Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

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犯罪統計学

 朝、眠い目をこすりながら、あたしは大学のロビーに向かう。いつもここでコーヒーを飲みながら理名と亜美とおしゃべりをし、それから授業に向かうのが日課。ぐるりとロビーを見回す。あ、理名いた。でも、亜美の姿は見えない。朝が弱いあたしと違って、亜美は朝から常にハイテンション。あたしより遅く学校に来ることなんて、めったに無いんだけどな。

 

「おはよー、理名。亜美は?」あたし、自販機で紙コップのコーヒーを買って、理名の正面の席に着いた。

 

「おはよ、結衣。亜美は研究室」

 

「研究室? なんで?」

 

「今日提出のレポートをまとめてるんだって、昨日の夜から徹夜でやってるみたいだよ」

 

「へえ。大変だね。何のレポート?」

 

「犯罪の統計研究だって」

 

「犯罪の統計?」

 

「そう。パンと犯罪の発生率について調べてるみたいよ」

 

「はあぁ?」

 

 あたし、ロビー中に響くほどの大声をあげてしまう。パンって、あのパンだよね? 食べるやつ。小麦粉こねてつくるやつ。あれが、犯罪とどういう関係が?

 

「……そうあからさまに胡散臭そうな顔しないの。亜美は真剣にやってんだから」

 

「真剣たって……パンが犯罪とどう結びつくって言うの? 意味わかんないよ」

 

「そこら辺はあたしも詳しく聞いてないから判らないんだけど……まあ、亜美だからね。なにか、とんでもないことに気がついたのかもしれないよ」

 

 ……あの娘なら、ありえるな。

 

 亜美は、何故あたしなんかと同じ大学に通っているのか不思議なくらい、すごく頭が良いのだ。市内1の進学校である北高で3年間トップだったらしいし、優等生である理名よりも成績が良い。しかも驚いたことに、本人はまったく勉強らしきことはしないのだ。授業中はノートすら取らず、退屈そうにあくびをかみ殺しているだけだし、家で予習復習とかすることも無く、ただ授業に出るだけで全てが頭に入ってしまうようなのだ。いわゆる天才と言う種族である。

 

 だから、あたしみたいな凡人には考えもつかないようなことを平然とやってしまい、驚かされることも多い。

 

 ……ていうか亜美、前は錬金術の実験してなかったっけ? 今度はパンと犯罪? あの娘、この学校でなんの勉強してるんだろ? 今度聞いてみよう。

 

「あ、亜美だ」

 

 と、理名がロビーのはずれにあるエレベーターを指差した。亜美、眠そうに大きなあくびをし、こっちへ来る。

 

「おはよー、結衣、理名」

 

「おはよ、亜美。またレポートまとめてるんだって?」

 

「うん。おかげで眠くて眠くて……コーヒー、もらうね」

 

 と、亜美はあたしのコーヒーを飲む。

 

「で、できたの? パンと犯罪のレポート」

 

「ん、一応。読む?」

 

 そう言って亜美はレポートを見せた。あたしは受け取り、目を通す。いろいろこまごまと研究して書かれてあるけど、要約すると、つまりこういうこと。

 

 

 

 今回の調査の結果、パンは非常に危険な食べ物であることが判明した。理由は以下の通り。

 

1. 犯罪者の98%は、パンを食べている。

 

2. 日常的にパンを食べて育った子供を調査した結果、約半数が、テストの点数が平均点以下だった。

 

3. パンを主食としている国々の犯罪者について調べた結果、傷害事件の90%は、パンを食べたのち、24時間以内に発生している。

 

4. とある被験者に、最初はパンと水を与え、その後、水だけ与えるという実験を行った。被験者は2日もしないうちにパンを異常に欲しがる結果となった。この実験結果から、パンは中毒症状を引き起こす可能性が高いと考えられる。

 

5. 新生児にパンを与えると、喉を詰まらせて苦しがることが多い。

 

6. 18世紀の欧米では、どの家庭でも自宅でパンを焼いていたが、その頃の平均寿命を調べてみると、50歳程度であることが判った。現在の先進諸国の平均寿命が80歳前後であることと比較して、かなり低いことが判る。

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「……亜美」

 

「ん?」

 

「何? これ」

 

「何って……パンと犯罪について、あたしが調べたことだよ」

 

「これ、冗談だよね?」

 

「なんでレポートに冗談書かなきゃいけないのよ?」

 

 亜美は平然と答えた。

 

 理名もレポートに目を通し、ものすごく胡散臭そうな目で亜美を見る。

 

「……何よ、2人とも。あたしのレポート、何かおかしい?」

 

「いや、おかしいっていうか……当たり前のことじゃん、これ」

 

 あたしが指摘するけど、亜美は何言ってんの、って顔で、「確かに、当たり前と言えば当たり前なんだけどね。でもね、当たり前のことだから、逆に証明するのが難しいのよ。例えば『地動説』は、結衣も知ってるわよね?」

 

 当たり前だ。いくら理系が弱いあたしでも、地球が動いてることくらいは知っている。

 

「今では結衣ですら知ってるくらい当たり前のことだけど、このことを証明するために、コペルニクスやガリレオがどれだけ苦労したことか」

 

 ……なんかえらい言われようだけど、言いたいことは判る。コペルニクスは地動説について書かれた本が一時閲覧禁止になったし、ガリレオにいたっては裁判で無理矢理有罪にされたはずだ。

 

「ニュートンの万有引力の法則も、ダーウィンの進化論も、ソクラテスの無知の知も、諸葛亮の赤壁の戦いも、竜馬の新婚旅行も、みんな、今となっては当たり前のことだけど、それを証明するために、彼らは想像を絶する苦労を強いられたのよ! あたしのこのレポートには、それと同じくらいの苦労が結集されているの!」

 

 ……ダメだこりゃ。亜美、完全に陶酔しきってるって感じ。もはや何を言ってるのかさっぱりわからん。あたしには、ついて行けない世界だな。

 

 って、あたしがおかしいのか? これ。

 

「あ、そろそろ授業始まるよ。行こうか」

 

 理名が時計を見て言った。おっと、もうそんな時間か。何か釈然としないけど、ま、亜美がそう言うんだから、別にいいか。あたしたちは席を立ち、講義室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 ところが後日。

 

 亜美のこのレポートは、教授から大絶賛。その後、世界犯罪心理学会議で発表され、世界中から注目されることになる。

 

 天才の考えることはわからん……。

 

 

 

 

 

 

(都市伝説「パンと犯罪者」より)

 

 

 

 

 

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