Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

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同窓会

「へ? 同窓会?」

 

 あたし、電話に向かって思わず声をあげる。

 

「ん、そう。高校卒業する前に、みんなで1度集まろうかなって思って」受話器の向こうの明奈、うきうきした口調。なんでも、今、中学時代のメンバーを集めて、同窓会を企画しているらしい。

 

「同窓会って、もっと時間が経ってからやるもんじゃない?」突然の提案にちょっと懐疑的なあたし。あたしたちはもうすぐ高校を卒業する。つまり、中学を卒業してから3年ほどしか経ってないのだ。同窓会なんて早すぎないだろうか?

 

「そんなこと無いでしょ? 高校卒業時の同窓会は、第1回としては定番なんじゃない? だって、みんな進学や就職で、バラバラになっちゃうんだし。今までみたいに会えなくなるんだから」

 

 ま、それは言えるかな。中学卒業のときも、みんなバラバラになると思ってた。もちろんバラバラにはなったんだけど、ほとんどのメンバーは市内の高校に進学したので、ばったり会うことは珍しくない。その気になれば、割と簡単に集まることもできた。でも、高校卒業後はそうもいかなくなるだろう。進学や就職先に県外を選ぶ人も多いはず。現に、奈々は隣の県の大学へ進学が決まっているし、梓も東京に行くって話だ。

 

「うーん、それもそうかもね」

 

「でしょ? だから、同窓会よ」

 

 確かに悪くないかもしれないな。何より、明奈のアイデアとしてはかなりまともだ。電話がかかってきたときは、また肝試しに行こうとか言われるんじゃないかと思ったもんね。

 

「判った。じゃ、奈々にも連絡しておくよ」

 

「あ、お願い。3月8日の7時に、『かえる亭』に集合ね」

 

「ん、了解。楽しみにしてるね」

 

 あたしは電話を切った。

 

 うーん、同窓会か。中学のメンバー、なんだかんだで最近は全然会ってない娘も多いからな。明奈は割と家が近いから会うことも多いんだけど、梓とか、会ったのはいつだっけ? うーん? 半年くらいは会ってないかも。他にも会いたい娘はたくさんいる。うん、これは楽しみだね。

 

 そしてあたしは奈々に連絡を入れた。奈々も久しぶりにみんなに会えると嬉しそうだった。なんだか待ち遠しくなってきたぞ。

 

 

 

 

 

 

 で、同窓会の日。

 

 奈々と一緒に「かえる亭」へ。中学時代、学校帰りにみんなでよく立ち寄った、お好み焼きのお店だ。今日はあたしたちで貸し切りらしい。ここに来るのもかなりおひさしぶりな気がする。

 

 ガラガラ。ドアを開けると。

 

「お! 結衣さんと奈々さんの入場です!」

 

 いつも以上にハイテンションの明奈の声とともに、一斉に沸き上がる拍手。みんなもう集まってる。

 

「結衣、奈々、久しぶりだね」

 

 まず声をかけてくれたのは梓。あたしと奈々とで手を取り合う。

 

「久しぶり、梓。聞いたよ? 東京に行くんだって?」

 

「うん、そう。ちょっと恥ずかしい話なんだけど……」

 

 と、梓、なにやらもじもじすると。「女優、目指そうと思って」

 

「へ? 女優? ドラマとかに出る、あの?」

 

「そう。……笑わないでよ」

 

「いや、笑わないよ。すごいじゃん! そっか、ドラマとか演劇とか、好きだったもんね」

 

「うん。小さな劇団だけど、運よく入れてもらえることになったんだ。しばらくそこで稽古するの」

 

「へぇー」あたし、ひたすら感心。女優とはまた、大きな夢だ。今のうちにサイン貰っとこうかな?

 

「結衣はどうするの?」梓が聞いてくる。

 

「あたし? あたしは市内の大学」

 

「そっか。奈々も一緒?」

 

「ううん、それが違うんだよね?」と、あたしは奈々を見る。

 

「うん。隣の県のK大学に行くんだ」奈々も少し恥ずかしそうだ。

 

「へ? K大って、あのバスケで有名な?」

 

 梓、目を丸くして驚く。それも当然で、K大学はバスケットボールの全国大会で何度も優勝していることで有名だ。奈々は中学時代、かなりの運動音痴で通っていて、体育会系には程遠いイメージしかない。

 

「そう言えば、高校ではバスケ部に入ったって言ってたっけ?」

 

「うん。ま、ほとんどマネージャーみたいなものだったけどね」照れくさそうに答える奈々。

 

「そうそう。運動音痴は変わってないの」あたしはイジワル気味に言う。

 

「うるさいわね」奈々、ちょっと拗ねて見せる。

 

「そっか……でも、ちょっと意外だな。結衣と奈々って、ずっと一緒にいる印象が強かったから、大学も一緒だと思ってたのに」

 

 梓、しみじみと言う。そうなんだよね。あたしと奈々は家が近くだったから、幼稚園から高校まで、ずっと一緒だった。その奈々が県外の大学に行ってしまうと思うと、やっぱり寂しい。でも、奈々には奈々のやりたいことがある。それは、応援してあげたい。

 

 それにしても、奈々も梓も、ちゃんと目標持ってて偉いな。あたしが市内の大学を選んだのって、そんなに深い理由は無いんだよね。ただ、成績に相応で、近くて安心だし、そんな感じ。

 

 …………。

 

「うわあ! 結衣に奈々に梓じゃん! ちょーひさしぶり!」

 

 と、これまたハイテンションな声を発したのはゆきえと真実。うわ、この2人は本当に久しぶりだ。ひょっとして、中学卒業以来じゃない? 思わず抱き合って喜ぶ。

 

 その後、さゆりに千夏にさやかに希と、これまた超久しぶりのメンバーが。さらには担任の天海先生まで登場し、みんなで乾杯(もちろん、ジュースでだけど)。それから懐かしのお好み焼きを食べながら、高校に入学してからの話とか、卒業した後の話とか、いろんな話で大盛り上がりだった。

 

 

 

 

 

 

 ふう。なんだか少し疲れちゃったな。みんなテンション高いんだもん。ちょっと休憩しよ。あたしはみんなの輪から離れ、お店の隅に座る。

 

「よ、結衣。どう? 楽しんでる?」

 

 と、話しかけてきたのは明奈。明奈はこの同窓会の幹事だからいろいろ忙しだったのか、今まで全然話せなかった。

 

「うん。みんなと話せて良かったよ。ありがとね、明奈。こんな会、企画してくれて」

 

「へへ。ま、発端はいつもの思いつきなんだけどね」明奈は照れくさそうに笑い、あたしの隣に座った。「でも、やってよかったよ。みんな、喜んでくれたみたいだし」

 

 隅からお店全体を見回す。みんな笑顔で楽しそうだ。奈々と梓は、ゆきえが持ってきた卒業アルバムを見ながら、あの日はこうだった、この娘はああだった、と、思い出話に花を咲かせている。

 

「それにしても、みんなちゃんと目標持ってやってるんだね。すごいな」ため息半分でつぶやくあたし。

 

「どしたの? なんだか、しおらしくなっちゃって?」

 

「うん。あたしさ、あんまり深く考えないで進学先決めちゃったんだ。家から近くて学力にも合ってるから、とか、そんな理由。でも、みんなちゃんと将来のこと考えてるんだね。奈々はやりたいこと見つけてK大行くんだし、梓なんて女優でしょ? ゆきえや真実だってちゃんと目標決めて進学するみたいだし。なんだか、あたしだけ浮いちゃってる感じ」

 

「…………」

 

「ところで、明奈は市内に進学だっけ?」

 

「そう。試験をすれば誰でも受かる、専門学校だけどね。情報処理系の」

 

「じゃ、将来はプログラマーとかになるの?」

 

「うーん、どうだろ? わかんないや。あたしも結衣と同じだよ。近くて学力にも合ってるから、深く考えないで決めちゃったの」

 

「そうなんだ。どうする? この中で目標持たずなんとなく進学したの、あたしたち2人だけかもしれないよ?」

 

「失敬な。学校の選択はともかく、あたしには壮大な目標があるわよ」

 

「何? 世界征服とか?」

 

「ま、そんなとこ」

 

 冗談交じりに言う明奈。でも、この娘の場合、本気で考えてそうだから怖い。

 

「ま、いいんじゃない? まだ18歳なんだし。目標が見つからなくたって、別に不思議じゃないよ」明奈、あっけらかんとした顔。

 

「そうは言っても、やっぱ周りのみんながちゃんとしてるとさ、なんか、危機感が湧いちゃうの」

 

「あせることなんてないないよ。やりたいことなんて、そのうち自然に見つかるもんだから。それまでは、とりあえず勉強してれば間違いは無いと思うよ。そのうち何かやりたいことが見つかったとき、きっと何かの役に立つからね」

 

 明奈らしい、なんともノンシャランな考え方だ。でも、なんとなくいいこと言ってるような気がする。明奈がまともなこと言うなんて、なんか意外だな。

 

「何? あたし変なこと言った?」

 

「ううん、そんなことないよ。ありがと、明奈」

 

 それからあたしたちは2人で黙ってジュースを飲みながら、みんなの楽しそうな笑顔を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「はい! じゃあ、夜も更けてきたことだし、今日はここまで! みんなおつかれさん!」

 

 明奈が大声で言うと、その場でみんな拍手。

 

 お好み焼き屋「かえる亭」での食事を終え、その後、ボウリング場で2次会、カラオケボックスで3次会とはしごして、これまたみんなで大盛り上がり。カラオケボックスを出たときには、日付はとっくに変わってた。でも、みんなやっぱり名残惜しいのか、誰1人帰ろうとしない。みんな店の前で話してる。

 

「おつかれさん」あたしは明奈に声をかける。

 

「結衣ぃ。ホントに疲れたよー。次は幹事結衣がやって」

 

 明奈、ホントにへとへとという感じであたしにもたれかかってくる。今日はほとんど1人で頑張ってたもんね。

 

「明奈のおかげで、今日はホントに楽しかったよ。ありがと」

 

「ん、そう言ってくれると、頑張った甲斐があったってもんだよ」明奈、誇らしげ。

 

 でも、今回の同窓会、ひとつだけ残念なことがあって。

 

「これで美沙子さえいれば、完璧だったのにね」あたしは、静かにそう言った。

 

 大西美沙子。中学の同級生だ。あたし、奈々、明奈、美沙子と言えば、中学時代の仲良しグループ。よく4人で恐い話や肝試しをしていた。美沙子は明奈と同じく、人一倍怖い物好きで、あたしと奈々は当時2人に振り回されたものだ。すごく仲が良かったんだけど、中3の春、突然転校してしまったのだ。それからは、全然会っていない。

 

「美沙子、どうしてるんだろ? 元気でやってるかな? 会いたいよね」

 

 心からそう思った。

 

 と。

 

 明奈が、不思議そうな顔であたしを見ていた。

 

「ん、どうしたの?」

 

 あたしが聞くと、明奈は。

 

「ゴメン、結衣……美沙子って、誰だっけ?」

 

 へ?

 

 一瞬、時間が止まったかのような感覚。

 

 …………。

 

「またまたぁ。冗談言っちゃって。美沙子よ。大西美沙子。よく奈々と4人で肝試しとかしたじゃない」

 

「そうだっけ? うーん」考え込む明奈。「そんな娘いたかな? たまに梓や亜弥を誘ったことはあったと思うけど」

 

 この娘、本気で言ってるんだろうか?

 

 …………。

 

 まさかね。冗談に決まってる。もう、明奈ったら。

 

「ねえ、奈々、聞いてよ。明奈ったら、薄情なんだよ」あたしは梓たちと話している奈々に向かって言う。「美沙子のこと覚えてないって言うの。ヒドくない?」

 

 すると。

 

 奈々の表情が曇った。なにか、困惑している様子。

 

「美沙子……って、誰だっけ?」梓と顔を合わせる。梓は、さあ、と、首をかしげた。

 

 おいおいおい。みんなどうしたっていうの? 美沙子だよ? 美沙子。中3の春まで、ずっと一緒だったじゃない。

 

 …………。

 

 そっか。みんなであたしをからかってんだ。

 

 そう思った。それ以外考えられない。

 

「もう。手の込んだことするんだから。どうせ考えたの、明奈でしょ?」

 

 あたしは笑いながら明奈を見る。すると明奈「へへ、実はそうなんだ」と、ペロッと舌を出し。奈々も梓も笑って、「ドッキリ大成功!」とか言うと思った。

 

 だけど。

 

 明奈も奈々も梓も、みんな、戸惑いの表情。

 

 …………。

 

「いい加減にしなよ。気の聞いた冗談でも、やりすぎると白けちゃうよ、みんな」

 

 少し声色を変えて言う。それでも、誰も、何も言わない。

 

 ……腹立ってきたぞ。いくらなんでも、やりすぎだ。美沙子は友達だ。転校したって、それは変わらない。なのに、これじゃあまるで、みんなで美沙子のことをいなかったことにしてるみたいだ。

 

「ゆきえ、アルバム持ってたよね。出して」

 

 あたし、かなりきつい声。ゆきえはバックからアルバムを取り出す。これに美沙子が写ってるはずだ。パラパラとめくる。3年2組。あたしたちのクラスのページ。1人1人みんなの顔写真が載っている。そこに美沙子の写真が――。

 

 ――――。

 

 無い。

 

 言葉を失うあたし。

 

 ……いや。これは卒業アルバム。美沙子は転校したんだから、あたしたちの中学を卒業した扱いにはならないはずだ。だから、ここに写真が無いのは当然。

 

 でも、他のページなら。

 

 アルバムの中には、1年と2年のときの写真もある。文化祭や体育祭、修学旅行の写真だ。学校でのイベントでは、美沙子とほとんど同じ班だったから、そこに写っているはず。あたしはページをめくる。

 

 でも。

 

 ページをめくるたびに、あたしの背中に、冷たい物が走る。

 

 めくってもめくっても、美沙子の写っている写真は見つからない。

 

 あたしと奈々の写真、奈々と明奈の写真、あたしと奈々と明奈と梓の写真、明奈とゆきえと希の写真……あたしたちのクラスはもちろん、他のクラスの写真も、全部確認していくけど、美沙子の姿は無い。分厚いはずの卒業アルバムが、ものすごく薄く感じる。そして、ページを最後までめくったけど、美沙子の写っている写真は、1枚も無かった。

 

 そんな――そんなはずは!

 

 呆然と、最後のページを見つめる。

 

「結衣……大丈夫?」

 

 奈々が心配そうに声をかてきたけど、何が何だか判らないあたしは、その声に反応できない。

 

 これはいったい、どういうことなの?

 

 誰も美沙子を覚えていない。アルバムにも写真が無い。

 

 まるで、最初から存在しなかったかのように――。

 

 そんなはずは無い。美沙子は、確かにいた。幽霊が出るとウワサの旧校舎で百物語や肝試しをしたとき、教室で明奈のくだらない話を聞いたとき、そばに、美沙子はいたはずだ。

 

「どういうこと……?」

 

 誰ともなしに聞く。もちろん、誰も答えてくれる人はいない。ただ困惑し、あるいは戸惑い、みんな、顔を見合わせているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 その夜、家に帰ったあたしは、家中の写真を引っぱりだし、ひとつひとつ確認したけど、やっぱり美沙子の写真を――美沙子が存在した証拠を――見つけることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

(都市伝説「同窓会にて」より)

 

 

 

 

 

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