Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

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警告

 ……えっと、これはこの箱の中に入れて、押し入れの奥に突っ込もうかな。こっちの物はもういらないから、捨ててしまおう。うん、これでかなり片付くだろう。

 

 時計を見ると……げ、もう3時? うわ。早く片付けないと朝になっちゃうよ。

 

 今、あたしは部屋のお掃除の真っ最中。明奈の部屋ほどじゃないけど、少し散らかってたのがどうしても気になったので、寝る前に始めちゃった。少しだけ片づけて終わろうと思ってたんだけど、気がついたら押し入れの中まで片付け始めてしまい、あっという間にこんな時間。うーん。掃除って、やる前は結構億劫なんだけど、やり始めたら止まらなくなるのはなぜだろう? 謎だ。今度亜美に研究してもらおうかな。

 

 なんてのんきに考えてる場合じゃないぞ。明日も朝から大学だ。正確には今日だけど。早く片付けないと。えっと、この箱を押し入れに入れて終了、と。

 

 …………。

 

 なんか引っかかるな。なんだろう?

 

 あたしは入れかけた箱を一旦出し、押し入れの奥を見る。すごく古そうな段ボールがあった。あれが邪魔して入らないみたい。うーん。この箱が片付かないと終わらないぞ。何とかしないと。あたしは押し入れの奥の段ボールを取り出す。これ、何だっけ? 自分で入れた物のはずだけど、思い出せない。とりあえず開けてみる。

 

 ……うわ、懐かしい。

 

 段ボールの中身は、古いおもちゃにマンガ、小学校の教科書に筆箱に下敷きなど、子供の頃の物がたくさん入っていた。これ、まだ捨ててなかったんだ。何年ぶりだろ? ホント懐かしい。これとか、流行ったよね。あたしはおもちゃを取る。当時大流行だった魔女っ子アニメの主人公が変身するときに使ってたステッキだ。ボタンを押すと、ハートの部分がくるくる回り、変身のときの音楽が流れ出す。思わず、「ピーリカピリララ・パラレルパラレル・ウェディングフラワー!」と、呪文を唱えてくるっと1回転、左手は腰、右手は指を3本立てて額に、ムーンプリズムパワーでナースエンジェルにホーリーアップしそうになった。

 

 ……てか、もう何年も前のアニメなのに、意外と覚えてるもんだね。いつ頃だっけ? うーん。こんなおもちゃで遊ぶくらいだから、小学校に上がる前かな? 15年以上前だ。スズメ百まで踊り忘れずとは言うけれど、ホントだよ。当時はこれでずっと奈々たちと遊んでたもんね。

 

 えっと、こっちのマンガは……あ、これ! 最近アニメがリメイクされて、人気が再燃してるやつだ! 古本屋で結構高値がついてるはず。売ればいいお小遣いになるかもしれない。お、こっちのマンガは去年ハリウッドで実写映画化されて、大失敗したやつだ。この前DVDで見たけど、あれはヒドかった。もう、イメージ台無し。原作者も、よくあんなのに許可を出したよ。まったく。さて、これは何かな?

 

 …………。

 

 いかんいかん。つい没頭してしまった。これが有名な「お掃除してたら懐かしい物を見つけて、ついつい夢中になってしまうワナ」だ。もう夜中の3時。このワナに引っかかるわけにはいかない。早く片付けないと。あたしは段ボール閉じようとするけど。

 

 ――あ、これ。

 

 中から1冊のノートを取り出す。つたない字で「YUIのDAIARY」と書いてある。

 

 これまた懐かしい。小学校のころに書いてた日記だ。「結衣の日記」と書けばいいものを、大人ぶって英語で書いたっけな。綴り間違ってるし。しょうがないな、あたし。

 

 あまりにも懐かしくなったあたしは、ワナと判っていて、あえて引っかかることにした。ぱらり。ページをめくる。なになに?

 

 

 

≪きょうは、ななちゃんとケンカをしちゃいました。やっぱり、公園のしばふでねっころがったから、神様がおこったのかなぁ。でも、お母さんの言うとおり、ケンカをしたのはあたしのせいで、神様はかんけいないよね。だから、ななちゃんにあやまりに行こうと思います。ななちゃん、ゆるしてくれるといいな≫

 

 

 

 あったねぇ。『別れの公園』事件。確か、小学校3年のときだ。あたし、電車に乗って北乃まで行ったんだ。今考えると、よくあんな遠くまで1人で行ったよね。自分のことながら感心してしまう。

 

 ぱらり。さらにページをめくる。

 

 

 

≪きょうは、みんなでえき前のショッピングモールに行きました。みんなで母の日のプレゼントを買いました。あたしはミドリのスカーフを買いました。お母さんにプレゼントすると、とても喜んでくれて、あたしもとてもうれしかったです≫

 

 

 

 ああ。同じく小3の母の日だ。奈々と明奈と亜弥でショッピングモールに行ったっけ。確か、亜弥がすごく高いコートを買ったんだよね。

 

 うーん。ホントに懐かしい。ついつい夢中になって読んでしまう。おかげで部屋、全然片付かないよ。早くしないと、徹夜になっちゃうのに。

 

 とか思いつつも、ぱらぱらぱら。懲りずにページをめくるあたし。なになに?

 

 

 

≪きょうは、お母さんといっしょに、新しくできたえき前のショッピングモールに行きました。お母さんから、ものすごく大きなデパートだと聞いていたけど、じっさいに行ってみると、あたしが思ってたよりずっとずっと大きくてビックリしました。いろんなお店がありました。お花やさん、くだものやさん、ぶんぼうぐやさん、おようふくやさん、クツやさん、ほうせきやさん。お店だけじゃなく、はいしゃさんや、えいがかんもあって、すごかったです≫

 

 

 

 これは小2の夏だったかな? ショッピングモールのあまりの大きさにびっくりしたんだよね。よっぽど興奮したんだろうな、あたし。この日の日記。次のページにまで続いてるよ。

 

 

 

≪おようふくやさんで、ピンクのおようふくを買ってもらいました。お店のおねえさんが、『かわいくてとてもにあってるよ、ユイちゃん』と言ってくれたので、とてもうれしかったです。おようふくやさんのおねえさんって、とってもきれいだよね。あたしもおとなになったら、おようふくやさんになりたいな≫

 

 

 

 うわ。あたし、こんなこと思ってたんだ。全然覚えてないよ。今風に言うと、ショップ店員か。あたしにできるかな? 想像してみる。

 

『いらっしゃいませー。あらお客様、そのピンクのワンピ、とてもお似合いですよ! あ、それでしたら、こちらのバッグと合わせると、チョーいい感じになりますよ』

 

 …………。

 

 ダメだ。最近テレビでよく見かける女性お笑い芸人のネタしかイメージできない。あんなの、あたしにはムリだな。ホントはあんなんじゃない気もするけど。

 

 おっと。この日の日記、まだ続いてるよ。なになに?

 

 

 

≪でも、あたしはわすれっぽいから、おとなになったら、こんなゆめ、すっかりわすれてるかもしれないな≫

 

 

 

 あらら。当たってるよ。うう、ゴメン。子供の頃のあたし。

 

 ま、当時のあたしがどれだけ本気で洋服屋の店員になりたいと思ってたかは判らないけど、子供のころの夢を思い出せて良かった。今日この日記を読んだのも何かの縁だ。就職活動の参考にさせてもらおう。あたし、いまだに将来のこと、これと言って決めてないからな。もう大学3年。理名とかはとっくに就職活動を始めていて、行きたいところをかなり絞っているようだ。亜美はよくわかんないけど、あの娘の頭なら、何でもできそうな気がする。アメリカの航空宇宙局に入って、「10年以内に海王星に人類を送る」とか言っても不思議は無い。あたしだけが、まだ宙ぶらりん。

 

 …………。

 

 いかん、気分がめいってきた。日記に目を戻す。

 

 

 

≪忘れっぽいおとなのあたし。でもね……≫

 

 

 

 まだ続いてるよ、この日の日記。ぱらり。ページをめくると。

 

 

 

≪美沙子のことは忘れないで≫

 

 

 

 ――――。

 

 ――え?

 

 何? これ?

 

 そのページには、大きく、そう書かれてあった。

 

 身体が凍りつく。部屋の気温が、一気に下がるような感覚。

 

 ――美沙子?

 

 美沙子って、あの美沙子?

 

 中学の親友で、3年の春に突然転校した、あの美沙子?

 

 そんなはずは無い。美沙子は、中学になって初めて会ったんだ。もちろん、他に美沙子という名前の娘はいない。小2のあたしが、美沙子のことを知っているはずが無いのだ。

 

 でもその字は、確かに、子供の頃のあたしの書いた字だ。

 

 なんだろう、これは?

 

 ――美沙子のことは忘れないで?

 

 どういうことよ!?

 

 美沙子……美沙子……。

 

 ――――。

 

 そうだ。

 

 高校を卒業する前、中学校のみんなで集まって、同窓会をした。

 

 あのとき、あたしが美沙子の話をしたけど、誰も覚えてなかった。それだけじゃない。卒業アルバムにも、そのほかのどんなアルバムにも、美沙子の写真は無かった。まるで、美沙子なんて最初から存在しなかったみたいに。

 

 あれはいったい何だったのか、今でも判らない。

 

 この日記は、そのことを言っているの?

 

 あたしが美沙子を忘れないように、警告しているの?

 

 小2のあたしが?

 

 大人になったあたしに!?

 

 …………。

 

 判らない。判らないことだらけだ。あたしはただ呆然と、古い日記を見つめる。

 

 そう言えば……。

 

 この日、何か無かっただろうか?

 

 ショッピングモールに行く前。何か、すごく怖いことがあったような。それは、とても大事なことのような気がする。思い出さなくちゃいけない気がする。

 

 …………。

 

 …………。

 

 …………。

 

 ……そうだ。

 

 死神――。

 

 あの日、ショッピングモールの前の交差点で、男の人が車にはねられ、死んだ。その人の後ろにはボロボロの黒いローブを着て、大きな鎌を持った者がいた。その姿は、死神そのものだった。

 

 そして――。

 

 この日以降、あたしは見えるはずの無いものが見えたり、聞こえるはずの無い声が聞こえたり、不思議な体験をするようになった。

 

 そう。この日は、あたしの霊感が目覚めた日だ。

 

 その日の夜に書いた言葉――美沙子のことは忘れないで。

 

 これは、何を意味しているのだろう? なぜ、あたしにこんなことが書けたのだろう? あたしって、いったい何なの?

 

 ――――。

 

 判らない。判らないけど。

 

 すごく、嫌な予感がする――。

 

 

 

 

 

 

(作者オリジナル)

 

 

 

 

 

 

(第2夜 終わり)

 

 

 

 

 

 

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