Y.U.I.~都市伝説ファイル~   作:ドラ麦茶

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閉ざされたノート

 5月。ゴールデンウィークを利用し、あたしは県外に住んでいる奈々のところへ遊びに来ていた。去年の春、引っ越しを手伝ったとき以来、2度目の訪問。奈々の住む街は、あたしの住む街・堀北よりもずっと都会で、買い物や遊ぶところがたくさんある。なので、1日目は、街でいろんなお店をめぐり、遊びまくった。そして2日目の今日。前日の疲れもあるので、今日は部屋でゴロゴロすることになった。適当にお菓子でも食べながらテレビを見たりおしゃべりしたりする。

 

「……てわけで、明奈ったら、いっつもあたしの部屋にパソコン使いに来るの。で、使わせてもらってるのに文句言ったりウィルスに感染されたり、散々だわ」

 

「あはは。あの娘らしいね。明奈、昔からテレビゲームとか大好きだったからね。そんなにやりたいなら、パソコン買えばいいのに」

 

「そう思うでしょ? でも、お金が無いから買えないんだってさ。そう言いながら、ゲームとかは普通に買ってるんだけどね」

 

 あたしも奈々も、どうでもいい話題で盛り上がる。今のあたしたちには、こういう何でもない時間が懐かしいのだ。子供の頃からずっと一緒だった奈々が、県外の大学に進学してから早1年。心にぽっかり穴が開いたかのような喪失感もようやく薄らいだけど、でも、だからと言って寂しくないわけではない。そりゃまあ、大学には友達もいるし、明奈にはしょっちゅう会うし、新しい生活は十分楽しいのだけど、何と言うか……つまりその、やっぱり奈々は奈々なのだ。

 

「はあ。それにしても、去年の春に来たときは引っ越しの作業でバタバタしたけど、今回はゆっくりできて、いいね」

 

 あたしは思いっきり伸びをし、ごろんと寝転がった。あのときは段ボールに部屋が占拠されていて、狭くてとても寝転がるなんてできなかったけど、今ではすっかり片付いて、綺麗に整頓されている。1年も経ってるから当たり前だ……とは言えない。なんせ世の中には、引っ越して1年経っても片付かない、それどころか、余計に散らかってく恐ろしい部屋も存在するのだから。

 

「あ、そう言えばさ」あたしはふと、1年前の引っ越しのときのことを思い出した。「あのノート、どうなったの?」

 

「ああ。そう言えば、そんなのもあったね。すっかり忘れてたよ」奈々も思い出したように言う。

 

 引越しの作業をしているとき、こんなことがあった。この部屋のクローゼットの中から、1冊のノートが見つかったのだ。クリーム色のかわいいノートだったと記憶している。当然奈々のものではなく、以前この部屋に住んでいた人の忘れ物だと思われた。どうしようか? と2人で相談し、もしかしたら持ち主が気付いて取りに来るかもしれないので、しばらく持っておいて、取りに来なければ大家さんに預けよう、ということになったのだ。でも、奈々も忘れてたということは、もしかしてまだあるのかな?

 

「うん。持ってる。確か……」奈々、クローゼットをごそごそ探り、やがて、ノートを取り出した。「あった。これだ」

 

 記憶の通り、クリーム色の表紙のノートが出て来た。手書きのかわいい文字で「MANO NOTE」と書かれている。真野さんか、それとも間野さんか。ノートの柄と言い、文字と言い、持ち主は多分女性だろう。

 

「なんかさ、何年か前に、こんな映画があったよね?」あたしはノートを受け取ってそう言った。

 

「ん? そうだっけ? どんなタイトル?」

 

「えーっと、確か……『別に……』じゃなくて……なんだっけ?」

 

 思い出せない。あたしの記憶では、このノートと同じように、引っ越し先のクローゼットから前の住人のノートが出てきて、それを主人公が読み、その内容に引き込まれていく、という内容だったと思う。タイトルは絶対に「別に……」ではなかったけれど、ネットで検索すると出てくるような気がする。

 

 あたしはふと、その映画と同じようにしてみようか、という誘惑に駆られた。

 

「ねえ、このノート、読んでみない?」奈々に言ってみた。

 

「ええ? でも、他人のものだし、勝手に見ると悪いよ」

 

「いいって、いいって。忘れて行く方が悪いのよ。それに、もし大切なものなら、いくらなんでも取りに来るでしょ?」

 

「まあ、そうだけど」

 

「でしょ? じゃあ、開けまーす」

 

 まだちょっと抵抗がある奈々に構わず、あたしはノートに手を掛ける。確か映画では、小学校の先生の日記だった。新人教師と生徒たちの交流に心が温まるんだけど、さて、このノートはどうかな? ぱらり。表紙をめくると。

 

 

 

『これは死神のノートです』

 

 

 

 …………。

 

 うーむ、そう来たか。

 

 めくった表紙の裏に、表紙のかわいい字とは似ても似つかぬつたない字で、そう書かれていた。続きを読む。

 

 

 

『このノートに名前を書かれた人は、40秒以内に心臓麻痺で死にます』

 

 

 

 ノートは、裏表紙にそう書かれてあるだけだった。後は真っ白。

 

 これも、何年か前に話題になった覚えがある。主人公2人の緊迫した心理戦が熱い少年マンガだ。それをマネして作ったのだろう。

 

「名前を書かれたら死ぬって……冗談だよね……」

 

 おっとっと。奈々、不安そうな顔。まさか、信じてるの? 奈々は昔から怖がりな娘だった。でもまさか、この歳でこんなイタズラに怖がるなんて。まあ、それが奈々らしいと言えば奈々らしい。

 

「もう。何本気にしてんのよ。名前を書いただけで死ぬなんて、あり得ないよ」

 

「でも……もし本当だったら……」

 

 うわお。完全に信じようとしてるよ。弱ったな。怖がらせるつもりでノートを開けたわけじゃないのに。

 

「大丈夫だって。なんなら、試してみようか?」

 

 あたしは奈々を安心させようと、ボールペンを取り出し、さらさらっと、ノートに名前を書く。宮崎結衣……っと。

 

「ちょっと! 結衣!」声を上げる奈々。本気で心配している様子。

 

「大丈夫だよ。こんなんで死んだりしないから」

 

 と、言ったものの。

 

 …………。

 

 やばい。自分の名前を書いたのはマズかったか。急に不安になる。

 

 もちろん、こんなノートで死ぬなんて思ってはいない。いないけど、万が一ということもある。何と言ってもあたし、子供のころから霊感が強い。これまでにいろんな不思議な体験をしてきた。死にかけたこともあった。だから、もしかしたらこのノート、本当に死神のノートってことも、絶対に無いとは言い切れないのだ。じゃあ、あたし死んじゃうの? ……まさかね。無い無い。大丈夫。うん。無理矢理自分に言い聞かすけれど、不安は消えない。タイムリミットは40秒。もうとっくに過ぎたよね? 時計を見る。あら、まだ10秒しか経ってない。妙に長く感じる。早く時間、経て。祈るように時計を見つめる。

 

 プルルルル。突然の電子音に、あたしと奈々、ビクッとなる。

 

 あたしのケータイだ。驚かすなよ。見ると、明奈だった。ピッ。電話に出る。

 

「もしもし、明奈? どうしたの」と、応えると。

 

「あれ? 結衣? 何で?」明奈、すっとんきょうな声。

 

「いや、そっちからかけてきて、『何で?』はないでしょ」

 

「ああ。ゴメンゴメン。あたし、梓にかけたはずなのに。おかしいな」

 

「あたしは結衣です。宮崎結衣」

 

「だよね。なんかあたし、ボケてたみたい。ゴメンね。梓に電話したのに、梓はでんわ、なんちゃって」

 

 

 

 ――――。

 

 

 

 …………。

 

 ……い。

 

 ……ゆい。

 

「結衣!!」

 

 

 

 は!? 意識を取り戻すあたし。何? 何が起こったの!?

 

「どうしたのよ!? 突然、動かなくなって、ビックリしたよ!」そばには、今にも泣きそうな奈々の顔。その瞬間、全てを思い出す。

 

「今あたし、心臓、停まってなかった?」

 

「え!? そ……そんな……」

 

 あたしはじっとノートを見つめる。表紙に書かれた、「MANO NOTE」の文字。あれは「真野ノート」でも「間野ノート」でもなく、「魔のノート」なのだ。危険だ。あのノートは危険すぎる。すぐに処分した方がいい。

 

 翌日が燃えるゴミの日だったのは幸いだった。あたしはそのノートをゴミ袋に放り込むと、素知らぬ顔でゴミ捨て場に置いた。マンガでは、主人公は世界を変えるためにそのノートを使ったけれど、あたしたちにそんなことはムリだ。とても精神力が持たない。

 

 その後、あのノートがどうなったかは知らない。燃やされたとは思うけど、あれが本当に死神のノートなら、燃えて無くなるとは思えなかった。

 

 しかし――。

 

 本当に恐ろしいのは、あのノートではなく、死の言葉を自在に操る、明奈なのかもしれない。

 

 燃やすべきは、明奈の方か……。

 

 ふと、そんなことを思った。

 

 もちろん、それは冗談だ。

 

 …………。

 

 今のところは。

 

 

 

(映画「クローズド・ノート」及び、マンガ「デスノート」のパロディ)

 

 

 

 

 

 

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