第1話・ある男の恐怖
キーンコーンカーンコーン……。
4時間目終了のチャイムが鳴る。つまり、お弁当タイムの始まりを告げるチャイム。
「よっしゃあ! お昼お昼♪」
いつものハイテンションで机を寄せてくる明奈。この娘、お昼と夕方のチャイムの鳴るときが最もイキイキする瞬間みたい。
「はいはい、ちょっと落ち着いて」
と、奈々、梓も寄ってきて、机を寄せる。いつものメンバーだ。各自、お弁当を広げて。
「じゃ、いっただっきまーす」
みんなで一緒にお昼。
うちのグループは、ご飯とおかずを別のお弁当箱に入れて持ってくる決まりになっている。で、おかずを真ん中に置き、みんなで突っつくわけ。こうすれば、いろんなおかずが食べられるでしょ?
「お? 奈々の唐揚、おいしー」
「う~ん、梓んところのたまご焼きも、絶品だよ」
「はいはい、野菜も食べなきゃだめだよー。ほら、うちの自慢のポテトサラダ」
……ってな具合に、いつものようにみんなでワイワイ箸を進める。
「ところでさ、明奈」梓、あたしのアスパラのベーコン巻きを食べる。「最近なんか無いの? 怖い話」
「うーん、あるけど……聞きたい?」明奈、急に声のトーンを下げる。
「何々? 話して」奈々と梓、目を輝かせる。
「いいけど――これ、本当に怖いよ。心臓が凍りつくくらいに……」
明奈は不気味に微笑んだ。その笑顔に、不吉な物を感じる。
明奈、どこに情報網があるのか、いつも新しい怪談話を仕入れてくる。中にはホントに怖いものも多い。その明奈が、ここまでもったいぶるなんて、相当なものに違いない。
「……いいよ。話して」梓が促す。
「いいけど、後悔しないでね」
みんな箸を止め、明奈の方を見た。
「これは、うちの隣に住む、杉本さん宅の話なんだけどね。杉本家は、ご主人の直人さん、奥さんの理恵子さん、そしておじいちゃんとおばあちゃんの4人暮らしだったんだけど、直人さんと理恵子さんの間に、赤ちゃんが産まれたの。すごくかわいらしい赤ちゃんで、みんな大喜びだった。誠人君と名付けられたその赤ちゃんは、そろそろしゃべるだろうなあ、って頃、おじいちゃん、って、言ったの。おじいちゃん、大喜びだった。孫に一番最初に自分が呼ばれたことが、よっぽど嬉しかったんだろうね。その日はずっと、誠人君のそばにいて、離れなかったそうよ。でもその晩、おじいちゃんは亡くなったの。死因を調べても、はっきりとはしなかった。原因不明の心臓マヒとして片づけられたそうよ。家族は、深い悲しみに包まれた。そんな中、誠人君は、今度は、おばあちゃん、って、言ったの。するとその晩、おばあちゃんも亡くなった。死因はおじいちゃんと同じ、原因不明の心臓マヒ」
明奈はここで、大きく息を吐いた。みんな、明奈の話を食い入るように聞いている。誰も、お弁当に箸をのばそうとはしない。
明奈は続ける。「立て続けに起こった不幸事に、杉本家は悲しみに包まれた。でも、ここまでは、まあ、それほど不思議なことじゃなかったのかもしれない。おじいちゃんもおばあちゃんも、見た目は元気だったけど、実際はかなりの高齢だったから、突然心臓マヒになっても、おかしくはない。それがたまたま続いただけ。お父さんとお母さんは、そう思うようにした。でも、今度は誠人君、おかあさん、って、言ったの。両親は、まさか……と思った。まさか、誠人君が呼ぶと、その人は死んでしまうんじゃないか、と。そんなわけはない。ただの偶然だ。そう自分に言い聞かせた。でもその晩、やっぱりお母さんは、原因不明の心臓マヒで死んでしまった。残されたお父さんは、恐怖に震えたわ。いつか誠人君は、お父さん、と、言うだろう。そうすれば俺も、死んでしまうのだろうか。なぜ、子供が呼ぶと死んでしまうんだ? 俺も、死んでしまうのか? なぜだ? って、もう、半狂乱だった。そしてある日、誠人君は、おとうさん、と言ったの。お父さんは、もうだめだ……もうだめだ……と、うわごとのように、ずっと呟いていた。誠人君はそんなお父さんを、これまで見たことのないくらい、屈託のない、でもどこか不気味な笑顔で見つめていたそうよ。そして、その晩――」
ごくり。その場にいる全員が、息をのんだ。
「――向かいの津川家のお父さんが亡くなったわ」
…………。
そりゃ怖い。
第2話・ある男の誤算
キーンコーンカーンコーン……。
4時間目終了のチャイムが鳴る。つまり、お弁当タイムの始まりを告げるチャイム。
「よっしゃあ! お昼お昼♪」
いつものハイテンションで机を寄せてくる明奈。この娘、お昼と夕方のチャイムの鳴るときが最もイキイキする瞬間みたい。
「はいはい、ちょっと落ち着いて」
と、奈々、梓も寄ってきて、机を寄せる。いつものメンバーだ。各自、お弁当を広げて。
「じゃ、いっただっきまーす」
みんなで一緒にお昼。
うちのグループは、ご飯とおかずを別のお弁当箱に入れて持ってくる決まりになっている。で、おかずを真ん中に置き、みんなで突っつくわけ。こうすれば、いろんなおかずが食べられるでしょ?
「お? 奈々のオムレツ、おいしー」
「う~ん、梓んところのミートボール、絶品だよ」
「はいはい、野菜も食べなきゃだめだよー。ほら、うちの自慢の肉じゃが」
……ってな具合に、いつものようにみんなでワイワイ箸を進める。
「ところでさ、明奈」梓、あたしのエリンギのベーコン巻きを食べる。「最近なんか無いの? 怖い話」
「うーん、あるけど……聞きたい?」明奈、急に声のトーンを下げる。
「何々? 話して」奈々と梓、目を輝かせる。
「いいけど――これ、本当に怖いよ。心臓が凍りつくくらいに……」
明奈は不気味に微笑んだ。その笑顔に、不吉な物を感じる。
明奈、どこに情報網があるのか、いつも新しい怪談話を仕入れてくる。中にはホントに怖いものも多い。その明奈が、ここまでもったいぶるなんて、相当なものに違いない。
「……いいよ。話して」梓が促す。
「いいけど、後悔しないでね」
みんな箸を止め、明奈の方を見た。
「これは、昨日話した、あたしの隣の家の、杉本家のその後の話なんだけど。お父さんの直人さんは、その後、別の女の人と再婚し、しばらくして、かわいい男の子が産まれた。誠人君にとって、弟にあたる子。両親は喜んだけど、誠人君は違った。今まで両親の愛を独占してきたのに、弟が産まれてから、それが無くなった。みんな、弟ばかりをかわいがる。誠人君は、それが許せなかった。だから、弟を殺そうと思ったの。どうやって殺そうかと考え、そして、おっぱいを飲んでいるところを見て思いついた。そうだ。お母さんのおっぱいに毒を塗っておけばいい。そうすれば、おっぱいを飲んだ弟は死んでしまうだろう。その晩、誠人君は眠っているお母さんのおっぱいに毒を塗ったの」、
明奈はここで、大きく息を吐いた。みんな、明奈の話を食い入るように聞いている。子供である誠人君がどうやって毒を手に入れたのか、どうやってお母さんに気づかれずおっぱいに毒を塗ったのか、それは突っ込んではいけないことだと、みんな判っているのだ。誰も、お弁当に箸をのばそうとはしない。あたしはそのスキに、最後の1個となっていた明奈のミニハンバーグを取った。
明奈は続ける。「誠人君は笑った。これで、両親はまた、僕を愛してくれる。僕だけを愛してくれる、って。その日はうれしくて、なかなか眠れなかった。明け方近くになって、突然、家中にお母さんの叫び声が響き渡った。やった! と、誠人君は思った。急いで、両親の寝室に向かったの。そしたら――」
ごくり。その場にいる全員が、息をのんだ。
「――寝室では、お父さんが死んでいたわ」
…………。
今回は、シモ系で攻める気なのか……。
第3話・ある男の戦慄
キーンコーンカーンコーン……。
4時間目終了のチャイムが鳴る。つまり、お弁当タイムの始まりを告げるチャイム。
「よっしゃあ! お昼お昼♪」
いつものハイテンションで机を寄せてくる明奈。この娘、お昼と夕方のチャイムの鳴るときが最もイキイキする瞬間みたい。
「はいはい、ちょっと落ち着いて」
と、奈々、梓も寄ってきて、机を寄せる。いつものメンバーだ。各自、お弁当を広げて。
「じゃ、いっただっきまーす」
みんなで一緒にお昼。
うちのグループは、ご飯とおかずを別のお弁当箱に入れて持ってくる決まりになっている。で、おかずを真ん中に置き、みんなで突っつくわけ。こうすれば、いろんなおかずが食べられるでしょ?
「お? 奈々の鴨肉のソテー・トリュフソース、おいしー」
「う~ん、梓んところのフカヒレの姿煮、絶品だよ」
「はいはい、野菜も食べなきゃだめだよー。ほら、うちの自慢のトマトのファルシ」
……ってな具合に、いつものようにみんなでワイワイ箸を進める。
「ところでさ、明奈」梓、あたしの松坂牛ヒレステーキのベーコン巻きを食べる。「最近なんか無いの? 怖い話」
「うーん、あるけど……聞きたい?」明奈、急に声のトーンを下げる。
「何々? 話して」奈々と梓、目を輝かせる。
「いいけど――これ、本当に怖いよ。心臓が凍りつくくらいに……」
明奈は不気味に微笑んだ。その笑顔に、不潔な物を感じる。
明奈、どこに情報網があるのか、いつも新しいネタを仕入れてくる。中にはホントにくだらないものも多い。その明奈が、ここまでもったいぶるなんて、相当くだらないに違いない。
「……いいよ。話して」梓が促す。
「いいけど、後悔しないでね」
みんな箸を止め、明奈の方を見た。
「これは、昨日話した、あたしの隣の家の、杉本家のその後の話なんだけど。お父さんの直人さんが、ある日道を歩いていたら、向こうから、妊婦さんが歩いてきたの。すれ違ったとき、妊婦さんが突然うずくまった。あわてて駆け寄る直人さん。妊婦さんは苦しそうだった。聞くと、もう臨月に入っているそうなの。これは産まれるのかもしれない。そう思った直人さんは、ケータイで救急車を呼んだ。直人さんは、救急車が来るまでずっと妊婦さんのそばにいて、手を握り、励ましてあげてた。やがて救急車が到着した。これでもう、自分にできることはない。直人さん、後は救急隊員に任せ、よかったらその後の経過を知らせてほしい、と、名刺を渡し、救急車を見送って、家に帰ったの」
明奈はここで、大きく息を吐いた。みんな、明奈の話を食い入るように聞いている。と言うか、直人さんは昨日の話で死んでいるはずなのだが、それは誰も突っ込まない。みんな判っているのだ。明奈の話には、科学では説明のつかない不思議な現象があるということを。
明奈は続ける。「1ヶ月ほどして、杉本家にハガキが届いた。それはあの日の妊婦さんからだった。ハガキには、かわいい赤ちゃんの写真が載ってた。ああ、無事生まれたんだ、と、安心したのもつかの間、そのハガキに書かれていた文章を読んで、直人さんは戦慄を覚えたの。そこには、直人さんが予想だにしなかった、恐ろしい一言が描かれていたの――」
ごくり。その場にいる全員が、息をのんだ。
「ハガキには、こう書かれていた。『先日はありがとうございました。これは、あの時の子供です』と。杉本家はその日、かつてない修羅場と化したそうよ……」
…………。
なんなの? 今回の話……。
「って言うか明奈――」
「何?」
「もうこのシリーズ、やめない?」
「ヤダ。やめない」
「…………」
「ではみなさん、次回、シーズン3でお会いしましょう」
「勘弁して……」
(都市伝説「お父さん」「兄の嫉妬」「修羅場」より)