大学での授業が終わり、家に帰ろうとしていたら、明奈からメールがあった。またまたあたしに相談したいことがあるらしい。電話してみると、すごく元気がない様子で、落ち込んでるようだった。電話じゃなんなので、あたしたちは近くのファミレスで落ち合うことにした。
夕方を少し過ぎた時間。夕食にはまだ早いので、店内はあまり混雑していない。見回すと、明奈はすでに来ていた。
「おーい、こっちこっち」
手を振る明奈。あたしも手を振り返し、席に着いた。
「で、どうしたの? まさか、また幽霊に取り憑かれたとかじゃないでしょうね?」
「……へへ」小さく笑う明奈。やっぱりそっち方面の相談か。
「あんたねぇ……」精一杯冷たい目で見る。以前も同じようなことがあり、このファミレスで相談を受けたのだ。
「……そんな目で見ないでよ。相談できるの、結衣くらいしかいないんだから」
「それで、今度は何?」
「あ、うん。3日前の夜ね、ちょっと退屈だったから、イタズラ電話かけたんだ」
「はぁ!?」思わず声をあげる。明奈は昔から、よくやんちゃをする娘だったけど、さすがそれはやりすぎでは? 犯罪だぞ?
「あ、イタズラ電話って言っても、嫌がらせ目的でするわけじゃないよ? 友達限定で、もちろんちゃんと最後には、あたしだってネタばらしするよ。罪のないジョークよ」
「……だからって許されるものでもないと思うけど。どんなイタ電?」
「んー。ま、いろいろだけど、よくやるのはメリーさんかな?」
「メリーさん?」
「そ。電話してね、『私、メリーさん。今、駅の前にいるの』って言って切るの。しばらくしてまたかけて、『今、コンビニの前にいるの』とか言って切って、次は『公園の前にいるの』って言って切って、だんだんその人の家に近づいて行って、最後に、『今、あなたの後ろにいるの』でシメるの」
「明奈……」
「ん? 何?」
「その電話、高校のとき、あたしの家にもかかってきた」
「……そうだっけ? そう言えば結衣にもかけたような?」
「あんた……あの電話のせいで、あたし、物理のテスト落したんだからね!」
「あーゴメンゴメン。でも、もう時効だよ、時効」
笑ってごまかす明奈。まったく。あのおかげで高校最後の夏休みが補習でパーになったんだよ? うー。この恨み、いつか晴らしてやる。
「で、何!?」
「……そんな怒らないでよ。でね、ま、同じことやろうと思って、奈々に電話したんだよ。そしたらさ、電話から変な声が聞こえたの」
「変な声?」
「うん。なんて言うのかな? よくワイドショーのレポートとかで、プライバシー保護のため音声を変えてあります、ってあるじゃない? あんな感じの声で、『あなたは14日の2時、死にます……』って」
「…………」
「そのときはビックリして切っちゃったんだけど」
「それって、奈々のイタズラなんじゃないの?」
「ん。あたしもそう思って、もう1度かけてみたんだけどさ。今度はちゃんと繋がったの。もちろん、そんなの奈々も知らないって」
「…………」
何と答えていいか判らず、あたしは黙ってる。14日って……明日だ。もっと言えば、あと8時間足らずで2時。
「で、何かあると怖いからさ。結衣、今日泊まりに来てくれない?」
あんまり怖がってなさそうに、明奈は言った。この娘はこういうことがあるとかえって喜んじゃうタイプだからな。ま、不気味な話ではあるけど、多分何でもないだろう。奈々にかけたつもりが誰か別の人にかけてたとか、そんなんだと思う。明日は休みだし、別にいいかな。
「多分何の力にもなれないと思うけど、いいよ」
「良かった。ありがと」
その後適当にファミレスで時間をつぶし、あたしは明奈の部屋に向かった。
「……相変わらずだね」
部屋に入ってひと言。いつ来ても明奈の部屋は、めっちゃくちゃのぐっちゃぐちゃである。着るものや本、雑誌、化粧道具や文房具、CDにDVDにゲームまで、ありとあらゆるものが床に散乱してて、足の踏み場もない。
「ま、これはまだ片付いてる方だよ。適当に座ってて。今、コーヒー入れるから」
そう言って明奈はキッチンへ。あたしは言われた通り、散らばる物を適当に片付けて座る。
プルプルプル……明奈のケータイが鳴ってる。
「明奈、ケータイ鳴ってるよ?」
キッチンの明奈に伝える。明奈、部屋に戻って来て、ケータイを取る。
「お、梓だ」
「梓? うわ。久しぶりかも」
梓は中学の同級生で、今は東京に住んでいる。なんでも、女優を目指して上京したらしい。今は小さな劇団に所属していると、以前明奈が言ってた。
「もしもし、梓? 久しぶり」明奈、笑顔で出る。「うん……うん……え? 帰って来てるの? この時期に珍しいじゃん。うん……うん……もちろん。今からおいでよ。ちょうど結衣もいるよ……うん、代わるね」
明奈は、あたしにケータイをくれた。あたしも笑顔で出る。「もしもし梓? お久しぶりー」
「結衣。ホント久しぶりだね。元気だった?」
「うん、元気元気。梓は?」
「あたしもちょー元気! ああ、ホントに久しぶりだね。話したいこといろいろあったんだ。今から行くから、待っててね」
「ん、待ってる。あ、でも覚悟しておいてね。今夜2時に、明奈、死んじゃうから」
「は? 何、それ?」
あたしは、笑いながらファミレスで聞いた明奈の電話のことを話した。
「あ、ゴメン、それ、多分あたしだ」と、梓。
「へ? どういうこと?」
「うーん。ま、話すと長いから、そっち行ってから説明するよ」
「うん、待ってる」
そして、電話は切れた。
「梓、なんだって?」
コーヒーを持って、明奈が部屋に戻ってきた。
「何だかわかんないけど、あの2時に死ぬって電話、梓だって」
「梓? なんで」
「さあ? 詳しくは来てから説明してくれるよ」
「ふーん……」
しばらくコーヒーを飲みながらおしゃべりしてたら、梓がやってきた。
「2人ともお久しぶりー」
「おかえりー、梓。さ、汚いけど座って」あたしは部屋に招き入れる。
「……ホントに汚いね」梓、部屋を見て呆れ顔。
「あたしの部屋のことはいいから。それで、あの電話が梓って、どういうこと?」
「うん、あのね――」
梓の説明によると。
最近梓のケータイに、無言電話がかかってくるらしい。何度もかかってくるので不気味になった梓は、留守電に、『あなたは14日の2時、死にます』というメッセージを入れたのだそうだ。
「非通知でかかってきた電話は、全部そのメッセージに繋がるようにしたの。もし無言電話かけてきてる人が聞いたら、ビックリするかなと思って」
「……そっか。梓のケータイの番号、奈々の1つ下だ。最初の電話、奈々にかけたつもりで、間違って梓にかけてたんだ」明奈、ケータイのメモリーを確認しながら言った。やっぱり、そういうことだったか。
「ごめんね明奈。怖がらせて」手を合わせて謝る梓。
「大丈夫だよ。明奈、全然怖がってなかったから。むしろ、喜んでたんじゃない?」あたしは笑いながら言った。「そもそも、明奈もイタズラ電話しようとしてたみたいだし。もしかしたら、その無言電話も、犯人は明奈かもよ?」
「まさか。あたしは芸術的なイタ電しかしないよ」
何が芸術的だ。何が。
ま、何はともあれ良かった。その夜、あたしたちは久しぶりの再会で大いに盛り上がった。もちろん2時になっても何も起こらず、そのまま明け方近くまでずっとおしゃべりに花を咲かせた。
で、話はこれで終わりだと思ったんだけど。
事件は、梓の住むマンションで起こっていた。
その夜、梓のマンションの屋上から、ある男が飛び降り自殺をしていた。
男はマンションの住人ではなく、もちろん、梓とは何の面識もなかった。状況から警察は自殺と判断したそうだけど、遺書等は見つかっていないらしい。なぜ、梓のマンションで自殺をしたのかも判らない。
そして、その男の自殺したのは、14日の深夜2時だったそうだ――。
(都市伝説「イタズラ電話」より)