Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

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プルタブと車イス

「ただいまー! お母さん! 空き缶ある?」

 

 夏休み明けの午後、家に帰るなり、あたしはダッシュで台所に行き、お母さんにそう言った。

 

「何よ、結衣。帰って来ていきなり」

 

「あのねあのね、今日の学級会で、『社会に役立つことをしよう』ってことで話し合ったの。みんなからいろんな意見が出たけど、明奈ちゃんがね、『空き缶についてるプルタブを集めたら、車イスと交換してもらえるから、みんなで集めよう』って言ったら、みんな大賛成。それで、2学期の目標は、『プルタブをいっぱい集めて、足の不自由な人に車イスをプレゼントしよう』になったの!」

 

「……へえ、そうなんだ」

 

「だからね、空き缶あるでしょ? プルタブ取るの!」

 

 あたし、興奮を抑えられず、お母さんをせかす。プルタブを集めると車イスと交換できるなんて知らなかった。すごいよね?

 

 でもお母さんの顔、なんだか暗い。なんだろ?

 

「ゴメン、結衣。今朝、空き缶、全部捨てちゃったの」

 

「ええぇぇ! そんなぁ」あたし、がっかり。そうだった。今日は木曜日。資源ゴミの日だ。

 

「ゴメンゴメン。代わりに、今日のおやつに缶ジュースつけるから、ね?」

 

「うん。わかった」

 

 残念だけどしょうがないか。普段お母さんは、「麦茶や牛乳を飲みなさい」と、ジュースはあんまり飲ませてくれないから、1個手に入っただけでも、良かったのかもしれない。

 

「ほら、早くランドセル置いて、手を洗ってらっしゃい」

 

「はーい」

 

 あたしは言われた通り部屋に行ってランドセルを置き、手を洗ってまた台所に戻った。今日のおやつはクッキーとオレンジジュース。普段はよく味わって食べるけど、今日はプルタブのことで頭がいっぱい。だから、クッキーもジュースもぺろりと食べ、早速缶からプルタブを外す。よし、まず1個。

 

「お母さん、何か入れる物ない?」

 

 あたしが言うと、お母さんは使い終わったジャムの瓶を洗って渡してくれた。チャリン。早速その中にプルタブを入れる。ビンは大きくないけど、1個じゃやっぱり寂しいな。うーん、どうやったらたくさん集められるかな?

 

「お母さん。これからずっと、おやつは缶ジュースにしてくれない? おやつだけじゃなく、朝ごはんと夕ごはんもジュースにしてよ」

 

「何言ってるの。そんなの、ダメに決まってるでしょ」お母さん、あきれ顔。

 

「だって、早く集めて車イスに交換してもらいたいんだもん」

 

「だからって、そのためにジュースをいっぱい買うんじゃ、意味が無いでしょ? ジュースを買うお金を貯めて車イス買った方が良いじゃない?」

 

 ……あ、そうか。

 

 うーん、でも、早くいっぱい集めたいな。何かいい方法、無いかな?

 

 ルルルル……電話が鳴った。お母さんが出る。しばらくして。

 

「結衣、明奈ちゃんから電話よ」

 

 明奈ちゃん? なんだろ? あたしは電話に出る。

 

「もしもし、明奈ちゃん?」

 

「あ、結衣ちゃん? 今日、何か用事ある?」

 

「ううん、別に無いけど?」

 

「良かった! じゃあ、一緒にプルタブ集めしない?」

 

「プルタブ集め? どうやって?」

 

「公園とか道とか、結構空き缶捨ててあるよね? あれを拾えば、いっぱいプルタブが集まると思うの」

 

 そっか。それ、いいかも。

 

「わかった、一緒に集めよう!」

 

「良かった、じゃあ、堀北中央公園に集合ね!」

 

「うん!」

 

 あたしは電話を切る。すぐにお母さんに報告。

 

「そう。それはいいわね」

 

 お母さん喜んでくれた。で、ゴミ袋と軍手をもらう。それとさっきもらったプルタブ1個入りのジャム瓶を持ち、帽子をかぶって早速出かける。よーし、いっぱい集めるぞ!

 

 

 

 

 

 

「あ、いたいた。おーい。明奈ちゃーん」

 

 中央公園に着くと、明奈ちゃんはもう来ていた。手を振ると、明奈ちゃんも手を振り返してくれる。

 

「結衣ちゃん、早かったね。じゃ、はじめよっか」

 

「うん! まず、どうする?」

 

「とりあえず、この公園から始めようか。今、花壇の中とか見たけど、結構空き缶、投げ捨てられてたよ」

 

 そうなんだ。ひどいな。あたし、よく公園で遊ぶし、ジュースを飲むこともあるけど、絶対、ポイ捨てなんてしないのに。

 

「じゃあ、とりあえず花壇から行こうか?」

 

「うん!」

 

 あたしと明奈ちゃんは花壇に向かう。

 

 この公園はかなり広いから、当然花壇も広い。赤、白、黄色、ピンク、と、いろんな色の花が咲いている。普段遊びに来るときは気がつかなかったけど、よく見ると、明奈ちゃんの言う通り投げ捨てられた空き缶がいっぱいだ。

 

「2人別々に集めようか? その方が早いと思うし」

 

「そうだね」

 

 あたしは明奈ちゃんの意見に賛成し、2人別れて空き缶を集めることにした。

 

 花壇は立ち入り禁止になってるけど、まあ、空き缶を集めるんだから、怒られたりはしないよね。あたしは花を踏まないように気をつけながら花壇に入り、空き缶を集め始めた。1個1個拾い、プルタブを取り、缶はゴミ袋に、プルタブはジャム瓶に入れていく。

 

 …………。

 

 ふう、やっぱり、結構多いな。もう10個以上集まっちゃった。空き缶だけじゃなく、ペットボトルやコンビニの袋とかも、いっぱい捨ててある。目的は空き缶のプルタブだけど、もちろんあたし、他のゴミも拾っていく。まだ9月だから、少し動いただけで汗びっしょりだ。タオルも持ってくればよかったな。それと、こういう暑い日は、こまめに水分補給しないと、熱射病になるって、先生やお母さんからよく言われてる。気をつけないとね。

 

 しばらく花壇を歩き、ゴミを拾いつつプルタブを集める。うん、大体終わったかな?

 

「おーい、結衣ちゃーん!」

 

 明奈ちゃんが呼んでる。見回すと、芝生の方で手を振ってる。あたしは走って明奈ちゃんの方へ。

 

「明奈ちゃん、どう? いっぱい集まった?」

 

「うん! ほら!」

 

 明奈ちゃん、得意げにゴミ袋を見せる。うわ、すごい。もうゴミ袋、半分以上たまってる。空き缶のプルタブはみんなきれいに取られていて、別の袋に集まっている。もちろんあたしと同じで、空き缶以外のゴミもちゃんと拾ってる。あたしも負けてられないぞ!

 

「結衣ちゃん、あれ見て。あそこにも空き缶がいっぱい」

 

 明奈ちゃん、公園を囲む植込みを指差す。ホントだ。植込みの葉っぱに空き缶やいろんなゴミが引っかかってる。

 

「じゃあ、今度はあれを集めようか」

 

「そうだね」

 

 あたしたちはまた別々にゴミを拾い集める。今度はちょっと面倒だな。植込みの表面に引っかかってるゴミはいいんだけど、よく見ると、中の方にもゴミがある。植込みを折らないようにそれを取るのは結構大変。でも、頑張って集めていく。

 

 …………。

 

 かゆいなぁ。

 

 左腕をポリポリかく。見ると、真っ赤にはれてふくらんでた。蚊に刺されたみたい。どうりでかゆいと思った。植込みはやぶみたいなもんだから、やぶ蚊がいて当然。しかも半そでだから、これからもっと刺されちゃうかも。でも、そんなことでやめたりしない。頑張って集める。

 

 結局植込みのゴミを拾う間に、6ヶ所も蚊に刺されたけど、頑張ったかいがあって、袋いっぱいのゴミと、ジャム瓶に半分くらいのプルタブが集まった。明奈ちゃんもいっぱい集めてた。お互い見せ合う。

 

「ちょっと休憩しようか」

 

 明奈ちゃんに賛成。あたしたちは公園の水飲み場に行く。熱射病にならないように、交代で水を飲み、両手で水をすくって顔を洗う。うーん、気持ちいい! ついでに蚊に刺されたところを冷やす。うん、かゆみが引いてく気がする。

 

「あ、結衣ちゃんも刺されたんだ。あたしも」

 

 明奈ちゃんが両腕を見せた。ホントだ。明奈ちゃんもいっぱい刺されてる。2人で笑いあった。

 

 その後、噴水のそばに座ってひと休み。噴水からは時々勢いよく水が噴き上がり、見ているだけで涼しくなってくる。

 

 でも。

 

「ここも結構多いね、ゴミ」

 

「ホントだ」

 

 2人で噴水の池をのぞきこむと、底に沈んでる空き缶やペットボトルを発見。普段遊んでるときは全然気がつかなかったけど、こうやって見てみると、公園って、ゴミでいっぱいなんだなぁ。

 

「よーし、ここも全部集めるぞ!」

 

 明奈ちゃん、靴と靴下を脱ぎ、噴水の中に入っていく。この公園の噴水は水遊びOKだから、入って行って怒られることはないんだけど、でも、水遊びするのは小さな子供がほとんどだ。あたしたちはもう3年生だから噴水に入ることはほとんどないけど、ゴミ拾いとなると話は別。あたしも靴と靴下を脱ぎ、明奈ちゃんに続く。うん、ひんやりして気持ちいい。たまには水遊びもいいかもね。

 

 ……なんて言ってられないぞ。明奈ちゃん、せっせとゴミを拾ってる。あたしも頑張らなくちゃ。

 

 2人でしばらく噴水の中のゴミを拾っていく。ほとんど拾い終わったところで。

 

 つるっ。

 

 あたし、足が滑った。ばっしゃーん。そのまま尻もち。

 

「結衣ちゃん? 大丈夫?」

 

 明奈ちゃんが心配そうに見る。

 

「うん、平気」

 

 あたしは笑って答えた。水の上だから痛くはなかったんだけど、びしょぬれになっちゃった。

 

「あはは、結衣ちゃん、ドジだね」

 

 あ、明奈ちゃん、笑ったな。お返しだ。

 

 ぱしゃん! あたし、両手で水をすくって明奈ちゃんにかけた。

 

「もう! 何するの、結衣ちゃん!」

 

「あはは、笑ったお返しだよ」

 

「じゃあ、お返しのお返し!」

 

 明奈ちゃんも水をすくい、あたしにかける。やったなー! あたしも負けじと水をかけ返す。しばらく2人で水を掛け合った。あーあ。2人ともびしょびしょだ。帰ったら、お母さんに怒られるかな? でも、気持ちいい。夏だから風邪をひくことはないし、多分帰るまでにはかわくだろうから、いいや!

 

 と、そのとき。

 

「ん? 宮崎と北沢じゃねぇか」

 

 呼ばれ、振り返ると、同じクラスの岡部君と石塚君がいた。2人、ニヤニヤしながらこっちを見てる。「お前ら、いい歳して水遊びかよ? 恥ずかしいやつらだな」

 

 ……イヤな言い方するなぁ。明奈ちゃんも、露骨にイヤそうな顔をしている。

 

 岡部君は、クラスの男子のガキ大将的な存在で、石塚君はその子分って感じだ。いじめっ子ってほどでもないけれど、女子からは割と敬遠されている。あたしもどちらかと言うと苦手だ。

 

「別に遊んでるわけじゃないよ」

 

 と、あたしが言うと。

 

「じゃあ、何やってんだよ?」

 

 岡部君に、ギロリと睨まれた。

 

 本当は睨まれたなんて言うほどのものじゃなく、岡部君はただあたしの方を見ただけなんだろうけど、そのときのあたしは、その目が怖くて、つい黙り込んでしまった。

 

「あん? 何やってんだって聞いてるだろ?」岡部君の声が大きくなる。

 

 ダメだ。あたし、こういうのは苦手なんだ。

 

 クラスでは、ことあるごとに女子と男子で意見が分かれ、言い合いになることがある。たまにケンカになったりもする。あたしはあまり気が強い方ではないから、そんなときは、黙って様子を見てるだけだ。男子と言いあったりケンカしたりなんて、あたしにはできない。

 

 あたしが黙ってると、明奈ちゃんが。

 

「遊んでるわけじゃないよ。ゴミを拾ってるの」

 

 ゴミ袋を見せ、言った。

 

 明奈ちゃんは、あたしとは正反対だ。かなり気の強い性格で、男子とケンカするのは珍しくない。女子と男子でケンカになったときは、先頭に立って男子に向かって行く、言ってみれば、女子のリーダー的存在だ。

 

「北沢には聞いてねぇよ。宮崎に聞いてんだ」

 

 と、岡部君は言うけど、明奈ちゃんはお構いなしで。

 

「今日の学級会で決まったでしょ? プルタブ集めて、身体の不自由な人に車イスをプレゼントするって。だから、こうやって空き缶を集めて、プルタブ取ってるのよ。あなたたちも、遊んでないで一緒にやりなさいよ」

 

 明奈ちゃん、男子2人を前にしても堂々としたもの。岡部君の睨みにも負けない。むしろ、「何か言い返してみなさいよ」と言う目で睨み返している。こういうときは、本当に頼りになる。

 

「へっ。ヤだよ、そんな面倒なこと」

 

 2人はそう言い残し、グランドの方へ走っていった。口ゲンカでは明奈ちゃんに勝てないことは、2人ともよく判ってるのだ。良かった。

 

「ありがとう、明奈ちゃん。あの2人、追い払ってくれて」

 

「ん? 別に何でもないよ、あんな2人。でも、ちょっとくらいは手伝ってくれてもいいのにね」

 

「あはは。そうだね」

 

 そして、また2人でゴミを拾う。

 

 それにしても、明奈ちゃんがいてくれて、本当に良かったな。あたしだけだったら、岡部君に言い返したりできなかった。何も言えず、ただ黙ってるだけ。もしかしたら泣いちゃってたかもしれない。別に悪いことをしてたわけじゃないんだから、はっきり言えば良かったんだ。でも、そんなこともできないあたし。

 

 明奈ちゃんを見た。何事も無かったかのように、せっせとゴミを集めている。あの2人のことなんて全然気にしてないようだ。あたしも、明奈ちゃんみたいに男子に言い返すだけの気の強さがあればなぁ。明奈ちゃんがすごくうらやましい。

 

「ん? なに?」

 

 あたしがじっと見つめていたことに気付いた明奈ちゃん。にこっと笑ってこっちを見る。

 

「ううん。何でもない」

 

 あたしも笑って、そしてまたゴミを拾い始めた。

 

 

 

 

 

 

「――あ、もうこんな時間か」

 

 広場の真ん中に立ってる時計を見ると、5時を過ぎていた。公園全部は回れなかったけど、プルタブはいっぱい集まった。ジャム瓶には、半分以上のプルタブ。そして、ゴミ袋にもゴミがいっぱい。

 

「明奈ちゃん、そろそろ帰ろうか?」

 

「そうだね。遅くなると、お母さんに怒られちゃうからね」

 

「ところで、このゴミどうしようか?」

 

 あたしのゴミ袋も明奈ちゃんのゴミ袋も、もうゴミでいっぱい。家まで持って帰るのは、さすがに大変だ。

 

「あ、それなら大丈夫。公園の管理人のおじさんのところに持っていけば、処分してくれるって」

 

 そっか。なら安心だ。あたしたちはパンパンに膨らんだゴミ袋を持って、公園のはずれにある管理センターに向かった。センターの建物の前で管理人のおじさんが掃除をしていたので、あたしたちは事情を説明し、ごみの処分をお願いした。

 

「へえ、空き缶のプルタブを集めて、車イスに。そのために公園のゴミを拾ってくれたの? えらいね。ありがとう」

 

 ゴミを受け取った管理人のおじさん、ほめてくれる。あたしたちは、へへっ、と、ちょっと誇らしげに笑った。

 

「ああ、ちょっと待って」おじさんはそう言って建物の中に入って行き、しばらくして戻ってきた。「はい、これ。ゴミを拾ってくれたお礼だよ。どうもありがとうね」

 

 おじさんはアップルの缶ジュースをくれた。うーん! よく冷えてる! すぐにふたを開け、ひと口ごくり。おいしい! ゴミ拾いの途中、公園の水道でお水を飲んだけど、それでももう喉はからからだった。体中にしみわたるアップルジュース! うーん、生き返るー。

 

 あたしたちは一気にジュースを飲みほし、もちろんプルタブは外してジャム瓶に入れる。残った缶はおじさんに。

 

「おじさん、ジュース、ありがとうございました! また今度、ゴミ拾いに来ますね!」

 

 あたしたちはペコリと頭を下げる。おじさんは笑顔で「またいつでもおいで」と言ってくれた。あたしたちは公園を後にした。

 

「じゃ、明奈ちゃん。また明日、学校で」

 

「うん! 今日はいっぱい集まったね、プルタブ。明日学校に持って行って、みんなに自慢しちゃおう」

 

「あはは、そうだね。じゃ、バイバイ!」

 

「うん! バイバイ」

 

 あたしたちはお互い手を振って、別れた。

 

 今日は頑張ったなぁ。プルタブ、いっぱい集まった。公園も少しはきれいになったし、水遊びも楽しかったし、おじさんにもらったジュースもおいしかった! また今度、明奈ちゃんと一緒にプルタブ集めしよう。うん。

 

 夕暮れの道。あたしはすごくさわやかな気分で、プルタブのたくさん入った瓶をじゃらじゃら鳴らしながら家へ帰った。

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝。

 

 プルタブ集めは学級会で決まったことだから、他のみんなもプルタブを集めて持ってきてたけど、公園でゴミ拾いをしたあたしと明奈ちゃんだけは、集まった量が全然違う。みんな「すごいね、すごいね」って言ってくれた。それだけじゃなく、公園のゴミ拾いもしたので、先生もすごくほめてくれた。へへ。やったね。

 

 その日も学校が終わった後、あたしと明奈ちゃんは公園でプルタブ集め。次の日も、その次の日も。プルタブを入れるジャム瓶はすぐにいっぱいになった。1個じゃ全然足りないので、お母さんに言って、新しい瓶をもらう。今度はインスタントコーヒーの瓶。ジャム瓶よりもずっと大きい。でも、それもすぐにいっぱいになる。だって、あたしたちは、毎日毎日ゴミ拾いをしたんだから。公園だけじゃなく、道路とか、河原とか、神社とか。とにかくゴミを拾って、プルタブを集めていった。大変だったけど、でも、先生やお母さん、公園の管理人のおじさんとか、近所の人とか、みんながほめてくれるし、何より街がきれいになって、あたしも嬉しい。それだけじゃなく、プルタブを車イスと交換し、足の不自由な人にプレゼントできれば、またまた嬉しい。うん。いいことばかりだ。

 

 それから2週間、あたしたちはプルタブを集め続けた。コーヒーの瓶もすぐいっぱいになり、また別の瓶を用意してはいっぱいになり、そうやって、5個目の瓶がもうすぐいっぱいになりそうだった日――。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!」

 

 学校が終わり、家に帰ったあたしは、すぐに準備を整える。ゴミ袋と軍手と帽子、そして、もうすぐいっぱいになりそうな瓶。今日もこれから明奈ちゃんと一緒にプルタブ集め。今日はあたしの家の近くのゴミを集めるから、明奈ちゃんが家まで迎えに来てくれる。

 

「結衣、今日も出かけるの?」

 

 台所からお母さんの声。

 

「うん! 今日こそ、この5個目の瓶、いっぱいにするんだ!」

 

「遅くならないようにしなさいよ」

 

「はーい」

 

 さて、明奈ちゃんが来るまでもう少し時間がかかると思う。どうしようかな。荷物を持ってリビングへ。なんとなくテレビをつけてみる。でも、どのチャンネルも時代劇やニュースばっかりで、面白そうなものはやってなかった。ま、いいや。この後何か面白そうなのをやるかもしれないし。あたしはそのままテレビをつけっぱなしにして、本を読むことにした。

 

 ――と、テレビから。

 

「……と、言うわけで、『アルミ缶リサイクル協会』では、アルミ缶からプルタブを取らないように呼びかけています」

 

 …………。

 

 ……へ?

 

 あたしは本を読むのをやめ、テレビを見る。さすがに今の言葉は気になった。

 

 だって、プルタブ集めたら、車イスと交換できるんだよ? なんで取っちゃいけないの?

 

 あたしは食い入るようにテレビを見る。

 

「……『プルタブを集めると車イスと交換できる』とよく言われていますが、アルミ缶リサイクル協会はもちろん、他にもこのような活動を行っている企業はありません……」

 

「……昔のプルタブは取り外すタイプの物が主流でしたが、野山などに捨てられたプルタブで小動物がケガをするなどの被害が相次ぎ、各メーカーは缶から外れないタイプのプルタブを開発し……」

 

「……そもそもリサイクルを推し進めるなら、プルタブだけ集めるより空き缶をそのまま集めた方が効率が良いのは明白……」

 

「……外れないようにしているプルタブをわざわざ外すのがナンセンス。どこに送るつもりなのか判りませんが、車イスと交換できるくらいのプルタブともなると、かなりの量となります。そのプルタブを送る料金で、車イスが何台も買えます……」

 

 大人用のニュース番組だから、子供のあたしには難しくて、よく判らないところもあったけど、つまり。

 

 プルタブを集めても、車イスと交換なんてしてもらえない、ってこと。

 

 …………。

 

 あたしはこの2週間、公園や道路や河原のゴミを拾い、一生懸命、プルタブを集めた。

 

 9月だから、まだものすごく暑い。いっぱい汗をかいて、喉も渇いて、でも、頑張った。

 

 植込みの中とか、噴水の底とか、拾うのが大変だったゴミもある。ゴミだから当然汚い。中には触りたくないようなゴミもある。それでもあたしは、精一杯やった。

 

 だって。

 

 プルタブを集めたら、車イスと交換してくれるって、信じてたから。

 

 テレビとかで見たことがある、足の不自由な人。そんな、車イスを必要としている人たちに、あたしがプレゼントできたら……車イスの値段がいくらするのかは知らないけど、あたしのおこづかいで買えるようなものじゃないのは確か。でも、プルタブを集めることはできる。だから集めた。足の不自由な人にプレゼントして、喜んでもらいたかったから。

 

 でも……。

 

 でも!

 

 どんなに一生懸命プルタブを集めても、どんなに頑張って汗をかいても、どんなに精一杯ゴミを集めても、車イスなんて貰えなかったんだ。

 

 貰えなかったんだ……。

 

 …………。

 

 ピンポーン。玄関のチャイムと、あたしの名前を呼ぶ声。明奈ちゃんだ。

 

 あたしは何も持たず玄関へ向かい、ドアを開けた。

 

「結衣ちゃんお待たせ! さあ、プルタブ集めに行こう!」

 

 楽しそうに笑う明奈ちゃん。その笑顔が、なんだかものすごくイヤだった。

 

「――行かない」

 

「え? どうして?」キョトンとする明奈ちゃん。

 

「そんなことしたって、意味無いもん」

 

「結衣ちゃん?」

 

「プルタブ集めなんて、やるだけムダだよ。どうせ車イスと交換なんてできないんだから」

 

「結衣ちゃん、何でそんなこと言うの?」

 

「今テレビでやってたもん! プルタブ集めたって、車イスと交換なんてできないって!」

 

 あたしは叫んでいた。

 

 明奈ちゃんは、ビックリした様子であたしを見てる。

 

「そ……そんなこと無いよ! だってあたし、聞いたんだもん! プルタブ集めたら車イスと交換してもらえるって、聞いたんだもん!」

 

 明奈ちゃんも叫ぶ。あたしも言い返す。

 

「だから! それがウソなの! どうするのよ! 明奈ちゃんがウソ言ったせいで、クラスみんなでプルタブいっぱい集めて、あたしなんか、毎日毎日ゴミを集めて、でも、そんなの全部全部、ムダだったんだよ! 明奈ちゃんのせいだからね!」

 

「そんなこと……そんなこと無いもん! プルタブ集めたら、車イスと交換できるんだもん! 結衣ちゃんなんて大っきらい! もういい! あたし1人で集めるから!」

 

 明奈ちゃん、そのまま行ってしまう。バタン! あたしは勢いよくドアを閉めた。何よ! せっかく教えてあげたのに! もう明奈ちゃんなんて知らない!

 

 …………。

 

「結衣、どうかしたの?」

 

 リビングに戻ると、お母さんが心配そうに声をかけてくる。

 

 テーブルの上には、もうすぐプルタブでいっぱいになる瓶。

 

 あたしは、じっと瓶を見つめる。

 

「別に。ただ、プルタブ集めても車イスと交換なんてしてくれないって、明奈ちゃんに教えてあげただけ」

 

「……そう」

 

 お母さんは小さく言った。特に驚いたりはしなかった。

 

 ふと、2週間前のお母さんを思い出す。

 

 学校から帰って、プルタブを集めて車イスと交換してもらう、と、あたしが言ったとき、お母さんは、少し暗い表情になった。あれは、ちょうどその日が資源ごみの日で、空き缶を捨ててしまったからだと思ったけど、今のお母さんの態度を見ていると、もしかしたら……。

 

「お母さん、知ってたの……?」

 

 あたしの質問に、お母さんは答えなかった。でも、それが答えなんだと思った。

 

「なんで……なんで言ってくれなかったの!」あたしは思いっきり叫んだ。「プルタブなんて集めてもムダだって、知ってたんなら、教えてよ! あたし、今までずっと、ゴミを拾って、プルタブ集めて、バカみたいじゃない!」

 

 テーブルの上の瓶をひっくり返した。衝撃でふたが外れ、プルタブが散らばった。

 

「結衣――」

 

 お母さんが何か言いかけたけど、あたしは構わず自分の部屋に戻り、ベッドにもぐりこんだ。

 

 明奈ちゃんも、お母さんも、ニュースの人も、みんなみんな、大っきらい!

 

 いつの間にかあたしは泣いていた。涙が止まらなかった。なんで泣かないといけないのかよく判らなかったけど、とにかくあたしは泣いて、泣き疲れて、いつの間にか眠っていた。

 

 

 

 

 

 

「――結衣、ご飯できたけど、食べないの?」

 

 お母さんの声で目を覚ます。時計を見ると、7時を回っていた。

 

「いらない」

 

 ご飯なんて食べる気がしないし、お母さんの顔も見たくない。

 

 でも、あたしの部屋には鍵なんてついてないから、お母さんは部屋に入ってくる。

 

「少しは落ち着いた?」

 

 あたしは頭から布団をかぶる。お母さんの顔を見ないように。

 

「いつまでもすねてないの。ほら」

 

 布団を取られた。でも、あたしは顔をそらす。あくまでも抵抗。

 

「お母さんはそれでもいいかもしれないけど、明奈ちゃんはどうするの?」

 

「…………」

 

「夕方お買い物に行ったとき、魚屋さんの近くで明奈ちゃん見かけたけど、一生懸命ゴミ拾いしてたわよ?」

 

 明奈ちゃん、あの後もゴミ拾いしたんだ。

 

「知らないよ、そんなこと! せっかくあたしがプルタブ集めなんてムダだって教えてあげたのに、あんなに怒って。しかも、まだやってるんだ。バカみたい!」

 

「――結衣、こっち向きなさい」

 

 お母さん、静かにそう言った。静かだったけど、ものすごく怖い言い方だった。お母さんに怒られるのはいつものことだけど、今までで一番怖いと思った。思わずお母さんの方を見る。

 

「明奈ちゃんがなんで怒ったのか、結衣には判らないの?」

 

 すごく怖い顔。でも、あたしには判らない。何で明奈ちゃんが怒ったのか。あたしはテレビで言ってたことを教えてあげただけだ。プルタブ集めなんてムダだって。実際、車イスと交換なんてしてくれないんだから。

 

 あたしが答えなかったので、お母さんは言う。「じゃあ、質問を変えるわね。結衣はテレビを見て、なんで怒ったの?」

 

 ――――。

 

 あたしが、テレビを見て怒った?

 

「結衣はこの2週間、ものすごく頑張ってゴミを拾って、プルタブを集めたんだよね? でも、テレビでプルタブを集めても車イスと交換できないって言われた。結衣は、自分が頑張ったのを否定された気がして、それが悔しかったんじゃない?」

 

 悔しい?

 

 …………。

 

 そうかもしれない。

 

 あたしはあんなに頑張ったのに、テレビの人にバカにされたような気がして、だから悔しかったんだ。

 

 あたしは、こくんと頷いた。

 

「きっと、明奈ちゃんも同じだと思うな」

 

 お母さんは続ける。「明奈ちゃんも結衣と同じように、この2週間、頑張ってゴミを拾って、プルタブを集めたの。それなのに、結衣にあんな風に言われて、頑張った自分を否定されたような気がして、それが悔しくて、怒ったんだと思うな」

 

 明奈ちゃんが、あたしと同じ。

 

 言われてみたら、そうだよね。

 

 あたしはテレビに、プルタブ集めはムダだって言われて、怒った。同じことを明奈ちゃんに言ったんだから、あたしと同じように怒るのは当たり前。

 

 でも。

 

「しょうが無いよ。だって、プルタブ集めても、車イスと交換できないんでしょ? だったら、今までやったこと、全部意味が無いもん」

 

「そう? お母さんは、そうは思わないけどな」

 

「え――?」

 

 それまで怖かったお母さんの顔、急に笑顔になって。

 

「結衣はこの2週間、本当に一生懸命、プルタブを集めたんでしょ? 車イスと交換して、足の不自由な人に喜んでもらうために。その頑張りが全部意味が無かったなんて、お母さんは思わないな。だって、頑張った結衣が、ちゃんとここにいるんだから」

 

「――――」

 

「確かに、プルタブを車イスに交換はできないのかもしれない。でもね、結衣が頑張ったおかげで、公園も道路も河原も神社もきれいになったじゃない? 結衣も嬉しかったでしょ? 街がきれいになって」

 

 あたしは、素直に頷いた。

 

「結衣の言う通り、お母さんはプルタブを集めても車イスと交換できないってことは、最初から知ってた。でもそれを言わなかったのは、きっかけはどうあれ、結衣が人のために役に立ちたい、と思って、一生懸命頑張るなら、それはそれでいいと思ったからなの。結衣がやったことは、ムダなんかじゃない。立派なことなのよ? もっと自信を持っていいんだから」

 

「そう……かな?」

 

「そうよ! もちろん、明奈ちゃんもね。だって、明奈ちゃんも結衣と一緒に頑張ったんだもん」

 

「そうか……そうだよね」

 

 あたしと明奈ちゃんは、一緒に頑張った。プルタブは車イスにならないけど、頑張ったあたしたちはここにいるんだ! ムダじゃない。

 

「じゃあ結衣、明日、明奈ちゃんに、ちゃんと謝るのよ?」

 

「――――」

 

「プルタブを車イスに交換できないのは本当のことだから、全部結衣が悪いってわけじゃないかもしれない。自分が悪くないのに謝るのはすごく難しいと思うけど、できるわよね?」

 

「うん。頑張る」

 

「そう。偉いわ、結衣」

 

 お母さんは、そっとあたしを抱きしめてくれた。

 

 謝ろう。明日、明奈ちゃんに。

 

 お母さんはさっき、「全部結衣が悪いわけじゃないかもしれない」と言ったけど、多分違うと思う。明奈ちゃんの気持ちも考えず言いたい放題言って、明奈ちゃんを傷つけた。今日のケンカは、あたしが悪いと思う。明奈ちゃん、簡単には許してくれないかもしれないけど、謝ろう、ちゃんと。

 

「じゃ、結衣。ご飯食べようか?」

 

「うん!」

 

 あたしはお母さんと手をつなぎ、部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝。

 

 いつもより早く起き、登校する。明奈ちゃんよりも早く学校に行って、明奈ちゃんが教室に入ってきたら、すぐに謝りたかったから。

 

 でも、明奈ちゃんは当然怒ってるだろうし、もしかしたら、許してくれないかもしれない。そう考えると、自然と足が重くなって、で、結局教室に着いたのは、いつもとあんまり変わらない時間。明奈ちゃんは、先に登校していた。

 

 …………。

 

 あれ? 明奈ちゃんのそばに、岡部君と石塚君。明奈ちゃんに何の用だろ?

 

「……お前、どう責任取るつもりだよ? お前がウソ言ったせいで、みんなが迷惑したんだぜ」

 

 そう言っているのは岡部君。その言葉を聞いただけで、何の話をしているのか、すぐに判ってしまった。2人も、昨日のニュース、見たんだ。

 

「そうだよ。お前が車イスと交換できるって言うからクラスみんなでプルタブ集めたのに、全部ムダになったじゃないか」石塚君も明奈ちゃんを責めている。

 

 明奈ちゃんは、黙ってうつむいたままだった。普段だったら、絶対に何か言い返すはずなのに。

 

 その姿が、あまりにも痛々しくて、明奈ちゃんをかばおうとしたけれど。

 

 岡部君が、チラリとあたしの方を見た。

 

 それはただ、教室に入って来たあたしを何気なく見ただけだ。でもあたしは、岡部君に睨まれた気がして。

 

 …………。

 

 何もできなくなってしまった。

 

 岡部君はあたしには何の興味も示さず、すぐに視線を明奈ちゃんに戻す。

 

 どうしよう? 早くなんとかしないと。でも、気が弱いあたしに何ができる? 何もできない。だれか……だれか、明奈ちゃんを助けて。そう思い、教室中を見回す。クラスのみんなは、遠巻きに見てるだけ。普段岡部君たちと仲が悪く、こう言った女子と男子の言い争いがあると真っ先に駆けつける女子たちも、今日は何もしない。もしかしたら昨日のニュースを見てて、岡部君たちと同じように思ってるのかもしれない。

 

「黙ってないで、なんか言えよ」

 

 バン! と、岡部君が机をたたく。そんなに大きな音ではなったけど、明奈ちゃんは驚いて、びくっと震えた。そして、ものすごく小さな声で。

 

「あたしはただ……困ってる人のために……何かしたくて……」

 

「だから! プルタブ集めても車イスと交換できないんだから、やっても意味がないだろ!」

 

 岡部君が、明奈ちゃんを否定する。その瞬間。

 

 ぽとり。

 

 明奈ちゃんの目から、涙がこぼれ落ちた。

 

 ――――。

 

 明奈ちゃんが泣いている。男子2人に責められて。

 

 普段だったら絶対に言い返す。口げんかで男子に負けるはずがない明奈ちゃんが、何も言い返すことができずに、泣いている。

 

 あたしは、何をやってるんだ。

 

 昨日はケンカしちゃったけれど、それでもあたしは、明奈ちゃんが大好きだ。明奈ちゃんは友達だから。

 

 きっと、明奈ちゃんもそう思ってくれているはず。そう、信じている。

 

 もし、今の状況が逆だったら――岡部君と石塚君に責められているのが、あたしだったら。

 

 明奈ちゃんは、すぐに助けてくれる。あたしが泣きだす前に。絶対に、助けてくれるはず。

 

 なのに、あたしは何もしないの?

 

 怖いから、友達を助けないの?

 

 クラスのみんなを見て、だれか助けて、と、思ってるだけなの?

 

 それで――何が友達だ。

 

 何が友達だ!!

 

 あたしは、明奈ちゃんと友達でいたい。でも、何もしないでただ見てるだけのあたしに、そんな資格は無い。明奈ちゃんを助けないと。これは、気が強いとか弱いとか、そんな問題じゃない。これからも明奈ちゃんと友達でいたいかどうかなんだ!

 

 あたし、普段男子とケンカすることなんてまず無いけれど、このときだけは。

 

 あたしは岡部君に向かっていって、ドン! と、突き飛ばした。岡部君、体勢を崩し、尻餅ついて転ぶ。

 

「な……何すんだよ!」

 

 転びながらも岡部君、怖い目であたしを睨んでくるけど、あたしも負けずに睨み返し。

 

「岡部君にそんなこと言う資格なんて無い!」

 

 教室中に響く大きな声で叫んだ。「明奈ちゃんはね、毎日毎日、公園や、道路や、神社、いろんなところのゴミを拾って、プルタブを集めたんだよ! 岡部君、あなたがいったい、いくつプルタブ集めたって言うのよ?」

 

「…………」

 

 黙り込む岡部君。あたしは知ってる。クラスで一番、プルタブ集めには協力していなかった。多分、2、3個しか持ってきてないと思う。

 

「明奈ちゃんはね、このクラスで、誰よりも頑張ってたんだよ! あたしなんかよりも、ずっとずっと、頑張ってたんだよ! それなのに、それなのに……」

 

 いつの間にか。

 

 あたしも泣いていた。

 

 これは、岡部君に向けて言っている言葉じゃないんだ。あたし自身に向けて、言った言葉。

 

 あたしも、岡部君と同じだ。誰よりも頑張ってた明奈ちゃんを、そんなのは意味が無いって、否定した。

 

 あたしは、岡部君や石塚君よりも、あたし自身を許せなくて。

 

「明奈ちゃんは頑張ったんだ! 頑張ったんだ!」

 

 泣きながら、ただ叫び続けた。

 

「……そんなに怒ること無いだろ。悪かったよ」

 

 岡部君は、ばつが悪そうにそう言うと、ゆっくり起き上がって、石塚君と一緒に教室を出ていった。多分、普段はおとなしいあたしが急に泣き叫んだから、迫力負けしたんだと思う。

 

 あたしは、涙を拭きながら明奈ちゃんを振り返る。

 

「――――」

 

 無言で見つめ合う。昨日ケンカをしたから、なんとなく気まずいけど、見つめ合ってるうちに、どちらともなく笑いが込み上げて来て、お互い、笑いあった。

 

 そして。

 

「結衣ちゃん、昨日はごめんね!」

 

 明奈ちゃん、いきなり頭を下げる。

 

 何で明奈ちゃんが謝るの? 悪いのはあたしなのに。

 

「昨日、あたしもちゃんと調べたの。そしたら、結衣ちゃんの言ったこと、ホントだった。プルタブを集めて車イスと交換、できないんだって。だから、あんなこと言って、本当にごめんなさい!」

 

 明奈ちゃんは、何度も何度も頭を下げた。

 

 ふと、昨日のお母さんの言葉を思い出す。

 

 ――自分が悪くないのに謝るのはすごく難しいと思う。

 

 悪いのはあたしなのに、こうやって謝る明奈ちゃん。

 

 あたし、自分がすごく恥ずかしくなる。悪いのはあたしの方なのに、明奈ちゃんの方から誤らせるなんて!

 

「あたしこそゴメンね、明奈ちゃん! あたし、明奈ちゃんの気持ちも考えず、ヒドイこと言って、傷つけた。明奈ちゃん、すごく頑張ったのに、頑張ったことはムダじゃないのに、あんなこと言って、本当に、ごめんなさい!」

 

 あたしも何度も頭を下げる。2人で何度もごめんなさいを言い合って、なんだかそれがおかしくて、また、一緒に笑った。

 

「それでね、明奈ちゃん、昨日、お母さんに調べてもらったんだけど――」

 

「ん? 何?」

 

「プルタブ集めて車イスと交換って、ウソってわけでもないんだって!」

 

「え? どういうこと?」

 

 明奈ちゃん、目を輝かせる。

 

 お母さんが言うには。

 

 このプルタブ集めは、なぜか全国的に広まっていて、あたしたちと同じようにたくさん集めて、本当のことを知って、ショックを受ける人が多いらしい。

 

 それを見てかわいそうだと思ったある会社が、本当にプルタブと車イスを交換してくれるんだって!

 

「それ、ホント?」

 

「うん! ホントにホント! お母さんがいろいろ調べて、その会社に電話までして確認したんだから!」

 

「すごい! すごいよ結衣ちゃん! ありがとう!」

 

 あたしと明奈ちゃん、抱き合って喜ぶ。

 

「あ、でも、やっぱり空き缶からプルタブを外すのは間違ってるそうだから、今度からはしないように、だって」

 

「あはは。クラスのみんなにも言わないとね」

 

「そうだね。一緒に言おうね」

 

「うん!」

 

 あたしと明奈ちゃんは、2人手をつないで、黒板の前に立った。

 

 プルタブ集めは間違ってた、って言ったら、クラスのみんな、怒るだろうな。せっかくがんばって集めたのに! って。でも、ちゃんと言ってあげよう。一生懸命頑張ったのはムダじゃないって。明奈ちゃんと一緒に。

 

 ね!

 

 

 

 

 

 

(作者オリジナル)

 

 

 

 

 

 

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