〝悪の呪霊〟は願いを叶える   作:かぼまこ

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〝悪の呪霊〟は夜を歩く

 

 星漿体、天内理子は一度死んでいる。

 

 そも、星漿体とは何か? その解説をする上で、天元という存在の説明は欠かせない。

 

 天元。それは日本呪術界の中心存在だ。

 呪術師の能力や結界の強度を底上げし、セキリュティを強化する。かの存在がいなければ、この界隈は破綻すると言っても、過言ではない。

 

 かの存在は、不死だ。

 元来、其れはそういう術式を持っている。

 だが不老ではない。天元の肉体は老化を幾度か迎えると、その術式が肉体を書き換えてしまう。

 それは最早、天元ではない。

 敵対する可能性すらある。

 そうともなれば、全てのものが一巻の終わりだ。

 

 だからこそ500年に1度、天元の肉体情報を取り換える必要がある。そのために必要なのが、星漿体だ。

 要するに生贄である。

 

 しかし、中にはそれを快く思わないものもいる。

 天元その人を崇める宗教団体だ。

 同化により「不純物」が、信仰対象へ入り込むことを彼等は嫌い、それ故に───天内理子は殺されたのだ。

 

「………いつも思うんだけどさ、アヴェンジャー」

「何さ、マスター」

 

 しかし、彼女は世に舞い戻った。

 全身に刺青がある奇妙な付き添い人と共に。

 

「そのマスターって何なの?」

 

 天内理子を〝マスター〟と呼ぶ彼は、呪霊だ。

 本来なら人を貪り、陥れ、弄ぶモノ。その筈なのに、彼は天内の命を蘇生させ、彼女を連れて逃避行を始めている。他ならぬ彼女の願いを叶えるためにだ。

 

「ああ、言ってなかったっけ。オレ、アンタから呪力の元貰って生きてるから。

 正直言って蘇生した時点で死にかけだったんだよねー、オレ」

「えっ」

「負の感情自体は誰でも持ってるからな。逆に言えば、アンタがいなけりゃオレは早々に死んじまう。だから敬意を込めてマスターと呼んでいるワケデスヨ。

 いやぁ、呪霊から敬意を持たれるなんざアンタの人生波瀾万丈だな!」

「一度終わってるのに波乱も何も無いと思うんだけど…」

「ああ、そこぶっ込んじゃうんだ」

 

 ともあれ、彼と彼女は行動を共にしている。

 本来彼女の護衛であるはずの呪術師二人とは連絡が取れず、家族のように慕っていた付き人とも連絡出来ない。

 また、彼女の命を奪った当人───ゴリラじみた筋肉を持った男は未だ存命だ。

 そして彼女の命を狙う宗教団体もまた同じ。

 

 ともなると、二人の行動指針は自ずと縛られる。

 先ず、現状の把握。自分達が今何処にいるのか、そして天内理子は表社会・呪術界の中ではどうなっているのか。

 次に、状況の打破。天内理子は星漿体である限り、恐らくではあるが命を狙われる。また、アヴェンジャーの力無くしては生きる事も出来ない。

 よって完全な蘇生、命の無事の保証。この二つを獲得する必要がある。

 

「…つくづく運がないな、マスター」

 

 当然、至難極まるし、解決策などほぼ無い。

 幾つかどうにかなりそうな項目はあるが、それのみ達成しても意味が無い。というか、アヴェンジャーの存在も天内理子の生存を邪魔している。

 呪霊なぞ呪術師からすれば即滅殺なのだ。今では追うように天内理子も死んでしまう。

 そして最悪な事にアヴェンジャー…と言うよりかは「怨天大聖」は過去、特級呪霊指定を貰っている。積みも積みである。

 

 唯一望みがあるとすれば───

 

「あの呪術師と落ち着いて話せれば良いんだけどナー」

 

 五条悟、夏油傑。天内理子から聞かされた二人の護衛の名だ。天元との同化前、彼等は彼女の意思を尊重してくれたと聞く。彼等とうまいこと協力出来れば、勝ちの目はぐんと上がるものなのだが。

 やはり、呪霊である、という事実が邪魔をする。

 それに加え、何度も殺された手前、正直言って顔を合わせたくないのが、アヴェンジャーの本音であった。

 

「ま、とりあえず動くしか無いか…」

「! 外に行くの?」

「ああ、時間的にもう良い頃合いだ。今日は森を抜けて、街の方まで行こうと思う」

 

 彼等は先日、森の中を移動する際に館を見つけ、そこを拠点としていた。

 幸いというべきか、住み着いた呪霊もそれほど強くは無いため、最弱を自称する彼でもどうにかなった。

 この館、どういう訳かライフラインが生きている。もしかしたら呪術師か何らかの組織辺りの拠点なのかもしれない、そんな事を考えながらアヴェンジャーは主人を連れて外へ出た。

 

 森というよりかは山岳か、ともかく郊外である事は変わらないのだろう。

 

「今思ったんだけどさ、アンタ不満とか無いの?」

「不満?」

 

 山道を歩く最中、全身刺青の従者が問うた。

 

「いきなりこんな三流呪霊と一緒に逃避行。終わる気配は見えないし、顔馴染みにも会えない。オレもっと騒がれると思ってたんだけど」

「……本当なら死んでた、のが大きいかも」

 

 肥大した根っこを階段のように登りながら、生き返った少女は答える。

 

「ズルをした後みたいな、そんな感じというか…」

「要するに後ろめたい訳か、あんたバカなんだな」

「はぁ!?」

「折角拾った命なんだし、もっとわがままになりゃ良いのに。ま、叶えられるかどうかは別だけど」

 

 

 ───

 

 

「あ、ありがとございましたー…」

 

 深夜であろうと開いてるのがコンビニのいい所だ。

 オレの格好のおかげでやたらと目を見開いたバイトのにーちゃんの視線を受けながら、オレ達は適当な公園のベンチに座った。

 

「お金はどこから?」

「それは内密。非合法じゃ無いことは言っとくぜ」

 

 一度死ぬ、とは良くも悪くも劇的な変化を起こす。

 我がマスターにゃ元からあったのか、それとも死んでからか、いずれにせよどっか図太い。

 だが大いに結構。先行き見えない不安に怯えて、動けなくなるかはよほどいい。

 

 さて───購入したカップ麺が温まるまで、少し整理だ。

 

 オレは合わせて買った新聞を開いた。

 大きな見出しでは汚職政治家や、有名人の不祥事が乗っかっている。さほど興味も重要性もないので全部パス。

 …コンビニバイトの奴が、天内を見ても然程変化を見せなかったので、正直望み薄だ。

 そして、その懸念は正しい。

 新聞のどのページにも「天内理子」は無い。

 

「…アンタ、本当に星漿体なんだ」

「……最初に何度も言ったでしょ」

「いやそれはそうなんだけど、正直こんなちんちくりんが重要なやつなんて夢にもあだだだだだぁ!?」

「調子乗んなよアヴェンジャー…!」

 

 引っ張られた頬をさする。

 何も千切れそうなくらい引っ張らなくても良いじゃねぇか。まったく穏やかじゃない。

 

「まぁ、呪術界自体がアングラなやつだし、正直これもあてになんないな。アンタはどう思う? 実際に狙われた当人として」

「どうって……」

 

 思案げに顎へ手を当てるマスター。

 …静かにしてりゃあそれなりに良い面だ。

 こんな顔で以前は「のじゃのじゃ妾」だったのが、少しというか大分痛ましい。

 本音を隠す建前にしちゃ分厚すぎる。

 そうでもしてこの女は「星漿体」を守って来たのだろう。

 

 だが、死んだ。

 何度も確認するが天内理子は死んだ。

 だから建前は剥がれて、痛ましいキャラが剥がれ落ちて、剥き出しの本音がここにある。

 

 あっさりと、信仰にそぐわないと、そんな理由で頭を一直線に貫通された。

 世界とはそんなものだ。無作為にありふれた誰かが、ある日前触れなく交通事故で死ぬように、死とは突然降り注ぐ。

 

「…多分、まだ狙われてる」

「というと?」

「私が星漿体でも、狙われて殺されたから。

 それって〝殺しても大丈夫〟ってことになるし、その中でも〝殺しておきたい〟ってことじゃないのかなって…」

「なるほど」

 

 悪くない着眼点だ。

 青い顔になったマスターの背を撫でながら、オレもまた思考に耽る。

 

 天元は呪術界の心臓と言っても、過言ではない存在だ。

 その天元を保つための星漿体を殺す。

 或いは、殺されることを許す。

 

 …あの陰険野郎に何の考えがあったのかは知らないが、自分の同化体を自由にしていたとなるならば、恐らく何らかの考えがある。

 ともなれば〝殺しても大丈夫〟ではなく───〝殺されることに意味がある〟の可能性がある。

 だとすれば、天内理子には出来れば死んで欲しいわけだ。

 

 天内理子の死・或いは同化で、あの二人の呪術師に、何か影響を及ぼすつもりだったのだろうか。

 

「……………はぁ…」

 

 いずれにせよ、あの化け物達とは会いたくない。

 

「…アヴェンジャーって、可笑しいよね」

「は?」

 

 いきなり喧嘩を売られた。

 おうおう何だ、今ここでアンタのカップ麺を犬の餌コースにしてやってもいいんだぞ。

 

「何度も大怪我しながら守ってくれて、死にそうになりながらも逃してくれたりして、今もこうやって一緒にいるし、色々と考えてくれる。

 ……どうして?」

 

 自分はあくまで願った者に過ぎない。

 わからないのは、何故それを叶えたか。

 その身を犠牲にするほどの見返りがあるのか。

 

 はっきり言って無い。

 

 オレがこの女の願いを叶えたのは単純な理由だ。

 それを馬鹿正直に話しても理解されないだろう。

 だって───。

 

「オレは衛宮士郎(セイギノミカタ)だからな。

 人助けの一度や二度、当然のことだろう」

 

 この身体、この人格の大元は。

 ただの一度も理解されず、己の生涯に意味は不要とした、正真正銘のバケモノなのだから。

 

「…そろそろ五分か。

 いつまでも呆けてると麺が伸びちまうぞ、マスター」

 

 フリーズしちまったマスターを無視。

 べり、と二つのカップ麺の蓋を剥がす。

 オレはシーフード、マスターは塩だ。

 

 深夜の空きっ腹に、ジャンクな香りが響く。

 人の身体とは良いものだ。じわりと溢れる飢えが、眼前の即席麺を上等な味へと底上げしてくれる。

 呆けていたマスターも、恐る恐ると自分の分のカップを取った。

 

 ずるる、と一つ麺の束を啜る。

 

 柔らかい麺が脂っこいシーフードスープと絡んで、何とも言えない安っぽい味だが、それが良い。

 いかにも体に悪いものを、体に悪い時間で食べる。

 背徳感もささやかなスパイスとなり、クセにもなりそうだ。

 

「……!」

 

 ちら、と天内の方を見やると、彼女も観念して麺を啜ったのがわかる。

 目を見開いてから立て続けに二口、三口。

 どうやら、お気に召したようだ。

 

「おいしい…!」

 

 何で悔しそうな顔してるかはわからないが。

 

 ともかく───、オレはオレを全力で遂行致しましょう。

 

 

 

 

 

 




天内理子…生き返った少女。死んだせいか変に冷静。二人の呪術師に会いたいし、会わなければ行けないと考えているが、まずは基盤を整えたい。
アヴェンジャー…生命維持に負の感情をもらっているが、願いを叶えるのに消費量が多かったので食事もいるし睡眠もいる。完全回復までは遠い。取り敢えず宗教勢力をどうすっかなぁと考え中。
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