Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

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兆し

 中学3年の春を迎えた。あたしと奈々と明奈と美沙子は、相変わらず同じクラス。今年は高校受験だけど、あたしたちにはあんまり関係ないかな? もちろん勉強はしてるけど、みんなでいる方が楽しいのは当たり前。勉強よりも、くだらない話をしてる方が多い。ま、あたしたちはずっとこんな感じで過ごしていくのだろう。4人で、楽しく。

 

 なんて思ってた。それが、何の根拠もないことだったなんて、思いもせず。

 

 新学期を迎えて1週間程経ったある日。授業前、先生が言ったことが、あたしたちの日常を狂わせた。

 

「今朝、隣のクラスの城田君が、交通事故に遭い、亡くなりました――」

 

 城田君。サッカー部のエースで、学校中の女生徒の憧れの的。

 

 そして――。

 

 美沙子の、恋人。

 

 

 

 

 

 

 翌日。美沙子は学校に来なかった。

 

 よっぽどショックだったんだろう。当然だ。恋人が死んだのだから。あたしには恋人なんていないから、美沙子の気持ちは想像もできない。でも、もし、奈々や明奈や美沙子が死んだとしたらどうだろう? あたしは立ち直れないかもしれない。美沙子は今、そんな状態なのだ。

 

 次の日も、美沙子は学校に来なかった。その日は城田君のお葬式で、あたしたちのクラスは委員長が代表で参加したけど、美沙子の姿は無かったそうだ。

 

 美沙子、大丈夫かな? 心配だけど、どうしていいか判らない。様子を見に行こうかとも思ったけど、こういう場合はそっとしておいてあげた方がいい、しばらくすれば学校に来るよ、と、奈々も明奈も言うので、そうすることにした。

 

 でも、それから10日経っても、美沙子は姿を見せなかった。

 

 

 

 

 

 

「……ここかな? 美沙子の家」

 

 クリーム色の真新しい2階建ての家の前で、あたしは名簿に書かれた住所と表札を見比べる。「大西」と書かれた表札。間違いないだろう。

 

 城田君が亡くなって10日以上が経ち、その間ずっと美沙子は登校しなかった。明日からゴールデンウィークで、1週間程学校が休みになる。さすがに心配になったので、あたしは奈々と明奈と一緒に、美沙子の家にやってきた。

 

 ピンポーン。インターフォンを押す。しばらくして。

 

「……はい」

 

 ものすごく元気のない声。すぐに美沙子だと判った。

 

「美沙子? 結衣だけど」

 

「あ……うん」

 

 と、短い返事の後、しばらく沈黙。なんだか気まずい。何か言わなきゃ。

 

「その……元気だった?」

 

 10日も学校を休んで元気も何も無いと思うけど、他に何を言っていいか判らなかったから仕方が無い。

 

「ん……まあ……」

 

 やっぱり短い返事が返ってくる。とても元気だとは思えない、弱々しい声だ。

 

「心配だったから、お見舞いに来たよ。奈々と明奈も一緒。上がっていい?」

 

 もし体調が悪いのなら迷惑かもしれないけど、ここまで来て顔も見ずに帰るわけにもいかない。また沈黙。やっぱり誰にも会いたくないのかな? 帰った方がいいのかも? そう思ったとき。

 

 がちゃり。

 

 玄関のドアが開いて、美沙子が顔を出した。

 

 ――美沙子、だよね?

 

 思わずそう言ってしまいそうになる。それくらい印象が変わっていた。目は真っ赤に充血し、目の下にはクマ。顔色は青白く、頬もこけている。ものすごくやつれていて、別人みたいだ。いつもの元気いっぱいの美沙子の印象は、見る影もない。

 

「久しぶりだね、美沙子」

 

 できる限りの笑顔で、あたしは手を振る。奈々と明奈も、ぎこちないけど笑う。

 

「……入って」美沙子は静かにそう言っただけだった。

 

 本当に入っていいのだろうか? 少しためらいがあるけど、このまま帰るのも気が引ける。あたしたちは美沙子に続いて家に入った。

 

 よく整理された広い玄関だった。廊下も広く、壁も天井もピカピカだ。

 

「すごく綺麗だね」明奈が感心したように言う。

 

「……うん。半年前に建て替えたばかりだから」

 

 そうだったんだ。そりゃ綺麗だよね。うちの家は築何年だっけ? そんなに昔じゃないと思うけど、やっぱり少し古いから、美沙子の家と比べるとかなり見劣りする。

 

 気を抜くとすべって転びそうなくらいピカピカの階段を上がり、つきあたりが美沙子の部屋だった。床はフローリング、壁紙は白、ベッドと机、本棚という、シンプルだけど落ち着いた感じの部屋だった。ただ、カーテンが閉め切られ、明かりもついてない室内は真っ暗で、お化けでも出そうな雰囲気だ。

 

「もう。カーテンくらい明けなよ。不健康だよ?」

 

 明奈、シャッとカーテンを開ける。眩しい日差しが差し込み、部屋の印象はガラリと変わる。美沙子は少し眩しそうに目を細めたけど、特に嫌がったりはしなかった。

 

「……お茶、入れるね」美沙子、相変わらず生気の無い声。

 

「あ、気を使わなくていいよ。すぐに帰るから」慌てて断る。病人みたいな美沙子に何かしてもらうのも悪い。

 

 美沙子は特に何も言わず、静かにベッドの上に座った。あたしたちも適当に座る。

 

「でも、良かった。思ったより元気そうだね。安心したよ」

 

 あたしはなるべく明るく言った。ホントは予想以上に元気が無くて心配なんだけど。

 

「ん……そうかな……」

 

「そうだよ。休み明けには学校に来られそう?」

 

「…………」

 

 美沙子は黙り込んでしまった。うーん。やっぱり元気ないな。どうやったら元気を出してもらえるかな? こういうとき、ヘタに「元気出して!」とか言って励ますと、かえって逆効果なんだよね。余計に鬱になっちゃうって話だし。

 

 …………

 

 やっぱ、ヘタに気を使わず、いつもと同じようにふるまうのが一番かな? よし、そうしよう。

 

「そうだ。明奈、なんか面白い話、してよ」

 

 突然話を振られ、キョトンとする明奈。あたしは片目を閉じ、お願い、と、合図を送る。明奈、あたしの思いを察してくれたのか。

 

「うーん、そうだねぇ。ものすごく怖い話があるけど、聞きたい?」

 

「何? 聞きたい聞きたい! 話して!」奈々もあたしの意図に気付いてくれたようで、必要以上にはしゃいでくれる。

 

「いいけど……これ、本当に怖いよ。心臓が凍りつくくらいに……」声のトーンを下げる明奈。このパターンは、例のしょーもない話シリーズだ。あんまりいい思い出が無いんだけど、今は仕方が無い。美沙子のためだ。我慢しよう。

 

「昔さ、あたしの友達に、真希って娘がいたの。その娘、なぜかみんなから、スケコって呼ばれてたんだ。不思議なのよね。名前にも苗字にもスケなんてついていないのに、なんでスケコなんてあだ名になったのか。友達に訊いてみたんだけど、誰も知らないの。ある日、どうしてもその理由が知りたいと思ったあたしは、直接真希本人に訊いてみたの。『あなたはなんで、真希って名前なのに、スケコって呼ばれてるの?』って。そしたら――」

 

 明奈がオチを言おうとした瞬間、突然美沙子が口を挟む。「ねえ、結衣」

 

 いいところで邪魔され不満そうな明奈をなだめ、あたしは美沙子の方を見る。「何?」

 

「……結衣って、霊感、強かったよね」

 

 突然の言葉に、あたしは少し驚く。

 

 確かに、あたしはいわゆる霊感体質で、よく幽霊を見たり不思議な体験をしたりする。怖い物好きの明奈と美沙子、そのことをうらやましがることがあるけれど、霊感なんて、何の役にも立たない。持っててもムダだと思う。

 

「うん、そうだけど、それがどうかした?」

 

 あたしがそう言う、美沙子は口元に笑みを浮かべ。

 

「霊感があったら、会えるのかな……城田君に」

 

 ――――。

 

 言葉を失う。部屋に重苦しい沈黙が流れる。息が苦しい。急に部屋の酸素濃度が下がった。そんな錯覚。奈々も明奈も、何と言っていいか判らない様子。

 

 美沙子はただ、壁の1点を見つめ、不気味な笑顔を浮かべていた。

 

 窒息しそうな雰囲気に耐えられなくなったあたしは。

 

「さ……さあ。わかんないけど……」ようやくそれだけ言うことができた。

 

「この前さ……学校、行ったんだよね……」美沙子は、相変わらず壁の1点を見つめたまま話す。

 

「そうなんだ。気付かなかった」

 

「うん。夜に行ったから」

 

 は? なんで夜に学校に行くんだろ? 判らないけど、とりあえず話を合わす。「そうなんだ」

 

「旧校舎の前で、親切なおじさんに会ったの」

 

 ……何だろう、美沙子。何を言おうとしているの? 何だか嫌な予感がする。でも、あたしは黙って聞くしかできない。

 

「そのおじさんね、城田君に会う方法を教えてくれたの」

 

「――――」

 

 ごくり。全員が、息を飲む音が聞こえたような気がした。

 

 城田君に会う?

 

 そんな方法が、あると言うの?

 

 判らない。奈々も明奈も、困惑しているようで、お互い顔を見合すだけ。

 

 そんなあたしたちを無視して、美沙子は続ける。「今度、城田君に会うんだ、あたし。城田君、元気にしてるかな? 楽しみだな。あは……あははは……」

 

 美沙子は、静かに笑い声をあげた。

 

 その声は、どこか狂気じみていて。

 

 あたしは、言いしれぬ不安に襲われたけど、何もできず、ただ、黙って美沙子の笑い声を聞いていた――。

 

 

 

 

 

 

 そして、1週間が経った。

 

 美沙子のことは心配だったけど、あれ以降、あたしたちには何もできず、ただ暗い気分で、5月の連休を終えた。

 

 連休明けの朝。教室には、いつもと変わらぬメンバー。ただ、美沙子だけがいない。ものすごく重苦しい空気。

 

「美沙子、今日も来ないのかな……」

 

 奈々が不安げな顔をする。いつもは朝からいろんなおしゃべりをする明奈も、今日は何も話さない。

 

 教室の時計を見る。あと3分で始業のチャイムだ。美沙子はいつも早めに登校する。遅刻ギリギリに来ることはあまり無い。この時間にいないと言うことは、恐らく、今日も来ないのだろう。

 

 やがて。

 

 キーンコーンカーンコーン……。

 

 チャイムが鳴った。美沙子は来なかった。

 

 ガラガラ。教室の扉が開き、先生が入ってくる。委員長の号令で、礼。

 

「えー、授業の前にお知らせがあります。突然ですが、大西さんが転校することになりました」

 

 ――――!!

 

 がたん! 思わず椅子を倒して立ち上がるあたし。

 

 美沙子が、転校!?

 

 な……なんで!?

 

「宮崎さん? 大丈夫?」先生、驚いて目を丸くしてる。

 

「ど、どうして、美沙子が転校を!?」叫ぶように訊いた。

 

「それが……先生も詳しいことは判らないの。ただ、転校するとだけ連絡があって。連休中に引っ越したみたいで、あいさつも無かったの。転校先も連絡先も、何も判らないのよ。宮崎さんなら何か聞いてるかと思ったんだけど、その様子だと、何も知らないようね」

 

 そんな……美沙子が転校なんて……それも、何も言わず……。

 

 奈々と明奈を見る。2人とも動揺している。あたしと同じで、何も聞いてないのだろう。

 

 一体どうしたの、美沙子? 何があったの?

 

 思い出すのは、あの日の美沙子の言葉。

 

 ――そのおじさんね、城田君に会う方法を教えてくれたの。今度、城田君に会うんだ、あたし。

 

 あれは、いったいどういう意味だったのだろうか?

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 その後、あたしたちは美沙子の転校先を調べようとしたけど、何の手がかりも得られず、結局何も判らないまま、美沙子が転校したことを受け入れるしかなかった――。

 

 

 

 

 

 

(都市伝説「死んだ恋人に会う方法」より)

 

 

 

 

 

 

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