駅前に、大きなショッピングモールができたので、その日、あたしはお母さんに連れられて、お出かけすることになった。
「結衣、きっとビックリするわよ? 今まで結衣が行ったことのあるどんなデパートよりも大きいんだから」
お母さんがそう言うので、あたし、わくわくしてくる。いつも出かけるデパートも大きくて、何度か迷子になったことがあるくらいなのに、それよりも大きいんだ。楽しみ楽しみ。
駅前はものすごい人だった。今日はオープン初日で、バーゲンセールと言うのをやっていて、みんな、それが目的らしい。交差点の向こうに、そのショッピングモールが見える。うわ。すっごくおっきい。デパートはもちろん、あたしが通う小学校よりも大きいよ!
「あの中、全部お店なの?」お母さんに聞く。
「そうよ。お店だけじゃなく、病院とか、英会話の学校とか、映画館もあるんだから」
ホントに? すごいなぁ。ますます楽しみだ。早く行きたいけど、赤信号だ。うーん。早く青にならないかな。
……あれ?
道路の向こう側に、変な人がいる。
その人、今は夏なのに、長袖の、ぶかぶかの服を着ている。真っ黒で、ボロボロだ。フードを深くかぶってて、顔は良く見えない。一番変なのは、手に持っているもの。長い棒の先に、ナイフみたいな三日月形の刃物がついている。前に見たことがある。たしか、田舎のおじいちゃん家に行ったとき、お庭の草を刈るのに使ってたやつ。カマ、って言ったかな? でも、おじいちゃんが使ってたのより、ずっと大きい。
すごく変な格好の人だけど、お母さんも、周りの人も、誰も、何も言わない。だったら、別に変じゃないのかな? うーん。
信号が青になった。みんな、一斉に渡りだす。
「結衣、行くわよ」
お母さんに連れられて、横断歩道を渡る。その変な人も、こっちに向かって歩いてくる。大きなカマを持ったまま。危なくないのかなぁ? でも、みんな、やっぱり何も言わない。その変な人の前を歩いている、痩せて眼鏡をかけた背広のおじさんも、何も言わない。
その変な人、だんだん近づいてきて、フードに隠れた顔が、はっきりしてくる。
――――!!
その顔を見て、あたしは、立ち止まってしまう。
それは、絵本なんかでよく見る、ガイコツのお化けだった。
あたしはその場から動けない。
「結衣、どうしたの?」
お母さん、不思議そうな顔であたしを見る。お母さんは怖くないのかな、あのガイコツお化け。
周りの人も、やっぱり誰も何も言わなくて、まるで、見えてないみたいだ。
お母さんが怖くないんだったら、多分、大丈夫だろう。
そう思い、あたしはまた歩き出した。ガイコツお化けが近づいてくる。お母さんはやっぱり何も言わない。あたしは怖いので、目をそらして、なるべく見ないようにして歩いた。大丈夫、大丈夫。そう、自分に言い聞かせて。
そして、横断歩道の真ん中あたりで、すれ違った。
そのとき――。
「よく判ったな――」
しゃがれた声で、ガイコツお化けが言った。
あたしは怖くて怖くて、お母さんの手を引っぱって、急いで横断歩道を渡った。
「ちょっと、どうしたの? 結衣?」
と、お母さんが言ったとき。
キキキキィー! ドン!!
ものすごく耳障りな音と、続いて、鈍い音。
みんながざわめいて、悲鳴を上げる女の人もいた。
振り返ると。
さっきのガイコツお化けの前にいた、眼鏡をかけた背広のおじさんが倒れていた。
頭を打ったみたいで、横断歩道に、真っ赤な血が、水たまりみたいに広がっている。そのそばに、バンパーがへこんだ車。どうやらおじさん、車にはねられたらしい。
「きゅ……救急車! 救急車!!」
誰かが叫ぶ。あたしはじっとその光景を見ていたけど、「行くわよ」と、お母さんが手を引っぱったので、あたしは慌ててついて行った。
さっきのガイコツお化けは、もう、どこにもいなかった。
この出来事の後、あたしは、他の人に見えないものが見えたり、聞こえない声が聞こえたりといった、不思議な体験をすることが多くなった。友達からは、「霊感が強い」と言われている。今思えば、この出来事がきっかけだった気がする。
そう。この日は、あたしの霊感が覚醒した日だ――。
(都市伝説「見えてるくせに・よく判ったな」より)