Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

23 / 99
今帰って来たの?

 あっちゃー。すっかり遅くなっちゃったよ。

 

 時計を見ると11時47分。もちろん午後。もうすぐ日が変わる。だめだな、最近のあたし。おしゃべりしだすと止まらなくなる。

 

 大学のおしゃべり仲間、あたし、理名、亜美の3人。授業の合間にロビーでおしゃべりに花を咲かせるのはいつものことなんだけど、授業が終わった後は、レポートやら勉強やらで、全員の時間が空くことはめったになく、だいたい解散になる。でも、今日は珍しくみんなの時間が空いた。なので、大学近くのファミレスでおしゃべり三昧。すっかり時間を忘れて話し込んじゃった。早く帰らないと、お母さんがうるさい。もう高校生じゃないから、門限なんてものはないけれど、さすがに日付が変わると……ね。

 

 コンビニの前を通り、郵便局の角を曲がり、公園の前を通ればあたしの家。時計は11時58分。ふう。なんとか12時前だ。……まあ、2、3分早いくらいでお母さんのカミナリが治まるかどうかは疑問だけどね。これは気分的な問題。うーん。やっぱり怒られるかな?

 

 …………。

 

 ま、悩んでてもしょうがないや。時間は戻らない。あたしは覚悟を決め、玄関を開けた。

 

「ただいまー」

 

 できるだけ小さな声で言い、できるだけ音をたてないようにドアを閉め、鍵をかけ、そしてまた、できるだけ音をたてないように靴を脱いで家に上がる。

 

 でもまあ、それも無駄な努力で。

 

「あれ? 結衣?」

 

 キッチンからお母さんが出てくる。あっちゃー。やっぱ、怒られるかな? あたし、先手を打って。

 

「ごめん! お母さん。今度から遅くならないように気をつけるから!」

 

 パン! と手を合わせ、ごめんなさいのポーズ。

 

 でもお母さん、怒ってる様子はなく、何だか不思議そうな顔で。

 

「というか結衣、今、帰ってきたの?」

 

「へ? あ、うん。そうだけど?」

 

「変ねえ」

 

 お母さん、首をかしげる。なんだか、何かに納得してない様子。どうしたんだろう?

 

「……まあ、あまり遅くならないようにしなさいよ。ご飯は?」

 

「あ、いい。みんなと食べてきた」

 

「そう。食べて帰る時は、電話してちょうだいね」

 

「はーい」

 

 お母さんの口調がだんだん愚痴っぽくなってきたので、あたしはあわてて階段を上がり、自分の部屋に駆け込んだ。ふう。良かった。叱られずにすんだ。

 

 でもお母さん。なんだか様子が変だったな。「今帰ったの?」って、あたしがもう帰ってきてたと思ってたのかな? すごく、不思議そうな顔してた。

 

 …………。

 

 ま、いいや。単なる勘違いだろう。おかげで叱られずにすんだし。

 

 その後、そんなことなどすっかり頭から追い払ったあたしは、シャワーを浴び、再び部屋に戻ってなんとなく雑誌とかを読んで時間をつぶし、2時過ぎにベットに入った。

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 うー。しまった。また遅くなっちゃったよ。今日もファミレスで話し込んじゃった。もう、理名も亜美も、喋り出すと止まらないんだから。……ま、あたしもだけどね。時計を見ると0時13分。日付、変わっちゃった。今日こそお母さん、怒るだろうなぁ。

 

 あたしは早足で家路を急ぐ。コンビニの前を通り、郵便局の角を曲がり、公園の前を通ってあたしの家。で、玄関を開け。

 

「ただいまー」

 

 いつかと同じく、できるだけ小さな声で言い、できるだけ音をたてないようにドアを閉め、鍵をかけ、そしてまた、できるだけ音をたてないように靴を脱いで家に上がる。そしていつかと同じく、それも無駄な努力で。

 

「あら? 結衣?」

 

 キッチンからお母さんが出てくる。やっぱり、こんなんじゃごまかせない。あたし、また、パン! と手を合わせ、ごめんなさいのポーズ。

 

「ごめん! お母さん。今度こそ、遅くならないように気をつけるから!」

 

 でもお母さん、またまた不思議そうな顔をして。

 

「うん、それより結衣、あなた、今帰ってきたの?」

 

「へ!? あ、うん。そうだけど」

 

「……そう。おかしいわねぇ」

 

 と、また、納得のいかない顔。

 

 ……何だろう。この前も、なんだか不思議そうな顔してたよね。

 

「お母さん、どうかしたの?」聞いてみる。

 

「……ううん、何でもないのよ。それより、遅くならないように気をつけなさい」

 

 そう言って、お母さんはキッチンに戻って行った。首をかしげながら。

 

 うーん。何だろう、あのお母さんの様子。あたしが今帰ってきたのに、納得がいかないと言うか、不思議そうと言うか。怒られなかったのはラッキーだけど、なんだか、あたしの方も納得がいかない。

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 で、またまた数日後。

 

 今日は、亜美はレポートの作成で理名は勉強。で、あたしは1人。しょうがないので家に帰った。居間でテレビをつけて雑誌を広げ、見るでもなく読むでもなく、なんとなく時間を潰し、その後、お母さんとご飯を食べる。食事を終えて時計を見る。9時少し前。あたしは食事の後片付けを手伝う。

 

 と、そのとき。

 

 ギィ……ギィ……。

 

 天井が鳴った。

 

 思わず見上げるあたし。

 

 ギィ……ギィ……。

 

 音は鳴り続け、そして、少しずつ、鳴る場所が変わっている。

 

 木造の家は、湿気や風のせいできしむ。そんな話を、昔聞いたことがある。「家鳴り」という現象。でも今のこの音は、たぶん、それじゃない。だって、音は規則正しく鳴り、そして、移動している。ちょうど、誰かが2階を歩き回っているような。

 

 でも。

 

 でも!

 

 この家には今、あたしとお母さん以外、誰もいない。

 

 で、あたしもお母さんも、キッチンにいる。

 

 ふと、数日前の、あたしが遅く帰ってきたときのお母さんの様子を思い出す。

 

 ――結衣、今帰ってきたの?

 

 そして、納得のいかない表情。

 

 お母さんと目が合った。

 

「……これ?」

 

 あたしは天井を指さす。

 

「そう……これ」

 

 お母さんは、苦笑いしながら答えた。

 

 

 

 

 

 

(都市伝説「今帰ってきたの?」より)

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。