夜空を照らす、シリウスへ 作:中人間
2話目でゴス。キャラがやっと出てきます。
2
どうやら流石に逃亡はまずかったらしい。
ちょっとした知り合いに声をかけられ、少しおしゃべりをしていたら、予想より店にたどり着くのが遅くなってしまった。一番欲しかったチョコ味はなくなっていたものの、いちごやバニラ、その他何種類か計10個くらいの生ドーナツを無事手に入た。チョコに関してはしょうがない。一番人気らしいので。
可愛らしいパステルカラーのデザートだ。匂いもとても美味しそう。
つけてもらったスプーンで一口掬って、口に入れる。えっ、うま。なにこれ。上部にはムース状の味がついたものが乗っており、その下は薄いスポンジ生地。大部分がふんわりしたムースでできていて甘すぎずで旨い。味がしっかりしている。フルーツの味のものは中に果肉も入っており、フルーツの匂いだけでなく味も完璧だ。それであの値段とは…まったく恐れ入る。
良い買い物をしたな。上機嫌で人通りの少ない通路を通る。足取りは軽く、なんなら鼻歌も歌い出しそうなくらい上機嫌だ。
そう、何を隠そう私は完全にそれまでの懸念を忘れていたのだ。
その瞬間は突然に訪れた。
「あああああ!!!いた!!!」
「……は?えっ……うわっ」
歩きながら最後の一つであるピスタチオ味を食べようとしていたら、変な被り物をした少年に発見されそのまま更衣室に連れて行かれた。
「まったく、代表に選ばれた選手には控室に集合とイレブンバンドに送ったでしょう。なに暢気に露店巡りしてるんですか。」
「あはは。すみません……、生ドーナツの誘惑に耐えきれなくて……。」
「はぁ……まあともかく、これからお披露目ということで登壇することになってるので、準備してください。着替えは中に置いてありますので。」
早く準備してくださいね。そう言い残して被り物の少年は去っていった。ほんと、申し訳ない。あまりにも受け入れたくない現実から逃避するため、とりあえず気になったものを食べに行った。その結果、彼に徒労をかけることになったのだが。
はああ、と本日二回目の深いため息をついた。
もう、どうしてこんなことになったんだろ。見てるだけで良かったのに。特にこの物語はスパイだのなんだので人間関係とかギスギスしてたはずだから、友情・努力・勝利みたいな、王道ストーリーではなかったはずだ。まったく知り合いのいない(一方的には知ってはいるが)あのチームで上手くやって行けるのか私、いや多分無理。
ただでさえ、このくらいの歳だと考え方とか精神年齢に男女でかなりの差があるのだ。なにが言いたいかというと、一番男女に壁がある歳で付き合いにくい。ああもう、どうしてホント
「軽率に神を呪いそうなんだが……」
まあ、こうしていても仕方がない。重い足取りでベンチに近づき、その上に置いてあった青のユニホームをひろげてみる。
濃い浅葱の色。赤いラインと白い襟がその鮮やかさをより際立たせる。シンプルかつわかりやすいデザインだ。日本といえば青のユニホーム。実際のところ、この青は一体なんの青なのだろうか。海か空かはたまた別のなにかか。まあ、
「考えてるばあいじゃない、な。」
ただでさえ出遅れてるのに、早く行動しないとマジでヤバい。待たせるのは大変よろしくない、人間として。特に私はチームの中でもきっと年下だから。
真新しいそれに腕を通し、襟だとか裾だとかを整え、小さな洗面台にある鏡で姿を確認する。たぶん、大丈夫。死にそうな顔色してるけど。
ふうっと長く息を吐く。おちついて、おちついて、大丈夫だから。自己暗示をかけながら胸の辺りでギュッと右手を握る。下ろしたままの左手も一瞬ギュッと握りそれから肩の力を抜く。いつの間にか地面に向いていた視線も鏡に戻す。穏やかな、明るい笑みを意識する。楚々とした、たおやかな女の子をイメージして。かつての黒髪の少女と目が合った気がした。うん、顔色も少しは戻った。
「よし、行こうか。」
と、その前に。メッセージツールに入っていた祝福と応援の言葉に目を通して返信を入れる。ありがとう、がんばるね。うちわ持って応援しに行くから。いや、私はアイドルか。
なにげない会話に落ち着いた。ふふふ、と笑いをこぼしスマホをカバンにしまった。
そして、その場を後にする。まだ鳴り響く通知に微笑みは苦笑いに変わった。いや、喜びすぎでしょ。
自動ドアが開く。同じユニホームを着た男の子たちが目に入った。あれ、結構早く準備したつもりだったんだけどな。仕方ないので小走りでそちらに向かう。
ザワザワと観客たちの歓声が聞こえてきた。ドアが閉まり、鳴り続けていた通知の音は聞こえなくなった。
おしゃべりをしていたのだろう、少年たちの声が止み、視線がこちらに向いた。
私は小さく会釈をして少し離れた場所に立つ。ううん、まだ何人かこっちみてる。なんでや。恐る恐る視線を感じる方に目を向ける。幾人か——伊那国雷門イレブンの子たちがこっちを見てた。
「……えっと?」
「あっごめん。俺、
「っああ、すみません。挨拶遅れてしまって——えっと、
「よろしく。」
「……はい。」
黒髪の少年——稲森明日人は太陽のような笑顔で私に右手を差し出した。眩しいなあ、彼は特に。火傷しちゃいそう、なんて。さすが選ばれた主人公。私は少し躊躇してその手を握る。
「君もサッカー上手いの?」
「うーん、どうでしょうね。自分じゃよくわかりません。」
曖昧に答える。するとそれまで黙っていた水色の髪の少年も会話に入ってきた。
「代表に選ばれている時点で下手ということは無いだろう。……っと、俺は
おお美少年だ。確か二つ名?的なのは『氷の微笑』だったか。なるほど確かに、儚げな雰囲気といい微笑みが似合う。すると、彼に便乗したのか他の子たちも自己紹介してきた。
「俺は
「
「はい、よろしくお願いしますね。」
ゴス……語尾がすごい。にしても実際見るとデカイな。というか帽子。いいのか、いやマントにゴーグルつけてる人もいるからそれよかマシか…?いやでもいいのか????色々ツッコミどころがあるような…。ううんさすがキャラが濃い。向こうで画面越しに見ていたころは、なんか今までと比べると薄いなと思ったが、本物見るとなかなかだぞ。
やってけるか私……。
「ねえ、君は…」
「——選手の皆さぁん、そろそろ入場ですよお!」
稲森明日人くん——いや年上だから先輩か——がなにか話を振ってきたが、ちょうど監督が声をかけてきたため中断された。
正直助かったと思ってる私は、きっと彼らみたいに明るくは一生なれない。一生懸命がんばる人は総じて尊く、中途半端な私にとっては近寄りがたい。
——ああほんと眩しいな。
「あっ、じゃあまた後で」
そうして別れて、整列した。
背番号順に入場するらしい。私は番号的に一番後ろだ。もともと少し離れた位置にいたため、さして動く必要はなかった。
そう、背番号。私のはほかのチームメイトとはかなり違った。
33番。
あまりにかけ離れているその数字に思わず瞠目した。確か普通に背番号は連続していたはずだ。最終的に25人くらいのチームになってたから、遅くてもそれくらい、または普通に真ん中くらいの番号だと思っていたが全く違った。33はさすがに遠すぎないか。現段階だと20番までしかいないからほんとに疎外感がする。
……それはまるで、私は異端な存在であると言われているようで。改めて、私はここの世界の住民にはなれないのだと、そう、思った。
そうすると、からだの中のどこかがすんとなった気がした。さんざめき渦巻いていた恐怖も、動揺も、高揚も、憧憬もすべて押し戻された。
「お待たせいたしました!日本代表選手たちの入場です!」
先頭の選手が歩き始めた。とはいえ、みんなで固まって入場するわけでもなく、割と間を開けてゆっくりと入場するようなので、後ろの選手が動き出すまでには多少のラグがある。最後尾に位置する私が所在なくあたりを見渡していると、ニコニコとこちらを見つめる監督と目が合った。彼はこちらに会釈をするとまたもとのニコニコに戻った。
まさかそこにいるとは思っていなかった私は、その不意打ちをくらい一瞬固まった。返した会釈もかなりぎこちないものだったと思う。
そのままお互いに見つめ合う謎の時間が発生した。読めない、あまりにも。なにを考えているんだあの監督。私を選んだのもそうだし、ずっとこっちを見ているのも。私の思い違いじゃなければあの監督、私がそちらを見る前からずっとこっちを見ていた。じゃなきゃあんな目の合い方はしない。
そうやって思いを巡らしていると、不意に視界が眩しくなった。どうやら私の前にいた人が動いたようだ。
少し出遅れた私は、間が空きすぎるのはカッコ悪いなと思い早歩きして前に追いつく。監督の謎を頭の片隅にやり、今は目の前のことに集中しようと、一回深い深呼吸をして切り替える。
目が眩むほどの光がさしこみ、視界が開ける。見渡すと何千……いや下手したら何万人もの観客が新たなイナズマジャパンの誕生に沸き立ち、歓声と拍手を送る。壮観だ。この世界ではサッカーはここまで人気なスポーツなんだな。改めて理解するとともに、ほんとに私で大丈夫かととてつもない不安感が蘇る。
心の底からボコボコと湧き出してくる負の感情。どうしようもない自己嫌悪。負のスパイラル。こうなると止まらない。前世から変わらないネガティブ思考。やめるんじゃなかったのか?かつての黒髪が背後で指を指して嘲笑する。
それでも、なんでもないふりをしてなんとか立っている。手を強く握りながら。そうでもしないと、座り込んでしまいそうで。
また一つ深呼吸。
穏やかな笑みを意識しながら顔を上げる。
「あっ……」
青と白の風船が天に登っていく。ふわふわとゆっくり、されど確かに漂い昇る数多の風船にしばしの間言葉を忘れ見とれる。この青と白は空でも意識しているのだろうか。次々と上がっていくそれと、その中心に立つ私たち。
観客も選手も皆、さながらその風船のように想いを膨れあがらせ、会場の空気は最高潮に達した。
未だ鳴り止むことを知らない拍手と歓声。それを一身に浴びながら、テレビの向こうで見ていた彼らのプレーを想起し、まだ見ぬ光景に思いを馳せる。
そうか、彼らと一緒にこれから世界を目指すのか。
当たり前のことだけど今さら実感した。ならば嫌だのなんだのは言っていられない。じゃなきゃ、彼らの隣に立つどころか、顔を向けることすらできないだろ。せめて、足だけは引っ張らないようにしなければ。
決意を新たに、前を見つめる。
隣にいる少年たちも、これからの戦いに期待と望みと僅かの不安を持ち、胸を躍らせどこか落ち着かない様子だ。それに釣られて、なんだかんだテンションが上がっている私も、作りものではない、自然な笑顔が浮かんだ。
頑張らないとなぁ。
——青い髪の少年と目が合った気がした。私は見なかったふりをして前を見続ける。やがて、感じていた視線もなくなった。……大変なんだろうな、彼も。でも大丈夫、きっと太陽は彼の行く先を照らしてくれるだろう。私はそれを知っている。だから、もう少しの辛抱だ。
「大丈夫」なんて、何様なんだよと自嘲して。
心躍る熱い勝負、次第に結ばれる絆、人々を魅了する必殺技の数々。興奮、期待、希望、緊張、計略、後悔、孤独。各々が様々なものを胸に抱きながら、そして悪い大人のアレコレに巻きこまれながら。今はまだ、バラバラだけど。実力も経験も世界に比べたら薄いけど、それでも一本の細い糸がより集まって丈夫なものになるように。きっと、最後に笑うのは彼らだろう。
そのために私がすべきことは——
——まあ、あんま無いだろうけど。せめて、少しくらい彼の支えになれるように。
憎いくらいの晴天に烏滸がましくもひとつの願いをかける。たとえ道のりが長く険しくとも、どうか、彼の、彼らの行く先が明るいものになりますように。
かくして、世界への門は開かれたのであった。
*
「お前も選ばれたんだな。」
「そうみたいだね。にしても、どうやら君はロシアに留学していたという設定のようだが?留学生だったのかあ、君ィ。」
「わかってて言ってるだろ、その顔。邪魔するようだったら、いくらお前でも容赦しないからな。」
「ははは。忠告してくれるんだ、優しいなあ。」
「からかってるだろ……」
「んふふ、別にそういうあれではないぞ。なんか懐かしくなってな。」
「そんな時間経ってないだろ。まあともかく、俺とお前はここでは初対面だ。いいな?」
「あいあい、わかりましたよー。……んじゃま、頑張りましょーかお互いに。」
「ほんとにわかってるんだろうな……?」
「大丈夫だ、安心したまえ。君は泥船に乗った気分で____」
「それ水に溶けて沈むやつだろ。…はあ、面倒なことに。ほんと、よりにもよって……」
「いや、そんな信用なんないか私。……まあ君らのやることは、肯定はできないが邪魔はしない、邪魔するつもりは無い。これは本当さ。」
「そうか、ならいい。何度も言うが、いくら旧知の仲と言えど邪魔するなら——」
「排除する、だろ。わかってるわかってる。心配症だな、そう何度も言わずともいいじゃないか。しつこい男はモテないぞ。……なんなら指切りでもしてあげようか、前みたいに?」
「やっぱからかってるだろ!」
「いいやーべっつにー?あ!私はこれから生ドーナツなるものを買いに行くんだが一緒に来るか?」
「誰だ行くか!さっきの話聞いてたか!?ここでは俺とお前は初対面だ!」
「いや、たまたま一緒になったていう設定なら——」
「そもそも!呼び出しされてるのに行くやつがあるか!お前以外居ないだろ!」
「それほどでもある」
「はあ、褒めてないし。相変わらず食い意地すごいな。」
「ちょっと待て、それだと私が四六時中食べ物のことばかり考えているみたいじゃないか。」
「そうは言ってないけど、実際そうだろ。……じゃあ俺はもう行くから。」
「ったく、乙女に対して失敬な——充。」
「なんだよ。」
「——私は君のこと、ちゃんと知ってるから…全部ではないけど、それでも他の子たちよりは。だからって言うわけでもないが、なにかあったらこっそり教えてくれてもいいぞ。頼りないかもしれないが。」
「……余計なお世話だ。」
「あはは、振られてしまったか。」
不機嫌そうに去って行く背中に一言零す。
「まあ、ぼちぼち頑張ろうか、お互いに。なあ、一星——くん?」
伊那国メンバーの自己紹介の中に剛陣先輩がいないのは仕様です。彼ははしゃぎすぎたせいで、準備が遅れてまだ控え室の中にいらっしゃいました。
アレスをあまり真剣にみていなかったせいでキャラを掴み損ねている……。申し訳ない……
今後の展開はぼんやりとしか決めてないので、次回投稿がいつになるかは不明です。