Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

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伝説の樹と廊下でぶつかったバスケ部のエース

 春。新たな生活が始まる季節。

 

 堀北中学を卒業し、今日から晴れて、堀北西高校の生徒となったあたしと奈々。あたしの学力では、西高はちょっと厳しかったのだけれど、頑張って勉強した甲斐があって、無事に合格できた。何と言っても、奈々とあたしは幼稚園の頃からずっと一緒。別々の学校に行くなんて考えられなかったし、できればクラスも同じ方がいい。その祈りが通じたのか、クラス分けを見ると、あたしと奈々は同じクラス。思わず抱き合って喜ぶ。これからまた奈々と一緒だと思うと、やっぱり嬉しい。

 

 ちなみに、明奈と梓は南高、亜弥は北高だ。みんながバラバラになるのは寂しいけれど、それは新たな生活の始まりでもある。不安もあるけど期待もある。よし、頑張って行こう。

 

 入学式が終わり、教室でホームルーム。そこで簡単な自己紹介をしたり、先生から今後の諸注意なんかを聞いて、西高第1日目は終了。さて、これからどうしようかな?

 

「ねえ、あなた、宮崎さんだったよね?」

 

 隣の席の娘が話しかけてきた。さっきみんなで自己紹介したけど、さて、この娘の名前はなんだっけ? えーっと。と、考えていたら。

 

「佐々木恵梨香よ。よろしくね」にっこりと笑う。感じのいい娘だ。

 

「あ、よろしく。佐々木さん」

 

「恵梨香でいいわよ、結衣」

 

 おっと。いきなりファーストネームを呼び捨てとは、なかなかなれなれしい娘だ。でも、そういうのはキライじゃない。では、遠慮なく。「よろしくね、恵梨香」

 

「うん。ところで、結衣って、何の部活に入るとか、決めてるの?」

 

「ん? 特に決めてないけど」

 

「じゃあさ、今からあたしと一緒に見に行かない?」

 

 うーん。部活か。あたしは中学時代、部活は特に何もしていなかった。いわゆる帰宅部というやつである。なので、高校で部活をする予定は無いのだけれど、まあ、せっかく誘ってくれたから、見に行くくらいはいいかな? もし何か面白そうなのがあれば、入部してみるのも悪くはない。

 

「あ、ちょっと待って。友達にも訊いてみるから」恵梨香にそう言って、あたしは奈々の方を見る。「おーい、奈々?」

 

 奈々は、窓際の席に座り、ぼーっと、窓の外を見ていた。

 

「奈々ってば」肩を叩くと、ビクッとして振り返る。

 

「わっ。結衣か。脅かさないでよ」

 

「奈々が返事しないからでしょ。何ボーっとしてんの?」

 

「あ、ゴメン。ちょっと、あの樹を見てて」

 

 奈々が窓の外を指差す。校庭の隅に、1本の大きな桜の樹があった。咲き誇ったピンク色の花が、風に吹かれ、校庭に舞い降りている。たった1本だけど、寂しいという感じは無い。妙に存在感がある。きっと、古い樹に違いない。

 

「ああ。あれ、伝説の桜の樹だよ」恵梨香が言った。

 

「伝説の桜の樹? 何それ?」あたしは訊く。

 

「この学校には、代々伝わる伝説があるの。卒業式の日に、あの樹の下で、女の子が男の子に告白すると、その2人は、永遠に一緒にいられるんだって」

 

 うわお。聞いてるだけで恥ずかしくなってくる話だ。いまどきそんな伝説があるのか? オドロキだ。

 

 でも、もっと驚いたのは。

 

「へえ。素敵な伝説だね……」

 

 と、うっとりとした目でその樹を見つめる奈々。

 

 ああ、そうだった。この娘には、昔からこういう乙女チックなところがあった。純粋と言えば聞こえはいいけど、正直、いい歳して何言ってんだ、という感じである。

 

「えっと、日高奈々さん、だったよね」恵梨香、にっこりと笑う。

 

「あ、うん。えーっと、佐々木さん、だったね」

 

「そう。覚えてくれてたんだ。嬉しい。恵梨香って呼んでいいよ、奈々」

 

 恵梨香は奈々に対してもなれなれしい。まあ、奈々もそういうのは嫌いではないはずだ。

 

「うん。よろしくね、恵梨香」

 

 さっそく新しい友達ができた。これは高校生活、楽しくなりそうだぞ。

 

「でね、これから結衣と一緒に、部活を見に行くんだけど、奈々も来る?」恵梨香が笑顔で言う。

 

「部活? うーん」考え込む奈々。奈々もあたしと同じで、中学時代は帰宅部だった。多分、入りたい部とかは特に無いだろう。

 

「まあ、見るくらい見て行こうよ。何か気になる部があるかもしれないし」あたしも誘う。

 

「そうだね。判った。じゃ、行こうか」

 

 と、いうわけで、3人で教室を出る。恵梨香の提案で、まずはバスケ部を見に行くことになった。

 

「西高と言えば、何と言ってもバスケ部よ。特に男子バスケ部は、インターハイに何度も出場してる。全国的にもそこそこ有名らしいよ」恵梨香、熱心に説明する。

 

 バスケ部か。こう言っちゃ悪いけど、ちょっとあたしたちには関係なさそうな部かな。バスケなんて体育の授業以外でやったことないし、テレビで見たことも無い。ついでに言うと、あたしの運動神経は平均より少し下くらいだ。全国的に有名なバスケ部に入るのはちょっと厳しいかな。奈々にいたっては論外だろう。彼女は極度の運動音痴だ。多分、バスケとサッカーの区別もつかないんじゃないかな?

 

「恵梨香は運動得意なの?」訊いてみる。

 

「ううん。ぜーんぜん」ひらひらと手を振る。「バスケなんて興味無いけど、ウワサでは、すごくカッコイイ先輩がいるって話なの。これはチェックしておかないとね」

 

 なんだ。そういうことか。どうやら恵梨香、ミーハーな性格らしい。

 

 と、体育館へ向かう廊下の角を曲がったところで。

 

 ドン!

 

「きゃっ」

 

 かわいらしい悲鳴を上げたのは奈々だ。誰かにぶつかったらしい。尻餅をついて倒れそうになるのを。

 

「あ、悪い」

 

 ぶつかった男の人が支えた。まるでお姫様だっこのような格好になる。

 

 うわ。背の高い人だな。奈々にぶつかった人を見る。あたしたちより頭1つ2つ高い。180センチは軽く超えてそうだ。しかも、まるでモデルでもやってるのかと思うほどのイケメン。先生か? と、一瞬思ったけど、制服を着ている。どうやら、生徒らしい。

 

 目と目が合う、奈々とイケメン。

 

「大丈夫?」イケメンがさわやかに笑った。

 

 奈々は、顔を真っ赤にして。「あ……はい……大丈夫……です」

 

「ちょっと急いでたんだ。悪かったね」

 

 奈々を起こすと、そのままイケメンは走り去っていった。

 

「きゃー。今の、2年の水嶋先輩だよ。さっき言ってた、バスケ部のエース」恵梨香、きゃぴきゃぴとした口調で言う。

 

 へえ。あの人がバスケ部のエースか。どうりで背が高いと思った。

 

 と、奈々を見ると。

 

 ボーっと、水嶋先輩の後姿を見ている。目が、ハートになっていた。

 

 ……って、なんだ、この展開? まさか奈々、このまま恋に落ちたりしないだろうな? 高校入学初日に廊下でぶつかったバスケ部のエースに一目惚れ? もはや都市伝説だろ、それ。

 

「水嶋先輩……か……」

 

 奈々、胸の前で手を組む。

 

「おーい、奈々さーん」呼びかけても、目の前で手をひらひらさせても、反応が無い。もう完全に、水嶋先輩しか見えていない。

 

「やっちゃったかな?」

 

「やっちゃったね」

 

 陶酔する奈々の姿に、あたしと恵梨香はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 で。

 

 その後奈々は、バスケ部に入部した。

 

 大丈夫か? 超運痴なのに……。

 

 

 

(作者オリジナル)

 

 

 

 

 

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