〝悪の呪霊〟は願いを叶える   作:かぼまこ

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短めでございますだ
次回は術式開示までいけりゃ良し
上手くいけば極ノ番か反転術式まで


〝悪の呪霊〟は働いてた

「衛宮くん! 最後こっち!」

「今行きます!」

 

 ラグラン袖のジャケットを着た童顔な少年が、赤銅色の短髪を小走りで揺らしながら箱を運ぶ。

 箱は両手で持つ必要がある程大きく、中は酒で満杯だ。

 

 ガチャガチャと箱に敷き詰められた酒瓶を鳴らしながら、衛宮と呼ばれた少年は指示通り動いて行く。

 誰がどう見ても働き者の好少年だ。

 衛宮と呼ばれる彼は、時折この商店街で日雇いのアルバイトをしていた。

 職種を選ばず、相応の心得がある即戦力。気前も良く、顔立ちには愛嬌もある。引く手が数多へなるのに、そう時間はかからなかった。

 

「ふう…」

 

 箱を運び終えた彼は、本日の業務を終えた。

 夕方に差し掛かりそうな三時半、少し遅めの昼食を取りながら、彼は「平和だな」と独り言をこぼす。

 

 本採用の勧誘を受けもしたが、断腸の思いで断った。

 今の彼には、やりたいことが多かった。

 普通の人の様には生きられないと理解している。

 

 ───やっぱり収穫は無し、か。

 

 そんな彼は、受け取ったばかりの茶封筒を開き、本日の収入を数えながら内心舌打ちをする。彼が日雇いで働くのは、それなりの理由が存在するからだ。

 先に断っておくが、この少年は「衛宮士郎ではあるが衛宮士郎その人」ではない。

 

 その正体は、アヴェンジャーが擬態したもの。

 

 彼が今用いる「殻」の本来の姿であり、アヴェンジャーにとってもう一つの姿である。

 過日、天内理子がアヴェンジャーに金の出どころを尋ねたが、その真実はこれだ。

 

 アヴェンジャー達は普段身の安全のため、なるべく深夜に行動を起こす。市井の目、携帯のカメラ機能、身の安全を脅かす手段には事欠かない現代だ。なるべく、人の目から隠れることを選択したのだ。

 そのため、午前の間彼らは眠りに入るが、アヴェンジャーはご覧の通り「普通の少年」として活動する時もある。

 その理由は路銀稼ぎ、情報収集、撹乱など数多だ。

 ともかく、無駄な事ではないという事だ。

 

「…幾らなんでも、静かすぎる気もする」

 

 ざふ、と帰路である郊外の林へ足を入れる。

 日雇いながらも信頼を掴めたのは、大きい。おかげで小さいながらも情報網を手に入れることが出来た。

 どうやら、この町はそれなりに大きいようだ。ベッドタウンとでも言うべきか。そうともなれば、住民の一人一人が監視カメラになり、人脈がそのまま情報網となる。

 

 ここ最近、変わったことは無いらしい。

 普段見ない人が来る、失踪者がいる、と言ったことはない。奇妙な静けさに、不安すら感じる。

 ともかく、拠点に戻ろうと歯を進めた彼だったが。

 

 

 

 

「おい」

 

 

 

 

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 ───スイッチが、切り替わる。

 両手をフリーにし、姿勢を落とす。

 最悪のタイミングで来やがったと、内心毒を吐く。

 

 息を張り詰め、視界と意識を尖らせる。

 しかしアヴェンジャーが周囲の索敵に力を注ごうとする前に、それよりも早く、重機の激突にも等しい衝撃が襲いかかった。

 

「がッ───!?」

 

 次の瞬間、少年の体躯が吹っ飛んだ。

 木々に激突し、枝をへし折り、大樹に背骨を打つ。

 ぎしぎしと、背骨が軋む感覚を少年は味わう。

 

 それだけじゃない、内臓を裏側から潰された気分だ。

 血反吐を吐いたが、その中に破れた腸でもあるんじゃ無いかと信じたくなるほどの威力。

 真っ赤に歪んだ視界で、かろうじて下手人の姿が見える。

 

「…ッチ!」

 

 途端、異物な短剣が迫り来る。

 それは十手の様な形に歪んでいて、見るだけで「あれは己の天敵だ」と分かるほど、異質かつ濃密な呪いの雰囲気を醸し出していた。

 

 投擲の一撃なのか、コースは単純に真っ直ぐだ。

 横に跳躍し、痛む体に鞭を打ち林から抜け出る様に疾走する。間違っても拠点の方向には逃げたりなどしない。

 

 すると、だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

「オイ嘘だろ…!?」

 

 咄嗟に身を捩るが、間に合う訳もない。

 それは腹と腕を裂き、筋繊維を断ち切り血を流す。

 その短剣は威力の高さ故か、大木に突き刺さった。

 柄を見れば、そこには鎖が付いている。

 短剣のリーチカバーは万全だった。

 

「…避けんのかよ…。前より速くなってねぇか?」

「……いきなり初対面の奴に刃傷沙汰かよ」

 

 衛宮士郎に擬態しているアヴェンジャーの手が、短剣に触れる。

 そんな様子に気を向けながらも、下手人である存在は己の鼻元を親指で示しながら笑う。

 

「生まれ付き鼻も、それ以外も良くてな。

 やっと見つけたぜ、星漿体を掻っ攫ったガキ」

「…バケモノよりバケモノしてるよ、アンタ…」

 

 あまりに強化された五感。

 霊長の頂点と言っても差し支えない身体だ。

 雑に切られた黒い髪に、鋭い目つき。

 右の口元に刻まれた傷跡。

 これらの特徴が一致するのは、ただ一人。

 

 そこまで考えて絶望すらした。

 ふざけんなよ、と少年は思う。

 これが悪夢なら、今すぐ覚めて欲しかった。

 

 天与の暴力。術師殺し。人間の皮を被った怪物。

 こんな奴を産む世界が、今は心底恨めしい。

 さて、どうにかして生還したい処だ。

 

 最弱の呪霊に、数多の呪具が襲い来る。

 それを意味するのはただ一つ。

 天内理子を殺した男───伏黒甚爾がそこにいた。

 

 

 

 

 

 




アヴェンジャー…昼間は「衛宮士郎」となって日雇いバイト。この状態だと呪力も感知されないが、本来の術式も死ぬ時以外使えないし気も緩み切ってしまう。
 バレへんやろと思ってたら化け物ヒモダディに匂いで感知されて背骨にドロップキックを喰らった。泣いていい?

伏黒パパ…天元の所では報酬の為にアヴェンジャーを全力で追ったのでどっこい生きてる。息子用に貯金をしようかなとかも少し思ってたがギャンブラーにそんなことはできなかった、南無三。今回受諾した依頼は「怨天大聖」の封印、天内理子の再度殺害及び遺体の確保。各方面からの依頼らしい(せっつかた)
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