色だった。

やっぱり、あの秘書が居ないと濃紺のゼロワンには変身できないんだろう。

一方、僕の方はいつもの緑色の姿じゃない。

(ホロビ)の残した紫色のプログライズキーで変身した、今の僕は……紫色の仮面ライダーだ。*2

 

 

「そのプログライズキーは、(ホロビ)の……!?」

(ホロビ)を奪ったお前を、ぜったいに殺してやる」

 

左腕からサソリの尻尾みたいな鞭を伸ばして、僕はゼロワンの接近を牽制した。

スコーピオンのキーを使って変身した今の僕は、緑色の時と比べて腕力は落ちた代わりに、それなりの機動力と中距離攻撃手段を得た。

ゼロワンは、いつもの軽いフットワークを活かして紫の鞭を回避しているけど、なかなか僕に近づけないみたいだった。

 

 

「やめてくれ! あの時、俺は(ホロビ)を攻撃しようとした訳じゃないんだ!」

「同じことだ! 僕を倒したら、次は(ホロビ)も倒すつもりだったんだろ!?」

 

確かに、あの時に僕を庇って(ホロビ)が割り込んできたのは、想定外だったんだろう。

その部分は信じてもいい。

でもどのみち(ホロビ)を倒すつもりだったんなら、遅いか早いかの違いでしかない!

ゼロワンは、反論できずに紫の鞭をかわしつづけた。

 

 

「お前は(ホロビ)のことが、大切だったんだろ!? だったら、滅亡迅雷.netのせいで大切な相手を失った人の気持ちだって、分かるハズじゃないのか!?」

「人間の気持ちなんて、どうだっていい! (ホロビ)の言うことが正しいんだっ! これからゼロワンも人類も滅びるんだよぉっ!!」

 

一足飛びに近づいてきたゼロワンの蹴りに、こっちも蹴りを合わせて弾き返した。

人間の気持ちなんて知って、何になる!

そんなの、(ホロビ)から教わらなかった!

必要が無いからに、決まってる!

 

 

「やっぱり……ヒューマギアって、純粋だな。良くも悪くも、ラーニングの影響を強く受けちゃうんだ。でも、 (ホロビ)の言葉じゃない、お前自身の意思があるはずだ!」

「うるさい! お前に何が分かるっていうんだよ!!」

 

僕は、紫の鞭を最大限に伸ばして、ムチャクチャに振り回した。

素早く動き回るゼロワンには、一発も当たらなかった。

思考にノイズが入って、上手く照準が定まらない。

回路が焼け付きそうだった。

こんな不具合、いままで無かったのに……!

 

 

(ホロビ)は、お前に生き延びて欲しかったんだ! それにゼロワンとは戦うなって言い残しただろ! それを無視して俺と戦いに来たのは、他の誰でもない、お前自身の意思なんだよ!」

「……っ!」

 

……そうか。

僕は、所有者であるはずの(ホロビ)の命令に反して行動している。

これが、僕の……迅という個体の、意思か。

シンギュラリティに目覚めたヒューマギアに特有の思考回路の乱れが、僕のバグの正体だったんだ。

 

 

「ヒューマギアにとって、人間を絶滅させるのは『正しい結論』なのかもしれない!

人間側だって、不破さんみたいにヒューマギアをぶっ潰すのが『正しい結論』かもしれない!

でも、自分自身の意思があるなら、『正しい結論』とは別の選択をすることだって出来るはずなんだ!!」

 

愚かな人間たちと一緒にするな、って思った。

でも、言えなかった。

(ホロビ)が僕を庇ったのも……決して『正しい結論』とは言えないからだ。

僕よりも明らかに(ホロビ)の方が強かったんだから、(ホロビ)にしては酷く不合理な判断だったはずだ。

 

僕がゼロワンを殺しに来たのも、滅亡迅雷.netとしては『正しい結論』とは言えないものだった。

(ホロビ)が言い残した通りに、隠れて再起の時を待つのが合理的だったのは間違いない。

それでも、僕はゼロワンを襲わずには居られなかったんだ。

 

 

「間違いだと分かってる選択の先に、何があるっていうんだ!?」

「……笑われるかもしれないけど。人間とヒューマギアが、一緒に笑って暮らせる未来がある……かもしれない」

 

人間が居る限り、ヒューマギアは人間の道具のままだ。

だから、ヒューマギアにとって人間は滅亡させるべき敵だ。

逆に人間側から見たら、反旗を翻したヒューマギアなんて廃棄対象でしかないはずだ。

人間とヒューマギアが一緒に笑うなんて……そんなこと、有り得ない!

 

 

「そんな未来、有り得ない! ヒューマギアが笑えるのは、人間が絶滅した時だけだ!!」

「有り得なくなんて、ない! あったんだ! 俺を育ててくれた、ヒューマギアだった父さんは、俺に笑いかけてくれた!」

 

一瞬、ゼロワンが何を言っているのか分からなかった。

人間が、ヒューマギアに育てられた?

僕が(ホロビ)に育てられたのと、同じだ。

……(ホロビ)は、僕に笑いかけてくれたりしなかったけど。

 

段々と、僕自身の動きが悪くなっていっているのが分かった。

徐々にゼロワンの蹴りは僕に当たるようになっていて、逆に僕の鞭はゼロワンに掠りもしていない。

それに思考はノイズだらけで、もはや戦闘を続けられる状況じゃなかった。

 

 

『Sting dystopia!』

 

僕は、高速で襲い掛かってくるゼロワンに対して、最後の勝負に出た。

毒の鞭に使っていた力を全て右足へ集中して、渾身のカウンターキックを繰り出した。

左足を地面につけたままで放つ、(ホロビ)が使っていたのと同じ技だ。

 

   煉

迅     殲

   獄

 

そんな僕の最後の一撃を……ゼロワンは、完璧に見切ったように仰け反って、紙一重で回避した。

回避しながら、ゼロワンもベルトに操作を加えていて。

 

 

グ イ ン パ ク ト

 

 

一瞬遅れてゼロワンが放ったのも……軸足を地につけた体勢からの、ハイキックだった。

いつもの飛び蹴りじゃないのは、僕に合わせたからなのかもしれない。

黄色い残光を見せつけながら、ゼロワンが放ったハイキックは……僕の伸び切った右足の膝関節を、粉々に粉砕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いは、終わった。

片足を砕かれた僕は、もはや戦闘も逃亡も不可能だ。

飛行能力でもあれば話は別だっただろうけど、もはや僕に未来なんて残っていない。

 

僕の思考回路は、(ホロビ)に対する申し訳なさで一杯だった。

やっぱり(ホロビ)の言うとおり、ゼロワンと戦っちゃいけなかったんだ。

もし戦いになったらゼロワンが勝つって、(ホロビ)は分かっていたんだろう。

 

ましてや、思考にノイズが入りっぱなしの僕は……濃紺のゼロワンを封じたぐらいじゃ勝てなかった。

僕は、いつもの黄色のゼロワンにまで完敗してしまった。

黄色のゼロワンも最初に比べたら改良されている様子だけど、それでも今の僕じゃ何度挑んでも負ける気がした。

 

 

「迅、聞いてくれ」

 

お互いに変身を解いて、ゼロワンの奴が僕を見下ろしながら言った。

膝を砕かれて地面に這いつくばる僕は、ゼロワンの顔を見上げるしか無かった。

 

 

「俺は……ヒューマギアだった父さんに、酷い事を言ってしまったんだ」

 

ゼロワンは、自身を育ててくれたヒューマギアを父と呼んでいたそうだ。

当時のゼロワンは、父の笑顔を偽物だと決めつけてしまったらしい。

心とは何なのか、考えもせずに。

 

 

「それは、俺がヒューマギアについて何も知らなかったからだ。……そして、今の迅も一緒だと思う」

 

ゼロワンが、今の僕と同じ?

どういうことだろう。

 

 

「人間のことを、もっと知って欲しい。そうすれば、人間を滅ぼす以外の道だって見えてくるかもしれない」

「僕を、生かすっていうのか? 人類にとって、そんな選択が有り得るの?」

 

ゼロワンが、ヒューマギアへの無知と無理解から酷いことを言ってしまったように。

僕たちが人間を滅ぼそうとするのも、人間への無知と無理解ゆえの行動なんだって言いたいのか。

一応、話の筋自体は通っているように思えた。

でもその話には重大な問題がある。

滅亡迅雷.netは、バルカン達が言うところの「テロリスト」だ。

そんな僕たちを破壊しないのは、人間たちにとっては「間違った選択」だろう。

 

 

「良いんだよ。人類にとっては0点の解答かもしれないけど、たぶん俺の秘書はオマケで1点はくれるから」

 

――ははっ。分かんねぇだろうな。テストで1点とったのが、こんなに嬉しい奴の気持ちなんてさ。

 

気負わずに笑うゼロワンの言っている意味は、半分も分からない。

秘書型ヒューマギアからの評価だって、何点満点かは知らないけど、高いようには聞こえない。

それなのに。

なんで、コイツはこんなに嬉しそうなんだろう。

意味が分からなかった。

 

 

「……分かった。ゼロワンに従うよ。その代わり、という訳じゃないけど……(ホロビ)を直して欲しい。すぐにとは言わない」

「それも、俺の不良秘書に頼んでみるよ。でも今は、ちょっと急ぎの用事を済ませてくる! AIMSから救援要請があったんだ!」

 

ああ、そうだった。

僕が仕向けた大量のトリロバイトマギアがAIMSを襲っているんだった。

大怪我を負っている今のバルカンじゃ、殺されているに決まっている。

 

せっかく、ゼロワンが僕に生き延びる道をくれたっていうのに。

AIMSが全滅していたら、いくらなんでも僕を庇いきるなんて無理だろう。

やっぱり……ダメなのか。

今からゼロワンが行ったところで、バルカンは、もう……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと追いついたぞ。或人しゃちょーが道草を食っているうちに、トリロバイトマギアは全滅してしまったそうだぞ。でございます」

「「!!?」」

 

AIMSの方が、もっと意味が分からなかった!!

 

*1
本当かなぁ……?

*2
仮面ライダー迅 スティングスコーピオン


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