Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

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エレベーターの段差

 お昼ごはんを食べ終えたあたしと理名と亜美の3人は、いつものように、大学のロビーでおしゃべりタイム。今日の話題は、昨日から始まったドラマについて。あたしはなんだかよく判らないけど、そのドラマで主演をしている人、今、亜美がイチオシのイケメン俳優らしい。さっきから亜美、その俳優を初めて見たドラマはあーだの、昨日のドラマの演技はこーだの、ほとんど1人で話している。あたしと理名、イマイチその話題に乗りきれなくて、曖昧に返事をするだけ。でもまあ、亜美が楽しそうならあたしはそれでいい。多分、理名もそう。

 

「あ、もう時間だ。次の授業、4階だったよね。そろそろ行こうか」理名が言った。あたしは時計を見る。あ、ホントだ。もうこんな時間。まだ語り足りない亜美には悪いけど、話は一旦ここで中断。続きは帰りにね。あたし達は席を立ち、ロビーの奥にあるエレベーターに向かう。理名がボタンを押した。

 

 あたしの通う大学は、授業の都合上、1階と4階を行き来することが多い。そのため、このエレベーターをよく利用する。今では当たり前のように使ってるけど、入学した当初は、感動すらしたのよ。だって高校の校舎は、ここと同じ4階建てだったけど、エレベーターなんて物、ついていなかった。ひたすら階段を上り下りしたあの辛い日々。それが今や、ボタンを押すだけで4階に着いちゃうのよ! うーん、文明って素晴らしい。

 

 なんてことを考えているうちにエレベーターがやってきた。ゆっくりとドアが開き、まず理名、そして亜美が乗る。最後にあたしが乗ろうとして、1歩、エレベーターの中に入った。

 

「――あれ?」あたし、少し違和感を感じる。

 

「ん? どうしたの、結衣?」理名が不思議そうな顔。

 

「あ、いや、別に大したことじゃないんだけど、なんだか今日、エレベーター、高くない?」

 

「高い? 何が?」と、亜美。

 

「ほら、いつもこの隙間って、同じ高さなんだけど、今日は、少し段差があるの」

 

 そう言ってあたし、エレベーターの入口の、1階の床とエレベーターの床との間に開いたわずかな隙間に足を乗せ、2人に説明する。そこには、1cmにも満たないだろうけど、ほんの少しだけ、段差ができていた。

 

「ホントだ。気付かなかった」亜美も同じように足を乗せる。

 

「ね? なんでだろ」あたしと亜美、しばらく2人して、その段差を踏む。

 

「はいはい、早く乗る。上の階で待ってる人がいるかもしれないんだから、エレベーターは止めちゃダメなの」と、理名が叱り気味に言った。あ、そうだよね。あたしもたまに、なかなかエレベーターが来なくてイライラすることあるもの。あたしはエレベーターに乗り、亜美も足を引っ込め、理名は「閉」のボタンを押した。まあ、機械だって毎日毎日正確とは限らない。たまには間違うことだってあるよね。あたしは特に気にすることなく、そのまま4階に上がり、退屈な講義を受けた。

 

 講義が終わり、あたし達はまた1階のロビーに戻って来た。エレベーターを降りるとき、何となく思い出してしまったので、もう1度確認すると、やっぱり、少しだけ段差ができていた。とは言え別に困るほどのことでもないので、あたし達はそのまま席につき、再びおしゃべりタイム――もとい亜美のイケメン俳優アピールタイムに突入。まだまだ続きそうだ。

 

 このとき、あたし達は亜美の話を聞いていたので気がつかなかったけれど、ロビーの中央に置かれたテレビから、ニュースが流れていた。それは、こんなニュース。

 

「堀北市でこの数ヶ月の間に、5人の女性が行方不明になるという事件が発生しています。この事件、5人が行方不明になった状況に何点かの共通点が見られ、警察では、何らかの事件に巻き込まれた可能性が高いと見て――」

 

 

 

 

 

 

 数週間後の朝、あたし達3人は、大きなあくびを手で隠しながらロビーに入った。理名は勉強、亜美はバイトで、昨夜はあまり寝てないらしい。あたしも昨日は遅くまでレンタルのDVDを見てたので寝不足気味。ああ、眠くてしょうがない。時計を見ると、授業まで少し時間がある。あたし達は自販機でコーヒーを買い、ロビーの席に着いた。まだ誰もテンションが上がりきっていないので、今日はおしゃべりタイムに突入せず。ただコーヒーを飲み、テレビを見てる。やってるのは朝のワイドショー。ここで亜美の好きな俳優の話題でもやってれば、一気にエンジンがかかってくるんだろうけど、残念ながら今やっているのは、よく知らないお笑い芸人の、どうでもいいような話題。このテンションでは授業が思いやられる。

 

 と思っていると、ニュースコーナーに切り替わった。

 

「堀北市での女性行方不明事件が続いています。昨夜、新たに行方不明になったのは、市内に住む31歳の女性で、警察の調べによると――」

 

「あれ? これって……」あたし、テレビを指差す。堀北市って、あたし達の住んでる市じゃない。

 

「あれ、結衣知らなかったの?」亜美が言った。「ちょっと前から話題になってるよ。市内で、10代後半から30代前半の若い女性が、連続6人、行方不明になってるって。行方不明になった時間帯とか、状況とかの共通点が多くて、同一犯による連続誘拐、もしくは殺人事件かもって、ネットではもっぱらの噂だよ」

 

 へー。知らなかった。そう言えば、最近町でパトカーをよく見かけるような気がしてたけど、あれって、この事件に関係してたのかな。

 

「あたし達も気をつけなくちゃ。なんてったって、こんなにも美人なんだからねぇ」と、理名。

 

「あー、やっぱりそうだよねー」

 

 亜美そう言ってしばらく沈黙。そして、みんなで一緒に笑う。よし、少しテンションが上がってきた。そろそろ授業に向かいましょうか。あたし達は席を立ち、いつものようにエレベーターを利用するため、ロビー隅のボタンを押した。しばらくしてドアが開く。

 

「あれ?」

 

 先に乗ろうとした理名、声を上げる。あたしと亜美も、すぐにその異変に気がついた。

 

 エレベーターの段差、昨日までは1cmにも満たないわずかなものだったけど、今日は、さらにひどくなってる。3cmくらいはあるかもしれない。

 

「なんだろうこれ。故障かな?」あたし、段差を踏みながら言った。これ、結構気をつけないと、つまづいてしまいそう。

 

「うーん、大丈夫かな? 途中で止まったりしないよね?」亜美も不安そうに段差を見つめる。

 

 そういえば少し前に、某会社制のエレベーターで不具合が見つかり、死亡事故が相次いだという事件があった。うちの大学のエレベーターはその会社の物じゃなかったけど、念のため点検が行われていた。だから大丈夫だとは思うけど、不安ではある。

 

 とは言え、朝から4階まで階段を使うのもハードなので、結局あたし達はエレベーターに乗った。途中で止まることもなく、エレベーターを降りたあたし達は、すぐにそのことなんか忘れて、授業を受けた。

 

 

 

 

 

 

 3日後、またまた今日も、3人とも寝不足気味で大学のロビーに入る。今日もテンション下がりっぱなし。なので3日前と同じく、自販機でコーヒーを買い、しばらくロビーでテレビを見る。今日もニュースはあの事件を報じてる。

 

「堀北市にて、新たな行方不明者です。昨夜行方不明となったのは、市内に住む24歳の女性で、今年になってこの市内で行方不明者が出るのは、これで7件目となっており、警察では、引き続き捜査を行い、付近住民にも警戒を呼びかけています――」

 

「やだ……もう7件目か。警察、何してるのよ」あたし、不安げに言う。

 

「うん、これちょっと、冗談ごとじゃなくなってきたかもね。帰り、遅くならないように気をつけないと」と、亜美。

 

 ふう。なんだか今日は、テンション上げ作業失敗。暗いニュースですっかり気分も暗くなってしまった。今日の授業が思いやられる。でも、出ないわけにはいかない。あたし達、重い足取りでエレベーターに向かう。いつものように理名がボタンを押し、しばらくしてドアが開く。

 

「――――!」

 

 あたし達、絶句。

 

 エレベーターの段差、今日は10cmくらいになっている。階段1段分くらいの高さ。これ、ちょっと異常。あたし達は無言でその段差を見つめる。

 

 やがて、ドアが自動で閉まった。

 

 さすがにこの状態のエレベーターには乗る気になれず、あたし達は階段で4階まで行くことにした。

 

 それにしても、朝から嫌なニュースで暗い気分になり、エレベーターの異常で階段を使う羽目になり、全く、今日はついていない。

 

 ――――。

 

 ――あれ?

 

 やだ、あたし、嫌なこと考えた。

 

 ニュースとエレベーターの異常、結び付けて考えちゃった。

 

 だって、行方不明の人が出ると、エレベーターの段差、ひどくなってるんだもん。これってもしかして……なんて考え出すと、くだらないと判っていても、不安になってくる。

 

「ねえ……変なこと言っていい?」階段を先に上がる理名と亜美に向かって、恐る恐る言った。

 

「いい。言わなくていい」理名、即答。あ、この反応。多分理名も、同じことを考えていたに違いない。

 

「え? 何? 変なことって?」亜美、きょとんとしてる。

 

「なんでもない。早く授業に行くよ」

 

 理名が言うけど、亜美は聞きたがる。「何よ。教えてよ?」

 

 あたしは理名と亜美の顔を交互に見る。理名、不服そうではあるけど、でもそれ以上は止めようとしないので、あたしは話した。

 

「うん。あのね、この前といい、今日といい、あの、行方不明のニュースがあるとさ、その日、エレベーターの段差が、ひどくなってるの。これってもしかして――」

 

 あたし、ここで一呼吸置く。「もしかして、行方不明になった人の死体が、エレベーターの下にあったりするのかな……なんて」

 

 あ、言っちゃった。

 

 しばらく沈黙。

 

 重苦しい空気が、階段を流れる。

 

「……ま、まさか」沈黙を破ったのは亜美。あ、よかった。あたし、自分で言ってはみたものの、誰かがこう言ってくれるのを、期待してたんだ。

 

「そ、そうだよね! そんなこと無いよね! うん! 無い無い! ごめん、さ、早く授業、行こう!」

 

「そうよ。早くしないと、遅れるよ」

 

 理名が先頭に立って階段を上がる。あたしと亜美、遅れないように、ついていく。

 

 でも、否定はしてみたものの、やっぱり不安はぬぐいきれず、その日の授業は、全く身に入らなかった。

 

 で、あたし達、その重苦しい空気のまま授業を終え、4階分の階段を下って行く。疲れる……なんてこと考える余裕、実は無い。さっき言っちゃったこと――エレベーターの下に死体があるかも――ってことが気になって、それどころじゃなかった。まあ、普通に考えれば、そんなことあるわけない。死体を隠すなら、多分、もっといい場所があるはずだもの。だけど、考えてるだけじゃ、不安って消えない。むしろ、ますます膨らんじゃって、どうしようもなくなる。

 

「あ――」

 

 ロビーに下りると、亜美がエレベーターの方を指差した。あたしと理名もそっちを見て、同じように声を上げる。

 

 エレベーターの前には、作業服を着た男の人が2人、「点検中」という看板を立てかけ、作業の準備をしていた。これから点検をするらしい。そうだよね。さすがにあの状態じゃ、ちょっと使う気になれないもの。

 

 あたし達は席に着き、点検作業が始まるのを、じっと見ていた。あたし、祈る。どうか死体なんか見つかりませんように。だって、ここで死体が見つかったら、この大学、殺人鬼が出入していることになる。って言うか、犯人はこの大学の関係者である可能性が、すごく高い事になるんだもの。ああ、どうしよう。何だかここにいたくないような……。

 

「あ――」

 

 と、今度は理名が声を上げた。テレビを指差してる。臨時ニュースをやっていた。

 

「堀北市で発生した7人の女性が行方不明になっている事件で大きな動きがありました。警察は、市内に住む無職の男性を逮捕した、と発表しました。なお、女性7人は男性の自宅にて無事保護。全員比較的元気だということです、繰り返します。堀北市で発生した――」

 

「犯人……捕まったんだ」あたし、気付かないうちに立ち上がってる。

 

「よ……よかったぁ」亜美が大きく胸をなでおろした。やっぱり気にしてたみたい。「と言うことは、やっぱりあのエレベーターは、ただの故障だったんだ。まったく、結衣が変な事言うから、よけいな心配しちゃったじゃない」

 

「あは、ゴメンゴメン」あたし、舌を出してあやまる。ま、そりゃそうか。いくらなんでもこの大学に7人分の死体があるなんて、ありえないよね。ああ、バカなこと考えて無駄に疲れちゃった。よーし。安心してテンションもあがってきたことだし、ここいらでおしゃべりタイム突入としますか!

 

 ――と、その時、エレベーターの方から、悲鳴。

 

 

 

「わああぁぁ!! し……死体が!!」

 

 

 

 ――え?

 

 

 

 

 

 

(作者オリジナル)

 

 

 

 

 

 

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