うちの中学校には、今は使われていない、4階建ての古い校舎がある。ここは、幽霊が出るともっぱらのウワサの旧校舎だ。恋人にふられたのを苦に自殺した女生徒の魂がさまよってるとか、大勢の生徒が神隠しにあったとか、そのテのウワサには事欠かない。この旧校舎に、肝試しに行こうと、明奈と美沙子の2人に誘われ、夜、あたしと奈々は学校にやってきた。
「うわあ。夜に来ると、迫力あるね」と、明奈。確かに、普段は見慣れているはずの旧校舎だけど、闇夜に浮かび上がる姿は、昼とは全く違った気味悪さがある。
「ねえ、本当に行くの?」不安そうな奈々の声。奈々は怖い話は大好きだが、人一倍怖がりな性格だ。今回の肝試しも、話を聞いたときにはノリノリだったけど、いざ夜の旧校舎を目の前にして、怖気づいてしまったようだ。
「もちろん行くわよ。そのために来たんだからね」
対照的に嬉しそうなのは、明奈と美沙子。この2人は大の怖いもの好き。特に明奈は、いつも、どこからか怪談話や不思議な話を仕入れてきて、いつもみんなに披露している。こういう肝試しとかを企画するのも、いつも明奈だ。
「結衣も行くでしょ?」美沙子があたしを見た。
うーん。あたし、明奈の怪談話を聞くのは結構好きなんだけど、こういうところに行くのは、どうも気が進まない。あたし、霊感体質みたいだから、心霊スポットとかに行くと、結構、見てしまう。あまり面白半分で入りたくないのが正直なところ。
奈々を見ると、本当に怖がっている様子。なのであたしは。
「うーん、奈々、本当に怖がってるし、あたしたち、ここで待ってるよ」
奈々を言い訳にしてるみたいで気が引けるけど、ま、怖がってるのを無理やり連れて行くのも悪いし、だからと言って、1人だけおいてけぼりにするのも、ね。
「もう、2人とも意気地がないなぁ」明奈、つまらなそうに言う。「しょうがない、行こ、美沙子」
「ん。2人とも見てて。4階まで行ったら、手を振るから」
そう言って、2人は中へ入って行った。
「……行っちゃった。大丈夫かな?」心配そうな奈々。
「うーん、どうだろ?」
「まさか、ほんとに出ないよね、幽霊」
「判んないけど……ま、仮に出ても、あの2人なら逆に喜んじゃうんじゃない?」
「あ、そうかもね」
2人で笑う。良かった。奈々、少し緊張がほぐれたみたい。
「あ、見て、結衣」
奈々が旧校舎を指さした。見ると、4階の一番端の教室の窓に、白い手が振られているのが見えた。
「早いね。あの2人、もう一番上まで行っちゃったんだ」奈々が感心する。
「ホント、よくやるよね」
「怖くないのかなぁ、あの2人」
「うーん、どうだろ?」
そうこう言ってるうちに、窓の手は見えなくなった。しばらくして、校舎から2人が出てくる。
「おかえりー。すごいね、2人とも。ホントに一番上まで行っちゃったんだ。怖くなかった?」と、奈々が聞く。と、明奈、なぜかバツが悪そうな顔をする。
「ゴメン、中に入ったんだけどさ、あたしたち、やっぱ怖くなって、途中で帰ってきちゃった。だって、真っ暗で、ホント、不気味なんだもん」
「そうそう、変な音聞こえるし。ねぇ」
2人が言うのを聞いて、あたしと奈々は、顔を見合わせる。なんか、おかしいな。
「ねえ、2人とも、途中で帰ってきたの?」あたしは訊いた。
「うん」
「4階の、一番端の教室には、行ってない?」
「ん、行ってないよ。2階で引き返してきたもん」
「でも……誰か、4階の窓から手を振ってたよ」
あたしは同意を求め、奈々を見た。奈々は黙ってうなずく。
「…………」
「…………」
「……またまたぁ。怖がらせようと思ってんでしょ? そんな手に引っ掛からないから」明奈が笑いながら言う。
「ウソじゃないって、ホントに、あの窓から白い手が見えたんだから――」
そう言って4階の窓を指さしたあたしは、絶句してしまう。
奈々と明奈と美沙子も、あたしが指さす先を見て、言葉を失った。
窓には白い手が映っていた。
それも、4階のあの部屋だけでなはない。
その隣の窓にも手が。
さらに隣の窓にも、手。
さらに隣の窓も、その隣も、その隣も――すべての窓に、白い手、白い手、白い手、白い手、白い手、白い手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手……。
そして、そのすべてが、おいでおいでと、あたしたちを手招きしていた――。
(都市伝説「白い手」より)