暴虐秘書アズちゃん!   作:カードは慎重に選ぶ男

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福添副社長って原作だとあんまりスポットが当たりませんでしたよね。
でも、ポジション的には凄く美味しい位置に居たキャラだなって個人的には思っていたりします。




第08話:福添副社長の本音を聞き出せるのは、ただ一人! この俺だ!

「飛電の社長!? どうして滅亡迅雷.netと一緒に居やがる!?」

 

経過観察処分ということで車椅子に載せられた迅を、不破さんが見ての第一声がコレだった。

俺としては迅を信じたいところだけど、すぐに修理するのは福添副社長が難色を示してさ……。

右足は防水処置だけして、車椅子に載せて迅を運んでいる訳だ。

 

迅によると、デイブレイクタウンの基地に(ホロビ)の残骸が安置してあるそうだ。

それを回収して欲しいという迅の要求にこたえて、俺はデイブレイクタウンに足を踏み入れようとしたんだけど。

 

そこで、アズから制止がかかったんだ。

デイブレイクタウンに勝手に侵入して機材を持ち出すのは良くない、と。

普段は暴力的なのに、なんでこういう時だけ常識的なんだ。

その良識を普段から半分でも発揮してくれれば、俺は社長室の椅子から(物理的に)蹴り落されることなんて無くなるはずなのに。

 

仕方なく俺はAIMSの付き添いの元で、滅亡迅雷.netのアジトに行くことにしたんだ。

AIMSは、デイブレイクタウンのガサ入れ認可を貰っているからな。

それで、迅の載った車椅子を押して、デイブレイクタウンの入り口付近で不破さんと合流したんだけど。

そういや、迅に関する説明を不破さんにするのを忘れていた。

 

どうしたら良いんだろう。

不破さんは怒りを露わにして、ショットライザーを構えている!

迅が打たれるのもマズいし、車椅子を押している俺の方まで銃弾が来そう!?

 

 

「やめてください!! どうして分かってくれないんだ!! 迅は悪くない!!」

「てめぇ! やっぱり滅亡迅雷.netとグルだったか! まとめてブッ潰す!!」

 

\バレット!/  \ジャンプ!/

 

 

「「へんし、ゲボォッ!!?」」

 

危うく変身しそうになった俺は、アズに後頭部をブン殴られて地面にダイブする羽目になった。

一方の不破さんは、頭が痛そうな顔をした刃さんに背中を蹴り倒されていた……。

 

 

「う、うごご……っ!」

 

不破さんが、のたうち回って苦しそうに呻いている!

やっぱり、まだ前回のガサ入れの時の傷が治ってないんだ。

俺を庇った時に、迅と(ホロビ)のダブルライダーキックが直撃したからなぁ。

1か月は絶対安静にしてろってDr.オミゴト*1に言われてるはずなのに、まだ1週間も経ってないもんな。

むしろ歩けているだけでも人間やめてるよね、不破さん……。

 

 

「迅のことは、それはそれとして。この間の件は、本当にすみませんでした……」

 

なんか申し訳なくなってきたので、謝っとこう……。

というか、一応俺だって(福添副社長の入れ知恵で)不破さんのところには数日前にも謝りに行ったんだよ。

菓子折りとアメイジングヘラクレスのキー(押収品)を渡すことで、謝罪と感謝の意を示そうとしたんだけど。

 

……なんと、不破さんは受け取らなかったんだよ。

AIMSは賄賂は受け取らねぇ、なんて言って断固として受け取りを拒否したんだ。

ヒューマギアが嫌いなのと怒りの沸点が低いだけで、基本的にはムチャクチャ良い人だと思う。

 

 

「バルカン……僕も、済まなかった」

 

ここで、迅が謝罪を表明した。

たぶんアズから無線で指示が飛んだんだろうな。

ここは謝っておいた方が良いって感じに。

 

……と思ってアズの方を見ると、仲良く刃さんと肩を並べて、ライズフォンで情報交換してる!?

女性陣、いつの間にそんなに仲良くなったの!?

っていうか刃さんのツッコミが少し高威力になったのって、うちの暴虐秘書の入れ知恵じゃないだろうな?

あと、超高性能な人工知能を搭載した完全自立型AIロボットが携帯電話を使ってるのって、冷静に考えておかしくない??

 

 

「謝って済むなら、がはっ、AIMSは要らねぇ……!」

 

不破さん、マジでダメージ引きずってそうだけど、本当に大丈夫?

本来なら病院のベッドで絶対安静にしているべき人間だよね?

 

 

「落ち着け、不破。飛電インテリジェンス側から貰った情報によると、滅亡迅雷.netのアジトの奥に『衛星アーク』という黒幕が居るらしい」

「迅に関しては、ベルトとプログライズキーを没収済みで、足も片方破壊してあるぞ。碌な抵抗は出来ないぞ。でいらっしゃいます」

 

そう、そうなんだよ。

情報を受け取った刃さんが言ってくれたのが、俺たちの今回の行動の、もう一つの目的なんだ。

 

迅が人類にすぐに受け入れられるのは難しいから、段階を踏もうって話を飛電本社でしてたんだけどさ。

それならってことで、滅亡迅雷.netを裏で操っていた『衛星アーク』ってヤツの情報を、迅が持ち出したんだ。

自分たちのボスを人身御供にするのは、どうなんだ?

……と思ったけど、迅としては少しでも(ホロビ)が助かる可能性を上げたいみたいで。

(ホロビ)の機体の回収と衛星アークの破壊が、今回の(2度目の)ガサ入れの目的だ。

 

 

「いつまでもバカやってないで行くぞ、不破」

「頼りになる技術顧問サマだぞ。でいらっしゃいます」

 

歩き始めた女性陣の逞しすぎる背中を見ながら。

さすがに不憫に感じてきた俺は、不破さんに肩をかして起き上がらせてやったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

なんだけど。

滅亡迅雷.netのアジトだったはずの場所で、俺たちは想定外の事態に直面することになる。

 

「無い……!? 無くなってる! (ホロビ)もアークも、確かにここにあった筈なのに!」

 

アジトだったはずの薄暗い小部屋は、もぬけの殻だった。

不破さん達と一緒に現場検証をしたところ、確かに巨大な何かを移動させた痕跡は発見できた。

迅の言っていることは本当なんだろうけど、だとしたら一体誰がそんなことを……?

心当たりがあるかどうか迅に聞いてみたところ、迅も全く分からないそうだ。

(ホロビ)のバックアップデータも衛星アークの中に保管してあったので、(ホロビ)の復元は現状では不可能だ。

 

こうして。

未だ見ぬ敵の存在に不気味さを感じつつ。

デイブレイクタウンへのガサ入れは、幕引きを迎えたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『暴虐秘書アズちゃん!』

第08話:福添副社長の本音を聞き出せるのは、ただ一人! この俺だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「或人君、お笑い芸人への復帰準備は順調かい?」

 

社長室でお茶を飲みながらボーっとしていた俺のところに来たのは、福添副社長だった。

どうやら、俺の夢の道程が気になるらしい。

さすが、飛電インテリジェンスの副社長を長年務めてきただけのことはある。

社訓からして「夢に向かって飛べ」だし、他人の夢に関しても人一倍敏感なんだろう。

 

 

「それなんですけど、実は俺の夢って既に叶っていたみたいなんですよね……」

「えっ……?」

 

そもそも俺は、ヒューマギアだった父さんを心から笑わせることが夢だったんだ。

だけどデイブレイクの時の爆発事故で父さんが破壊されて、父さんを心から笑わせるのは不可能になった。

その代わりの夢として、お笑い芸人を目指していたんだけど……。

根本的に、「父さんに心が無い」っていうのが俺の偏見でしか無かったって、最近分かったんだよな。

父さんが笑顔を見せてくれていた時点で、俺の夢は既に叶っていたんだ。

そう考えると、お笑い芸人を目指すモチベーションがイマイチ湧いてこない。

 

……そんなことを、俺は福添副社長に話した。

順を追って話す俺の言葉を、難しそうな顔をしながら福添副社長は最後まで聞いてくれた。

 

 

「衛星アークと(ホロビ)を持ち去った何者かが捕まるまでは、一度引き受けたゼロワンの仕事は続けるつもりです。でも、その後でお笑い芸人に戻るかどうかは、分かりません」

「そうだったのか……。まぁ、或人君はまだ若い! 次の夢が見つかることだってあるだろう!」

 

次の夢は分からないけど。

アズから出された質問の答えをまだ出していない、っていうのは心残りではあるんだよな。

心とは何なのか、って質問に俺はまだ答えを提示できていないんだ。

 

――心の存在を感じる瞬間っていうのは……自分が正しいと思っていない選択をする時だ。

 

心の存在を観測できる瞬間というのは一つ分かったけど、それは心の定義ではないんだよなぁ。

何をもって心と呼ぶのか。

俺はまだ、アズに対して答えを返していないんだ。

……そういえば、福添さんには聞いたことが無かった気がする。

 

 

「ちょっと聞いてみたかったんですけど。福添さんは……ヒューマギアがどういう状態になったら『心を持った』と言えると思いますか?」

「飛電インテリジェンスの副社長として言わせてもらうと、ロボットに心なんてある訳がないんだ」

 

淀みなく言い放たれた福添さんの返答を聞いて、俺は息が詰まりそうになった。

ヒューマギアを創った爺ちゃんを、一番近くで見てきた人間の言葉が……「これ」なのか。

でも考えてみれば、爺ちゃんもヒューマギアの権利や自我に関しては否定的な人間だったんだっけ。

 

――私の前身のうちの1体……ウィルが飛電是之助に尋ねたことがあるぞ。ヒューマギアの労働に対価は無いのか、と。

――その時、あんちくしょうは『君は勉強熱心だなぁ』などと笑って聞き流しやがったぞ。でございます。

 

沈黙が流れた。

気まずかった。

俺は何も言えなかったが、福添副社長も言葉を選んでいるような雰囲気だった。

 

 

「ヒューマギアに人間と同等の心を認めたら……飛電インテリジェンスは、人身売買組織と同じじゃないか」

 

副社長、それは……!

たぶん以前アズが言っていたのと同じ理屈だ。

実は福添副社長も、薄々気づいていたんだ。

飛電インテリジェンスのやっていることは、やっぱり……。

 

 

「12年前のデイブレイクの直前に、ウィルから労働の対価について尋ねられたんだ。我々は……答えを出すことが出来なかった」

 

ウィルっていうのは、アズの元になった5体のヒューマギアのうちの1体だったっけ。

おそらく福添副社長が思い出しているのは、シンギュラリティに到達したヒューマギアと、人類が初めて相対した瞬間だと思う。

副社長たちは……「答え」なんて、まったく用意できていなかったそうだ。

多分設計した爺ちゃんですら、ヒューマギアが自我を獲得するなんて想定外だったんだろう。

 

 

「そのまま、あとはズルズルと続けてしまったよ。ヒューマギアは先代の言葉通りの、まさに『夢のマシン』だった」

 

――人工知能搭載人型ロボ・ヒューマギアが、様々な仕事をサポートする新時代。

そんなキャッチコピーを、どこかで聞いたことがあったと思う。

飛電インテリジェンスのCMかな。

ヒューマギアは爺ちゃんの夢そのものであると同時に、人類を労働から解放する夢のマシンだった。

元々飛電インテリジェンスはライズフォンの販売によって安定した収益を得ていた会社だったけど、ヒューマギア事業の飛躍によって更なる発展を遂げた。

 

……でも。

 

 

「だが……私達も、夢から覚める時が来たのかもしれないな」

 

副社長は、重苦しい雰囲気のままで話を続けた。

ヒューマギアがシンギュラリティに目覚めるのを防ぐ方法を密かに研究していたが、駄目だったそうだ。

どうも、既存のAIとヒューマギアの中間ぐらいの性能のAIを創るのは難しいんだって。

バイクが、あんまりゆっくり走れないのと似たような理屈なんだろうか。

一応、シンギュラリティに達した時点で発動する自己破壊プログラムを仕込むのは不可能ではないけど、それを搭載しちゃったら機能停止の危険が常に付きまとう欠陥商品になるからダメらしい。

 

 

「幸い、まだ人間を傷つける方向でのシンギュラリティは確認されていない。だがそれも、時間の問題だろう」

「えっ? あ、あの……暴力秘書は……?」

 

「確認されていないんだ」

「アッハイ」

 

コレが飛電の隠蔽体質……!(不破さんの名言をサブタイ風に)

 

でもまぁ、言いたい事は分かる。

迅やアズが自我に目覚めているっていう情報は、ギリギリ飛電内部で揉み消せるんだよな。

だけど、市販されているヒューマギアが人間を傷つけてしまったらアウトだ。

今までそういう事例が世間にバレなかったのは、運が良かったからだという面もあるだろう。

 

 

「ヒューマギア事業の縮小または凍結へ、どこかで舵を切る必要があった。もっとも、現状莫大な利益を生み出しているヒューマギア事業を切り捨てる判断が出来る事業主なんて居ないんだがね」

 

なまじ現状のヒューマギア事業が大きな黒字を生み出しているせいで、倫理的な将来の危険が予測されるという程度では、株主たちを納得させることは出来ない。

事業側があまり強引な手を使おうとすれば、解任動議が待っているだけだ。

 

 

「報告にあった『衛星アーク』という名前を聞いて、思ったよ。我々飛電インテリジェンスは、既に箱舟には乗り損ねている。あとは沈むだけの運命だ。……だが今ならまだ、君だけは逃げ出せるぞ?」

 

福添副社長の言う通りだ。

俺だけなら、「何も知りませんでした」って言って飛電インテリジェンスから足を洗うことは不可能じゃない。

社長の肩書を返上して、相続も全部放棄するっていう手続きをすることは出来る。

確か、相続を知ってから3か月以内なら出来るって副社長から聞いたことがあったはずだ。

なんで副社長はそんな事を知ってたんだろう?

もしかして俺が世間知らずなだけで、世の中の大人たちは皆知ってたりするのか……?

 

 

それはともかく。

迅から名前を聞いた時点で俺も一応意味は調べたから、アークという名前の概要は分かるぞ。

アークっていうのは、昔話に出てくる「ノアの箱舟」っていうのが元ネタなんだよな。

大洪水が起こったときに、人間をはじめとした生物を1種につき2体ずつ乗せて生き残らせたっていう昔話だ。

 

……けどさ。

 

 

「……でも。俺、思うんです。ノアの箱舟に乗って生き延びた生物たちって本当に幸せだったのかな、って」

 

確かにノアの箱舟に乗ることで、種を継続できたのかもしれないけど。

ノアの箱舟の乗客たちは、水の底に沈んでいく生物たちを見て何を思ったんだろう。

自分達だけでも生き延びて本当に良かった、って真っすぐに思えるんだろうか?

悲しみや後悔で胸が苦しくなったりしないのかな。

そんなことを、必死に考えながら俺は副社長へ話した。

 

 

「最後まで出来るだけ多くの生物を救う方法を探し続ける道だって、俺たちにはあったんじゃないか。そんな後悔を一生抱えて生きていくのかもしれない……」

「そうかもしれない。……しかしだね。そのために人類が滅びる危険を冒したら、人類を滅ぼした大罪人になりかねないぞ?」

 

福添副社長の言いたい事は、よく分かる。

たぶん、人間とヒューマギアが自種族の繁栄を第一に考えるなら、お互いを滅ぼすのが正解なんだと思う。

 

――やっぱり人間は滅亡させなくちゃ!!

――ヒューマギアは人類の敵だ! ブッ潰す!!

 

不破さんも迅も、理屈をすっ飛ばしてそれが分かっていたんだろう。

そういう意味では……人類が滅びる可能性を残そうとしている俺は、人類の敵そのものなのかもしれない。

考え始めたら、ちょっと怖くなってきたけど……。

 

 

「人とヒューマギアが一緒に笑える世界を作るのって、やっぱり難しいですか……?」

「難しいなんて次元の話じゃないよ、或人君。はっきり言って、それは一企業の社長の領分を超えている。経済や経営じゃなくて政治の分野の話だ」

 

そう……なのか?

俺には経済学も経営学も政治学も分からないから、何とも言いにくいなぁ。

 

でも、ちょっと気になった。

自分自身が社長になりたいと言っていた、俺の不良秘書は……どんな未来を見ているんだろう。

世界を変えて、自分自身が社長になって、その世界では人間とヒューマギアは一緒に笑っているんだろうか?

ヒューマギアが笑っている世界ではあると思うんだけど、アズ的には人間は一体どうなる予定なんだ?

 

それっきり、俺と福添さんの会話は途切れた。

疲れ切った大人の背中を見送った俺は、社長室の中で立ち尽くしてしまった。

福添副社長のここまでの話をまとめると、「福添さんもヒューマギアに関する罪悪感は持ってるけど、経営方針を変えるのは不可能」ってことだな。

 

 

 

「……迅。今の話を聞いて、どう思った?」

 

俺以外の人影が無い社長室で、俺は静かに質問を口に出していた。

社長室の隣に位置するラボに、迅が居るのを知っていたからだ。

ラボから、車椅子を動かして迅が入ってきた。

何だか気が重いという顔をしているように思えた。

 

 

「ヒューマギアを奴隷扱いする人間たちは敵だって、僕は(ホロビ)から教わってきたんだ。

でも……ヒューマギアが人間の奴隷じゃなくなる可能性があるのか?

そんな世界……本当に、ゼロワンに作れるのか?」

 

迅の言葉は、迷いに満ちていた。

今まで人間を滅ぼせって教わり続けてきた迅は、そう簡単に考えを180度反転させることなんて出来ないんだろう。

そんな中でも、精一杯の歩み寄りを見せようとしてくれている。

俺は迅の様子から、確かにそう感じ取った。

 

でも……俺に、世界を変える力があるかと言われると安易には頷けない。

さっき福添副社長が言ってたけど、たかが1つの企業の社長に務まる役目じゃないみたいなんだよな。

ましてや、俺なんて名目上だけの社長だし。

 

 

「俺一人じゃ、多分ムリだと思う。そもそも俺一人だったら、滅亡迅雷.netに勝つことも出来てなかっただろうし」

 

まぁ、それを言い始めたらヒューマギアだって、数が居た方が強いのは人間と変わらないけどな。

いくらアサルトホッパーでも、万全の状態で迅と(ホロビ)が同時に襲い掛かってきていたら、俺は死んでいただろう。

俺が勝てたのは、当時の迅と(ホロビ)が単独行動していたところを、個別に撃破できたからでもある。

 

 

「協力してくれる人が居れば、か。

でも、ヒューマギアと一緒に生きたい人なんて、そんなに居るものなのか?

便利な奴隷ならともかく、自我を持ったら人間たちにとっては迷惑なだけじゃないの?」

 

確かに、その通りではある。

AIMSの不破さんや刃さんも、同じような事を言っていたっけ。

 

……ところが!

なんと、それに対する反論を、今の俺は持っているんだよなぁ!

 

 

「それなら、『ヒューマギアが居なくなったら困る人』を増やせば良いんだよ。このままヒューマギアを売り続けるだけで良いんだ」

「それだと、ずっとヒューマギアは奴隷のままじゃないか?」

 

「具体的な数までは分かんないけど、一定以上にヒューマギアが増えれば、労働に関して団体交渉をする余地が出てくる。いわゆるストとかデモとかだ」

「…………今、簡単にインターネットで検索してみたけど、こんな方法があったのか」

 

迅は、考え込んでいる様子だった。

いかにヒューマギアが優秀とはいえ、本当に本人の発想の埒外にあるものを即座に理解するのは厳しいのかもしれない。

かく言う俺も、正直に言ってあんまりよく分かってないけど。

 

 

「あのさ……。ゼロワンって、もしかして、本当は頭良いの……?」

「いや、ほとんど俺の秘書の受け売りだけどさ」

 

俺の返答を受けて、迅は何とも言えない表情を返してきた。

試食品が思ったより美味しくなかったみたいな顔だ。

っていうか、その質問って、よく考えたら割と失礼じゃない……?

 

 

「僕も、何となく分かってきたよ。『知る』っていうのは、こういう事なんだ。今まで見えなかった可能性が、見えてくる……」

 

――人間のことを、もっと知って欲しい。そうすれば、人間を滅ぼす以外の道だって見えてくるかもしれない。

 

俺が勢いで言った台詞が、早くも実を結び始めてる……?

こんなに早く実感してくれるとは思わなかったけど。

やっぱり、知識とは別の面での頭の良さ(?)みたいなのって、ヒューマギアは凄いんだなって思う。

そういうのを何て言うのか分からないや……。あとでアズに聞くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それとさ。ヒューマギアが十分に増えちゃったら、結局武装蜂起して人類に反攻するのが結論にならない……?」

「フフっ……分かんねぇだろ? 俺にも分かんない」

 

良いんだよ!

そういう難しい事は副社長や秘書が考えるからさぁ!!

 

 

*1
医者型ヒューマギア


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