これは、中学3年の秋に起こった、とても切ない話。
その日、いつもハイテンションな明奈が妙におとなしかったので、あたしはちょっと心配になって声をかけてみた。
「どうしたの、明奈? なんか、元気ないみたいだけど?」
「ん? ああ、結衣か。……ちょうどいいや。ちょっと話、聞いてくれる?」
「いいけど、何?」
「あたしのおばあちゃんと、辰夫叔父さんの話なんだけど、ちょっとね、不思議なことがあったんだ」
「辰夫叔父さんって、亡くなったよね?」記憶を探る。確か、交通事故にあったはずだ。以前、明奈から聞いた気がする。
「うん。もうすぐ1年になるかな」
明奈は当時を振り返るように話し始めた。
明奈の叔父さんは少し離れた所に住んでいて、その日、おばあちゃんと会うのは久しぶりだったのだそうだ。久しぶりの再会を、おばあちゃんはすごく喜び、2人はドライブに出かけた。どこに行くわけでもなく、街中を走って、たわいのない話をしていたらしい。
でもそのドライブの途中、車は事故にあった。
信号待ちをしていたとき、後ろから大型のトレーラーが突っ込んできたのだ。ニュースでも大きく取り上げられるくらい、ひどい事故だった。幸いおばあちゃんは足を骨折しただけで済んだけど、叔父さんは頭を強く打って意識不明になり、明奈と家族が病院に駆けつけたときには、叔父さんは亡くなっていた。お医者さんの話によると、亡くなる直前まで、うわごとで、「おばあちゃんごめん、おばあちゃんごめん……」と、繰り返していたそうだ。
「きっと叔父さんは、自分がドライブに誘ったからおばあちゃんに怪我をさせてしまった、と、悔やんでたんだと思うの。おばあちゃんはそれを聞いて、ずっと、そのことを気にしてた。怪我をしたのは誰のせいでもないって、叔父さんに言ってあげたかったんだと思う」
「……そうなんだ」
「でね。昨日突然、電話があったんだ」
「誰から?」
「死んだ叔父さんから――」
「――――」
あたしは、言葉を失った。
明奈の話によると。
その日、家はおばあちゃんと明奈の2人きりだった。電話が鳴ったので、おばあちゃんが出た。
「もしもし、俺だけど……」
電話の相手は、弱々しい声で、そう言ったのだそうだ。おばあちゃんはその声を聞いて、すぐ、叔父さんだと判ったらしい。
「辰夫!? あんた、辰夫かい!?」おばあちゃんはびっくりして、受話器を落としそうになった。
「うん……辰夫だよ」
「あんた……どうして……」
「ごめん、俺、事故を起こしちゃって……」
「いいんだよ……もういいの。あの事故は、あなたのせいじゃないんだから。私の怪我も、たいしたこと無かったんだし。だから辰夫、もうそんなことは気にしないで、早く成仏しておくれ」
おばあちゃんが泣きながらそう言うと、電話は、プツリと切れたそうだ。
「――叔父さん、やっぱり、おばあちゃんに謝りたかったんだろうね」明奈は、教室の窓から空を眺めながら言った。「天国から電話をしてくるなんて。おばあちゃんも、事故は誰のせいでもないって、叔父さんに伝えることができて、すごく嬉しそうだった」
「そんなことがあったんだ。不思議なこともあるんだね……」
なんだか、心が温かくなる話だなぁ。あたしと明奈は2人、それ以上何も言わず、ただじっと、窓の外を眺めていた。
数年後、その不思議な電話は日本中のお年寄りのもとにかかり、年間数百億円の被害を出して、ニュースやワイドショーを日々賑わす事件になるが、そのときのあたしたちは、そんなことは想像もしなかった。
(都市伝説「無知な女子高生」より)