Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

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消えた友達 第1話

「――いやホント、昨日の月9の最終回は、妻武器君が光ってたわね。完全に主人公を喰ってたわ。来年は彼が来るわね、きっと。もうキム兄の時代は終わりだわ」

 

「……亜美って、学校終わった後はバイトかテレビかしかないんだね。ホントに勉強とかしてないの?」

 

「するわけないでしょ。何? 理名はしてるの?」

 

「当然でしょ? その日の復習に次の日の予習。やることはたくさんよ」

 

「うわ……あんた、北高のガリ勉みたいなこと言うのね。大学生にもなってそれは無いんじゃない?」

 

「悪かったわね。あたしはあんたみたいな天才とは違って、普通の頭なの。予習復習は必須なのよ」

 

 朝。いつものように大学のロビーで、あたしと理名と亜美で集まって恒例のおしゃべりタイム。普段はここで眠気を飛ばしてから講義に向かうのだけど、今日のあたし、2人の話は全然頭に入らず、ボーっとしてる。

 

「勉強なんてするヒマがあるなら、来年ブレイクするイケメンの発掘でもしなさいよ。ねぇ、結衣」

 

 亜美に話を振られたけれど、やっぱり聞いてないあたし。

 

「結衣? 起きてる?」

 

 目の前で亜美が手のひらをフリフリして、あたし、ようやく我に返った。「あ……ゴメン。何の話だっけ?」

 

「大丈夫? 寝不足?」理名がちょっと心配そうに訊く。

 

「うん、まあ、それもあるんだけどね。ちょっと、考え事してて」

 

「何? 結衣的には、妻武器よりも森屋間が来ると思う?」亜美が冗談ぽく言うけど、あたしは曖昧に笑うしかできなかった。

 

 コラ、という目で、理名が亜美を見る。亜美は、すまなさそうに肩をすくめた。

 

「ああ、ゴメン。別に、亜美は悪くないよ」慌てて手を振る。亜美は亜美であたしを元気づけてくれようとしたのだろう。

 

「一体どうしたのよ。あたしたちでよければ、話くらい聞くよ?」理名が言い、亜美もウンウンと頷いた。

 

「うん、ありがとう。でもね……」

 

「何? 言いにくいこと?」

 

「ううん。そうじゃないんだけど……何と言うか、すごく不思議なことがあったの。あたしにも、何が何だか判らないんだけど」

 

「話しにくいことじゃないなら、とりあえず話してみなよ」

 

「じゃ、そうしようかな。あ、ホント、変な話だからね。理名とか、多分呆れるんじゃないかと思うんだけど」

 

「そんなことないよ。真剣に聞くよ」

 

「ううん、いいの。気を使わないで、思ったことを正直に言って。その方が嬉しいから」

 

 そう前置きして、あたしは、ゆっくりと話した。

 

 話は、あたしが中学生だった頃にさかのぼる。

 

 当時あたしには、美沙子という友達がいた。中学になってからの友達。奈々や明奈と一緒に、何をするにも一緒だった。

 

 中学2年のとき、美沙子はサッカー部エースの城田君と付き合うようになった。何故あの美沙子が学校のアイドルとも言える城田君と付き合うようになったのかは今でも謎だけど、それは特に問題ではない。

 

 中3の春、城田君は交通事故に遭い、亡くなった。美沙子はショックで家に引きこもり、学校に来なくなった。1度お見舞いに行ったけど、美沙子は、見ていられないくらい憔悴していた。まさしく絶望に支配されていたという感じ。

 

 そしてある日、突然転校してしまったのだ。

 

 あたしにも、奈々や明奈にも、誰にも何も言わずに。

 

 ただ、転校するという連絡が、学校にあっただけ。何があったのか、どこに転校したのか、一切判らなかった。

 

「そんなことがあったの……」理名と亜美は真剣な顔であたしの話を聞いてくれている。

 

「うん。でも、そこまでは特に不思議ではないの。突然でびっくりしたけど、あのときの美沙子は本当につらそうだった。あのまま無理して堀北の街で暮らすよりも、環境を変えて再スタートした方がいいと、美沙子の両親が思ったのかもしれない。さみしいけど、それもしょうがないと思う。でもね、不思議なのは、その後なの」

 

 あたしは話を続ける。

 

 それから3年以上経ち、高校の卒業を間近に控えたあたしたちは、明奈の提案で、同窓会を開くことになった。みんなで久しぶりに集まって、今までのこと、これからのことをたくさん話して、大いに盛り上がった。そして、あたしがふと、美沙子がいればもっと楽しかったのにね、と言うと、みんな不思議そうな顔をした。

 

 

 

『美沙子って――誰だっけ?』

 

 

 

 そう言ったのだ。

 

「初めは冗談だと思ったの。みんな、あたしをからかってるんだろうって。でも、そんな様子もなかった。あたしは中学の卒業アルバムから美沙子の写ってる写真を探したけど、見つけられなかった。卒業アルバムだけじゃない。家に帰って中学時代に撮った写真とか、プリクラとか、全部確認したけど、美沙子は写ってなかったの。まるで、美沙子なんて最初から存在しなかったみたいに」

 

「――――」

 

 亜美も理名も、何と言っていいか判らないという顔をしている。当然だろう。あたしだってこんな話を聞かされたら、何と答えていいか判らない。

 

 あたしはさらに話を続ける。

 

 いったい何が起こったのか判らないまま、また、3年以上経った。そして、昨日のことだ。

 

 夜、あたしは急に思い立って、部屋の掃除を始めた。そしたら、押し入れの中から古い日記が出てきた。小学生のときに書いたものだ。懐かしくて読んでいると、あるページに、大きく、こう書かれてあった。

 

 

 

《美沙子のことは忘れないで》

 

 

 

「――それは間違いなく、小学生のあたしが書いた字だった。美沙子は中学生になってから知り合ったから、小学生のあたしが知ってるはずはないの。当時のあたしの周りにも、美沙子という名前の子はいなかった。なぜ、あたしがあんなことを書いたのか判らないの。まるで、未来を予知したようなこと――」

 

 全て話し終えると、理名も亜美も、困ったように顔を見合わせた。

 

 ま、それもしょうがないか。こんな突拍子もない話をしたんだもん。

 

「ゴメンね、ホント、変な話で。でも、正直な意見が聞きたいの。どういうことだと思う?」理名と亜美の目を見つめる。

 

「うーん……じゃあ、お言葉に甘えて、正直な意見を言うけど」理名が、ゆっくりと口を開いた。「結衣の思い違いだと思うわ」

 

 ――――。

 

 やはり、そうなのだろうか?

 

 美沙子の記憶は、今でも鮮明に残っている。あれが、夢か何かだったとは、とても思えない。

 

 でも。

 

 普通に考えれば、理名の言うことはもっともだ。

 

 理名は続ける。「仮に、結衣の言ってることが本当だとするね。美沙子という娘は本当にいて、中3の春に引っ越した。だとすると、結衣を除くクラスメート全員がその娘のことを忘れてて、そして、偶然写真にも写っていないということになる。そんなことはあり得ないわ。そう考えるよりも、美沙子って娘がいたというのは結衣の勘違いだ、と考える方が自然でしょ? それなら、誰も覚えてないのも、写真に写ってないのも、当然だもの」

 

 あたしは、理名の話を黙って聞いていた。

 

 そう。理名の言う通りだ。

 

 みんなが揃って美沙子のことを忘れた、と考えるよりも、あたし1人が、美沙子なんて存在しない人を存在したと勘違いしている、と考えた方が、つじつまが合う。

 

「子供の頃の日記に書いてあったことも同じね」理名は続ける。「当時、結衣の周りには美沙子という名前の子はいなかったかもしれない。でも、クラスメートとかの名前とは限らないでしょ? マンガやアニメの登場人物かもしれない。その日1日だけ遊んだ子のことなのかもしれない。誰かのニックネームだったのを忘れてるだけなのかもしれない。他にも、色々考えられるわ。結衣が未来を予知してそんなことを書いた、なんて考えるよりも、ずっと合理的」

 

 ――合理的。

 

 そう。理名の考え方の方が合理的だ。

 

 美沙子なんて娘は、最初から存在しなかったんだ。それが真実なんだ。だって、美沙子が存在したと言う証拠は何も無いのだから。あたしの中の美沙子の記憶は、あたしが作り上げたもの。いわば、妄想だったのだ。

 

 …………。

 

 あたしが、そう納得しかけたとき。

 

「うーん、あたしは、理名の意見には賛成しかねるけどね」

 

 亜美が言った。

 

 いつの間にかうつむいていたあたしは、ぱっと顔を上げる。

 

「ん、なんで?」理名が言った。

 

「まあ、確かに理名の言う通り、結衣が何か思い違いをしている、という可能性の方が高いよ。結衣の周りの人が一斉に、その美沙子って娘のことを忘れるなんて可能性は、限りなく低い。でもね、可能性が低いからと言って、それが起こらなかった、なんてことは言えないのよ。99%と1%の確率じゃ、もちろん99%の方が高い。でも、1%の可能性だって、起こりえるから1%なのよ。それは0.1%でも0.01%でも、0.0000000000000001%でも同じこと。決して起こらないことではないの」

 

 亜美は、力強い声でそう言った。そこには、さっきまでイケメントークをしていた亜美の姿はない。今ここにいるのは、市内一の進学校北高を3年間ずっとトップで、大学で作成するレポートは世界中の学者から注目を集めている天才の亜美だ。

 

「まあ、そりゃあそうなんだけどさ。でも、可能性の高い方を見るのが普通でしょ?」理名も反論する。「0.00……1%なんて、そんな天文学的に低い可能性のことは、普通は起こり得ないわ」

 

「そんなことないわよ。そのくらいの可能性のことは、あたしたちの周りでも頻繁に起こってるわ。例えば、今あたしがここにいて、2人と話している可能性は、何%くらいだと思う?」

 

 ――――?

 

 質問の意味がよく判らなかった。だって、ここにあたしと理名と亜美がいて話をしている以上、それは100%だろう。

 

「うーん、まあ確かにそうとも言えるけど、ちょっと時間をさかのぼれば、そうとも言えなくなる。例えば、昨日結衣は遅くまで部屋の掃除をしていた。運よく寝坊はしなかったけど、もし寝坊していたら、ここにはいなかった」

 

 ……まあ、そうなるな。

 

「それは、あたしにも理名にも言えること。寝坊はしなくても、途中でバスや電車が事故で動かなくなった可能性もあったし、道に迷っちゃう可能性もあったし、突然の心臓麻痺で死んでしまう可能性もあったはず。今こうして3人で話していることは、かなり可能性の低いことなのよ」

 

 そうなのか? その割には毎日毎日顔を合わせているけど。

 

「だから、それがものすごい偶然なの。そもそも、あたしたちがこの世界に産まれてきたのだって、すごい奇跡なのよ? 健康な男性が一生のうちに作る精子の数は1兆以上。そのうちの1つが、たまたま母親の卵にたどりついたから、あたしたちはここにいるの。産まれた時点で、確率は1兆分の1。いいえ、途中で流産や中絶する可能性もあるから、それ以下ね。そして、産まれた子供が事故や病気で亡くなることもなく健康に育ち、21年後の今日、この時間、この場所に3人も集まる確率は、1京分の1や、1垓分の1よりもはるかに低いわ。ちなみに、京は10の16乗、垓は10の20乗だからね」

 

 亜美、あたしにも解る説明で丁寧に言ってくれる。理名も、「まあそうね」という顔で、納得している。

 

「だから、美沙子という娘は確かに存在したけど、みんなが一斉にそのことを忘れてしまった、ということも、可能性が低いからと言って、起こらないことではないのよ。本当に起こったのかもしれないの。もちろんその可能性は、あたしたち3人がこの場にいる確率よりもさらに低いだろうけど、でも、調べてもいないのに『それはあり得ない』と言い切ってしまうのは間違いよ。それこそ非合理的だわ。合理的に行くならば、どんなに可能性が低くても、ちゃんと調べなければいけない。納得行くまで自分が調べて、初めて『それはあり得ない』と言い切ることができるのよ。だから、結衣が気になると言うのなら、とことん調べてみることね」

 

 亜美のその言葉は、あたしの胸に刻み込まれていくかのようだった。

 

 とことん調べる――美沙子がいたという証拠を、とことん探す。なぜ、みんなが美沙子を忘れてしまったのか、とことん調べる。

 

 そうだ。亜美の言う通りだ。

 

 美沙子の記憶は、あたしの中に今でも鮮明に残っている。これが、勘違いだったなんて思えない。

 

 美沙子は、絶対に存在したのだ。

 

 だから、その証拠を探そう。

 

 そして、なぜ、みんなが美沙子を忘れてしまったのか。それを調べよう。

 

 あたしが調べないと、美沙子という存在は、本当に消えてしまう。

 

 そんなことはさせない。

 

 美沙子は、今でもあたしの友達だ。その存在を消したりはしない。

 

 あたしの周りで、いったい何が起こったのか。

 

 それを、調べよう。

 

 あたしは、そう心に決めた。

 

「ありがとう亜美。理名も」

 

 あたしは2人の手を握り、お礼を言った。

 

「さて。そろそろ講義に行きますか」理名が席を立つ。

 

「うん!」

 

 あたしと亜美も席を立ち、そして、みんなで講義室に向かった。

 

 

 

(作者オリジナル)

 

 

 

 

 

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