〝悪の呪霊〟は願いを叶える   作:かぼまこ

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〝悪の呪霊〟は願いを叶える

 

 報告書 No.13

 作成者:████ 作成日:10月12日

 詳細:10月8日午前0時0分、地方都市冬木にて特級呪霊「怨天大聖」を補足。今回の発生により、観測上累計5回目の誕生となる。

 今回の誕生で殻として用いられたのは少年の姿であり、全身の刺青と赤い布が特徴となる。

 特性は前回と変わらず以下の通りと推測される。

 ・人への特攻効果

 依然として機能していると思われる。

 詳しい情報は報告書No.4の殺害権利にて解説。

 ・魂を侵食するほどの悪性情報

 今回の殻の性質か、これを流出させる事例は現在確認されていない。

 ・願望器としての機能

 詳細不明

 

 

 

 ───

 

 

 

 

 

 

 (わたし)は、幾度か生まれ、幾度か滅んだ。

 ある時は女であり、泥であり、肉であり、霊であった。

 その全てが、ある少年によって終わりを迎えた。

 赤銅の髪を持つ少年は、何度も(わたし)を殺した。

 

 彼は「正義の味方」目指す者で、

 (わたし)は「この世全ての悪であれ」と望まれた。

 だからこそ、この関係は当然だった。

 

 ───衛宮、衛宮士郎。

 

 何も無い筈の(わたし)が、唯一持ち得た▞▟(もの)

 どこまでも愚直に、正義の味方であらんとした破綻者。

 誰もが美徳と賛美し、しかし結局は偽善と切り捨てる筈の生き方を、彼はもう何十年も続けている。

 報われる保証がないと知りながら、彼はその在り方を捨てることなど無く、ただ走り続ける。

 

 一つの道を歩めば、成功と失敗の二択を迫られる。

 多くの人はそこに辿り着く事なく挫折し、妥協し、成功者を妬み毒を吐く。

 だが彼は、その二つに縛られず、ただ蠢き続けた。

 〝───誰もが幸せであって欲しい〟

 十人聞けば、十人が嘲笑い否定する理想という名の絵空事。それを「無くさない」と叫べるのは、果たしてどれ程いるのであろうか。

 それを美しいと感じ、それでもそう生きられたのなら、どんなに良いだろうと憧れることが出来る者は、どれ程いるのだろうか。

 

 どこまでも愚直。どこまでも頑固。どこまでも強固。

 そう、正しく彼の体は剣で出来ている。

 だが、それで充分だったのだ。

 

 救われなかった者には、何処までも眩しかった。

 その在り方も、その理想も、その夢想も。

 全てが等しく最高にイカれていた(美しかった)

 

 ───衛宮、衛宮士郎。

 

 何も無い筈の〝オレ〟が、唯一持ち得た情景(もの)

 どこまでも愚直に、正義の味方であらんとした破綻者。

 誰もが美徳と賛美し、しかし結局は偽善と切り捨てる筈の生き方を、彼はもう今も続けている。

 報われる保証がないと知りながら、その在り方を捨てることなど無く、ただ走り続けている。

 

 …バケモノめ、正気じゃない。

 

 それでも、そうだ。

 お前は正しい、衛宮士郎。

 

 その誤認その感傷の罪深さに目を焼かれるとしても、美しいと感じたものにオレもそうやって憧れたかった。

 ───ただ憧れてみたかった。

 

 

 

 

 

  ───

 

 

 

 

 

 そろそろ、撒いただろうか。

 よっこいせ、と身体を起こす。

 嫌に気怠い感覚が「この殻は最弱だ」と教えてくれた。

 うーん、幸先の悪いスタートに泣いちゃいそう。

 これ以上の下はないぜヒャッホーウ。

 

 首を何度か鳴らし、辺りを見渡す。

 此処は変わらず、酷いほど荒れ果てた廃墟だ。

 血とカビと埃の匂いがまぁまぁする。

 

「…さ、て…どーするかねぇ」

 

 唯一残された家具と思しきソファを独占する、我が主人を見る。逃亡の旅に疲れたのか、今やぐっすり泥のよう。

 少しばかり無警戒すぎませんかね、と思いつつも忠実な僕であるワタクシは窓辺に座る。

 

 月明かりが一切無い新月だ。

 逃げるにはちょうどよかったと言えるだろう。

 素早さには一家言持ちである。

 

 なんてらしくも無いことを考えてると、ソファを独占していた主人が目を覚ました。

 

「……ここ、は…わた、し…は…」

「よう、起きたかマスター」

「───ッ!!」

 

 ずざぁ! とセーラー服が汚れるのもお構いなしに主人がオレから後ずさる。

 流石に此処までくると心にくるものがある。呪霊にも傷つく心があることを知っていただきたい。オレは知らないけど。

 ともかく、オレは両手を上げて無害アピール。

 

「オレからあまり離れない方がいい。

 脳の補填なんて初めてだからさー、正直不安と言いマスカ。ふとしたことで逆戻り、なんて事になっても不思議じゃない」

 

 頭を銃弾が通り抜けたはずのセーラー服の女は、震えたままオレを見ている。

 気丈に睨んではいるが、正直食いたくなるから勘弁して欲しい。これでも必死に抑えているのだ。

 

「なんで、生きてるの」

「ん? ああ、死んだよ? アンタもオレも」

 

 逃亡中に何度も殺されたもんだからオレの残骸が溜まる溜まる。まぁおかげで逃亡にも成功したんだが。

 途中で無限を引っ張って来る奴が来た時はマジで終わったかと思った。

 ともあれ、主人の「願い」のおかげもあって、奇跡的にあの何かやたら凄そうな地下から脱走成功である。これで今生どころか、来世の運も使い果たしたのではなかろうか。

 

 …まぁオレは良いが、問題は主人だ。

 

「一応だけど、アンタは生きてる。

 でもほぼ死んでる。ホントは仮死状態にしたかったんだけど、あのゴリラのせいでそれも難しかった」

 

 オレの死因の八割は黒髪のゴリラみたいな男だった。

 一応人だし、殺せるには殺せる。

 人ならば殺せるのがオレの性質だ。

 しかしあの時のオレは主人の蘇生が最優先であり、その後逃走もしないといけないもんだから、リアル弁慶状態大逃走劇を繰り広げる羽目になった。

 …オレ大金星じゃない? こうなるとご褒美のひとつも欲しくなる。

 

「…なんで、私を助けてくれたの?」

「〝死にたくない〟のがアンタの願いだろ? オレはそれを叶えるだけだ。オレはそういうもんなんだよ」

 

 絶え間なく生まれるというのも楽じゃない。

 おかげでこちとらリセットもクソもなく、すぐさま誕生である。そんなことも相まって今じゃ使い魔みたいな存在でございます。

 しかもオレが「この殻」を使うと決めた以上、今回は人の目に見えると来た。最早呪霊から程遠い何かである。

 

「も少し休んだらまた出発するぞ、マスター。

 アンタが狙われなくなるまで何日かかるかねぇ」

 

 まぁ、そう遠くない日のような気もするが。

 というかオレが攫っちゃったから尚更追われそうですが。何なら尚更殺されそうまである。嘆きたくもなるだろうが、悪魔との取引なんてこんなものだ。

 

「…私、生きてるんだ…わたし、いきて───」

 

 聞いちゃいねぇし。

 ぽろぽろ泣き出してしまった。

 途方に暮れるオレは、もう一度窓辺から外を見る。

 頭の中じゃ願い事がぐるぐると回ってる。

 

 しにたくない。

 もっとみんなと、いっしょにいたい。

 それが願いだと、オレは知った。 

 

 しにたくない。

 もっとみんなと、いろんなとこへいきたい。

 

 それが願望だから、オレはそう機能した。

 しかしながらオレは不良品なので、同時に幾つもの願いを叶えることは出来ない。

 主人には悪いが、しばらくお預けだ。

 

「…名前、教えてよ」

「はい?」

「私の願いを叶えてくれたし…それに、これからも叶えてもらうし」

「………随分と察しの良いようで何よりですよ、マスター」

 

 なんて思ってたらこれである。

 この女、意外と図太いのではなかろうか。

 

「…怨天大聖だなんだと呼ばれちゃいるが、名前負けにも程がある。そうだな、オレのことはこう呼べば良い」

 

 名乗りは気恥ずかしく、しかし簡潔に。

 神様の名前(アンリマユ)を名乗るには少々気乗りしないし、

 呪霊としての名前もしっくりこない。

 ならば、こう名乗ろう。

 

「アヴェンジャー。

 ───人間しか殺せない、最弱の呪霊だよ」

 

 何処までも卑屈で、生産性もない名前(復讐)を。

 

 

 報告書 No.16

 緊急時により以下に要約

 ・薨星宮にて特級呪霊「怨天大聖」が出現

 ・星漿体「天内理子」が「怨天大聖」により蘇生及び拉致

 ・願望器としての性質が作動し、天内理子は行方不明

 ・「怨天大聖」は新たに領域展開・不死性を会得した可能性有

 

 




特急呪霊「怨天大聖」…常時発生する「この世全ての悪の呪霊」。発生する都度性質が変わり、発生回数と共に性質も増減する。また、人間を絶対に殺せるが、対呪霊に於いては最弱を誇る(人の呪霊と相対するとどうなるかは未知数)。そのため、夏油傑とは相性が悪い。
今回は発生直後「死にたく無い」「皆といろんなものを見たい」という願いを聞きとどけ、薨星宮に出現した。
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