ある日、明奈からメールがあった。何か、あたしに相談したいことがあるらしい。電話してみると、すごく元気がない様子で、落ち込んでるようだった。電話じゃなんなので、あたしたちは近くのファミレスで落ち合うことにした。
夜の8時を少し回った時間。ファミレスは、夕食のお客さんで結構混雑していた。ウェイトレスの人が、厨房とホールをあわただしく行き来している。明奈はまだ来ていなかった。あたしは案内された席に着く。ウェイトレスはコップに水を注ぎ、忙しそうに厨房へ戻って行った。しばらくして、明奈がやってきた。
「久しぶり、明奈。どう? 1人暮らしは?」席に着く明奈に声をかける。明奈は最近、1人暮らしを始めたのだ。
「まあまあかな。大変なこともあるけど、ま、楽しくやってるよ」
元気がない様子で答える明奈。うーん、どうしたんだろ? 相談したいことって、結構深刻なものなのかな?
店内は、相変わらず賑わっていた。ウェイトレスの人、すごく忙しそうだ。明奈が来たのに気がついてないようで、テーブルにお水を持ってこない。ま、大変そうだからしょうがないけど。
「……で、相談したいことって、何?」
「うん。実はさ、あたし、ひと月くらい前、中学校の、旧校舎に行ったんだ」
「旧校舎? 幽霊が出るって、あの? まだあったんだ」
中学の旧校舎。あたしたちが通ってた頃から、使われていない古い校舎だ。当時から幽霊が出るとのうわさで、立ち入り禁止になっていた。でも、怖いものが大好きなあたしたちは、よく、その旧校舎に忍び込み、肝試しや怪談話をしていた。
「明奈、あんた、まだそんなことやってんの?」
ちょっとあきれた口調で、あたしは言った。あの当時、旧校舎に入って、結構本気で怖い目にあったものだ。ああいうところに面白半分で行かないほうがいいなと、心底思ったものである。
「あ、うん。まあ、あの日は学校のみんなと飲み会があって、ちょっとそういう話で盛り上がっちゃってね。つい、勢いで。まあ、反省はしてる」バツが悪そうに、明奈は答えた。
「で?」
「ん。そのときは別に何もなくてさ、がっかりして、みんな帰ったんだけど……その後、変なことが起こるのよ。例えば、今日みたいにファミレスに入るでしょ? すると、ひとつ、多いの」
「多いって、何が?」
「コップが」
「…………」よく意味が判らず、あたしは黙ってる。
明奈は続けた。「あたしが1人でファミレスに入るじゃない? 必ず、ふたつ、コップを置かれるの。あたしと、あたしの前の席に」
「誰もいないのに?」
「そう。誰もいないのに。ファミレスだけじゃなく、牛丼屋でも、ラーメン屋でも、喫茶店でも。あ、映画館でも、チケットふたつ渡されそうになったかな。どこでもそうなの。必ず、ひとつ多いのよ」
「……何か、憑いてきた、ってこと?」あたし、背筋が寒くなった。
「判んない。幸い、体調が悪くなったり、悪いことが起こったりはしなかったから、悪い霊にとりつかれた、とかじゃないとは思うんだけど、さすがに気味が悪くなってね。しばらく外出控えてたの。そのうち、どっか行っちゃうかと思って。……で、どう? 結衣」
「どう、って?」
「ほら、結衣、昔から霊感強かったじゃない? どう? 何かいる?」
明奈は、不安そうに……いや、気のせいか、少しだけ嬉しそうに、あたしに訊いた。
と、言われても。あたし、少し困る。実は最近、霊感が弱くなってきている気がするのだ。ちょうど、20歳を過ぎたころを境に。こういう不思議な力って、子供のころだけだ、って、よく言うけど、あれ、ホントだったみたい。
と、あたしが返答に困っていると。
「いらっしゃいませー。すみません、お待たせしました」
ウェイトレスの人がお盆に水を載せてやってきた。やっと明奈が来たことに気がついたらしい。コップを明奈の前に置く。
そして。
その隣の、誰も座っていない席に、もう1個、置いた。
それだけでなく。
あたしの隣にも、1個。
さらに隣に、1個。
その正面に、もう1個。
あたしのも含め、合計6個のコップがテーブルに並んだ。
「では、ご注文がお決まりになりましたら、そちらのボタンを押してくださいね」
ウェイトレスは笑顔で去っていった。あたしと明奈は互いに顔を見合わせ、曖昧に笑った。
「……ね?」
(都市伝説「1個多い」より)